振り向きへホームラン【完結】   作:puc119

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第38話~背中向けて後方攻撃~

 

 

「はい、喧嘩両成敗! ですね。場所は遺跡平原でメインターゲットはドスジャギィ2頭となりますが、よろしいでしょうか?」

「ああ、お願いするよ」

 

 ダレンを倒しHR4となった次の日。早速上位クエストへ行くことにした。

 星3の天空山のクエストで武器を強化することも考えたけれど、一度上位クエストの難易度を確認してからでも良いかなと思い、上位クエストへ。それに此処で少し無理をしてでも防具を作ってしまえば、後々かなり楽になる。

 

 お祭りの影響が残っているせいか、未だすれ違う人々から様々な視線を向けられるけれど、もう気にしないことにしました。

 こちとら他人に気を遣っている余裕なんてないのです。

 

「上位のクエストは下位とは比べ物にならないほど危険です。ケガしたら、ダメですからね。ふふふ。どうか気をつけてください」

「うん、ありがとう。行ってくるよ」

 

 今、担いでいる武器はファッティプッシュ。ブーステッドハンマーよりはかなり強くなったはず。でも、やっぱりブーステッドハンマーの方がカッコイイんだよなぁ。

 本当は山権現を担いで行きたいところだったけれど、加工屋に依頼したのは昨日のこと。完成するのは例のごとく、今日の夕方となる。そして、俺はそれを待っていられるほど我慢強くはない。

 早く上位クエストをやりたかったんです。できることが一気に広がったせいで、何をすれば良いのかがわかり難くなるけれど、何でもできるんじゃないかって言うこの感覚は嫌いじゃない。

 

 ま、失敗したらその時はその時だ。

 

 支給品は期待できないけれど、ちょこちょこと集めていたハチミツのおかげで、今回からは回復薬グレートもある。相手の火力はまだわからないけれど、なんとかなってくれるんじゃないかとは思う。

 

 防御力は心配だけど、一箇所でも防具ができればかなり楽になるはず。

 それに今回は作戦がないわけじゃない。今まで試したことはないし、ちょっとどうなかなぁって思うところはあるけれど、一度試してみないとわからない。

 

 さてさて、そんじゃま。ひと狩り行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「思ったけど、私と君って2頭クエストはこれが初めてだよね? しかも、それがいきなり上位クエストって……」

 

 ガタゴトと揺れる馬車の上。操虫棍使いの彼女が不安そうに言葉を落とした。

 そうだったんだ。私は何度か2頭クエストを受けたことがあるけど……

 

「確かに初めてだけど……まぁ、どうせ沢山狩らなきゃいけないんだし、丁度良いんじゃないか?」

 

 彼の声。

 なんだか不安になってきた。私の装備なら流石に大丈夫だとは思うけれど、彼と彼女の防具はジャギィ一式。確か、防御力は50とかだったと思う。

 彼なら大丈夫だとは思うけど、彼女は大丈夫かなぁ。

 

「だ、だって、2頭だよ? それが同時に襲ってきたら、どうすればいいのかわかんないじゃん」

 

 うん、2頭クエストはそれが本当に面倒臭い。

 ただ、闘技場のようにエリアが1つしかないってわけでもないからまだマシなのかも。こやし玉便利。

 

「そのために、こやし玉を沢山持ってきたから大丈夫。そして、そのことだけどさ……今回は2手に別れないか?」

 

 2手……私たちのパーティーは3人。つまり彼の言葉は、一人が1対1でドスジャギィと戦うってことを指す。そして彼の性格的に、一人で戦うのは……

 

「誰が一人で戦うの?」

 

 私が聞いた。

 

「俺がやるよ」

 

 彼が答えた。

 

 ほら、やっぱり。

 

 確かに、ドスジャギィ1頭に対して3人で戦うのは無理がある。特に、彼の使うハンマーみたくSAのない武器では、下手すると何もできないかもしれない。

 でも、一人で戦うと言うのはそれ以上に危険が伴う。彼が上手いのはわかっているけれど、これは初めての上位クエスト。武器と防具は未だレア度2。上位モンスターを一人で戦うにはちょっと物足りない。

 

「えっ? それ、大丈夫なの? 皆で一緒に戦った方が良いと思うけど……」

「あ~……やってみないとわからないけれど、ちょっと試したいことがあるんだ。まぁ、無理っぽかったら直ぐにそっちと合流するから大丈夫だよ」

 

 彼が何を考えているのかはわからない。ドスジャギィみたいな鳥竜種と戦う時、ハンマーはスタンプがメインになる。だからパーティーで戦うよりはソロで戦った方が絶対に効率が良い。それはわかっているけど……むぅ。

 でも、考えはあるってことだと思う。それならそれを信じた方が良いのかな。

 

「……じゃあ、お願い。ガンバ」

「おう、頑張るよ」

 

 そう言った彼は何だか複雑な顔をしていた。

 貴方は何を考えているの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガタゴトと揺れること数時間。漸く遺跡平原へ到着。

 バルバレから一番近い場所ではあるけれど、やっぱり遠い。でも、ソロで戦っていた時よりは短くなったんじゃないかなって思う。

 

 ゲームとは違って、クエストの始まりはちゃんとベースキャンプからだった。そのせいで秘境へ行くことはできないけれど、クエストがはじまったら目の前にモンスターがいると言う状況はないのだし、これはこれで良いのかも。

 ただ、初期位置がベースキャンプから遠いモンスターと戦う時はちょっと面倒だ。

 そして、支給品ボックスの中身は地図と松明のみ。其処はゲームと同じみたい。

 

「っしゃ。行くかっ!」

「おおー!」

「おー」

 

 いつも通り、大きな声を出した彼。

 大きな声を出すと、緊張が解れると言っていた。私は大きな声を出すのは恥ずかしいからちょっと遠慮したい。

 

 

「んじゃ、此処で別れるか。俺は左へ行くから、君達は右をお願い。ドスジャギィを倒したときはサインを出すって感じで」

 

 ベースキャンプを離れてすぐ、エリア1で彼がそう言った。

 ドスジャギィの初期エリアは4番と6番。つまり彼はエリア4へ行くってことだと思う。

 

 私の武器は漸く完成したデンジャーコール改。攻撃力アップと耳栓を吹けて、麻痺も取れちゃう優秀な音符赤空の笛。でも、音があまり好きじゃない。

 普通に考えれば、私と彼女のペアの方が先に討伐できるはず。だから、できるだけ早く倒して彼の手助けに向かわないとだ。

 ……うん、頑張ろう。

 

「了解! 気をつけてね」

「ああ、そっちもな」

 

 そう言って彼はエリア2の方へ走っていたけれど、その顔はやっぱり複雑そうだった。

 

「大丈夫かな?」

「たぶん彼なら大丈夫。でも、できる限り早く倒さないと」

「うん、そうだね!」

 

 これは上位クエスト。今までのモンスターとは攻撃力も体力も違う。正直に言って私も他人へ気を遣っている余裕はあまりない。

 

 彼と別れて、エリア3経由でエリア8へ入ると、エリア6の方からドスジャギィが現れた。

 相変わらずキミは直ぐに移動しちゃうね。この調子だと、彼の戦っているドスジャギィとの合流は避けられなそうだ。

 

「来た!」

 

 うん、わかってる。

 とりあえず武器出し、柄攻撃で白音符を2回出してから自分強化の演奏。これがないと始まらない。

 

 エリアの中にはジャギノスが見えなかった。つまり彼女は橙色を集めることができず、SAを付与することができない。転ばせないよう気を付けないと。

 

 ドスジャギィの動き自体は下位とほとんど変わらず、周りの雑魚がちょっと鬱陶しいくらい。演奏中にドスジャギィのサイドタックルが直撃したけれど、私の防御力なら2発は耐えてくれるみたい。

 彼女はちょっと厳しいかもしれないけど。

 

「少しでも攻撃を喰らったら回復して」

「りょ、了解です!」

 

 思っていたよりはドスジャギィの攻撃力は低い。けれども安全にいった方が良い。

 流石に、ソロでは戦いたくない。

 

 連音攻撃で音符を整えてから、後方攻撃で1回目のスタン。むぅ、やっぱり彼がいないとスタンまで時間がかかる。

 

「ナイス!」

 

 うん、ありがとう。

 

 スタンを取った序でに攻撃力アップを重ねがけ。

 雑魚の動きと彼女の立ち位置を確認しながら、スタンをしているドスジャギィの頭へ、連音攻撃で麻痺値を溜める。目標は2スタン、1麻痺。

 むぅ、気にかけることが多すぎて、立ち回りが遅れる。ちょっと面倒臭い。

 

「乗った!」

 

 ぐぅれいと。

 たぶん次のダウンで麻痺を取れるはず。

 

 彼女が乗り攻撃をしている間、散々邪魔をしてくれたジャギィたちへ叩きつけをして蹴散らす。どうせまた出てくるだろうけれど、溜まったストレスを発散するのには丁度良い。

 

 そして、乗り攻撃が成功し、後ろへ大きく吹っ飛んだドスジャギィへとりあえず叩きつけ。ローリングで硬直をキャンセルしてからまた直ぐに連音攻撃。

 麻っ痺れ、麻っ痺れ。

 

 乗りダウンから立ち上がり、ご丁寧に威嚇をしたところで1回目の麻痺。順調順調。

 麻痺を取ったドスジャギィへ、今度は連音攻撃ではなく左右のぶん回し攻撃で、スタン値を稼ぐ。彼女も私の攻撃が当たらない尻尾の方を攻撃してくれているし、今は気にせず攻撃ができる。

 

 そして、それは2回目のスタンを取った時だった。

 クエストが始まってからまだ5分ほどしか経っていないはず。

 

 

 そうだと言うのに、彼が出したと思われるサインが遺跡平原へ響き渡った。

 

 

「えっ? も、もう倒しちゃったの?」

 

 一瞬、混乱。

 最初は何か問題があったんじゃないかって思った。けれども、このクエストに乱入はないはず。つまり、彼はもうドスジャギィを倒したってこと。

 

 彼が上手いのはわかっている。

 けれども、これはあまりにも――早すぎる。

 

 残念なことだけど、彼がどんなに上手くても彼の使っている武器が強くない。決して弱い武器ではないけれど、この時間で1頭を倒すのは流石に……

 

 そうなると……SB? ハンマーで? しかも罠師を発動させているとは聞いていないし、そもそも彼の食べた食事は肉と酒ではなく、肉と魚だったはず。つまりSBではない。

 

 じゃあ、この異常に早いタイムは……?

 

 それこそ、ハメでも使わない限り……

 

 そして、あの彼の複雑そうな表情を思い出した。

 

 ああ、そっか。そう言うこと……なのかな。

 

 それならこのタイムにも、彼のあの表情も理解ができる。

 

 

「蔦ハメ……使ったんだ」

 

 







色々と考えてみましたが、どうにもクエストが始まった途端、全員がバラバラの位置から始まる言い訳が思いつかなかったので、ゲームとは違いベースキャンプスタートしました


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