蔦に上に倒れ動かない状態のドスジャギィを見て、一つため息が溢れた。
「……やっぱりやらない方が良かったのかな」
何度かミスはあった。
完全にハメきることはできていない。けれども、此方はノーダメージでたぶん0分針。それは今の装備では少々良すぎる内容とタイム。
実際のところ、今回はかなり運が良かった。出会って直ぐにこやし玉を投げたけれど、相棒たちと合流することも考えられた。けれども、運良く蔦のあるエリアへ移動してくれ、其処で戦うことができた。
それが次もできるかはわからない。
そして何より、次もこの方法を使って良いのかがわからなかった。
ゲームでは幾度も色々なハメをした。水爆やガンナー、こやし閃光や乗り麻痺スタンループ、そして今回やったような蔦ハメも。
ハメは楽だ。そして絶対にタイムも良い。けれども……ハメを嫌う人は多かった。
そして、そんなハメを嫌う人たちの気持ちもわからなくはない。
モンスターと戦うことが楽しくてモンハンをやっているのに、それが作業となってしまっては何が楽しくてモンハンをやっているのかわからなくなるから。
あの相棒はわからないだろうけれど、たぶん笛の彼女なら俺がやったことに気がつくだろう。その時、彼女がどう思うのかはわからない。それが少し不安だった。
この世界に来てハメは初めてやった。
モンスターを安全に倒すことができるのだし、この世界ならハメをしたところで悪いことはないと思う。それでも……なんとも複雑な気分だ。
成功するのかなんてわからなかったから、彼女たちに蔦ハメをすることは伝えていない。やっぱり事前に言っておいた方が良かったのかな……
無事に倒すことはできたけれど、先ほどから後悔ばかりだ。
何処からハメで何処からハメではないのか……それは俺にもよくわからない。そしてその答えはきっと人によって違う。もしかしたら、ハンマーのスタンすらダメだと言う人だっているのかもしれないのだから。
けれども、上手いパーティーの戦い方なんて、突き詰めていけばハメと変わらない。モンハンはどれだけ敵の好きに行動させないかが、大切なのだから。
むぅ、一人で考えていても仕方無い。
早く彼女たちと合流をしないと。
「ありがとう。いただきました」
そして3回の剥ぎ取りを終え、感謝の意を伝えてから他の皆に倒したことを伝えるためのサインを出した。
――――――――
……上位のモンスター超強いです。
別に動きが速くなったとか、今までとは違う動きをするとかはないけど、攻撃力がすごいんです。
たぶん、私の防具が下位のものだからだとは思うけれど、一発でも喰らってしまえば、一気にピンチになる。今までみたいなゴリ押しはちょっとできそうにない。
あとお願いだから黄色のエキスをください。んもう、なんでドスジャギィは2色しか取れないのさ! ジャギノスもいないし、これはちょっと困る。
それにしても……私には彼女がいるからまだ回復できる隙があるけれど、彼はソロで戦っているはず。大丈夫かなぁ……
そんな心配をしながら戦っている時だった。
音が響いた。
それは彼が出したサインだと思う。
「えっ? も、もう倒しちゃったの?」
思わず声が出る。
だってあまりにも早すぎるから。
彼が上手いのは知っているけど、これは上位クエスト。今までのクエストはレベルが違う。そうだと言うのに……
「蔦ハメ……使ったんだ」
彼女の声がぽそりと落ちた。
蔦ハメ? 何のことだろう。たぶん、これだけ早く倒したことと関係があるとは思うけれど、その言葉の意味が私にはわからなかった。
「えと、どうする?」
「……剥ぎ取りに行こ」
私たちの戦っているドスジャギィはまだ倒れていない。あとどれくらいかかるのかもわからない。
「うん、そだね」
でも、とりあえず彼が倒したドスジャギィから剥ぎ取りにいかないと。
そして、未だスタン状態のドスジャギィにペイントボールをぶつけてから彼の居た方へ私たちは向かった。
「あっ、来た。そっちは大丈夫だった? 乙ってない?」
エリア9の蔦の上。そこに彼がいた。そんな彼の表情はせっかくドスジャギィを倒したと言うのに、複雑そうだった。
そしてドスジャギィもその蔦の上に。ホントにソロで倒しちゃったんだ。
なんだろう。これでまた彼との差が広がってしまった気がする。
遠いなぁ……
「うん、まだ大丈夫だよ。でも、こっちはまだ倒せてないかな」
二人で戦ってたから回復もできたし。危ないときはあったけれど、なんとか大丈夫でした。
てか、君が早すぎるんだ。どうやればそんなに早く倒せるのさ。
でも、とりあえずはドスジャギィから剥ぎ取り。できるだけ早く上位の防具を作りたいんです。
「まずかったかな……?」
「……別に私は気にしない」
そうしてドスジャギィから剥ぎ取っていると、彼と彼女の会話が聞こえた。
でも、何について話をしているのかはわからない。
「……そっか」
この二人の会話は私に理解できないことが多い。
今回もそうだ。私に知識がないのがいけないってことはわかっているけれど、それはちょっと寂しい。
仕方の無いことだとは思っているし、この二人が私のことを悪く思っていないこともわかっている。でも……やっぱり私との間に壁があるようで、ちょっと寂しい。
「剥ぎ取り終わった? んじゃ、もう一頭を倒しに行くか」
「おおー」
「おー」
いつか、私にも話をしてくれる日が来るのかな。
そんな日が来てくれれば嬉しいな。そう私は思うのです。
――――――――
「……な、何もできなかった」
「あー……ごめん」
どうやらもう一頭のドスジャギィも結構弱っていたみたいで、3人で戦い始めてすぐに、ドスジャギィは脚を引きずってくれた。
そして隣のエリアへ移ったわけだけど、そこにはジャギノスも居てくれたから、私もついに3色を集めることができました!
3色集めれば私は他の人の攻撃で転ばなくなる。だから私は大丈夫だった。そして、彼女も他の人の攻撃で転ぶことはない。
でも彼は転びます。私の攻撃でも、彼女の攻撃でも当たれば転びます。
一応、気をつけてはいたけれど、いくらドスジャギィと言っても相手は上位のモンスター。はっきり言って周りを気にしている余裕なんてほとんどない。てか、例え下位のクエストでも余裕なんてほとんどない。
そんなんだから、私の攻撃が彼に何度も当たってしまい、何度も転ばせちゃいました。
……ごめんなさい。
「いや、わかっちゃいたんだけどさ。ドスジャギィ相手に3人でも戦えばこうなることは」
ああ、だから一人で戦ったのかな?
私にはちょっと無理だけど、彼の実力なら確かにそっちの方がいいかもしれない。パーティーよりもソロの方がいいって言うのもなんか変な感じがするね。
でも、私は遠慮したいです。
「あと何頭くらいで防具できるかな?」
「ん~……どうだろう。今回の報酬次第だけど、あと2頭クエストを2回でも行けばドスジャギィの素材は足りると思うよ。それよりも鉱石系を集める方が大変かも」
おお、意外とあっさり集まるんだね。
これで防具が完成すれば私も立派な上位ハンターだ。ふふっ、集会所でも目立っちゃうね! それは誇らしい。
ああ、でもダレン・モーランを倒したときみたいになるのは嫌だな……
我が儘だけど、こう……私が通ったあとに『今の人、上位防具だったよ。カッコイイね!』とか言われるくらいがちょうどいいのです。
言われてみたいなぁ……
「んでさ、今回俺がやったことだけど……」
今は、ガタゴトと揺れる帰り道。
心配そうな表情で言葉を落とす彼。
「蔦ハメってのをやったんだ」
「えと……その蔦ハメってなんなの?」
おおー、今回は私にも教えてくれるんだ。
ちょっと嬉しいです。
「その……ようは敵を蔦に埋めさせて一方的に攻撃し続ける戦い方、かな」
……なんだそれは。
そんな素敵な戦い方ができるのですか? ずるい! 私もやりたい! でも、今までそんな戦い方を見たことはないんだけど。
「ん~……よくわかんないけど、それが?」
「えと、ですね……やっぱりやらない方が良かった?」
……うん?
彼の言っている言葉の意味がよくわからなかった。むしろそんな戦い方ができるのならどんどんやるべきだと思う。
「……貴方は私たちに気を遣いすぎ」
彼女の言葉。
私もそう思います。今だって、すごく不安そうな顔をしている彼。そんな彼の言葉の意味はわからないけど、今回もたぶん彼の考えすぎなだけ。
今までだってそうだった。彼が見ているのはいつだって他人だ。自分のことは二の次。それが悪いこととは言わないけど、もう少し自分のことを考えてほしいな。
アレだけ早く上位モンスターを倒したのだから、もっとドヤ顔とかしてもいいのに。
「確かにハメを嫌う人はいたけど、私は気にしない。それに倒せたのにハメをしなかったから失敗したら意味ない」
ハメってのがやっぱりよくわからないけど……うん、そうだね。彼女の言う通りだと思う。
たぶん、そのハメってのをすれば安全に倒すことができるんだろう。だったら、やった方がいい。私たちハンターはモンスターを倒さないといけないんだから。
たまに忘れそうになっちゃうけれど、私たちがモンスターを倒さないと困る人が沢山いる。そんな人たちのためにも私たちが頑張ってモンスターを倒さないと。
「……そっか。うん、ありがとう」
そこでやっと彼の不安そうな顔はなくなった。うむ、何が何だかさっぱりだけど、この件は解決ってことでいいのかな。
彼が何を思っていたのかはわからない。
でも、もう少しくらい私たちに頼ってくれてもいいんだよ? そりゃあ私は君や彼女みたいに上手くはないけれど、少しくらいなら力にだってなれるだろうし、私だって頼りにされてみたい。
きっと、これからもこのパーティーで長く続けるのだろうから。
「それじゃ、帰ったら打ち上げやろ!」
「そだね。初めての上位クエストもなんとかなったもんな」
私にできることはやっぱり少ないです。
なんとか頑張ってはいるけど、私はそんなに器用じゃないから。そして、そんな私を迎えてくれるこのパーティーはやっぱり好きなんです。
だからせめて、明るく元気に振舞ってどうにかムードを悪くさせないよう頑張ります。
例え――それが空元気だとしても。
それがこのパーティーにおける私の役割なんじゃないのかなって最近思うようになりました。