振り向きへホームラン【完結】   作:puc119

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第40話~最恐へホームラン~

 

 

 強い敵と戦ってみたい。それはきっと多くのハンターが思うこと。

 けれども結果的にそれは自分の慢心だったんだろう。最初の頃は何度も壁にぶち当たり、思うようにいかないことが多かった。それでも、相棒とパーティーを組んでからは怖いくらいに調子良く此処まで進んで来ることができた。

 

 自分の実力を過信。

 自分が上手くないことくらいわかりきっていると言うのに。

 

 それでも、此処で訪れたチャンスを逃したくはなかった。より強いモンスターと戦うことのできる喜びが、自分の実力を忘れさせた。

 下位武器に下位防具。どう考えたって勝てるはずがない。それでも一矢報いるために俺はハンマーを振り下ろした。目の前にいる今までとは桁違に強いモンスターに対して。

 

 

 そしてその日、俺たちは初めてクエストを失敗した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「ふふっ、これで私も頭と脚だけは上位ハンターになれるね!」

 

 いつも通りガタゴトと揺れる馬車の上。何処か嬉しそうに相棒が言葉を落とした。

 

 昨日、初めて上位モンスターを倒した後、加工屋へ向かい作ることのできるジャギィ装備を聞いて見たところ、相棒は頭と脚の素材が足りていたらしく無事上位防具を作ることができた。

 まぁ、完成するのにはまだ時間がかかるんだけどさ。

 

 そして、笛の彼女もいくつかの部位を作ることができたらしいけれど、全部位の素材が集まるまでは、ジンオウガ装備でいるらしい。まぁ、俺や相棒はジャギィ装備からジャギィ装備へ変わるだけだから、デメリットなんてないけれど、彼女の場合、一部だけ作ってしまうとスキルが消えてしまう。防御力は上がるけれど、スキルが消えちゃうのはもったいないもんね。

 

 一方、俺の方はと言うと……まぁ、1部位も作ることができませんでした。此処に来てまたリアルラックのなさが現れ始めた。ドスジャギィの素材は良いけれど、鉱石系がちょっと足りなかったんです。俺も早く防御力を上げたいんだけどなぁ……

 

 そんなことがあった次の日。また今日もドスジャギィを倒しに行こうかと思ったけれど、残念ながらドスジャギィのクエストがなかった。

 どうすっかなぁ。なんて考えたけれど、此処で1日無駄にしてしまうのももったいなかったから、遺跡平原の素材ツアーへ行くことに。鉱石欲しいです。

 それに、彼女たちもまだ足りていない鉱石があるみたいだから丁度良かった。

 

 そんなわけで、今日もまた遺跡平原に向けて揺られているところです。

 

「思ったより報酬も多かったし、これなら防具も早く揃えられそうだな」

 

 てか結局、皆ジャギィ装備になりそうだ。まぁ、スキルも優秀だし弱い装備ではないと思うけれど……なんだかパーティー全員同じ装備って変な感じがする。

 

「ん~と、そしたら、次は武器になるの?」

「うん、まぁ、そうだね」

 

 ガタゴトと揺られながら相棒さんと雑談。俺はどんな武器を作っていこうかなぁ。できれば爆砕の破鎚とか作りたいけど、ブラキはなぁ……

 最終的にはラグナを作れば良いけれど、それまではもう一本何か欲しいところ。まぁ、そんな先のことを考えても仕方無い。今はもう少し現実的なハンマーを探すべきなのかな。

 それに防具も考えないといけないのか。むぅ、やらなきゃいけないことが沢山だ。

 

 けれども、やれることが沢山あると言うことはきっと良いことなんだろう。ゲームをやっていた時みたく、目標もなくだらだらと続けているよりは今の方がよっぽど良い。

 

「とりあえず今日はドスジャギィ以外の素材を集めちゃおう」

「了解です!」

 

 上位遺跡平原の素材ツアー、か。

 確かクエスト開始から2分30秒くらいで、エリアは……3番だったよな。

 

 うん、ちょっと楽しみだ。

 

 平凡な日常だけではつまらない。その時の俺はそんな考えだったんだと思うんだ。一度叩きのめされないと気づかないことだってある。

 

 たぶんそう言うこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「そんじゃ、此処からはバラバラで行くか」

「おおー!」

「おー」

 

 もう流石に慣れてきた遺跡平原。

 別に全員揃って素材を集めても良いけれど、必要な鉱石なんてどうせ直ぐに集まると思う。その後は、まぁ、各自で好きなことをやっていた方が良いのかな。なんて思った。

 

「また50分後に」

「了解!」

「……了解」

 

 狙うはドラグライト鉱石とカブレライト鉱石。それさえ集めてしまえば、今回の目標は達成。まぁ、どうせもう何度かはドスジャギィと戦うために遺跡平原へ来なきゃいけないから、此処で無理をする必要はないけれど、集めてしまえば楽なんです。

 

 そして俺たちはバラバラに別れた。

 

 

 

 

 

 皆と別れてからは直ぐにエリア2と9へ向かい、青色の石へピッケルを叩きつけた。そもそも要求数がそれほど多くなかったこともあり、それで無事カブレライト鉱石の方は必要数に達した。ドラグライトの方はもう少しと言ったところ。

 ふむ、順調順調。

 

 今はまだクエストが始まってから2分も経っていない。まだ、時間は沢山ある。

 けれども、アイツが現れる時間はもうほとんどない。

 

 さて。

 

 さてさて。

 

 今回のクエストは採取ツアー。失敗したところでデメリットは何もない。それなら何も気にせず挑むことができる。

 そんじゃ、行くとしますか。

 

 緊張で少しばかり脚が震えたけれど、気にせずエリア3へ向けて走った。

 

 

 

 

 そしてエリア3へ到着。まだアイツはいない。

 

 息が荒い。心臓が暴れる。

 これから戦う相手は間違いなく今まで一番強い相手。どっちのアイツが現れるのかはわからないし、そもそもアイツが出てくるのかもわからない。

 

 それでも――戦ってみたい。

 

 

 そして、地面が揺れた。

 

 

 エリア2へと続く道に土を掘り起こしながら現れたアイツ。

 

 来た。

 

 顔を確認。龍属性オーラは溢れていない。

 つまり通常個体。

 

 それでも、今の俺が勝てるような相手ではない。戦いを挑んで良いような相手でもない。

 

 だからこそ、戦ってみたい。

 目標は1スタン。できれば頭部破壊をしたいところではあるけれど、今の武器ではそれも難しい。

 

 罠も肉もなく、久しぶりのソロでやるガチンコバトル。本当ならHR7にならないと戦えない相手。アイツを倒すことなんてできないし、一発でも喰らえば此方は乙る。でも悪い気分じゃない。

 

 そして、採取ツアーに乱入したイビルジョーは天を向き大咆哮を上げた。

 

 ビリビリと震える空気。嫌な汗が吹き出す。今までで一番の緊張感。怒らせるくらいはできれば良いけど……

 咆哮を避けてから、直ぐにハンマーを右腰へ。そして、のそのそと此方へ近づいて来たイビルジョーの顔面へスタンプ。

 ソロならイビルジョーはハンマーとの相性は悪くないはず。イビルジョーの初期スタン耐性は200もないんだ。大丈夫、今の武器でも1スタンは十分に狙える。

 スタンプ後、直ぐに横ロリで硬直をキャンセルしてからイビルジョーの胸元へ。

 

 そして少し後退してから尻尾回し攻撃。それをフレーム回避。

 180°回ったイビルジョーの頭の位置を確認。尻尾振り攻撃は確定で2回連続。位置を調整。

 

 もう一度尻尾を振り、頭が再び元の位置に戻ってくるタイミングに合わせ、その頭へ掠らせるように縦1。ディレイはかけずに縦2。そしてホームランを顔面へ。

 ホームランは肉質65%のソレへ直撃。スタンエフェクトと確かに腕へかかるヒットストップ。

 

 ……大丈夫、いける。攻撃を喰らわなければ良いだけ。回避不可の攻撃もない。大丈夫、きっと大丈夫。

 正直、滅茶苦茶怖かった。呼吸なんて荒いままだし、自然と溢れてきた涙のせいで、視界も悪い。でも、俺がやりたかったのはこんな戦いだ。

 

 上がるイビルジョーの右脚。横ロリで左足の裏へ。そしてその右脚が落ち、少しだけディレイをかけてからもう一度ローリングで揺れをフレーム回避。

 そしてまた尻尾振り攻撃。つまりチャンス。回ってくる尻尾を躱してから位置を調整。頭が戻ってきたところで縦1始動でホームラン。これで後一発。

 てか、ホームラン2回叩き込んで怯みなしですか……いや、まぁ、わかっていたけどさ。

 

 半歩下がるイビルジョー。……ヤバい。

 そこからショルダータックル。喰らえば即乙。冗談じゃない。

 

 どっちに避ける? 脚の間? 判定の薄い尻尾? 相手の行動に頭が追いつかない。もう少しゆっくりしろってんだよ。

 

 祈るように脚の間に向けてローリング。身体に掠るイビルジョーの身体。フレーム回避成功。けれども、生きた心地がしない。

 既に視界から色は消え、白黒の世界に。聞こえてくる音だって、自分の出した荒い呼吸と暴れる心臓のソレだけ。

 

 どう考えたって絶望的な状況。

 しかし、ソレが何よりも楽しい。

 

 スタン値の減少は10秒ごと。休んでいる暇なんてない。

 イビルジョーの胸元へ入り込み、横振りから縦2。

 そしてイビルジョーが一歩下がり、丁度ジョーの頭が真上にきたところでホームランをぶち込んだ。

 

 横に倒れこむイビルジョー。

 

 祝、スタン。

 

 スタン状態となりバタバタと暴れるイビルジョー。白黒だった視界も戻り、今はイビルジョーの篭ったような声も聞こえる。

 まだ手足は震えるけれど、確かにスタンを取ることができた。

 

 ……も、もうちょっとだけ良いよね? せめて頭部破壊を狙うくらいはやっても良いよね?

 

 バタバタと暴れるイビルジョーの頭へ近づき、縦1始動のホームランを2セット。そして、起き上がったイビルジョーに合わせて、横振り始動のホームランを叩き込んだ。

 弾けるスタンエフェクトと同時にイビルジョーの頭についていたトゲのような牙が壊れた。

 

 っしゃ!

 

 まぁ、破壊報酬はもう一段階壊さないとなんだけどさ……

 でも、もう良いです。俺は満足したので。

 

 後はさっさと逃げるだけ。

 

 そう思ったとき、イビルジョーの身体の身体が赤く染まり、背中の筋肉は大きく隆起した。

 ……えっ、怒るんですか?

 

 現れた時のように天を向くイビルジョー。そして大咆哮。それをフレーム回……失敗しました。

 ヤバい、ヤバいと思っているところにジョーさんってば、ショルダータックルの準備中。ああ、こりゃマズいっすね。

 それでもそんな技喰らいたくもないから、先程躱したときと同じように脚の間へローリング。

 

 

 そこで俺の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 気がつくとベースキャンプにいた。

 

 ……うん、まぁ、こうなりますよね。下位の序盤で作った防具と武器で挑めばそりゃあこうなる。それくらいはわかっていた。

 それでも、目標は達成することができたのだし、悪い気分ではない。

 

 鉱石系も集めたし、流石にもう一度イビルジョーと戦おうとは思わない。

 

「……釣りでもするか」

 

 上位クエストならベースキャンプの釣り場でも小金魚を釣ることができたはず。今はまだお金に余裕があるけれど、これから上位一式の防具を作ればそんなの一瞬でなくなってしまう。今のうちにちょこちょことお金を貯めるのだ。

 

 

 そして機嫌も良く、鼻歌交じりに釣りを続けていた時だった。

 

 あの笛の彼女が救助のアイルーの引く荷車に乗せられ、ベースキャンプに運ばれてきた。

 ……こりゃあまた、随分と珍しいものを見た気分だ。

 

「……えと、何があったの?」

 

 一応そう聞いてみたけど、なんとなくその原因はわかっていた。

 

「……ハチミツを取ろうとエリア3へ行ったら、何故か怒り状態のゴーヤがいて、スタン取ろうとしたら返り討ちにあった」

 

 ああ、うん。やっぱりそうだったんだ。

 まぁ、ジョーさんがいたら戦いたくなっちゃうよね。その気持ちわかります。怒っていた原因は俺だけど……謝った方が良いのだろうか?

 

 てか、ヤバいな。これで俺たちは2乙。もう後はない。

 まぁ、これは採取ツアーなのだから例え失敗したところでデメリットがあるわけじゃ……

 

「あっ、全員揃った」

 

 そんなことを考えていたとき、彼女がぽそりと呟いた。

 うん? 全員? それってどう言う……

 

 慌ただしく俺たちの方へ走ってくる救助アイルー。

 そのアイルーの引く荷車の上には相棒がいた。

 

 ああ、なるほど、そう言う意味でしたか。

 

「……何があったんだ?」

 

 運ばれてきた相棒に聞いた。

 

「ガ、ガーグァが金の卵を落としたから皆に自慢しようと運んでたら、何故か怒り状態のイビルジョーがいて吹き飛ばされました……」

 

 ああ、うん。そりゃあ災難だったね。

 えっ? てか、これで俺たちは……

 

「……残念だけど、これで旦那たちの報酬金は0ニャ。これ以上は危険だからこのクエストは失敗と判断するニャ」

 

 アイルーの言葉。

 まぁ、そりゃあ、そうですよね。

 

 この世界に来て2ヶ月と言ったところ。

 初めてのクエスト失敗は上位の遺跡平原採取ツアーだった。

 

 

 


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