片手剣の使い方を覚えるのに3日かかった。
乗りを失敗しなくなるのには5日かかった。
莫迦みたいな時間をかけてでもイャンクックを倒したのは、闘技大会へ出場し続けて7日目だった。その時からアレだけ飛ばされていたヤジが聞こえなくなり始めた。
12日目から安定してイャンクックを倒せるようになり、狙った部位へ狙った攻撃をできるようになった。
18日目で漸くパターンを構築。
そして、初めてAランクを取ることができたのは22日目だった。
五月蝿いと思っていた歓声は戦っている間、聞こえなくなった。
そして闘技大会に出始めて31日目――
「よっしゃ! 行くかッ!!」
声を出し、気合を入れる。
五月蝿かった歓声はもう聞こえない。
自分でもどうして此処まで闘技大会へ拘わり続けているのかは、わからない。
最初は臆病な自分のために、自信をつけたいだけだった。けれども、今はもうそんなことは考えていない。ただひたすらに……一心にソロでSランクをとりたかった。
不器用な奴だって自分でも思う。それでも一度やり始めたことを投げ出したくはなかった。あと少し、もう少しで目標へ手が届くから、ホンの少しだけ頑張ってみようと思うんだ。
イャンクックの待つエリアまで、全力で走る。
右側の入口からエリアに入った瞬間、イャンクックと目が合った。まだ慌てない。決めたパターン通りに動かなければ。
エリアには所々に戦闘に使えるアイテムが落ちていて、その中でもエリア中段にある小タル爆弾を2つ拾う。
上段へ上り、羽を広げ莫迦みたいな格好で走ってくるイャンクックを誘導。イャンクックから軸をずらし、上段からジャンプ突進斬りとジャンプ斬りの二段ジャンプ斬りを羽に当て、中段でダウンを奪う。
倒れたイャンクックの背に乗り、乗りダウン。
乗りダウンを奪い倒れたイャンクックの左羽へ、突進斬り、斬り上げ、斬り下ろし、斬り払い、水平斬り、斬り返しの定点コンボを3回。
立ち上がったイャンクックにできるだけ腹へ攻撃が当たるよう、もう一度定点コンボ。回転斬りまで派生を広げたところで、バックステップで下段に降りてから、中段へ向かって突進斬り、ジャンプ斬り上げ、ジャンプ斬り。
イャンクックが突進をしないよう、立ち回りを変えながらローリングで上段へ。
そして上段からもう一度、二段ジャンプ斬り。これで2回目の乗りダウン。
乗りダウン後は1回目と同じように定点コンボ3回を左羽に当てる。
定点コンボ後、イャンクックが怒る前に先程拾った小タル爆弾を足元に設置。ローリングを1回し、イャンクックが小タル爆弾の爆音で怯んでいる間に砥石を使用。
此処までは計画通り。けれども此処からがいつも上手くいかなかった。だって怒ったクックさん直ぐ走っちゃうんだもん。
乗り攻撃を失敗しないことや、相手から攻撃を喰らわないことは大前提として、良いタイムを出すのには、とにかくクックを走らせないようにすることが重要。
それくらいわかっているんだけどなぁ……
できるだけ走られないよう、イャンクックから離れすぎないよう立ち回りながら、乗り攻撃を当てる。相手の弱点である羽へ向かってひたすらに。
3回目の乗りダウン。今までと同じように左羽に定点コンボを3回。腹へ定点コンボを1回。
時計回りをしながら、突進以外の攻撃を誘導し、攻撃の隙へとにかく乗り攻撃を当てていく。相手の攻撃は距離を取って躱すのではなく、できるだけローリングでフレーム回避。
4回目の乗りダウン。2回目の乗りダウンと同じよう、左羽へ3回定点コンボを決めてから小タル爆弾を設置から砥石。
そして、爆音で怯んでいるイャンクックの耳が畳まれたのが見えた。
それが見えた瞬間、急に身体が重くなった。気がつけば、莫迦みたいに呼吸が荒くなっている。緊張だかなんだか知らんが、視界がぼやける。
ぼやけた視界のままジャンプ攻撃を当て、直ぐにローリング。
ああ、もう。涙邪魔! 前が見えない!!
乱暴に涙を拭う。
爆音による怯みがとけ、怒りモーション中のイャンクックへ、最初から持っていた閃光玉を当てる。視界が真っ白に変わる前に手で一瞬だけ目を塞いだ。
閃光玉で怯んでいるイャンクックへ上段から、下段からとにかくジャンプ攻撃。
そしてイャンクックの怯みがとけた時、5回目の乗りダウンを奪った。
自分の荒い呼吸音と、心臓の暴れる音ばかりが聞こえる。鮮明だった視界は白黒に変わり、時の流れる速度が恐ろしく遅く感じた。
倒れたイャンクックの羽へ突進斬り、斬り上げ、斬り下ろし、斬り払い、水平斬り、斬り返しの定点コンボ。
さらにもう一度、斬り上げをした瞬間。
イャンクックが倒れた。
用意されていた時計で討伐時間を確認。
其処には4分10秒と示されていた。
4分30秒切り。つまりSランク。
そのことがわかった瞬間――頭が割れそうなほどの歓声が聞こえた。急に手足から力が抜け、イャンクックの倒れている横に倒れ込んだ。
いつの間にか白黒だった視界も戻り、アレだけ五月蝿かった呼吸音や心臓の暴れる音は、歓声に飲み込まれ、ほとんど聞こえなくなっていた。
「……ホント、うるせえなぁ」
そんな俺の独り言も誰にも届くことなく消えていった。
良かった。これで漸く前に進むことができる。
そのことが何より嬉しかった。
――――――――
「おめでとー。まさか本当にSランクを取れるとは思わなかったよー。これで君もSランクハンターだねー」
もう何か色々と疲れていたから、さっさと家に帰って休もうとしていたら、集会所で闘技大会の受付嬢に捕まった。
「いや、いくらSランクだからって相手はクックだぞ? 練習すればこれくらい誰だってできるだろ」
ケチャワチャやリオ夫妻でソロSランクを出せれば自慢できるが、相手はクック。それに本当に上手い奴なら俺の記録よりも、1分は早い。俺にはそんことできる気がしないが。
あと1分とかどう縮めれば良いんだよ……
「うーん、でも、ソロSランクを取ったのは君が初めてだから、もっと胸張っても良いと思うよー」
あら? そうだったの? それは意外だ。
ああ、でも、そもそもソロで闘技大会へ出ようとする奴がいないのか。それじゃあ自慢しても恥ずかしいだけだ。
せめて4分は切らないと自慢なんてできないよなぁ……
「張るのは意地だけで十分だよ。それにまだHRは1なんだ。まともな武器も防具もない奴がいきがっても仕様が無い」
「ひねくれてるねー」
うっさいわ。
そう言う性格なんです。
「それで、これからはどうするのー?」
「とりあえずは、武器と防具を作るよ」
武器はブーステッドハンマーを作るとして、防具は……どうすっかね。
ギザゴア倍化辺りを作れれば良いけれど、下位なら一式でも十分な気がする。それならジャギィ一式とかか? 作るの楽だし。でもゴア装備を作っておけば、上位でも使えるんだよなぁ。
これは悩みどころだ。
「そっか。じゃあ、もう当分は闘技大会出ないんだ……」
相変わらず騒がしい集会所内。そうだと言うのに、受付嬢のそんな言葉ははっきりと俺の耳まで届いた。もしかして、彼女は俺が出ることを……いや、流石に考え過ぎか。
「そうだなぁ。これからは忙しくなるし、闘技大会に出ている暇はないかもしれない」
丸々一ヶ月、闘技大会に出場し続けておいてアレだが、闘技大会に出てもメリットなどほとんどない。コインもいらないし。
それでも……あの頭が割れそうになるほどの歓声は嫌いじゃない。
「ま、闘技大会は嫌いじゃないしな。ちょくちょく顔は出してやるよ」
「……ふふっ。HR1なのになまいきだねー」
そう言って彼女は笑った。
次は片手剣じゃなく、ハンマーでソロSを狙える大会へ出るとしよう。そうなるとジョーさんが一番楽だけど、いつになることやら……
「それじゃ、またな」
「またなー」
そんないつも通りの別れと再会を約束する挨拶をして、彼女と別れた。
次に闘技大会へ出るときは、少しでも胸張ってやろうなんて自分に誓いながら。
闘技大会の受付嬢と別れたあと、腹が減っていたことに気付き、とりあえず飯を食うことにした。体は疲れたままだが、何かを食べた方が良いに決まっている。
いつもよりも高い肉料理とお酒を注文。今日くらいは豪華にいかせてもらおう。
運ばれてきた料理を夢中で食らいついていると、俺が出ていた闘技大会を見たとか言う、名も知らぬハンター数人が声をかけてきて、お酒を奢ってもらった。なるほど、こう言うこともあるのか。ラッキーです。
そしてキンキンに冷えたエールを喉へ流し込んでいた時、あのハンマーを担いだ彼女が見えた。
「何行くの?」
目が合い、言葉を投げかける。
「……グラビ」
そりゃあ、またドギツイのに行くんだな……
が、頑張ってください。
「乗れ! ひたすら乗れ」
「うん、わかってる。あと……おめでとう」
そんな言葉をぽそりと落としてから、彼女は集会所の出口へと歩いて行った。
ありがとう。君も頑張れよ。
どうやら彼女は相変わらずソロハンターを続けているらしい。オトモアイルーを連れてもいない。そうだと言うのに、ジンオウガ一式ねぇ……
素直じゃないな。
ま、他人のことを言えたもんじゃないんだけどさ。
また明日から忙しくなる。けれども、今日くらいはゆっくりさせてもらおう。
それくらいは許して欲しいかな。
闘技大会クックソロSですが
とにかく走られないように立ち回り
乗り2回、小タル爆弾、砥石、乗り2回、小タル爆弾、砥石、乗り1回
と言う感じでやれば安定してSはとれます
しかし、この方法ではどんなに運が良くても4分をギリギリ切るのが限界です
3分10秒とかどうやったら出せるのやら……
と、言うことで第4話でした
漸く闘技大会が終了
これからはハンマーの出番ですね
片手剣さんはお疲れ様でした
次話は……どうしましょうか?
では、次話でお会いしましょう
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