振り向きへホームラン【完結】   作:puc119

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第50話~口に出さず伝わる想い~

 

 

 MH4において、一番難しいクエストは何かと聞かれた時、多くの人は同じ答えが浮かぶんじゃないだろうか?

 集会所や旅団クエスト、そしてイベントクエストの中にも難しいクエストは沢山あった。けれども一番難しいクエストと言うと、浮かぶのは一つだ。

 

 ――ギルドクエスト。

 

 それは多くのハンターが挑み、より強い武器防具を得るため、時には死んだ目をしながらやり続けたもの。俺はそのギルドクエストがMH4の中で最も難しいクエストだと思っている。

 

 とは言っても、ギルドクエストにだって色々な種類がある。レベルは1~100まであり難易度だって全然違ってくる。ギルドクエストに登場するモンスターもドスランポスみたいな奴もいれば、テオやクシャのような古龍種だって登場する。

 そして俺はあの2頭の登場するギルドクエストが一番難しいと思っている。一度レベル100をやったことはあるが、あんなもん2度とやりたくない。どう考えても調整を間違えてる。

 

 その2頭のうち1頭は、樹海の一匹狼ことイャンガルルガ。狂竜化したアイツとかホントヤバい。こんなもんどうすれば良いんだよって速度で嘴を叩きつけてくるし、ほぼノーモーションから繰り出される突進なんて避けられるわけがない。狂竜化したことでその速度は1.4倍になる。ただでさえすばしっこいアイツがそうなるともう止められない。

 

 そんなイャンガルルガが1頭目。そしてもう1頭が、歴代パッケージモンスター最強と呼ばれるブラキディオスだ。

 

 狂竜化したあの2頭のギルドクエストは本当に難しいと思う。それは凄腕のハンターが4人集まったとしても普通に失敗するレベル。カメラ外から即死の竜巻を飛ばしてくる鋼龍や、地表を走り回るトカゲはオマケで地雷が本体とまで言われる天廻龍なぞ、あの2頭と比べれば可愛くすら見える。

 

 そして俺が何を言いたいかと言うと……

 うだうだと文句みたいことを並べ、何を伝えたいかと言うと……

 

 

「ブラキとかホント戦いたくないな……」

 

 

 ってことなんです。

 いや、情けないとは思うけれど、ホントにブラキは苦手なんですよ。

 でも、そう思ってしまうのも仕方無いのでは? って言う言い訳。

 

「……貴方でもそう言うモンスターっているんだ」

 

 今はグラビを倒した帰り道。

 心の中で愚痴を落としたつもりが、どうやら口に出ていたらしく、それを笛の彼女に聞かれてしまった。

 

「そりゃあ、苦手なモンスターくらいいるよ」

 

 ゲームの中では100を超える数のアイツを倒した。けれども、そんな中で一度たりとも上手く戦えたことはない。ホントに戦い難い相手なんです。

 けれども彼女の防具を作るため、そして俺の武器を作るために戦わなければいけない。苦手なモンスターは結構いるけれど、アイツはその中でも一番苦手。やだなぁ……

 

「でも、下位だしなんとかなると思う」

 

 うん、それはわかってる。

 狂竜化はしないだろうし、此方は上位防具一式で相手は下位。だから失敗することはないと思うんだけど……

 

 アイツの何が一番嫌かって――

 

 

「戦っていて面白くないじゃん、ブラキって」

 

 

 それが一番大きな理由です。

 とにかくアイツは此方に隙を見せてくれない。脚くらいならいつでも攻撃はできるけれど、俺の担いでいる武器はハンマー。脚なんて攻撃していてもちっとも面白くない。

 頭を確定で狙えるのなんて尻尾回し攻撃くらい。後は罠や乗りを入れていかないと頭を叩くことは難しい。それがとにかく嫌だった。

 

 強い相手は大歓迎だ。強い相手にどう避けてどう攻撃するか考え、手探りで攻略方法を見つけていくあの感覚は嫌いじゃない。どの攻撃なら頭を狙うことができ、それを見切ってからハンマーを叩き込む。そんな戦いに憧れる。

 一方ブラキだけど……確かにブラキは強い。本当に強い。でもそう言うことじゃないんだよなぁ……

 だってアイツってほとんどの動きが頭を叩けないもん。

 

 だからブラキが本当に苦手だった。

 

「えっ? そ、そんな理由?」

 

 あ、あら? まさか驚かれるとは思わなかった。大切な理由だと思うけど……

 ブラキの弱点は頭だ。けれども無理矢理頭を狙うよりも確実に脚を殴った方が早く倒せたりする。それって何か違う気がする。俺の技術不足で頭を狙えないとかなら、まだ良いんだけどさ。

 

「う~ん、粘菌はストレスも溜まるし、上位のブラキと戦う前にゴア装備作っちゃった方が良いかな?」

 

 あの粘菌もなかなか厄介なんです。

 せっかくの攻撃チャンスにあの粘菌がついていたりして、ローリングをしなきゃいけない状況とかストレスがヤバい。

 下位のブラキくらいならまだ良いけど、上位でマラソンをすることを考えると、結果的に防具を作った方が早い気がする。

 

「……でもゴア装備ってよく燃えるし、爆発で消し飛びそう」

 

 うん? 確かにゴア装備の火耐性は低いけど……

 

「いや、ブラキの爆発は無属性だからゴア装備だろうがクック装備だろうが、ダメージは変わらんはず」

 

 まぁ、俺も最初は火属性の攻撃だと思ってた。見た目は明らかに炎だもんね。勘違いしてしまうのも仕方無いかもしれない。

 

「……知らなかった」

 

 それはしゃーない。

 しっかし、防具はどうすっかね。要は今の装備でゴアとブラキのマラソンをするとしてどっちが楽かって話だけど……むぅ、悩む。

 

 まぁ、とりあえず下位のブラキを倒してからか。あまりにもストレスが溜まるようなら、ゴアを先にやろう。

 それにどの道、HRが6にならないと上位ブラキとは戦えないし。

 

 むぅ、ブラキかぁ……倒すことはできると思うけど、なんとも気は進まない相手です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 ――戦っていて面白くない。

 

 か。

 私はどうなんだろう? 確かに戦っていて面白いって感じる時もある。そんな時もあるけれど……それが本心なのかはちょっとわからない。

 でも、彼の言ったあの言葉はきっと本心なんだと思う。

 苦手な理由は戦っていて面白くないから。その気持ちはわからないでもない。モンハンはゲームシステム的に、同じモンスターと戦い続けなきゃいけない時がある。そして5頭くらいなら問題なく戦える。でも、それが10頭20頭100頭と増えていけば、そんなのただの作業だ。楽しむためにやっているはずなのに、それが作業になってしまっては意味がない。だって、何のためにやっているのかわからないから。

 そんなことを考えると、やっぱり戦っていて面白いモンスターってのが一番なのかもしれない。だから彼の言っていることは理解できる。

 

 でもそれは私だからであって、きっとあの娘には理解されないんだろうなぁ。

 

 だって、この世界のハンターは狩りを楽しむために戦っているわけじゃなく、モンスターを倒すために戦っているのだから。その戦いに面白いか面白くないかってことはない気がする。面白いか、面白くないかじゃなくて、倒せるか倒せないかの2択しかない。もしかしたら彼みたいな考えの人もいるかもしれないけれど、やっぱり少ないと思う。

 

 とは言っても、私は彼の気持ちがわかってしまう。どちらかと言うと私は彼よりの人間だから。そして例え、彼の考え方が間違えていようと、別に悪いことじゃない。

 楽しみながらモンスターを狩ろうが、使命感に追われながらモンスターを狩ろうが結局変わらないのだから。むしろ、変なプレッシャーのせいで動きが鈍るようじゃ仕方無い。

 

 難しいものです……

 

「えと、じゃあ次はブラキディオスってことでいいの?」

「うん、そのつもり。まぁ、今度は上位じゃなく下位クエストだけど」

 

 あの娘と彼の会話。

 それは考え方の全く違う二人の会話だ。

 

「おおー、久しぶりの下位クエスト! 頑張ります」

「うん、頑張れ。超期待してる」

 

 それでも、この二人の仲は良い。ちょっとすれ違いそうになることはあるけれど、それはお互いを思ってのこと。本当に良いコンビだと思う。でも、どうして此処までこの二人が噛み合っているのか私にはわからない。

 

「ふふん、任せなさいな。流石に下位クエストなら私だって活躍できますから!」

「いや、今でも充分……ん~……まぁ、張り切り過ぎない程度にやれば良いと思うよ?」

 

 そしてそんな二人の関係が羨ましかった。

 私だって仲は良いと思うけれど、彼ともあの娘とも、そんな良い感じにはならない。それは少し寂しい。

 

「そう言や、君って防具はどうするの? 何時までもジャギィSじゃ流石に不味いし……」

 

 ああ、そっか。あの娘の防具を聞いていなかった。

 武器は当分今のままで大丈夫だと思う。でも、防具はそろそろ厳しくなるはず。鎧石を突っ込めばなんとかなりそうではあるけど、いつまでもジャギィSじゃ可哀想。

 

「う~ん。そう聞かれても私はよくわかんないし……でも、強いのがいいです」

「いや、まぁ、そりゃあ強い防具が良いんだけどさ……」

 

 仲良く防具の会話をし始めた二人。

 そんな二人の会話に、少しだけ混ざってみる。でも、話の中心はやっぱり私を抜かした二人だった。

 う~ん、会話って難しいね。でも今はこんな状況を充分満足しているから、これで良いのかなぁとも思う。

 

 

 考え方はみ~んなバラバラな3人。

 

 

「ねぇ、笛ちゃん。リノプロ装備っていいと思わない?」

「……ぐぅれいとだと思う」

 

 

 武器だって皆バラバラ。

 だからちょっとしたことで、直ぐにバラバラになっちゃうんじゃないかって言う、不安はいつもある。

 

 

「いやいや、全然グレートじゃないからね? お願いだからリノプロはやめてください」

「でも、リノプロ装備ってカッコイイし可愛いよ?」

 

 

 それでも、なんとかまとまってはいるんじゃないかなぁって思う。

 

 

「可愛いかは知らんけど、強くないんだって」

「むぅ……じゃあ――」

 

 

 そしてそんなこのメンバーが私は好きだったりします。

 でも、恥ずかしいから私の口からそんな意思を伝える言葉は出ないのです。

 

 

 

 これから先、少しばかり遠い未来で3人ともバラバラになってしまうけれど、そのことをちょっとだけ後悔することになる。

 ちゃんと言葉にしておけば良かったなぁ……って。

 

 でも、後悔したのは少しだけ。

 言葉にしなきゃ伝わらないこともあるけれど、言葉にしなくたって伝わることはある。

 

 たぶん、そう言うこと。

 

 






50話らしいので、それっぽいお話にしました

どうやら次話からはゴアとブラキのマラソンが始まるそうです


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