振り向きへホームラン【完結】   作:puc119

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第52話~頬膨らませて嫉妬~

 

 

 まさか彼処まで上手くいくとは思っていなかった。

 今回は罠を使おうとは思っていたものの、ハメようとまでは思っていなかったのです。それに麻痺や睡眠なんかの状態異常系は、思ったタイミングで発動させられるものじゃない。そうだと言うのに、今回は完全にハメきることができてしまった。

 

 前回の蔦ハメのこともあるし今更ハメをダメとは言わないけれど、どうにもモヤモヤする。かと言って相手はブラキなのだし、普通に戦ってもそれはそれでストレスが溜まるんだよなぁ……う~ん、なんとも贅沢な性格をしているね。まぁ、こればっかりは感情論なのだしどう仕様も無いんだけどさ。

 

「……難しい顔してるけど、ハメのこと?」

 

 どうやらそんな顔をしていたらしく、笛の彼女にそんなことを言われた。

 クエストの帰り道。時刻は夜。今日も今日とて、元の世界じゃまず見ることのできなかった星々が頭の遥か上の方で輝いていた。

 

 因みに相棒は既に夢の中っぽいです。

 

「うん。やっちゃ不味かったとかは思わないけれど……どうにもね」

 

 じゃあどうすれば良かったのかと聞かれると、その質問に答えることはできない。

 そんな我が儘な自分の性格が嫌になる。

 

「でも、あの娘は上手く倒せたって喜んでた」

 

 うん、見てたよ。超嬉しそうだったね。そしてたぶん、それが正解だとは思う。せっかくモンスターを倒したと言うのに、それで悩んでいたんじゃあ仕様が無い。

 それに罠がダメとかハメは禁止とか言うわけにもいかない。今はソロじゃなくパーティープレイなんだ。縛りプレイなぞパーティーじゃ迷惑でしかない。

 

 むぅ、もしかして俺ってパーティープレイが合っていないのだろうか? そんなこと思ったことなかったんだけどなぁ。

 

 

 はてさてソロ、か。

 

 ふむ……

 

 

「一つ、提案しても良いですか?」

「……また別れるの?」

 

 ……流石、鋭いことで。

 

 今回のクエストで彼女の防具は胴系統倍化を残してほぼ完成。一方、俺は防具なんて一箇所もできていないし、武器だってまだだ。そしてその武器と防具を作るのには、下位のゴアとレウス、そして今日倒したブラキの素材が必要。

 それに今はちょっとパーティーを離れてソロで戦ってみたい気分。とは言え、それで彼女たちに迷惑をかけるようじゃ不味い。いくら俺の武器がハンマーと言え、全く戦力になっていないわけではないはずだから。

 

「たぶん、あの娘は嫌がると思う」

 

 ですよねぇ……あの相棒のことだ、俺がまたそんなことを言えば絶対反対する。それは嬉しいことではあるけれど、下位クエストのマラソンを手伝わせるのもやはり気が引ける。

 

 でも流石に今回は説得できそうにない。

 

 

「だから私が説得する」

 

 

 ぽそりと彼女の言葉が落ちた。

 なんですと? えっ? それは嬉しいけど、急にどうしたのだろうか。

 

「そりゃあ有り難い。有り難いけど……良いのか?」

「うん、私たちはいつも貴方に頼ってばかりいたから、たまにはそれも悪くないと思う」

 

 ……頼られていたんですか?

 そんな感じは全くしなかった。てか、むしろ武器的に俺が一番火力を出せていないと思うんだけど……そう言う話では、ないのかな?

 今のモンハンでパーティーにおけるハンマーの立ち位置なんて崖っぷちだ。かと言ってソロなら活躍できるかと聞かれてもそうとは言い切れない。事実TAをした時、ハンマーを使った場合が一番になるクエストなんてないんじゃないだろうか。

 火力もなく立ち回りも難しい。だからこそ面白いのだし、飽きることはないのだけど……う~ん、そうだと言うのに、頼られているとは。

 

 ただのお世辞だったかもしれないけれど、それは嬉しかった。

 

「わかった。じゃあ、相棒の説得はお願いします」

「任せて」

 

 うん、頼りにしてます。

 

 ふむ、じゃあ次のクエストから俺は当分ソロで頑張ることになるのかな。今のところの予定は下位のゴア、レウス、ブラキと言ったところ。ソロでブラキか……いやまぁ、うん、頑張ろう。

 

「……ねぇ」

「どしたの?」

 

 そろそろ寝ようかと思ったとき、彼女から声をかけられた。

 

「……もし、元の世界へ戻ったら何したい?」

 

 ……そんな彼女の言葉にはちょっと驚いた。

 別に禁止していたとか、そう言うわけではないけれど今までそう言う話をしたことはなかったから。だって、俺たちが元の世界へ戻ることのできる保障なんてないのだから。

 そりゃあ、何時までもこの世界にいて良いとは思わない。思わないけれど、元の世界への帰り方なんてわかるはずがない。

 

 だからなのか、元の世界の話を自分からしようとは思わなかったし、彼女の話だって聞いていない。

 それが、急にそんなことを言い出したものだから、驚いてしまうのも仕方無いことだと思う。

 

「ん~……そうだね。とりあえず家族や友人に会いたいかな。んで……ああ、MH4Gをやりたい。君は?」

 

 発売まで残り2ヶ月もないくらいだった。新しいモンスターやG級のモンスターたちと戦いたかったなぁ。それに、もしかしたらハンマーのモーション値とかも見直されたかもしれないし。まぁ、例え変わってなくても担ぐ武器はどうせハンマーになるだろうけどさ。

 

「とりあえずワンコ倒す」

 

 ……この彼女はジンオウガに何かの恨みでもあるのだろうか。

 この世界に来てからだって、一式防具を作ることができるくらい倒していると言うのに。

 

「あと、4Gも楽しみ」

 

 だよね。

 

 ……うん? そう言えば、この彼女って俺より一年以上前からこの世界へ来ていたんだよな。そうだと言うのに、4Gの存在を知っているのか。発売の発表ってそんなに早かったっけ。

 

 いや、待て。違うのか? もしかして元の世界の時間の流れと、今の世界の時間の流れが違うってこともあるのか?

 

「え、えと。ちょっと聞いても良い?」

「どうしたの?」

 

 ゲームの世界へ飛ばされるとか言う、もう理屈じゃ説明できないようなことが起きているんだ。そうだとしてもおかしくはない。

 

「君って……元世界のいつ、この世界へ飛ばされたの?」

「えっと……確か――」

 

 

 少し考えるような仕草をしてから、彼女がぽそりと言葉を落とす。

 

 そして、その落された言葉は俺がこの世界へ飛ばされる2日前の日付だった。

 

 ……ふむ。たった二日の差で一年か。

 例が少なすぎるせいでまだわかることは少ないけれど、少なくとも元の世界と今の世界の時間の流れが違うことはわかった。

 

 考えても仕方の無いこと。

 けれども、考えずにはいられない。謎解きは嫌いじゃないのだから。

 

 ま、正解なんて出るはずがないんだけどさ。

 

「……好きな数字」

「うん?」

「貴方の好きな数字って何?」

 

 決して良くはない頭を使い。元の世界と今の世界を考えていると、そんなことを彼女から聞かれた。

 いや、好きな数字とか言われても……

 

「じゃあ……3」

「そうじゃなくて4桁」

 

 怒られた。

 いや、そんなこと最初に言ってくれないとわからないのですが……

 

 さて、4桁の好きな数字ねぇ……3333じゃ味気ないし、今考えると3だって其処まで好きな数字じゃない。だいたい好きな数字ってなんだよ。

 ん~……ああ、あの4桁ならちょうどあの数字で良いのか。

 

「1248かな」

 

 それはきっと多くのハンマー使いが追い求めた数字。その数字にたどり着くことのできるハンターがどれほどいたのかはわからない。それでも、俺たちは追いかけ続けた。

 

 結局、最後の最後まで出なかったなぁ……

 

「ふふっ、じゃあ私は1196だ」

 

 そう言って彼女はクスクスと笑った。

 どうやら俺の言った数字の意味を理解していたらしい。笛とハンマーの武器係数は同じ。けれども、ハンマーはボーナスが乗るから数字は少しだけ大きくなる。

 

「出たの?」

「……出なかった」

 

 まぁ、そんなもんだよな。妥協品はそれなりに出てくれるけれども、ゴール品なんて出る気がしない。紅玉なんかのレアアイテムとは比較にならないほどの確率。調整を間違えている気がしてならない。

 

 それにしても、まさかモンハンの世界へ来てゲームの話をすることになるとは思わなかった。もしこの世界にもギルドクエストがあれば、やはりソレを追いかけることになるのかな。それは何とも気の重くなる話ではあるけれど、少しだけ楽しみだ。

 

「そっか、なかなか出てくれないよなぁ。俺も笛しか持ってなかったし」

「……は? 持ってたの?」

 

 ……彼女にすごい顔をされた。

 いかん、地雷を踏み抜いたか。

 

「え、えと、うん」

「……旋律は?」

 

 ヤバい。見るからに不機嫌だ。

 頬が膨らんでいるところはちょっと可愛いけれど、この彼女怒ると怖いんです。

 

「あ、赤空素白のゴルリコを……」

「……へぇ、よかったね」

 

 どう見ても祝ってくれてません。絶対良いなんて思っていない。

 

 とは言うものの、それは仕方の無いことかもしれない。もし俺と彼女の立場が逆だったとしても、そんな顔になった気がするのだから。

 どんなにクエストをクリアしたところで、ゴール武器なんて出ない時は出ない。だからこそ他人が持っていると余計に羨ましいし、妬ましい。ホント難しいものですよ。

 

 

 そんな俺と彼女の会話にどんな意味があったのかなんて、その時の俺はわからなかった。

 そして、その会話の大切さに気づくことができたのはそれから少しばかり遠い未来のこと。

 

 

 さて、次からはこの彼女とも別れソロで頑張ることとなる。それに不安もあるけれど、それを楽しみにしている自分がいたりします。

 

 


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