振り向きへホームラン【完結】   作:puc119

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第57話~願いを込めてホームラン~

 

 

 笛の彼女の武器が完成するのを待ってから、アカムトルムを討伐するため溶岩島へ向けて出発。

 

 天空山もかなり遠い場所にあったけれど、溶岩島はもっと遠いらしく、朝早く出発したのにも関わらず着くのは次の日の夜らしい。しかも島とついている通り、何時ものように馬車だけで行くことはできず、途中から気球で運んでもらうんだって。

 そう言えば、ゲームの中でも溶岩島で戦う時は夜だった。彼処から見える星空が綺麗で好きだったからよく覚えている。

 

「一応、調合分まで閃光玉持ってきたけど、こんなに使うの?」

 

 不安そう……って言うか、よくわかっていないような相棒の声。

 まぁ、この世界で閃光ハメを知っているハンターなんていないだろうし、それは仕方の無いことかもしれない。

 

「実際に戦ってみないとわからないけど、三人分の閃光玉を合わせても足りないかもしれない」

 

 アカムを閃光ハメで倒す場合、普通はギガロアなんかの貫通弾を撃つことのできるヘビィボウガンでしゃがみ撃ちをする。しかも、俺たちのパーティーのように3人ではなく4人パーティーで。

 その場合なら、早ければ1分10秒ほどであのアカムを倒すことができる。クエストをクリアした後の時間の方が長かったくらいだ。

 

 けれども、今の俺たちにヘビィを担いでいる奴なんていないし、人数だって3人。ハメ切れる保証なんてない。

 

「何にそんな使うのさ……」

 

 ひたすらアカムの顔の前に閃光玉を投げ続けるんです。

 調合分まで含めて閃光玉は合計45個。1発の閃光玉で7秒ほど拘束ができるから5分間は攻撃し続けることができるはず。

 

 とは言え、相棒にどう説明したら良いのやら……

 

「えっとだな……閃光玉を投げるとモンスターって怯むだろ?」

「うん、それはわかるよ」

 

 さてさて、此処からが難しい。

 そもそも、どうしてアカム相手に閃光ハメが成立するかと言えば、アカムの閃光に対する耐性が高過ぎることが原因。閃光玉をモンスターに使った場合、ほとんどのモンスターは閃光やられ状態でも何かしらの攻撃モーションをとる。ゴリラなんかは閃光やられ状態になると手がつけられないほど動き回るし……

 でも、アカムは違う。閃光に対する耐性が高過ぎるせいで、何かの攻撃モーションへ移る前に閃光やられ状態が解けてしまう。そしてアカムの動きが鈍重なこともあって、閃光やられ状態が解けるモーションに数秒の時間がかかる。

 その時間はたったの数秒しかないけれど、其処は調合分まで閃光玉を持っていき数の暴力で押し切る。それがMH4でできたアカムの閃光ハメのやり方。

 

 そして、このことを相棒に説明したところで……まぁ、理解されんわな。

 

「んで、今回俺たちがやろうとしているのは、閃光玉を投げてモンスターを怯ませ続けようってこと」

「そんなことできるの?」

 

 それはやってみないとわかりません。

 もしかしたら閃光玉が効かないとかもあるかもしれないし。

 

「そこはやってみないとわからないかな。でも、やる価値はあると思う」

 

 俺がそう言うと、相棒はふーん。と言葉を落した。

 たぶん、よくわかってないよなぁ……でも、どう説明すれば良いのか俺だってわからないんです。

 

「まぁ、最初は俺と彼女が閃光玉を投げるから君はその後になるかな。口じゃ上手く説明できないけど、始まればなんとなくわかると思う」

「うーん、それって何かコツとかあるの?」

 

 コツですか……強いて言うなら閃光やられ状態が解けた時のモーションを覚えることだけど、こればっかりはやってみないとわからない。

 そうなると……

 

「閃光玉を投げてから7秒数えてまた投げることかな。それを調合分までやれば良いと思う」

 

 8秒でもいけないことはないと思うけれど、今回はできるだけ安全にいきたい。

 

「なんか、すごい状況になりそうだね」

 

 まぁ、別ゲーと言えば別ゲーだしそれは仕方無い。だからこのやり方を嫌う人は少なくなかった。お手軽ではあるけれど、多少の知識がないとできないこと。でも、慣れてしまえば作業とかしならない。

 

 成功してくれれば良いが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 その後、彼女や相棒と攻撃する部位やアカムが寝た時の行動などもしっかりと話あっておいた。打ち合わせ通りいかないとは思うけれど、最初にどう動くか決めておくのは大切なんです。

 

 

 そして長い時間をかけ、漸くに溶岩島へ着いた。

 

 場所は溶岩島のベースキャンプ。

 此処から飛び降りればアカムのいるエリアへ行くことはできるけれど、モドリ玉を使わない限り戻ってくることはできない。

 

 そしてモドリ玉は持ってきていません。つまり、俺かアカムのどちらかが倒れるまでは戦い続けることになる。

 こう言う、後のない状況ってやたらと緊張するよね。

 そしてそんな状況は嫌いじゃない。

 

「……準備できた」

 

 うん、演奏お疲れ様。

 彼女に頼み、攻撃力強化【大】を演奏してもらった。クーラードリンクも飲んだし、準備は完璧。あとはターゲットを倒すだけ。

 

「っしゃ! 行くかっ!!」

 

 気合を入れるため、臆病な自分を前へ進ませるためいつも以上に大きな声を出す。

 

「おおー!」

「おー」

 

 さて、ひと狩り行きますか。

 

 

 

 

 ベースキャンプから飛び降りると、直ぐにあの巨体を発見することができた。その身体は今まで戦ってきたどの飛竜よりも大きい。

 長さならガララアジャラの方が勝ってはいるけれど、アレとは迫力が違う。

 

「えと、今からアレと戦うん……だよね?」

 

 不安そうな声に引き攣った顔の相棒。

 まぁ、アカムの迫力は本当にすごいし、それも仕方の無いことかもしれない。

 

「ま、大丈夫だよ。サクッと倒してじいさんに報告してやろうぜ」

「うん……頑張ります!」

 

 おう、超頑張れ。

 

 そんな俺たちに気付いたアカム。

 そして、今までのどのモンスターよりも大きな咆哮をあげた。

 

 その咆哮が終わると、此方に向かってゆっくりと突進。動きが遅すぎるせいであの突進逆に避け難いんだよなぁ。

 

 さて、それじゃあ始めようか。

 

 俺はゆっくりと突進をしてきたアカムの顔の前に閃光玉を投げた。

 一瞬視界が真っ白に染まる。そして、アカムが怯んだ時にあげるあの独特の鳴き声が聞こえた。

 

 おっし! とりあえず閃光玉は効くっぽい。

 

 そして閃光やられ状態となったアカムの顔には彼女が、腹には相棒が行きインファイト。これではめられなかったら大惨事だよなぁ。

 どうか、上手くいきますように……

 

 そんな願いを込め2つ目の閃光玉を投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「閃光玉あといくつ残ってる!?」

「あと3つ!」

 

 そんな相棒の声が聞こえてから視界が真っ白となった。

 閃光ハメは成功した。成功はしたのだけど……アカムが倒れない。

 

 此処までミスは何もないはず。アカムに攻撃はされていないし、相棒の攻撃によって寝たアカムにも爆弾はちゃんと入れることができた。あの長い両牙も砕け、腹だって破壊は終わっている。

 それでもアカムを倒すことができていない。

 

 今まで使った閃光玉は42個。

 ……ちょーっと不味いかも。流石に3人でしかもこの武器じゃ火力が足りなかったってことだろうか。

 

「次がラスト!」

 

 そして視界は再び真っ白に。

 これで閃光玉はあと一つか……つまり次が最後の攻撃チャンス。むぅ、ハメきれると思ったんだがなぁ。鎧玉を使っていない今の俺の防御力で、アカムの攻撃はちょっと辛い。

 

 ああ、もうお願いだから倒れてください!

 

 そんな願いを込めてのホームラン。

 それがあの大きな顔に直撃した瞬間だった。

 

 アカムが一瞬上を向いたかと思うと、そのまま地面に倒れ込み動かなくなった。

 

 はぁ……終わったか。

 

「これで、ラスト!」

 

 あっ、いや、相棒さん。もう倒し……ああ、視界が真っ白に。

 まぁ、かなりギリギリだったけれど無事倒すことができたんだ。しかも此方は無傷。相手がアカムなのだから充分過ぎる結果だろう。

 

「よし、私も戦……あれ? え、もしかして倒したの?」

「……うん、終わった」

 

 何が起こったのかわからないような表情の相棒と、冷静にアカムから素材を剥ぎ取る彼女。まぁ、アカム笛ってすごく強いし彼女もアカムの素材は欲しいのだろう。パーティーならあのダラ笛よりも良いんじゃないだろうか?

 

「お、おおー! 何だかわからないけど、すごい! 本当に倒しちゃったんだ!」

 

 7秒に一回は視界が真っ白になってたもんね。レウス亜種と戦った時もすごかったけれど、今回はあれよりも閃光玉の頻度は多かった。今回のクエスト中の光景はちょっと異様だったかもしれない。

 

 さて、それじゃ俺も剥ぎ取らせてもらおうかな。此処で剥ぎ取っておかないと次、いつアカムと戦えるのかわからない。素材を使うかはわからないけれど、あって悪いものじゃあない。

 

 このクエストをクリアしたことでHRが7に上がったりはしないだろうか? そうすればテオやクシャなんかの古龍と戦うことの権利が手に入るのだけど……

 特にテオとは久しぶりに戦いたい気分。しっかし、古龍がそんなホイホイいるのかねぇ。そしてじいさんの言っていた最近やたらと現れるようになったラージャンってのも気になる。

 

 かなり順調に進めているけれど、これからは強いモンスターばかり。いつまで止まらず進むことができるのやら……

 

 

「ありがとう。いただきました」

 

 

 剥ぎ取りを終えてから、ふと空を見上げてみた。

 そこには画面越しに見た景色よりもずっとずっと綺麗な星空があった。澄んだ空気に星空は良く映え、月明かりだって弱くはないはずなのに、それに負けないくらい輝いていた。クエスト中は全く気づけなかったけれど……うむ、なかなか良い景色じゃないか。

 

 これだけの景色を見れただけでも、この世界へ来て良かったかもしれない。

 

「おーい、迎えが来たから帰ろうよー!」

「……帰る時間」

 

 そんな小っ恥ずかしい思いは、彼女たちが俺を呼ぶ声によって、直ぐに消えていった。

 

「ああ、直ぐ行くよ」

 

 

 そして、これだけの景色を俺はあと何回見ることができるのだろうか。

 

 

 






MH4Gの中では溶岩島のベースキャンプから見える景色が一番好きです
見たことがない方は是非一度


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