モンハンにおける最終的な目標ってのは何かってよく考えることがあった。
それは人によって違うだろうし、それで良いと思っている。じゃあ自分の場合はどうか。クエストの全クリアとか、勲章を全て集めることとか、全モンスター100匹以上討伐とか、色々と考えた。
そしてそんなことを考えているうちに、それらは全て終わってしまった。
でも、まだモンハンは続けたい。
そんなことを思った俺がたどり着いた一つの答えはTAだった。
モンスターをどれだけ早く倒すことができるか。ただそれだけを目指す。
其処で大きな壁にぶつかった。そしてその壁を乗り越えることは未だにできていない。
TAをやり始めて、まずやったことは上手い人のプレイングを見ること。ネットに転がっている上手い人の動画見る。それだけのこと。
最初はなんでそんな動きができるんだよ。なんて思いながら見ていた。でも、何度も何度も見ているうちに自分でもできるって思えた。思ってしまった。
そして動画を参考にして自分も挑戦。そこで漸く気付いた。
自分の下手さに。
ゴリ押しの通用しないTAの世界ではより緻密な操作を要求される。でも、何度練習したって上手くいかない。何回挑戦しても失敗する。頭じゃわかっていても、画面の向こうにいた俺の操るキャラは動いてくれなかった。
自分は上手くない。でも、そう思いたくはなかった。だから精一杯抗ったんだ。知識を詰め込み、どうにか差を埋めることができないか頑張った。
だって悔しいだろ? HRもカンストし、1000時間以上もかけたゲームですら上手くできないなんて。
そうだと言うのに、俺のプレイングが改善されることはなかった。相手の行動パターンを覚え、それに合わせた立ち回りを考えたところで、結局上手く戦うことなんてできやしない。つまり、俺はそれほどにモンハンが下手だった。
馬鹿みたいな時間をかけても人並み程度のプレイングが限界。そしてその原因は自分の操作ミスがあまりにも多すぎるせい。
そんなことはわかっている。頭じゃわかっていた。
でも、上手くできないものはできないのだ。
けれども、この世界に来てからそれは変わった。
相手の動きはゲームと同じ。つまり、あの時に詰め込んだ知識をいかすことができる。
さらに、あれほど多かった操作ミスはこの世界じゃありえない。秘薬を飲もうとして砥石を始めるなんてこともないし、距離感を把握できず攻撃を空振りすることもない。前ロリは暴発しないし、モンスターに合わせてディレイをかけることだって簡単にできる。ゲームよりも視界はずっと広いし、そこにカメラ操作は存在しない。
この世界では頭で思い描いた動きを簡単に実行することができた。
それが心の底から楽しかった。だって、ずっとずっと俺が目標にしていたことだったから。
けれどもそれは、相手が俺の知っている相手だったから。詰め込んだ知識と経験をいかすことのできる相手だったから。
「……ずるいよな。お前らは」
ラージャンのケルビステップ。
左へローリングで回避。
こんな意味わからん奴に勝てっかなぁ……でも、負けたくはないよなぁ……
……うん、まぁ、できるだけ頑張ってみようか。
――カチリと、自分の中の何かがはまった
「せっかく行動を覚えてもさ、お前らが知らないことをするだけでもうダメになるんだ」
バックステップ。
更に回転攻撃。その終わり際、頭へ溜め1。弾かれはしなかった。ただ、何故かスタンエフェクトが出ない。
「お前がやる11種類の攻撃を覚えるのに、どれくらいかかったと思う?」
デンプシー。
また左へローリング。デンプシーの数は3回だった。
そして振り向きなしで回転攻撃。確定行動の可能性大。
追撃は厳しい。
「そんなお前の行動を漸く覚えたってのにさ……なんだよ、それ」
バックステップから飛び上がるラージャン。飛鳥文化。当たる攻撃ではないはず。
着地後、バウンドしもう一度飛鳥文化。新モーション。クソが。
2回目の飛鳥文化をローリングで回避。しかし、ラージャン更にバウンド。ローリング後、最速でまたローリング。
3連飛鳥文化か。
飛鳥文化後、ラージャンが威嚇。確定かはわからない。
「やっと……やっと自分の思うように動くことができるようになったんだ」
ケルビステップ。ローリングで回避。
バックステップから回転攻撃。これも確定行動の可能性大。
頭へ溜め1、振り上げ。ヒットストップは確認。しかし、やはりスタンエフェクトが出ない。もしかして属性値も入っていないのか?
「でも、お前のせいでそれもダメになった」
ショートデンプシーから軸合わせ無しで回転攻撃。
とりあえずこれは確定行動か。
ハンマーを右腰へ構える。
「……嫌いだ」
早い振り向き。そこへスタンプ。直ぐにはローリングをせず、様子見。
小ジャンプからのしかかり。左へローリングで回避。
「……お前なんて大っ嫌いだ」
サイドステップ。ローリングでさらに距離を取る。
回転攻撃。そして此方を振り向きながら、ビーム。これも確定行動の可能性大。
ビームの終わりへカチ上げを頭へ1発。
「お前が何なのか知らんけど……大っ嫌いなお前にだけは勝ちたいんだよ」
一番戦った相手で一番倒した相手。そして一番倒された相手。
だからこそお前だけには負けたくない。
デンプシー。左へローリングで回避。回数は7。
バックステップ。飛鳥文化に備えて納刀。時計回りに走りながら、3連飛鳥文化を回避。
右腰へハンマーを構え、威嚇中のラージャンの頭へカチ上げ。
ディレイをかけてから、デンプシーを左へローリングして回避。数は3回。回転攻撃がほぼ確定。
回転攻撃。
それを見てローリングで直ぐに尻尾の下へ行き、後ろ脚に吸われないよう、空中へ横振りから縦2。ラージャンの動きに合わせ、少しだけディレイをかけ――
振り向きへホームラン。
スタンエフェクトが出なければ、爆発もしない。でも、大きすぎるほどのヒットストップが腕にかかった。それが最高に気持ち良い。
これだからハンマーはやめられない。
そんなハンマー最高威力の技が当たると、ラージャンがやっと倒れてくれた。
「…………ああ、疲れたな」
動かなくなったラージャンを見るとそんな情けない言葉が溢れ、地面へ倒れてみた。でも遺跡平原の地面はあまり良い寝心地ではない。
白黒の視界も徐々に戻り始めてくれた。
戦っていた時間は10分もないはず。でも疲れた。本当に疲れた。これなら今直ぐにでも寝ることができそうだ。
もったいないとは思ったけれど、その時ばかりは地面へ寝ていたくてせっかく倒したのにも関わらず、ラージャンから素材を剥ぎ取りはしなかった。
結局、彼女たちと合流するまで、倒したラージャンの前に寝転がり続けることに。
お疲れ様。
戦うのは当分遠慮したいけれど、それなりに面白かったよ。
―――――――――――
ラージャンを倒しての帰り道。馬車へ乗ると、猛烈な睡魔に襲われたせいで直ぐに寝てしまった。
彼女たち――特に笛の彼女は何かを聞きたそうな顔をしていたけれど、そこは何も言わずに俺を寝かせてくれた。
すみません、今日はちょっと疲れたんです。
色々と考えなければいけないことがあった。でも、その時ばかりは限界だったんです。
そして気がつくと、バルバレまでもう少しと言ったくらいの場所だった。
たぶん、夢は見ていない。それほど疲れてたってことなのかねぇ? でも、アレは流石に酷い気がする。たぶんギルドだって知らなかったんだろうけれど、なんなんだよあのゴリラ。本当に意味がわからない。
「あっ、起きた……お疲れ様」
「うん、お疲れ様」
目を開けて直ぐ、彼女が話しかけてくれた。
まさかゴリラ相手にあんなことになるとは……ホント、何が起こるのかわからないものだね。
「……アレって狂竜化なの?」
「普通に考えればそうなんだろうけど……何か違う気がする」
ワンコみたく狂竜化することで肉質が硬化する奴はいる。でも、ラージャンの後ろ脚は硬化とか言うレベルではなかった。カチ上げが弾かれるってどう言うことだよ。どんなに硬い肉質でも、弾かれ無効なら弾かれることはないはずなんだけどなぁ。
それにスタンエフェクトが出なかったってのもおかしい。見た目は狂竜化だけど、それとは別なんじゃないかって思う。
ホント、なんだったのやら……バルバレへ戻ったらとりあえずじいさんに聞いてみないと。
「……一人で倒しちゃったんだね」
「最後だけね。それに体力だって全然残ってなかったぞ? ちょっと叩いたら直ぐに倒れてくれた」
ちょっとじゃなかった気もするけれど、なんか恥ずかしいからそう言ってみた。
そして今回倒すことができたのは、運が良かったから。もしネコ飯でド根性が発動してなければ、あのデンプシーを喰らった時点で終わりだった。彼女たちと比べると、運の悪い方ではあるけれど、俺だって運は良い方なのかもしれない。
「動き、違った?」
「うん、飛鳥文化を3連続でやってきたよ」
あれには驚いた。
俺の知っている飛鳥文化なんてまず当たる攻撃ではないけれど、アレはヤバい。
「……まじですか?」
マジです。
「……私も戦いたかった」
「そりゃあ、申し訳ない。でも、まぁ、どうせまたいつか戦うんじゃないかな」
あんな奴がポコポコ現れても困るが、たまになら戦ってやるのも悪くはないかもしれない。
な~んてね。
はぁ、何を上から目線で言っているのやら。
その後、彼女と雑談を続けていると相棒も起床。三人で雑談をしながらもう乗り飽きるほど乗っている馬車に揺られ続けた。
そしてバルバレへ到着。
さてさて、今回は流石に説明の一つくらいはしてもらいたいところ。
しかし、集会所へ入って直ぐに、な~んか様子がおかしいことに気付いた。
早朝とかを抜かせば集会所はだいたい五月蝿い。そして今は五月蝿くなり始める時間である夕方。けれども、その日の集会所は妙に静かだった。
ん~……何があったんだろうか?
今の集会所がどんな状況なのかわからなかったけれど、とりあえずギルドマスターの元へ。
へい、じいさん。こりゃあ、何事だい?
「ふう……やあ、どうやら無事ラージャンを討伐できたようだね」
無事かどうかは怪しいけれど、討伐はできましたよ。ただ、ですね、そのラージャンのことで聞きたいことが……
なんて思い、此方から話しかけようとしたが、見事じいさんの言葉に遮られた。これは酷い。
「この集会所を設立してから幾星霜……まさか、こんな日が来ようとは。私は各地の御伽噺を調べるのが好きなんだけどね――」
そう言い、いつものような長いお話が始まった。
まぁ、つまりアレですよ。どうやらラスボスが現れたってことだと思う。たぶん。
「――とんでもないことがわかったんだ。調査団の報告によるとね、そこにいたのは、とてつもなく巨大な古龍であるダラ・アマデュラだった」
ああ、やっぱりそうですか。
しかし、ふむ、アイツが現れてくれたのは良いことだ。アイツの素材があれば全員の武器が一気に強くなる。一頭で素材が足りるのかはわからないけど。
「――そこでね。私たちはダラ・アマデュラ討伐に全力を尽くすことを決意した! ただ、それを任せることのハンターがいないんだよ……」
「じゃあ、俺たちが行くよ」
「そして決意したは良いものの、私たちもどのハンターになら任せることができるのか決めることができないんだ」
……なんで、じいさんったら俺を無視するんだろう。
そんなじいさんにため息を一つ落としてから彼女たちを見る。今回も無言で頷かれた。相棒の顔はちょっと引き攣っているように見えないでもなかったけど。
大丈夫、あのゴリラと比べればまだ可愛いから。
「なぁ、じいさん」
「うん? なんだい?」
今まで遠くを見ながら話をしていたギルドマスターが、漸く此方を向いてくれた。
「だからさ、そのダラ・アマデュラの討伐に俺たちが行くよ」
俺がそう言うと、ギルドマスターは酷く驚いたような顔した。
「ほ、本当に行ってくれるのかい?」
「うん、倒せるかはわからんけど、やるだけやってみるよ」
そう俺が答えると、いきなり手を握られた。
じいさんに手を握られてもちっとも嬉しくない。
「そうか……そうか。それなら我々は、御伽噺の如き存在に立ち向かうキミ達の成功を信じることにしよう! どうか……生きとし生けるもののため頼んだよ!」
何を大げさなと思わないでもなかったけれど、この世界におけるダラはそれほどの存在ってことなんだろう。
そう考えると、なんだろうか……急に不安になってきた。今日のラージャンみたいに俺たちの知らない行動をされるとかなりヤバい。
とは言え、もう行くと言ってしまったのだ。今更、後に引くことはできない。
う~ん、大丈夫かねぇ……
そんなどうにもネガティブな考えばかりが浮かび始めていると、ぽんぽんと誰かに肩を叩かれた。そして、後ろを振り向くと――
「……大丈夫。今度は私も頑張るから」
なんて声を彼女がかけてくれた。
「わ、私も頑張ります」
彼女に続いて相棒の言葉。
よくよく考えると、この相棒は出会うモンスター全てが始めて戦うモンスターなんだ。それでも、此処まで一緒にいてくれた。そんな相棒が頑張ると言っているんだ。あまり情けないことは言えない。
「……うん、了解」
もしかしたら、ダラだって俺の知らないことをするかもしれない。そうなった場合、クエストを失敗する可能性はかなり高い。
でも、まぁ……このパーティーでダメなら仕方無い。そう思うのですよ。
「さくっと倒してくるか」
「おおー!」
「おー」
ホント、良いパーティーに恵まれたと思う。
ゴリラのことを聞くタイミングはすっかり逃してしまったけれど、そんなものまた今度聞けば良い。
さてさて、そんじゃ、ひと狩り行きますか。
次話が本編最終話です
もう少しだけお付き合いいただけると幸せです