一人でも多くのハンマー使いが増えてくれれば私は幸せです
ダラがいる千剣山を目指してバルバレを出発。
場所が場所なせいもあってか今回は馬車ではなく、気球で行くことになった。まぁ、明らかに山の上って感じだったし、馬車じゃ流石に厳しいよね。
「ダラ・アマデュラかぁ……どんなモンスターなんだろうね。おじいさんの話だとすごく危険なモンスターなんだろうけど」
すごく不安そうな表情の相棒。
ギルドマスターがアレだけ危ないとか言っていたし、そう思ってしまうのも仕方無い。
「危険っちゃ危険だけど……なんとかなるよ」
「君は相変わらずだね……ダラ・アマデュラのことも知ってたの?」
そりゃあ、知ってます。100匹マラソンで一番苦労した相手なのだし。苦労したと言っても時間がかかるって意味です。
「まぁね」
以前は、まだ戦ったことのないモンスターのことを話すとこの相棒は不思議そうな顔をしたけれど、今ではそんな顔を見なくなった。
いつか自分のことを話して欲しい。なんて言われたものの、そのことを話すことはまだできていない。何かタイミングが掴めないんです。まぁ、これで無事ダラを倒すことができればきっと話すことだってできるはず。そう思うのです。
「そう言えばさ、モドリ玉を調合分まで持ってきたけど何に使うの?」
必要かどうかわからないけれど、念のためって感じ。
「保険かな。ダラの攻撃で何を吐き出してるのか知らんけど、すごいブレスをなぎ払う攻撃があるんだよ。緊急回避すれば簡単に避けられるけど、厳しそうならモドリ玉を使えば良いってこと」
あの攻撃は驚くよなぁ……ラスボスにふさわしい超豪快な攻撃だし。
「う~ん、よくわかんないけど、何かを吐き出しそうになったら、モドリ玉を使えば良いってこと?」
「まぁ、そんな感じ」
ただ、ベースキャンプから戻ってくるのはちょっと面倒なんです。そして、2連なぎ払いブレスのあと、噛み付き攻撃に派生する時があって、戻ってくるタイミングが悪いとベースキャンプから戻って来た瞬間、またベースキャンプへデスルーラさせられることがある。
アレは流石に笑った。笑い事ではないけど。
「……部位破壊はどうするの?」
彼女の声。
本当はアカム笛にしたかったみたいだけど、どうやら間に合わなかったらしい。そのため結局今回もパラハザードコールを担いでいる。てか、1回で素材足りたんだね……
「俺が後ろ脚と背刃をやるよ」
「……わかった。じゃあ私は下半身やる」
お願いします。
正直なところ、後ろ脚を破壊する必要があるかはわからないけれど、どうせなら全部位破壊を目指したい。
「私はどうすればいいの?」
「ん~……じゃあ、尻尾をお願い」
尾殻が欲しいです。全然出ないくせに何故かそれなりの量を要求される。
あー、でも彼女と一緒に行動していた方が安全な気もする。
「了解です!」
まぁ、この相棒なら大丈夫か。
粉塵だって調合分持ってきた。普通に考えれば失敗する要素はない。とは言え、前回のこともあるし……はてさて、どうなることやら。
――――――――――
「つ、着きましたぞ!」
千剣山ベースキャンプに到着。
バルバレから千剣山まではそれなりの距離がありそうなのに、2日もせず着くことができた。馬車と違ってガタゴトと揺れないし、なかなか快適な旅でした。
ベースキャンプスタートのおかげで、最初から支給品をもらうことができたため、支給品ボックスから対巨龍爆弾を4ついただく。あとは……まぁ、良いか。回復アイテムだってしっかり持ってきているし。
よし、準備完了。
「っしゃ! 行くかっ!」
「おおー!」
「おー」
そしていつも通りのかけ声。
このかけ声も今では儀式みたいな感じとなってしまった。この世界に来てから、かなりの月日が経ったけれど、相変わらず臆病な自分は声を出さないと動いてくれないのですよ。
「あっ、ちょい待って」
「?」
声を出して直ぐ、ダラの待つエリアへ向かおうとする彼女たちを呼び止めた。
「俺から行かせてもらっても良いですか?」
「……何かあるの?」
彼女のセリフ。
いや、何かあるって言うかですね……その、ダラのいるエリアへ行くには登らないといけないわけでして、女性陣が先へ行くと上を向いたとき、ほら見えちゃうじゃないですか。
見たいって気持ちもあるけれど、それ以上に小心者なんです。
「ん~……じゃあ、お先にどうぞ」
こてりと首を傾げながら相棒が言った。
さっきのセリフを少しだけ後悔した。
そして、ベースキャンプからダラの待つエリアへ。
「なに、アレ」
俺に続いてエリアへ入った相棒がまずそんなことを呟いた。
その視線の先には大きな山へ巻き付くようにいた古龍。
「……うわ、でか」
そして彼女の言葉。
うん、予想以上に大きいね。大きいと言うより、長いって感じだけど。
そして俺たちに気付いたダラ・アマデュラが大きな咆哮をあげた。クエストスタート。
「へい、相棒!」
「な、なんですかな?」
「とりあえず、尻尾にジャンプ攻撃お願い」
最初に巻きついている状態はあまり長くない。だからその前に1度ダウンを取りたいのですよ。最初はジャンプ攻撃一発で怯んでくれるはず。
「了解です!」
ジャンプ攻撃は相棒に任せ、ダウンした時頭が落ちてくる場所へダッシュ。
そして、段差を一つ乗り越えたところで、ダラの悲鳴のような声が聞こえた。
「ぐぅれいと」
ぽそりと聞こえた彼女の声。
うん、ナイスです。
相棒のジャンプ攻撃でダウンしたダラ。そして落ちて来た頭へひたすら縦1始動でホームランを叩き込む。肉質65越えのソレへホームランを叩き込むとヒットストップがすごい。
3回目のホームランを叩き込み、彼女の後方攻撃も当たったところで、ダラの頭についていた角のような物が壊れた。
とりあえずこれで1段階。乗るかはわからないけれど、一応、頭に乗ることができるようになりました。
「下半身頼んだ」
「……任せて」
大ダウンも終わり、顔を上げたダラの咆哮。それをなんとなくフレーム回避。やる意味はほとんどないです。
咆哮も終わり移動を始めたダラ。砥石をしてから背刃を攻撃できる場所へ段差一つ飛び降りて移動。
「おお? し、尻尾がどこかへ行ってしまいましたぞ」
尻尾が見つからず、わたわたしている相棒。
あとなんだ、その口調。
「あー、尻尾を攻撃するのは山に巻き付いている時だけで良いよ。後は彼女と一緒の場所をお願い」
「あっ、はい。了解です」
相棒に指示をしてから、もう攻撃してくださいとしか思えない位置に来た背刃へホームランを一発。ちゃんと壊すことができれば良いけど。
ホームランを叩き込むと、止まっていたダラがまた移動。急いで南端の場所へ行き、後ろ脚が来るのを待つ。此処で後ろ脚を破壊できないと、もうチャンスはない。
そして、現れた後ろ脚へまた縦1始動でホームランを叩き込む。肉質は驚きの80。其処へ叩き込み放題と言うのは美味しい。
そんな部位へ3回ほどホームランを叩き込んだところで、後ろ脚にヒビのようなものが入り、ダラの悲鳴が聞こえた。おっし、破壊完了です。
後ろ脚を壊せたことで大ダウンしたダラ。そして降りて来た頭へ3人でひたすらに攻撃。ふむ……この調子ならクリアできそうだ。
大ダウンから復帰後、直ぐに咆哮。
「へい、相棒。ちょっとこっちに来なさい」
「どしたの?」
咆哮を上げたダラを直ぐにその姿を何処かへ隠した。
うむうむ、今のところ新モーションもないし、行動パターンも予定通り。
相棒が俺の方へ近づいてきたところで、また急にダラの姿が現れその大口を開けて突進してきた。そんな突進が俺たちのギリギリ横を通過。
噛み付き攻撃の安置は、ベースキャンプから登ってきた時に見えるロープのある場所。そして此処からだと、噛み付き攻撃後のダラの頭へ直ぐに攻撃ができる。
「……し、死ぬかと思った」
そりゃあ申し訳ない。言っておけば良かったね。
噛み付き後、ダラはまた移動し山へ巻き付いた。
そんじゃ、対巨龍爆弾の設置と背刃を壊させてもらうとしよう。
ダレンなんかもそうだけど、超大型種モンスターはパターンさえ覚えてしまえばそんなに苦労することはない。
「尻尾、切れたよー!」
「ナイス!」
そんなだから、クエスト中だと言うのにふわふわとした雰囲気となってしまう。
ダラは弱いモンスターではないと言うのに。
「またなぎ払いブレス来るぞ!」
「あっ、調合……失敗、ですと……?」
「……緊急回避で大丈夫」
どうにも締まらない空気。
でも、まぁ、それで良いのかなって思う。この世界はゲームではないけれど、それくらいが調度良いって思うのですよ。
「あ、危なかった……」
「……ナイス回避」
緊迫した中でやる狩りも悪くはないけれど、それとはまた違った楽しさがある。
それがこの世界じゃずれた考えだってのもわかるけれど……別に楽しみながら狩りをしたって良いじゃあないか。
せっかくこの世界へ来たんだ。それなら全力で楽しみたいのですよ。
「んもう、君は何笑ってるのさ! クエスト中だよ?」
そして、それはこのパーティーだったからこそなのかなって思う。
ホント、良いメンバーに恵まれました。
「いや……楽しいなって思ってさ」
そう考えると、ラスボスとの戦闘中にも関わらずクスクスと何かが溢れた。
そんな俺の言葉を聞き、相棒はため息を一つ。
きっと呆れられたのだろう。でも、この感情は偽りなんかではないだろうし仕方無い。
「うん、そうだね……私も楽しいや」
そして、はにかみながら相棒はそんな言葉を落した。
でも、そんな相棒の姿が一瞬ブレたように見えた。
あれ? なんだ? 気のせい……なのか?
「よしっ、サクッと倒して帰ったら打ち上げやろ!」
「あ、ああ、そうだな」
気のせい……だよな?
全ての部位破壊も終わり、いよいよ終盤と言ったところ。
そしてそれはダラと戦う時、一番難しい場面。空から馬鹿みたいに降ってくるメテオがヤバいんです。
とは言え、メテオの威力は其処までなく、此方は生命の粉塵がまだ大量に残っている。
まぁ、つまりアレですよ。
この状況で負ける要素がない。
相棒がダラの頭へジャンプ攻撃をするのが見えた。
その攻撃が当たり、ダラの悲鳴。
「……ナイス」
そんな彼女の声が聞こえた。
大ダウンしたダラの頭へ3人で総攻撃。
縦1。
縦2。
そして、ホームラン。
そんな攻撃が当たった瞬間だった。今までとは違うダラの悲鳴が聞こえ、その巨体がゆっくりと倒れた。
「お、終わったのですか?」
「そうらしいね。……うん、お疲れ様」
ふむ、粉塵をがぶ飲みしたおかげか、此方は0乙。充分過ぎる結果だろう。
さてさて、早く剥ぎ取りを済まさねば。
そう思った時だった。
「……えっ、ちょ、ちょっと君、どうしたの?」
相棒の声。
なんだろうかとそちらを見る。
でも、身体が上手く動いてくれず、振り向くことができない。
なんだ、これは。
「……もう時間っぽい」
彼女の声。
動いてくれそうにない身体を無理矢理にでも動かす。
そして、どうにか彼女たちの方を振り向くと、そこには崩壊が始まった世界と、今にも泣きそうな顔の相棒の姿。
「う~ん……もうちょっといたかった。ごめん。ありがと。私は先にいってます。またね」
最初に崩壊したのは彼女だった。
ああ……ああ、そう言うことですか……
確かにタイミングは悪くない。だってアイツはラスボスなのだから。でもなぁ……これはちょっといきなりすぎる。
「やっぱり君は、消えちゃうんだね……」
何かを喋ろうと思った。
でも、俺の口から言葉は何も出てこない。
「そうなるってわかってた。だって、君達は私と違ったから……」
いつか見た景色と被る。
でも、それをいつ見たのかを思い出すことはできない。
「君達と会えて、私は幸せでした。……ありがとう」
そんな言葉を落とした相棒は泣きながらも笑ってくれた。
そうだと言うのに、やはり俺の口から言葉は出てこない。
ああ、もう! 最後くらい頑張ってくれよ! このまま別れたら絶対後悔する。一言で良い。一言だけでも良いからさ!
少しくらい根性見せろや!
「さようなら。私の大好きな人」
相棒の声。
「また来る! それまで頑張れ!」
漸く出てきてくれた俺の声。
そんな言葉が溢れた瞬間――世界が崩壊した。
――――――――――
エラーが発生しました。
マルチプレイを終了してオフラインに戻ります。
Aボタンを押してください。
――――――――――
はたと、気がつくとどうにも見覚えのある景色だった。
手にはどれほどの時間持っているのかわからないほど、持ち続けた3DSがあった。
そしてその画面にはエラーが発生したことを伝えるメッセージ。
えと……帰ってきたってことなのか?
混乱する頭。
い、いや、じゃあ今っていつなんだ? 向こうの世界には3ヶ月以上もいた。もし此方の世界もそれだけの時間が過ぎていたとなると……
ヤ、ヤバくないっすか?
慌てて、机の上に放り出されていたスマホで日付を確認。
「あら?」
確認できた日付は、俺があの世界へ行った日から一日も経っていなかった。それを見て、ますます混乱。
だって本当に意味がわからなかったから。
とは言うものの、アレが夢だったかどうか確認する方法は……あっ、そうか。もしかしてギルカ見れば良いのか?
Aボタンを押し、エラーメッセージを消す。画面の向こうのキャラは、ちっとも五月蝿くなんてなさそうな集会所に立っていた。
やや震える手で、ゲームを操作しギルドカードを確認。
そしてギルドカードの中でも、過去10クエストまでの記録を見ることのできるページへ。
そこには、あの彼女たちと一緒にクエストをやってきたことがしっかりと書かれてあった。
それを確認できたところで、安堵のため息を一つ。何に安心したのかは自分でもよくわからない。たぶん、データとしてでも残っていたのが嬉しかったんだと思う。
「いや……少し疲れたな」
ちょっと色々とありすぎたんです。
未だに心臓はバクバクだし、頭だって混乱している。
俺と同じよう、この世界へ戻ってきたであろう笛の彼女は気になる。気になるけれど……今はちょっとだけ休ませてもらおうかな。
そんなことを考えてから、手に持っていた3DSをパタリと閉じた。
読了お疲れ様でした
随分と長い作品となってしまいましたがこれで本編は完結となります
疲れました
とても疲れました
とは言え、な~んか締まらないので後日談的なものは書こうかなと
伏線はちゃんと回収しないと怒られますし
しかし、本編は此処で終わりとさせていただきます
この作品を読んでくださった全ての読者の皆さんに感謝を
ありがとうございました
では、またお会いできる日を楽しみにしています