前回の続きです
そして時系列的にはこのお話が最後となります
この世界へ戻って来て久しぶりに相棒と再会することができた。
正直なところ、本当に再会できるかなんてわからなかったし、一言で言ってしまえば運が良かったってことなんだと思う。
でも、まぁ、この世界へまた来た理由は相棒ともう一度会うこと。それは笛の彼女だって同じだろう。それを達成することができたのだから其処に文句は何もない。
この世界に戻って来て直ぐ……まぁ、彼女と一緒に戻ってきたわけだけど、とりあえず相棒を探した。そして集会所へ行くと、いつか見た弓使いの少女とともに相棒の姿が。しかも、ウカム討伐に向けて出発する前と言う、なんともギリギリなタイミング。
神様だかなんだか知らんが随分と粋なことをしてくれたものだ。
たぶん、色々と話さなきゃいけないことがあったんだと思う。けれども、再会の挨拶を交わして直ぐ、俺たちはウカムルバスの討伐に向けて出発した。
ウカムのいる極圏へ向けて馬車に乗っている間は大変でした。急に消えることになってしまった俺たちが悪いのだけど、わんわんと泣き続ける相棒さんの愚痴をひたすら聞き続けた。
どうやら俺たちの消えていた時間は1年ほどだったらしく、その間、相棒はかなり大変だったらしい。まぁ、ずっとパーティーでやっていたのにいきなりソロになったらそりゃあ大変か。
そんななんとも微妙な雰囲気のまま極園に到着。
そしてその時になって漸く、不味いことに気付いた。
いきなりウカムとかヤバくないっすか?
ゲームの中では何度もウカムと戦った。ウカウカウ装備を作るのに必要だったし。けれども、此方の世界でウカムと戦うのは初めて。加えて1年以上のブランク持ち。それでいて失敗できるようなクエストではない。
うん……チキンプレイでも良いから乙らないようにいこう。
そんな不安だらけのままクエストスタート。
せめて1スタンくらいは取ろうだなんて、随分と消極的な考えだったわけだけど――
相棒さんがすごく素敵でした。
元々上手いのはわかっていたけれど、乗ってくれるし脚怯みでダウンは取るし、攻撃は全く喰らわないしと、もうこの人で一人で良いんじゃないかって言う活躍っぷり。
4人パーティーで、しかもスタンを取りにくいことに定評のあるウカム相手から2スタンまでは直ぐに取ることができた。暫く見ない間に滅茶苦茶成長したらしい。
こりゃあ、ますます俺の立場が弱くなりますね。
結果、弓使いの少女がブレスで蒸発した1乙のみで、15分針にならないくらいで討伐完了。まぁ、あのブレスはしゃーない。当たり判定と攻撃値がおかしいんだ。
俺は俺でかなり慎重にプレイしたし、彼女は元々安全に戦う性格と言うこともあり、なんとか面目を保つことはできたのかなって思う。
「終わったー!」
動かなくなったウカムを見て、元気な相棒の声が響いた。
なんだか、それが懐かしくてクスリと何かが溢れた。
お疲れ様でした。
ウカムも倒すことができ、これで俺もG級のクエストへ挑む権利を得ることができた。漸くスタートラインへ立つことができたと言ったところ。
はてさて、これからどう進めて行こうかね?
―――――――――――
ウカムも倒すことができると例のごとく、相棒が打ち上げをやろうと言い出したけれど、バルバレへ戻って直ぐギルドマスターの所へ行くことに。
そして此処で問題が発生。
ギルド側もまさか俺と彼女が戻ってくるとは思っていなかったらしく、大老殿へ立ち入る許可が下りなかった。と言うか、俺たちのことをどうするか悩んでいるんだとさ。
実績的には充分だけど、こんなことに前例はないから、もう少し待ってくれ。なんて言われた。
むぅ、早くG級のクエストを受けたかったのだけど……まぁ、しゃーないか。
そのことを相棒に謝ると
「私は二人が戻って来てくれただけで充分だし気にしないよ? それよりも打ち上げやろうよ。打ち上げ!」
だなんて、笑って許してくれた。
1年以上もの時間を経て、変わったところもあるけれど、変わらないことだってあるらしい。
そして、何時ものよう……と言うか、あの頃と同じよう皆で打ち上げ。
弓使いの少女もパーティーに加わり随分と賑やかなパーティーになりました。てか、野郎は俺だけなんだよね……ハーレムとも言えるわけだけど、それも楽しむことができるほど俺のメンタルは強くない。
いや、贅沢な悩みだってことはわかっていますよ?
そんな何とも姦しい(流石に失礼か?)雰囲気の中、タンジアビールを流し込んでいる時にまた問題が発生。それもかなり大きい奴が。
根本的な原因は俺たちにあるけれど、それを掘り起こしたのは相棒さんです。
笛の彼女とこれからどう進めて行くか、こっそり話をしていると、相棒さんが俺たちをじーっと見つめていることに気付いた。
それも所謂、ジト目って奴で。
「え、えと……どうしましたか?」
見られ続けているのはどうにも落ち着かなかったので、そう相棒へ尋ねた。
「なんかさ……君と笛ちゃんの距離、近くないですか?」
……さて、これは困りましたぞ。
いや、いつかは言わなきゃダメだってわかってはいたけれど、今じゃないと言うか、なんと言うか……そんな言い訳。
「……彼は私がもらった」
そして相棒の質問へ彼女がそう答えると、空気が凍りついた。ホットドリンクをください。
言ってきたのは彼女からなのだし、間違っちゃいない。間違っちゃいないけれど、その言い方はどうなんだろうか……
別に悪いことをしたとは思っていないけれど、謎の罪悪感がヤバい。
「………………えっ?」
そんな相棒さんのセリフ。
いや、まぁ、うん。そう言うことです。元の世界へ帰ってから色々あったんです。
さて、この空気はどうすっかね。
お願いします。誰か助けてください。
そんなどう仕様も無い空気の中、口を開いたのは弓の少女だった。
「ふむ、よくわかりませんがわかりました。とりあえず貴方は帰ってください。ちょっと私たちだけで話合うので」
そして鬼みたいなことを言われた。これは酷い。
しかし、流石に此処は引き下がれない。だなんて自分の中のプライドに火がついた。
「あっ、はい。わかりました」
まぁ、だからと言って、俺に断ることなんてできるはずがないのです。立場弱いんです。プライドなぞとっくの昔、2000zで売り飛ばしたし。
――――――――――
彼女たちに追い出され、トボトボと集会所を後に。もうちょっとお酒を飲みたかったけれど、まぁ、これは仕方無い。
あの少女のセリフだってどうかとは思うけれど、あの空気を抜け出すことができ、ホッとしている自分もいたりします。何度でも言おう、小心者なんです。
ほろ酔い状態でもなかったら、何処か一人で飲み直そうかと思いながら歩いていると、俺がお世話になっていた加工屋と出会った。
「えっ……も、もしかして本物か?」
そしてそんなセリフ。
滅茶苦茶驚いたような顔がちょっと面白い。
てか、本物も偽物もないだろうに。
「ああ、そうだよ。最近になって漸く帰ってきたところ。久しぶり、元気してた?」
俺がそう答えると、いきなり抱きしめられた。
マジ暑苦しいです。心の底からやめてください。
「おい、放せこら。暑苦しいわ! 残ってる髪の毛、毟り取るぞ」
「うるせーバカヤロー! 毟り取るだけの毛だって残ってねぇわ!」
勝手に人へ抱き着いておいて泣き出す加工屋。
大の大人がわんわんと情けないって思ったし、やめてもらいたいって思った。
けれども……まぁ、アレですよ。こうやって戻って来たことを喜んでくれる人がいるってのは良いことだなんて、小っ恥ずかしいことを思うのです。
そして数分ほど泣き続け、漸く放してくれたと思ったら
「よしっ、飲み行くぞ! お前さんのおごりで」
今度はそんな身勝手なことを言い始めた。
そのことに文句の一つでも言ってやろうと思わないでもなかったけれど、まぁ……たまにはね。
以前、俺が飲みに行こうと誘った時は、カーチャンが怖いからと断られたが、今日は良いのだろうか?
そのことが不安ではあったけれど、まぁ、この加工屋が裏で怒られようと知ったことじゃないから、気にせず飲むことに。
お酒が入ると、人の口ってのは良く回るようになる。途端に説教くさくなる人っているよね。そんなこともあり、俺は加工屋から怒られ続けた。しかも泣きながら。その内容はどれだけ相棒が一人で頑張っていたかと言うこと。
それに対して俺はもう謝ることしかできないし、仕方無いことではあったけれど、反省だってしている。
はぁ、俺はあと何人からこうやって怒られるんかねぇ?
ただ不思議と、怒られることが悪いと感じはしなかった。
最初は二人で始めた飲み会。けれども、いつの間にか知っている人も知らない人も、ハンターも雑貨屋も加工屋も関係なく、ぞろぞろと集まって来て大宴会となってしまった。
しかも全部、俺のおごりだそうです。笑うに笑えない。
泣き疲れたのか、説教に疲れたのか知らんけれど、あの加工屋も寝てしまったところで俺は逃げ出すことに。とは言え、一応3万zほどは払っておいた。それで足りるのかは知らん。
G級になったら装備を一新するから無駄な出費を抑えたいところではあったけれど、こればっかりは仕方無いのです。
昼間の早い時間から飲み始めたと言うのに、西の空はもう赤くなり始めている。
これからの予定とかを彼女たちから聞きたいところではあったけれど、ほろ酔い気分の今は何もする気にならない。
家に帰って寝るとしよう。
あれ? そう言えば、俺の家ってまだ残っているのか?
そのことを不安に思いながらも自分の家へ。
けれども有り難いことに家はちゃんと残っていてくれた。とは言え、もしかしたら知らない人が住んでいるかもしれない。
そして、やや緊張しながらも自分の家の扉をコンコンコンと3回ノック。
「あっ、はい。開いてるよー」
聞き覚えのある声が聞こえた。
相棒の声だった。
ん~……どう言うことですか?
「えと、此処って俺の家で良いのか?」
ゆっくりと扉を開けて直ぐ、相棒に尋ねた。
「うん。そうだよ」
どうやら俺の家らしい。
いや、じゃあどうして君がいるんだよ。あと、その手に持っている酒瓶と思われる物はなんですか? もう色々とおかしい。
何が何だかわからなかったけれど、どうやらただ一緒にお酒を飲みに来ただけらしい。そう笑いながら言われた。
因みに、俺を追い出した打ち上げは彼女が寝てしまったところで終了したんだってさ。彼女はお酒があまり強くないのに、飲んじゃったんだろうなぁ……
そんな彼女を家まで送り届け、暇になった相棒はお酒を片手に俺の家へ。まだ飲むんですか?
そして何を話せば良いのか全くわからない。
「ん~……最初に言っておくと、君のことだし私に気を遣っちゃってると思うけど、私はあんまり気にしてないよ? いつかこうなるんだろうなぁって思ってたし」
最初に相棒がそんな言葉を落とした。
その本心はわからないけれど、そう言ってもらえると助かります。
「そう……なのか?」
「うん」
そうだったのか……いや、俺だって嫌われてはいないと思っていたけどさ。まさか、ねぇ? あの時はいきなり過ぎて滅茶苦茶驚きました。
「たぶん、私がいたから遠慮してたんだと思う。笛ちゃんも笛ちゃんで変に気を遣うし。だから私はあまり気にしていません。むしろ応援するもん」
あの明るい性格のせいか、この相棒は一見抜けているように見える。
けれども一番大人なのは、きっとこの相棒なんだろうな。一年振りに会ったと言うこともあるけれど、その姿は随分と大人びて見えた。
それからはいつもしているような雑談の時間。
その時間に生産性は何もないけれど、悪い時間じゃあない。
「そう言えば、私のHRはもうちょっとで100なんだよ! ふふっ、君の4倍以上だね」
「うるせー。直ぐに追いついてやるわ」
ぺしりとデコピンを一発。
そうすると一瞬不満そうな顔をして、また直ぐに笑った。
そんな仕様も無いことだけでも、戻って来て良かったって思う。
んで、これからの予定を聞いたところ、とりあえずギルドから何かしらの答えが出るまでは待機ってことになったらしい。
ふむ、それじゃあ俺は闘技大会へでも出ていようかな。勘を取り戻すのにはちょうど良いし。
「あっ、そうだ。すっかり忘れていたけど、これ返すよ」
「うん? なんで2000z?」
今では随分と昔になってしまったけれど、この世界へ来て初めて防具を作るときに借りたお金。懐かしいねぇ。
「おおー、そう言えばそんなこともあったね。ふふっ、懐かしいなぁ」
そう言ってクスクスと笑う相棒。
けれども、そのお金を受け取ってはくれなかった。どうしてか尋ねると――
「だって、これを受け取らなければ、もしまた君たちが消えちゃっても帰って来てくれそうじゃん。だから私は受け取らないでおくんだ」
なんて、静かに笑いながら答えてくれた。
また消えてしまうのかはわからない。でもそんな相棒の言葉は妙に納得することができた。実際のところはどうなのかわからないけれど、こう言うのは悪くない。
夕方から始めた二人だけの飲み会。それは東の空が明るくなり始めるくらいまで続いた。
そして、珍しいことにその日は最後まで相棒が酔い潰れることはなかった。
――――――――――
流石に飲み過ぎたせいか、次の日は案の定二日酔い。
そんな状態で闘技大会へ出場できるはずがなかったけれど、とりあえず闘技大会の内容を聞くだけでもと思い、集会所へ。あの受付嬢とも久しぶりに会いたいしさ。
「あれー? 久しぶりー、本当に戻って来てたんだねー」
そして集会所へ入り、闘技大会の受付嬢の元へ行くと直ぐにそんな言葉をかけられた。
「よ、久しぶり」
「まったく、どこへ行っていたのさー? 皆心配していたんだよー」
「あー……ちょっと旅へ出てたんだ」
こればっかりは本当に悪かったと思っている。とは言え、いきなりの出来事だったし仕方なかったんです。
「…………本当に心配したんだよ?」
いつもの間延びしたような声ではなく、顔を落とし急にしゅんとしてしまった受付嬢。
その目は潤んでいるように見えなくもなかった。
「あっ、いや……その、す、すみません」
やばい、やばい。まさかこんなことになるとは思わなかった。
そしてそんな俺たちの様子を、クスクスと笑いながら見ている下位クエストの受付嬢が鬱陶しい。仕事しなさいよ。
「ふふっ、別に謝らなくてもいいのに。変なのー。そしてねー、いつかキミが帰って来てくれると思って、私一生懸命考えて、新しいクエストを増やしたんだー」
一度、両目を袖で拭い、顔を上げてから受付嬢はそう言った。
「題して、“イビルジョー討伐”。キミならできると思うんだけど、ぜひ、やってくんないかなー」
おおぅ、ジョーかぁ……
ハンマーでソロSを狙うことのできる数少ないクエストだけど、随分とえぐいのが来ましたね。
とは言え、まぁ、断ることなんてできないか。
「……了解。今日はちょっと厳しいけれど、挑戦させてもらうよ」
そして俺がそう答えると――
「……え? ほんと? やってくれるのー? やっぱキミってさいこー……うん、カッコイイ」
受付嬢はそう言ってはにかむように笑った。
そんな彼女の様子には思わず見惚れてしまった。
「……何をしているのかと思ったら、もう浮気ですか? 笛さんに報告してきます」
弓の少女の声が聞こえた。
そんな状況はかなりヤバい。
「ちょっ、違っ……待て! 待ってください。それだけはお願いだからやめて!」
そんなことを報告されたら何をされるかわからない。
怒らせると、あの彼女本当に怖いんだよ。
結局、高級お食事券3枚で和解しました。
全く……油断も隙もあったもんじゃない。
そんなことがあった日から5日後。漸く、ギルドから俺たちが大老殿へ立ち入る許可が下りた。後で聞いたことだけど、あのギルドマスターが色々と頑張ってくれたらしい。今度、お礼を言いに行かないとだ。
因みに、ジョーの闘技大会だけど、ソロSは流石に無理でした。0乙ではあったものの、タイムは12分台とすごく微妙な結果。
ただ、まぁ、闘技大会の受付嬢は喜んでいたし、良かったのかもしれない。
そして、終に大老殿へ向かう日が来た。有り難いことに俺たちの住む場所も用意されているんだとさ。
それはつまり、このバルバレへ戻って来るってことはほとんどなくなると言うこと。そのことに寂しさを感じはするけれど、それ以上にG級のモンスターと戦うのが楽しみだ。
「ぼーっとしてどうしたの? もう出発の時間だよ」
相棒の声。
失礼。考え事をしていたんです。
「……G級楽しみ」
「私は不安なんですが……」
続いて、彼女と少女の声。
そりゃあ、不安だってある。けれども、まぁ、強いモンスターと戦うってのはやっぱり楽しみなんです。
相変わらず臆病者な自分だから、いつものように声を出す。
気合を入れ、自分を前へ進ませるために。
「っしゃ! 行くか!」
そう言って、漸く立つことのできたスタートラインから、一歩前へ踏み出した。
ダラを倒したあとに聞くことのできる闘技大会の受付嬢さんのセリフに感動したのは私だけじゃないと信じています
正直なところ、此処で終わらせても良いのですが、一応もう1話だけ考えております
内容は笛の彼女と主人公があの世界へ戻るまでのお話です
でもそのお話に相棒さんたちが登場することはないので、実質このお話が最終回的な立ち位置となります
しかも、恋愛系のお話と私のド苦手なお話ですので、全く持って気が進みません
それでも、書くだけ書いてみますので、お暇な方はあと1話だけお付き合いいただけると嬉しいです
では、またお会いしましょう