振り向きへホームラン【完結】   作:puc119

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第7話~とりあえずはビール~

 

 

「そんじゃ、反省会始めるぞ」

「よ、よろしくお願いします……」

 

 クエストを終えての帰り道。ガタゴトと揺れる馬車の上、彼女に声をかけた。

 一ヶ月以上前にも、この道を俺は通った。あの時は情けなさやら悔しさでいっぱいだったが、あの時よりもう少しだけ上を向くことができていると思う。

 

「まずだな。乙るのは仕方ない。それも初めての狩猟クエストなんだ。ぶっちゃけ成功できただけで充分」

 

 失敗することだって十分に考えることができた。彼女の実力はわからなかったし、俺だってクック以外の大型種と戦ったことがなかったのだから。

 しかもお互いに初期武器、初期防具。アルセルタスが予想以上に弱くて本当に助かった。

 

「そう言う技術的なことは言って直ぐに直るものじゃないから、これからゆっくりでも良いから覚えていけば良い」

 

 明らかにモンスターからタゲを取られているのに、無闇に突っ込んでいくな。とか、SAのない俺へ後ろから斬りかかって来るの本当にやめてください。とか、乗りを失敗するなら乗り攻撃するな。とか言いたいことは沢山ある。

 けれども、それよりも重要なことがあった。

 

「エキスってわかる?」

「それくらいならわかるよ。虫がモンスターから取ってきてくれる奴でしょ? 緑色だと回復するから助かってる」

 

 ……態々緑エキスを取る必要ってあるのだろうか。納刀して薬飲んだ方が早そうだけど。

 そしてどうやら、彼女の言葉を聞くにエキスのことはよくわかっていないらしい。そう言えばゲーム中でもエキスの説明って詳しくはされなかったよなぁ。

 

「そのエキスなんだが、エキスには4種類あるんだ。赤、白、橙、緑の4種類。んで、難しいことは考えず、とにかく赤白橙の3色を取りなさい。モンスターによっては橙が取りにくい奴もいるから、その時は赤白だけで良いからさ」

 

 操虫棍は強い。調整を間違えてるんじゃないかって言うくらいの強武器だ。全ての攻撃にSAがついているし、抜刀状態の移動速度も速い。耳栓スキルだって勝手についてくる。そして何より火力がおかしい。ぶっ飛んでる。

 けれども、それはエキスを3色取った状態での話。エキス無しの操虫棍ははっきり言って弱い。エキスなしの操虫棍ならハンマーの方が強いくらいだ。

 

「ん~……それを取るとどうなるの?」

 

 攻撃モーションの追加、攻撃力1.25倍、防御力1.08倍、スキル金剛体発動、全攻撃モーションにSA付加、MPFはハンマーの約2倍となります。

 どう見ても調整ミスです。本当にありがとうございました。

 一刻も早い修正が望まれる。

 

 それと比べハンマーはどうだ? 肝心の縦2からホームランをする時にはSAがなく、スタンを取るために必須なカチ上げには、仲間の吹き飛ばしが付与。ダメージを出すために使うスタンプとホームランにも吹き飛ばしがついてくる。

 モンスターの動きを考え、仲間の位置を見つつ漸く攻撃ができる。それでいてなんとかぶち込むハンマー最大火力技のホームランは、操虫棍のXXAループ1回にも勝てない。どうなってんだよ。

 

 まぁ、だからこそハンマーは面白いのだが。

 

「3色取るとだな、こう……身体が光って強くなる」

「意味わかんない」

 

 いやだって、他に説明の仕様が無いんだもん。

 

「まぁ、とりあえず騙されたと思ってエキスを取ってみてくれ。やってみればわかる。全然違うから」

「う~ん、そんなに言うならやってみるけど……でも君って操虫棍使ったことあるの?」

 

 1000回は使いました。

 ゲームの中の話だけど。あっ、とは言っても俺のメイン武器はハンマーだからな。浮気とかじゃないぞ。ゴリラを狩るのに少し使っただけです。

 

「あ~……いや、使ったことないんだけどさ。ほら、興味があったからそう言うことは詳しいんだよ」

「元気ドリンコの味も知らないくせに?」

 

 それは関係ないでしょうが。

 仕方無いでしょ、この世界へ来てまだ一ヶ月しか経っていないのだから。

 

「ま、色々とあったんだよ」

 

 俺がそう曖昧に返すと、彼女はふ~んと怪訝そうな顔を此方に向けた。

 気がついたらゲームの世界にいただなんて言えるがわけない。それにしても、俺はどうやったら元の世界へ帰ることができるんかねぇ……

 

 

 

 

 その後も、ガタゴトと揺れる馬車の上での反省会は続いた。反省会と言っても、ほとんど雑談をしていただけな気もする。

 動きや立ち回りを口で説明するのは難しいし、言葉だけじゃ聞いている側も理解し難い。結局のところ、上手くなるには実際に動いてみるのが一番なのだ。

 

 そんな雑談をしながらの帰り道で気付いたことが一つ。1ヶ月前のあの日はこの道が随分と長く感じたけれど、こうやって話をしながらの帰り道はやたらと短く感じた。

 

 

「着いたー!」

 

 元気な彼女に続き、俺も馬車から降りて体を伸ばす。むぅ、意外と疲れているな。

 しかし、うむうむ。クエストをちゃんと成功して帰ってくることができたのだし、今はなかなかに気分が良い。

 

 此処まで運んでくれたアイルーにお礼を言ってから集会所の中へ。報酬金と報酬素材をいただかなければ。

 

「お疲れ様です。此方が報酬金と報酬素材になります」

 

 受付カウンターへ行くとそんな声をかけられてから、クエストの報酬を受け取った。素材は予想以上に多く、しっかりと確認はしていないけれど、たぶんアクセルハンマーを作るだけの量はありそうだった。

 まぁ、ブーステッドハンマーを作るのにまた素材がいるんだけどさ。それに蛙の素材も必要だったよなぁ……

 報酬金は2乙してしまったせいで、一人あたり350z。つまり料理一回分と少し。

 ……こりゃあ、本格的に金策を練る必要がありそうだ。

 

「わぁー。素材がこんなにいっぱい……ふふっ、何作ろうかなぁ」

 

 嬉しそうな彼女の声。うん、良かったね。

 とりあえず君は防具を作った方が良いと思うよ。操虫棍なら初期のままでもそこそこ強いし。全く、妬ましい限りだ。

 

 所持金は約6000z。まだまだ余裕はあるけれど、これから2回武器を強化して、さらに防具も作って……ま、まぁ、足りなくなったらクエストへ行けば良いか。

 

 とにかく今は――

 

「そんじゃ、ま。打ち上げでもするか」

「うんっ!」

 

 キンキンに冷えたエールビールを浴びるように飲みたい気分だ。

 

 

「これからどうしよっかなぁ……」

 

 集会所で適当に空いている席へ座り、炙りポポノタンとタンジアビールを注文。運ばれてきたタンジアビールを煽っていると彼女が呟いた。

 ああ、ビールが身体にしみていく……

 

 一方彼女は、ホピ酒とピンクキャビアを注文したらしい。

 

「俺はこれから防具を作っていく予定だけど、君も一緒に作れば良いんじゃないか? まぁ、ジャギィ一式で良いならだけどさ」

 

 ポポノタンは、適度な弾力があり噛めば噛むほど味が口の中へ広がった。少し濃いくらいの塩味が上手い。こりゃあお酒が止まらなくなりますね。

 

「へ!? え、えっ? 私、また一緒に行っても良いの?」

 

 驚いたような彼女の顔。

 そんなに驚くようなことじゃないと思うんだけど……アレ? 最初に声をかけてきた時からそう言うことだと思っていたけど、違ったのかな?

 

「そりゃあ別に構わないよ」

「でも私、足手まといじゃない?」

 

 正直に言ってしまえば、その通りです。けれども、最初なんて皆そんなもんだろう。それにずっとソロで戦い続けるのが利口なことだとは思わない。グラビやダレンとかソロじゃやりたくない。

 そして何より、操虫棍を使い続けてくれるのなら、いつか絶対に大きな戦力となる。

 

「んなもん、練習すれば良いさ。ああ、でも嫌なら別に……」

「行く! 行かせていただきます! これからも、よろしくお願いしますっ!」

 

 あっ、はい……

 うん、此方こそよろしくお願いします。

 

 ビールの入ったグラスを彼女に向ける。そして、彼女の持ったコップにコツンと当てた。一人で飲むお酒も嫌いじゃないが、やっぱり皆で飲んだ方が美味しいと俺は思うんだ。

 

 

 

 そして一杯目のビールを飲み終わり、二杯目を注文しようとした時だった。

 ぽてぽてと集会所の出口から歩いてくる、あのハンマーの彼女を見つけた。目が合ってから手を挙げると、彼方も手を挙げ此方へ近づいて来た。

 たぶん今、帰ってきたところだろう。グラビはどうなったんだろ?

 

「どうだった?」

「……30分針。二度とやりたくない」

 

 お疲れ様です……

 そうか毒ハンマーでもそんなにかかるのか。彼女の実力は知らないが、下手そうには見えない。少なくともソロでジンオウガ一式を作る力はあるのだし。

 

「そっちは?」

「漸くアルセルタスを倒したところ。んで、今はその打ち上げ」

 

 お金に余裕はないけれど、パーっとやりたい気分だったのだ。だからこれは必要経費だ

 

「……一人で?」

「いんや、彼処で店員と喋ってる奴と一緒に」

 

 俺がそう応えると、彼女は酷く驚いたような顔をした。

 何ですか? 俺がソロじゃないのがそんなに意外だったんですか? ああ、でもそう言えば俺って変なハンターって噂になっていたんだっけかな……

 

「一緒にどう?」

「え、えと……私はいい。それじゃ、また」

 

 そう彼女が言葉を落とすと、慌てたように離れていった。

 むぅ……フラれてしまったか。貴重なハンマー使い同士、もっと仲良くなりたいんだけどなぁ。

 

 とりあえず、ビールを追加で一つ注文。

 

「さっきの人、知り合いなの?」

「ああ、そうだよ。たまに話をするくらいだけど」

 

 グラビを倒したってことはHR3以上だよなぁ。追いつける日は来るのかねぇ。いつか一緒に狩りへ行ける日が来ると良いけど。

 

「あの子、いつもソロだって噂だよ。すごいよね。私じゃソロで狩猟クエストなんて行ける気がしないのに。ただ、すごく無口なんだってさ」

「まぁ、喋りたがる奴ではなさそうだな」

 

 愛想が悪いってことはないが、取っ付き難いところはある。

 

 ふむ、決めた。当分の目標は彼女に追いつくことにしよう。此方は二人、彼方は一人。それなら追いつくことだってきっとできるはず。

 

 運ばれてきたビールを煽りながらそんなことを思った。

 

 






ハンマーを使い続ける理由? 愛だよ、愛


と、言うことで第7話でした
はいはい、見事に何も進みませんでした
平常運転です
虫棒強いですよね、ちょっとやめてほしいくらい強いですよね
4Gになれば弱体化すると思っていました
むしろ強化されました

もう笑うしかありません

次話は武器を作ってから防具作りへ入る感じでしょうか?
では、次話でお会いしましょう

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