「アクセルハンマーまで強化すれば良いんだな。素材は……ああ、足りてそうだ。んで、お代だけど2400zだよ」
……2400zか。
財布の中身を確認。昨日パーっとやってしまったせいで残金は4000zほどしか残っていない。つまりこれで残りは1600zとなる。
カツカツだなぁ……
「了解。そんじゃ、よろしく頼む。どのくらいで武器はできそうだ?」
「そうだなぁ、明日の夕方までにはなんとか強化しておくよ」
ふむ。まぁ、そんなもんか。それまではちょっと狩りへ行くことはできないな。別にハンマー以外の武器を担いで行けば良いけれど、俺の中のちっぽけなプライドはそれを許してくれそうにない。
「ほいほい、じゃあまた明日の夕方、取りに来るわ」
これでほぼ丸々二日ほど暇になってしまった。闘技大会へ出ると言う選択肢もあるけれど……どうにもそう言う気分でもなかった。やっぱりハンマーを使いたい。
しゃーない。せっかくの機会なんだ。この世界へ来て初めての休日でも楽しませてもらうとするか。
昨日、飲みすぎたせいで痛む頭に辟易しながら、バルバレの中をフラフラと歩いてみる。
むぅ、背中にハンマーを背負っていないとどうにも変な感じがあるな。まるで、急にハンターから一般人になってしまったみたいだ。一ヶ月前にはこれが普通だったんだけどなぁ。
そして、バルバレの中はとても賑やかだった。まだ朝も早いと言うのに、絶えず客引きの声は聞こえてくるし人も多い。何の料理かわからないが、非常に良い匂いがし、俺の腹の調子を崩される。
お金に余裕があれば買っても良いんだがなぁ。
まだまだ序盤。無駄遣いはできそうにない。
さらに防具を一式作れば5000zほどはかかるだろう。あまりやりたくないけど、アイテムボックスにあった初期武器全部売っちまおうかな。そうすれば多少は資金を得ることが……
「あっ……こ、こんにちは」
これからの資金をどうするか考えつつ、フラフラ歩いていると、そんな小さな声が聞こえた。声の方を向くと、其処にはハンマーの彼女がいた。
「よ、おはよう」
グラビと戦ったばかりだと言うのに、こんな朝早くから随分と元気なことで。一方、俺の相棒はと言うとまだ酔いつぶれたままだろう。昨日は運ぶのが大変だった。住んでいるのが隣で助かったよ。
「こんな朝早くから何やってんの?」
「……あ、新しい武器でも作ろうと思って。そっちは?」
ヴェノムモンスター1本あれば、下位クエストは全部クリアできそうな気がするけど……まぁ、どうせなら色々な武器を使いたいよな。
「漸く武器を強化したとこ。でも完成するのは明日の夕方だってさ。……ゲームなら一瞬だったんだけどなぁ」
「……ゲーム?」
ああ、しまった。独り言が溢れていたか。直ぐ口に出してしまう悪い癖だ。
「いんや、なんでもない」
慌てて誤魔化してはみたけれど、彼女は怪しんでいる様子だった。
説明しても良いけれど、説明したところでどう仕様も無い。それなら黙っていることが吉と言うもの。余計なことは言わない方が良いのだ。
「んで、新しい武器って何を作ろうとしてたの? パワーofグレアとか?」
できれば俺も作りたいんだけどなぁ。何よりも切れ味が青まであると言うのが魅力的。ただ、ニトロブートハンマーの方がカッコイイ。カチ上げをした時に出るブーストが本当に素敵。これは悩みどころです。
「そうじゃなくて、フォルティッシモを作ろうと……」
「えっ……狩猟笛?」
あ、あれ? ハンマー使いじゃなかったのか? 確かにハンマーを使う人は狩猟笛を使う人が多い。俺だってそうだった。『ハンマー変えてきてください』とか言われたときは笛を担いだし。まぁ、その後『笛もやめてください』と言われたので、素直に退室したんだけどさ。
笛、強いのになぁ……。過小評価されている武器の代表例だと思う。
「元々は笛だもん。ただソロだと厳しいからハンマーを使ってた」
確かにソロで笛は厳しいか。俺も笛は好きだけど、ソロでやる気にはならん。ソロでやったとしても、ジンオウガくらいかな? 狩りピストの道は険しいのだ。
俺の偏見でしかないが、笛使いはどことなく親近感が湧く。笛使いから見ると、良い迷惑な気もするけどさ。
ハンマーは立場弱いんです。
「んじゃあ、パーティーを組むってことか?」
ずっとソロでやっていくのかと思っていた。でも笛を作るということはそう言うことなのかもしれない。
ヤバいな。彼女に追いつくことを目標にしたと言うのに、余計に差が開くかもしれん。もう少しゆっくりしていっても良いんだよ?
「そんな予定はないけど……ただ、ほら。作りたかったから」
そんな言葉を落とした彼女は少々恥ずかしそうだった。
まぁ、その気持ちはわからんでもない。使うかはわからないけれど、作るだけ作ることはあるのだから。そして専用装備まで組んで、結局マイセットを埋めるだけの存在となってしまう。モンハンあるあるだと思う。
てか、そんなに笛が好きなら誰かとパーティーを組めば良いのにな。彼女だって下手ではないはず。それなら組んでくれる奴も多そうだが……
ソロが好きなのかね?
俺のHRが彼女と同じだったらパーティーに誘っても良かった。けれども、それはやめておくことに。だってどう考えても彼女の足を引っ張る未来しか見えなかったから。
いつか胸張って彼女を誘うことができる日が来るだろうか? そん時は笛、お願いしますよ。
その後、彼女と適当に雑談をして、一緒に昼飯を食べたところで別れた。この後、どうするのか聞いたら――
『グラビでストレス溜まったから、ワンコで発散してくる』
だそうだ。
俺はストレス発散する時はワンコよりレイアだ。笛だったらワンコでも良いんだけどさ。
彼女と別れたあと、再び一人に。
はてさて、どうするか。武器が完成するまで、まだ一日以上もある。武器が完成したら当分はドスジャギィと戯れる日が続くだろう。
武器と防具が完成して漸くスタートラインに立つことができる。長い道のりだ。
「しゃーない。家でのんびり過ごすか」
そんな独り言を一つ落とした。
止まっていることが苦手なこの性格。
せっかくの休日なのに、全く休みにならない。困ったもんだよ。
――――――――
たぶん、これは夢だと思う。
世界にはまとまりが見えず、随分とふわふわとした感覚。
明晰夢とでも言うのだろうか。けれども、それはあまり好きな感じでなかった。
そんな夢の世界にはハンマーの彼女とあの相棒がいた。
何を喋っているのかはわからない。けれども、俺に対して何かを喋っているようだった。
声は出ない、身体も思ったように動いてくれない。やがて世界が崩壊し始め、ついに黒一色の世界となった。
自分がどんな状況なのかもわからない。それでも、あの二人の姿ははっきりと見える。
悪夢ではない。そうではないけれど、さっさと目が覚めてくれないものだろうか。嫌な予感がするんだ。そして、当たるのはいつだって嫌な予感だ。
「「どっちを選ぶの?」」
そんな二人の声がはっきりと聞こえたところで目が覚めた。
「あっ、起きた。んもう……寝すぎじゃない? だってもう夕方だよ?」
目が覚めて直ぐに見えてきたのはいつもの天井だった。
どうやら帰って来てから、いつの間にか寝てしまったらしい。あまり良い目覚めではない。覚えていないけど、悪夢でも見ていたんかね?
「んで……なんでいるの?」
此処は自分の家だ。それは確かなはず。そうだと言うのに、何故かあの虫棒を使う相棒が俺の家にいた。不法侵入ですよ。
「一応、扉は叩いたんだよ? でもなかなか出てこないから入っちゃった。鍵もかかってなかったし」
おろ、そんなに熟睡していたのか。
思っていた以上に疲れていたんだろうかね。
「まぁ、いいや。んで何か用事でもあるのか? 悪いけど今は武器を強化してもらっているから、武器がないんだ。だから早くても明日の夕方までは狩りに行けないぞ」
「えっ、自分だけ強化してたの? ずるい!」
強化ぐらい好きにさせてください。
それに君の武器を強化するのには素材が足りないぞ。ボーンロッドの強化って確かケチャ素材が必要だし。そしてこの彼女は絶対にケチャを倒していない。
「まぁ、いいや。それで別に私も狩りに誘おうとしていたわけじゃないよ。どうしてわからないけど、身体の調子も悪いし」
身体の調子が悪いのはただの飲みすぎだろ。
どうやら昨日の記憶はなくなっているらしい。いつの間にか自分の家に帰っていたことを、疑問に思わなかったのだろうか?
「ん~……じゃあどうしたの?」
「一緒にご飯、食べに行こうよ」
ああ、お食事のお誘いでしたか。
お金は少ないけど、俺には闘技大会で溜め込んだお食事券がある。
「了解、んじゃ行くか」
「おおー、れっつごー」
昨日はボロボロだったのにも関わらず、今日は元気な様子。クエスト中もこの調子でも頑張ってくれませんか?
狩りへ行くのはもう少しかかるけれど、新しい武器を使うのは楽しみ。
大丈夫、俺はちゃんと前に進んでいる。止まることは苦手なんだ。ゆっくりでも良い。このまま突き進もう。
その後、集会所で相棒と一緒に夕飯を食べたわけだけど、お酒を頼もうとしやがったから全力で止めた。
いや、ホント運ぶの大変だったんだよ。
ソロで笛を使っている人は本当に尊敬します
と、言うことで第8話でした
進展遅くてごめんねー
とりあえずアクセルハンマーまでできたっぽいので次は防具ですね
まだまだのんびりなお話が続きそうです
次話はドスジャギィさんときゃっきゃうふふでしょうか
では、次話でお会いしましょう
感想・質問なんでもお待ちしております
完結するまで何話かかることやら……