「よし、仕事も終わりだ、帰っていいぞケースケ」
「おつかれさまでしたー」
「おう、気を付けて帰れよ」
「はいー」
何とかバイトも終わり、やることも終わったのでいそいで家に帰る。ついでに、汗を流すために風呂に入ってシャワーを浴びた。
着替えた後、買ってきた材料をバックの中に突っ込むとカラワーナさん達が待っているであろう教会へチャリンコでキコキコ漕いで教会へ向かった。
「うぃーっす、給仕さんみたいな感じになってますけど夕飯作りに来ましたよーっと」
教会のドアを叩けど叩けど返事はせず、どうしたんだか。
「入りますよー、入りますからねー、入っちゃいますからねー、大事なことなので三回言いましたよー」
ドアに手をかけると心無しかいつもより重い。
嫌な予感がする……おい、まだストーリーは始まってないはずだ。 だからレイナーレさんもイッセー先輩を殺してもいないし、アーシアさんもこっちに来ていない筈。
それにリアス先輩がレイナーレさん達を殺す理由もない……よな?そう、だから安心して俺はドアを開けられる、開けられるはずなんだ……。
そう信じて、俺はドアを思い切って開ける。低く、重い音と共に真っ暗な教会の中に、夜の光がが差し込む。
俺の目の前には、何の変哲も無いいつもの空間が広がっていた……よかった、どう見ても普通だ。大方何かあって、全員出払っているんだろう。それじゃあ先に作って皆を待てばいいかな。
「しっかし暗いよなぁ、明かりどこだよ明かりは……」
そう言って、光の入らない部分まで歩いていくと、水か何かが撥ねる音がした。
何だ、水か? 足にかかっている液体は、暗くてよく見えない。さっさと明かりを探さないと……まったく、暗くてかなわん。
「……スケ?」
「ん? その声はカラワーナさんですか? 明かりどこですか、明かりは。それに床に水が溢れてますよ、拭かないと」
「早く……ここから、離れ……ろ、お前……が来ても奴の……餌が、増える……だけだ」
何を言っているんだろうか。餌? 奴? 何でカラワーナさんの声は絶え絶えなんだ? とりあえず、カラワーナさんの所で話を詳しく聞こう。
「ちょ……カラワーナさん? 何処ですか? とりあえず今からそっちに行きますから話はその時に」
声を頼りに足を踏み入れると液体のある方へと進んでいく、おい、これってもしかして……?
足に付いた液体を手で触ってみるとヌルヌルとしており、ややゼリー状なこの感触、この匂い……間違いない、これは血だ。恐らく、カラワーナさんの。
「カ、カラワーナさん!? もしかしてケガしてるんですか!? この血の量……早く治療しないと不味いですよ!?」
不味い不味い不味い不味い、どうしてこうなった、どうしてこうなったんだよ畜生!何でこんなことになったんだよ、何でカラワーナさんがこんな大怪我をしてるんだよ!?
慌てて手探りでカラワーナさんの居る所を探すとカラワーナさんは隅の壁に何とか寄りかかっていた。肩からは動脈がやられたのか、血がドクドクと溢れ出ている。不味い、このままだと出血性ショックを起こして失血死してもおかしくない。
「ケースケ……来るなと、言った筈だぞ……?」
「こんな状態になった人を放っておけるわけないでしょう!? いいから、傷口を見せてください、すぐに応急手当を……!」
慌てて傷口を見ると、肩の肉が抉られていた。誰だこんな酷いことをしたのは!? いや、まてまて、どうなったらこんなデカイ傷をカラワーナさんに負わせられるんだ? おかしいだろう、堕天使がここまで傷つけさせられるなんて……。
とりあえずバイトの際持ち続けていた予備のシャツをちぎり、傷口に覆うようにかぶせると予備のタオルでしっかりと結ぶ。洪水の後に土袋を置くようなもんだが無いよりはマシだろう。
「とりあえず、何があったんです? 他のみんなは? どうしてこんな大怪我を?」
大慌てで色々と一度に聞いてしまったが、これではダメだ、カラワーナさんに負担が増えるだけだ。落ち着け、俺が落ち着かないでどうする。
「レイナーレ様達は……分からない。私が帰った時には誰も居なかった……だが、ここらにある血は私の物だけではない……そして辺りに羽根が散らばっているだろう、だから……奴に喰われたんだ、恐らく」
「奴? と、とりあえずここは危険じゃないですか? ここにソイツが戻ってくるかもしれませんし、今すぐ逃げましょう!!」
とりあえず逃げるならリアス先輩の所か? 何とか頭を下げて保護してもらうしかない。いくらレイナーレさん達を喰った奴だろうと、多分リアス先輩には勝てないだろう。急いで移動せねば!
「……駄目だ、アイツは一回撒いたが、血の臭いで追いかけてくる。逃げる途中で必ず奴に出会うだろう。その時は私が死んでも、お前が生きて逃げられるか分からん、それに迷惑がかかる」
「なっ……ふざけんなっ! それでここで怪我した人を見捨ててはいそうですかと帰れるわけないでしょう!? 何が迷惑だ、糞くらえ!」
そう言うと、強制的にカラワーナさんを背負う。軽めの体重から血が刻一刻と出ていくと考えると、もたついている暇は無いだろう。
「それじゃあ行きますよ! 安全なところまで走ります!!」
「……すまない」
「謝らなくていいです、それより早くその傷を治しましょう」
一歩踏み込むと血が足場を不安定にさせる。ゆっくり、ゆっくりとすり足で血のたまりを抜けると教会のドアを開け、カラワーナさんの体に負担をかけないようになおかつ早めに歩を進める。
「ハハッ、まさかお前に助けられる時がくるなんてな……」
「何を言ってるんですか、”困ったときはお互い様”でしょう?」
「どこかで聞いた覚えのある言葉だ」
「自分で言ったことを忘れ始めたら歳ボケですよ?」
「おいおい、乙女にそんな事を言うとは見下げ果てたものだな」
クスクスと笑うカラワーナさんだがあまり余裕はなさそうだ。俺を安心させるためにやっているなら情けない話だ、自分の非力さが恨めしすぎる。
「カラワーナさん、あまり無茶はしないでください。死んじゃったら全て終わりなんです」
「おいおい、縁起でもない事を言うな。私が死ぬとでも思ったのか? 私は堕天使だ、人と同じように扱うなよ?」
「……すいません、ちょっと縁起でもない事を言ってしまいましたね」
「そうだ、お前には笑顔が似合うぞ……っ」
カラワーナさんの言葉が途切れ、力んでいるようだ。駄目だ、これ以上負担をかけたくない。
「もういいです! いいからもう喋らないでください、もうこれ以上っ……!」
「私はもう……大丈夫だ、安心しろケースケ」
「大丈夫なわけないでしょう!! いいですか、絶対死なないでください! そんなの、絶対、絶対許しませんからね!!」
そう言うと足を早める。クソ、なんで道がまだ続いてるんだよ! もうとっくに街に出ててもおかしくな―――?
「クソッ、これもそのクソッタレの仕業だっていうのか? このままじゃあ街に出ることも出来ないのかよ!?」
「なら……そいつは私が倒す。だからお前は……逃げろ」
そう言うとカラワーナさんは無理に俺から離れようとするが、無論そんなのは許さない。しっかりとロックし、動けないようにする。
「そんな事できませんよ、無理ですし無茶です!もし戦うんだったら俺だって一緒に戦います!」
「お前では……敵わん、アレは悪魔だが、悪魔ではない……光が効かない」
悪魔にとって猛毒である光が効かない? それでいて悪魔……? デタラメで矛盾しているようだが一つだけ心当たりがある。
それは女神転生の悪魔達だ。アイツ等の中には光が効かない奴も居るだろうし、悪魔みたいな奴だっていくらだっている、というか悪魔だ。だが、俺のCOMP無しにそうそう簡単に悪魔が召喚されるなんて、そんな事がある訳がない。
「それなら心当たりがあります、アイツ等は……」
言葉の途中で不穏な空気が辺りを包み込んだ。……なんだ? この嫌な予感は、何か、とてもヤバイものが近づいてくる……?
「奴だ……お前では勝てん」
クソッ、何だよこの感じは!? まるで今の俺では確かに歯が立たなさそうな、そんな感じの威圧感がヒシヒシと伝わってくる。
駄目だ、俺がこんなんじゃカラワーナさんを助けられねぇ! 力が俺にもっとあるなら……!
「いいから逃げますよ、しっかり掴まってください!」
そう言って走り始めると、どこからともなくイナゴが道端に現れた。一匹や二匹ではなく十匹程いて気色が悪い。
「クソッ、邪魔だよ虫が!!」
適当に蹴散らして走り続けると、どんどんどんどんイナゴが増えていった……おいおい、まさかこいつら!?
「嘘だろ? ”アイツ”が来るのか? クソッ、なんでこんな所にラスダンで出る様な奴が出てくるんだよ!?」
やがて大量のイナゴが一斉に動き始め、左右に分かれて道を開け始めた。おいおい、ご主人様のお通りか……?
「……!」
とっさに身構え、向こう側からいつ来ても対応できるようにしておく。”奴”に勝つのは100%無理だ、それを俺はよく理解している。だから奴の目を潰して逃げる。ジオやマハジオで敵の足を止めつつ、確実に逃げる作戦だ。
「来いよ……来るならきやがれ!!」
いつまで経っても来ることのない、”あの悪魔”……おかしい、何かおかしい。何だ? この自分が犯している重大な間違いは? それが分からない、だが何か俺は大きな間違いをしている。何なんだ?
ふと、イナゴ達を見てみるとイナゴは俺等を見ていた。
そう、正確に言えば俺等が立っている方向を。
「クソッ、まさか後ろから――!?」
「ケースケ、危ない!」
そう言うとカラワーナさんは、いきなりドンと俺を押してきた。気が付けばカラワーナさんは俺の背中から離れており、俺はカラワーナさんに背中を思いっきり押されたようだ。
「カ、カラワーナさん!? 一体何が起き――――」
振り返ると、俺の頬に生暖かい液体が跳ねてかかり、辺りには羽根が散らばっていた。そして、目の前には巨大な顔、俺の身長よりはるかにデカイ顔が、目の前に佇んでいた。
顔は地面に埋まっており、全体図が見えないが頭に翼が生えている。
そして、そいつの顔にはたった今かかったと思われる血がベッタリと付いていた。
「……鳥モドキハ、ナカナカニ肉ガ柔ラカク、美味ダッタナ……雄ノヤツハ肉ガ少シ硬カッタガ美味カッタ。ダガヤハリ、雌ガ一番ダナ……ナカナカニジューシーナ食感ダッタ……今食ッタノモナカナカダ。ソシテ人間モ、ナカナカニ美味ソウダ」
――こいつ、今なんて言った? 喰った……だと? あのゴミクズ、皆を喰った……だと!?
「テメェ……喰ったって、今言ったか……?」
「安心シロ、スグニ腹ノ中デ会ワセテヤル」
その一言だけで、俺の中で何かがブッツンと切れた。
「コンのぉ……クソ野郎がぁっ!!」
目の前にある、糞の役にも立たねぇ様な鼻の先を思いっきり殴る。次に鼻の下を集中的に殴り続け、ジオを何発も撃った。マハジオや、覚えている限りの攻撃呪文もMPの尽きぬ限り全力で撃った。
だが目の前にいるクソ悪魔は、平然とした顔で居た。こいつの顔を苦痛に歪ませられない、自分の非力さが憎い、情けない。こいつだけは許せない。こいつだけは俺の思いつく限りの方法で痛めつけても、まだ満足しない。体を微塵に刻んでなおかつ、意識を保たせて、その刻んだ一つ一つを丁寧に踏み潰したって俺の今の怒りを消せないだろう。
「クソッ……なんで俺はここまで弱いんだよ!? 誰かを救うこともままならねぇじゃねぇか!!」
「弱サハ、罪ダナ……己ノ非力サを悔イルカ。ナカナカニ分カッテイル餌ダ、サゾカシ美味カロウ」
何か言っているが無視して俺は必死に殴る。殴って殴って殴り続けるがビクともしない。
「オワリ……ダ、苦シマヌヨウニシテヤル」
そう言うとヤツは口を大きく開けた。何か腐ったような、吐き気のする不快な臭いが俺の身体を包みこみ、口の奧には闇が広がっているのが見える。
――これで、全ておしまいなのか? そんな、そんな事ってないぜ……? どうしてこうなったんだ? 俺がこの世界に入ったからか? 俺がここまで弱い存在だからか? そんな存在は誰かを守ることすら許されないのか?
「クソッ……力、力だ、何でもいいんだ。何でもいいから誰かを救えるだけの力をくれっ……!」
そんな叫びも虚しく闇に消えていった。
そして、俺の目の前に大きな前歯が降りおろされ
「がああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
気がつくとそこは風呂場で、俺は風呂に入りながら手を何処かへ差し出すように挙げていた。はたから見れば、どんだけ情けない格好だったかは考えないでおこう。
「ここは俺の家、だよな? 俺、何で風呂に……?」
さっきまでの鮮明な記憶が夢だったのかよく分からないが、頭をフル回転させてここに至るまでの事を思い出す。どうやら俺はバイトを終え、家に帰って素材の準備の前に風呂で汗を流そうとしていた。それで、寝てしまったのか……?
「おいおいおいおい、あんなリアルな夢ってアリかよ……?」
とりあえず、あの出来事は夢だったということにしよう。俺の目の前であんな出来事が起こるなんて、そうでもしないと俺のSAN値が直葬される。
俺の夢の中に出てきた、今では思い出すのも鬱になる悪魔はアバドンだ。種族は魔王で頭に天使の翼が生えているキュートな悪魔――なわけがない。
只顔のでかいハゲの頭に天使の翼が生えて、しかもソイツが地面に翼以外埋まっているという、ふざけたデザインの悪魔だ。とても強く、物理無効――つまり全ての物理が無効化されるスキルを覚えさせて無双した覚えもあるのだが、今の夢で一気に醒めた。
アイツ、今度エンカウントしたらレベルを上げて物理で殴ってやる。
「……でも、本当に夢だったのか?」
あんなリアルな夢は見たことない。以前見た学校での鬼ごっこだって、夢だとわかる程度のリアルさだった。だけどさっきの夢はどう考えても現実としか思えなかった……。
つまりは……予知夢か? この世界で、あのゲームを組み込んだからには予知夢の一つや二つ、あってもおかしくはない。もしあんなのに出会ったら……間違いなく死ぬ。
夢の中ではリアス先輩の所へ逃げると考えていたが、あんな奴ではリアス先輩でも危ないかもしれない。最初あったときはかなりビビってレベル90台とかぬかしてたが、よく考えればリアス先輩は上級悪魔。
そんな上級悪魔にもピンキリあるのは確かだろうし、上級悪魔の条件……高く見積もってレベルを40ぐらいにしておいてみれば、リアス先輩はレベル40後半か50前半。そしてヤツのレベルはおおよそ60台を行くだろう……今のイッセー先輩が居ないPTで勝てるか?
奴は小猫さんよりも力はあるだろうし、硬い。そして何より呪文に対する耐性も生半ではないだろう。つまり、俺が逃げ込んだところで逆に先輩達も死んでしまう可能性だってある。
じゃあどうするか。その答えは簡単、強くなればいい。俺が今すぐ強くなって先輩達と同等、とまではいかないがレベルが30後半になれば仲魔もそこそこ質が良くなってきて、先輩達と力を合わせればヤツとなら勝てるかもしれない。
誰かを守るために力が必要なのはどの世界でも共通、そして力は持っていて損ではないな。
「それにレイナーレさん達を助けるには必然的にある程度力が必要だよな……」
このままいけばレイナーレさん達は死ぬ運命にあり、俺はそれを止めるためにやってきたんだ、忘れかけてたけど。その過程で、リアス先輩達と良くて一時的に、最悪の場合一生敵対するだろう。
なら、その一時的な戦闘で生き残るために力は当然必要……か。ハハッ、死ぬ運命の命を守るってのも大変なもんだ。
風呂から上がると素材が全部あるか確認し、チャリンコのカゴに入れ、発進。カラワーナさん達が待っているであろう教会へと急ごう。
「ちわーっす、夕飯作りに来ましたよっと」
「どうした、遅かったな」
ドアを開けるとカラワーナさんが出迎えてきてくれた……よかった、やっぱりあれは夢だったか。いやまぁ、あれが夢だと分かってても、こういうのは確認したくなる。
「いやぁ、ちょっと疲れてたんでね、風呂で沈んで寝ていました」
「……大丈夫か? すまないな、私が用を頼んでしまって」
そう心配そうに見てくるカラワーナさんに軽く癒される。いやはや、迷惑をかけてしまって申し訳ない。
「いやいや、大丈夫ですよ。でも明日は朝が早いので料理を作ったら直ぐに退散させていただきます」
「そうか……分かった。それでは私も手伝うぞ」
お? おおおお? こ、これはっ……!?
デレ? 新手のデレか? いやいや落ち着け、これはカラワーナさんがただ手伝ってくれると俺の体を労わってくれてるのか嬉しいぜイヤッホオオオオゥ!すっげぇ嬉しい! 少し疲れた体を労わってくれるってすっげぇ嬉しい!
「よぉし、じゃあちょっとこの野菜洗ってください!」
「あ、ああ分かった」
俺がハイテンションになって、野菜を突き出したために軽く引き気味のカラワーナさんだが、そんなことはどうでもいい! 上機嫌でキッチンに入るとフライパンに油を敷いて火をかけ、いつでも料理が可能な状態にしておく。
「で、どうすればいい?」
「あいあい、そこのピーマンをみじん切りにしてくださいな、あとそこの豚肉も同じようにしてください」
「分かった」
そう言うとカラワーナさんは手から光の槍を出してそれをピーマンに向け――ってちょっと待てオイ。
「あのー、カラワーナさん?」
「何だ、ケースケ。言っておくが、微塵に切るのはいいが、これだと木っ端微塵になるぞ」
「あのですね、みじん切りにするのにはですね。包丁を使うんですよ」
「包丁? 私がそんな原始的な物を使うと思ったか」
原始的とまで言いますかカラワーナさん、いやまぁ長く生きてきた堕天使から見れば原始的かもしれませんけどさぁ。
「あのですね、その原始的な物が今まで使われてきた理由が分かりますか?」
「人間がラ●トセーバーも作れないからだろう?」
おおぅ、堕天使の世界ではライトセ●バーで料理するのが一般常識なのか、知らなかったよ、って絶対嘘だろ。
「……冗談だ」
「ですよねー。はい、ですから包丁を持ってピーマンと肉を切ってくださいな」
そう言って包丁を渡すと、カラワーナさんは包丁を左手にもったまま、ピーマンと肉に面と向かってにらめっこを始めた。
「……むぅ」
年上の人に言うのもなんだけど、この戸惑っている感じがね、不慣れなことを頑張ってやろうとしている感じがね、可愛い。
さっきからチラチラと、こっちを見て”助けてくれ”という意味の篭っているであろう視線が、俺に向けられるがここは心を鬼にしよう。決して、決してこの戸惑っている大人っぽいクールなおねーさんが戸惑っている様を見ていたいわけではない。とはいえ、軽く教えてあげよう。
「あー、まずピーマンの頭と尻を切ります」
「ふむ」
「次に半分に割ります、そして中に詰まった種を取ります」
「……おぉ」
何故か、手際よくピーマンの種を取っただけで感心された。それほどすごい事か?
俺が多少料理の心得があるのはウチのおじさんがコックさんでたまーに俺に”料理の出来る男はモテる”だのと言って俺に教えてきたんだったな、おかげで親には料理を手伝えだの、皮むけ、みじん切りにしろだの、疲れたからシチュー作ってくれとかパシられすぎて本当に困った。しかし、ここでこのスキルが役に立つ時が来たとはな。
「さぁ、次が本題です。これをこうやって……こう!」
「お、おぉ……」
「さらにこれをこうすれば……!」
「こ、これは……!」
※
「とまぁこんな感じです。それじゃ、俺はもう帰らせていただきます」
「あ、ああ……それにしても凄かったな」
何かに感心したようにカラワーナさんが溜息をつく。いやぁ、空中で餃子のアンをのっけた皮を、一つ一つ握って餃子にするみたいなことはしていなくて、単にみじん切りと豚肉のみじん切りをやったのちに炒めてとろみをつけて、青椒肉絲を作っただけなんだけどね。
「それじゃ、さよならー」
「ああ、またな」
教会を離れると、カラワーナさんが手を振ってくれたので、俺も手を振ってチャリンコを扱ぐ。その間俺はずっと考えていた。どうすればレベルが短期間で大幅に上げられるか。どうすればあの人達を守れるか。
それを考えている最中、奴の顔が思い浮かぶ。俺の知ってる中で最も強い人間、人外中の人外。しかし手合わせをしても、命の危険がない程度の相手。
「やはり”奴”の力を借りるしかないか……」
風呂場で決めた強くなる、という目標達成のため、自転車を90度回転させ、学校へ直行。恐らく自称”勤勉な人間”のヤツの事だ、まだ職員室にいてもおかしくはない。目標達成するためには計画を立てなきゃな。
「失礼しまーす、小松原先生いますか~」
職員室に入ってみると案の定、小松原一人だけが職員室に残っていた。
「どうした若葉、珍しいじゃないか。お前がこんな時間帯にここに来るとはな、何かあったのか?」
「……喰らえや小松原ァ!!」
「む?」
近づいてきた小松原に走り、一気に距離を詰める。そのまま飛膝蹴りをほぼゼロ距離で奴の土手っ腹に打ち込む。
「甘いぞ若葉っ!! 何をしでかすかと思えばこれか!」
だが小松原は流石は元PMC社員だ。的確に俺の膝を左手で受け止め、俺に向けてカウンターの右ひじを、俺の顎を的確に狙うように打ち込んできた。
「ちょっと俺は今から強くなんなきゃならないんすよ!」
それを俺は両手で受け止めて後ろに飛んで下がる。おたがいの足も手も届かない距離だ、ここからゆっくりと間合いを図る。
「そうか、なら今軽く稽古をつけてやろう!」
そう、これが俺の一つめの計画。人外教師小松原との戦闘だ。
どうも私です。
今回は物凄く展開が速めになってしまったかなー……と思いつつ、推敲していました。
唐突のバトル回ですが、なんとか戦闘描写も頑張っていこうと思います、このあとも戦闘描写はあるだろうと思いますので。