「若葉、お前のような素人が間合いなどとっても無意味だ!」
グン、といきなり小松原が距離を詰め、拳底を俺の下腹部に放つ。これを俺回避することができず、モロに喰らい、腹に来た衝撃が全身を伝う。
「がぁっ!?」
倒れそうになるのをこらえ、小松原の腕を掴み腕を極めようとするが簡単に抜けられる。
クソッ、普通にやりあうだけじゃ埒があかない! ……だがこのままやり続けないと上がるレベルも上がらない。このままやりあうしかないのか。
「オ……ラァ!」
小松原の腹に突きを入れようとするが回避され、蹴りが俺の脇腹に食い込む。一瞬だけ体に力が入らなくなり、倒れ込んだ。
「あっ……がぁっ!?」
「まだまだ、どこも詰めが甘いぞ若葉! だがそこそこの能力があることは認めてやろう」
クソッ、余裕だな小松原は!! それに俺はこの程度のそこそこじゃまだ足りねぇんだよ!!
「どうした、まだ立てるはずだろう。立て若葉! まだ稽古は終わっとらんぞ!」
この熱血漢は、これでも稽古を付ける程度にしか力を出していないらしい。それだけ余裕があるってことか、しかも油断はしていない。本当に兵だな、奴は。
「こっちだってこのままだらしなく地面に突っ伏している訳にはいきませんよ……!」
グッ、と力を腕に込め、立ち上がると、若干内蔵にキてるがまだ戦える。最悪ピクシー達に直してもらおう。
「やはり俺の目に狂いはないな、お前ならまだ戦えると信じていたぞ」
「ええ、まだまだいけますよ!」
俺と小松原は構え、第二ラウンドが始まる。俺は武術とかそういった心得がないので、自分のセンスと運動能力を頼りに攻撃をしている。よって構えなんてものがない。
だが小松原は違う。構え方からどうやって力が入っていくか、どのように攻撃を繋げていくかを心得た構えだろう、何となくだがそんな気がする。だからもう少し戦ってみれば奴の次の一手が読めるかも……?
「どうした、次は俺から行くぞ!」
そう言うと小松原は一歩大きく踏み込み、また同じように拳底を打ってきたが、流石にそこまで型が同じだと回避はできた。俺は無理に反撃をしようとはせずに猫だましで相手を牽制し、距離をまた取る。
「なるほど、少し学び始めたか若葉」
「ええ、流石になんども同じ手を喰らってたら俺の身が持ちませんからね!」
「だがこれを見切ることができるか?」
そう言うと小松原はまた同じように掌底を打ち込んできた――なんだ? 全く変わらないぞ? 同じように掌底を躱すと次は……そのまま肘!?
「油断をするな若葉!」
小松原の言う通り油断をしていた俺は肘がモロに顎先にヒットし……あ? 床が目の前に迫って……?
突如目の前に床が迫ってきた。俺は立っているはずだぞ? おかしい……。
顔面が地面に激突する寸前に止まり、その時にやっと俺は自分が倒れかかっていること、そしてそれを小松原が掴んでくれたということに気づいた。
「ふむ……これで今日の稽古は終わりだ。あまり体に負担がかかっているようでは、これ以上は学校生活に支障を及ぼすようだからな」
そういうと小松原は自分の席に俺を座らせる……情けない話だ。こんな無様な姿を晒し上げるとはみっともないことこの上ない。もっと俺は強くならなければならないというのに。このダウンしている暇にストーリーは始まりつつあるだろう、ストーリーが始まってから強くなったって意味がないんだ。
「小松原先生……」
「どうした若葉、脳が軽く揺さぶられただろうに意外と復活が早いじゃないか」
「いやまぁ、復活と呼べるまでに回復してないんですけどね……それより先生、確か知り合いにブートキャンプをやっている人が居るっていってましたよね?」
「ああ、そこらの軍隊と同じような訓練を行うということでロシア、フランス、イタリア、アメリカ、イギリス、その他諸々の国の兵志願者が一回通るらしいな……まぁ、お試し体験のようなものらしい」
「要するに有名な新兵訓練所なんですね……? そこに何週間か訓練に行くのはダメですかね?」
そういうと、小松原は何か考えているのか、腕組みをしてそのまま動かなくなった。
「それはうちの学校の”あらゆる可能性を見出す”という教育方針に適っているから構わんが……何故行きたいんだ?」
小松原が聞くのもおかしくないだろう、何せ新兵訓練所だ。今まで軍人になることを嫌がっていた人間が、いきなり行きたいとか言い出したら誰だって不審がる。
「ちょっと……力が必要になったんですよ、自分を守るための力ではなく誰かを守るための……ね」
いきなりこんな事を言い出す俺は傍から見れば只の中二病を未だ引きずっているイタイ高校一年生だろう、だがこれは俺にとって真面目なことなんだ。
「……分かった、お前はこの学校の教育方針に法って、本人の新しい可能性を開くための教育を特別に受けに行く、という俺が公認した特別授業ということにしておく。ただ勉強はちゃんとしろ、留年することになるからな」
俺の意志を汲み取ったのか、小松原は真剣な表情で了承してくれた。よし、これで計画その2、”ブートキャンプで長期トレーニング”を始めることができる……が。先立つものが必要だよな、こういう”プロの道への第一歩”は金が結構かかったりする。
「……ちなみに費用は?」
恐る恐る聞いてみると、小松原は思い出そうとしたが思い出せなかったのか、インターネットでカチカチと調べ始めた……公式ホームページとかあるのね、知らんかった。
「ああ、あったぞ。お前は数週間希望だから、3週間コースでどうだ?」
3週間コース? いや、コースとかあるのか? それに何だ3週間って、何故そこまで中途半端なんだ。一ヵ月じゃないのが気にかかる。
「それでいいんですけど……何で3週間?」
これは自分でやるって言い始めたことだけど嫌な予感がし始めた。この3週間っていうのは何か引っかかるんだよな……?
「見ろ、最初に一週間アメリカで基礎体力、兵士のイロハを叩き込まれ、後の2週間をジャングルでサバイバル技術等々を叩き込まれる。場所は――南米か、丁度いいだろう。あとパスポートも必要だな、集合場所はアメリカの空港……ここだ。」
嫌な予感が当たったぜ、万歳。アメリカ、大体現地集合で時差の計算つきだ……ハハッ、覚悟はある程度していたけど、いざ目の前にするとキツいものがある。
パスポートは中学の時にイタリアに無理やり親の結婚記念とやらで折角の祝日付きの三連休が潰されたという今でもあまり嬉しくない思い出の際に取得した覚えがあるから多分大丈夫か、一応毎年更新してるし。
「で、その記念すべきブートキャンプの集合日は何時ですか? あといくらぐらいですかね?」
「ああ……若葉、これは3日後の朝6時、現金を直接支払う方法で5000ドル……約35万円といったところか、よかったな。最近は円高で、ある程度安くなっているからお前でも手が出せなくもない。残念だが、保険は効かないそうだ」
「あー……確かに35万ぐらいだったら今までチマチマと貯めてきたバイト代と貯金を合わせれば行けますね。保険は……どうせ効かないものだと思っていたんで別にいいです」
しっかし一気に貯金が消えていったなぁ……。大体口座に10万程しか残らなくなっちまった。確かMAGとマッカはある程度補充していっているから、2万程それぞれ貯まっているし補充する必要もない筈。
今の俺に、保険がどうのなんぞ正直どうでもいい。なんせピクシーとエンジェルという回復担当がいるのだ、多少のかすり傷ぐらいなら大丈夫だろう。
「あとは――学校から多少の補助金が出るようだ。よかったな、お前は一人暮らしだから何かとそういうものは便利だろう」
なるほど、私立高校って凄いある程度のことは融通が利くのな。いや、この高校だからかもしれないけどさ……リアス先輩がこの学校の所有って前に小猫さんから聞いたような聞かなかったような記憶があったけど、リアス先輩はやっぱり教育熱心なのかね、下僕を可愛がってたし。
「来るべき日に備えて休養と持ち物でも整えておくんだな。あと時差の計算も自分で行うように」
「だぁー……了解です」
えっと……東経何度とかそういうのに、時間差を含めて……駄目だ。今の頭じゃ全くわからん。一応明日学校行って明後日は空港で飛べばいいのか?
ああ、エコノミーの席取らないと。あとはサーチャージ代だったっけ? あれも今は馬鹿高いんだろう、だからそのための補助金もパァになって結果的に消えるんだろうなぁ……。
とりあえず今は家に帰ってやることを整理しよう。それからやることを順番にやればいい。
「それじゃあ先生、帰ってやることを整理してきます。あ、あとそういう補助金って申込書とか書かないといけないんでしょう?」
「心配するな、そういう事を手っ取り早く済ませるために教師がいるんだ。教師の名前にサイン、それとお前の名前をこれに書いて印鑑を押すだけだ。ほら、俺の分はもう書いたぞ」
おお、珍しく気が利くな小松原は。普段はこういうのなんかやらないと思っていたが、少し見直した。
「それじゃあこれを俺が明日提出するとして……お金が降りるのはいつなんです?」
「……三日後だがこの場合お前がしばらく留守になるということなので学校がお前が帰ってきたときに受け取る形となる。まぁ、10万ぐらいは出るだろう」
……おぉ、10万だ、10万。それを確か4~5年までに返せばいいんだろう? バイトをほぼ毎日やっている俺なら、ちゃんと計画を練れば1年で返せるじゃないか。それに夏休みは高めにバイト代がつくかもしれないから、更に早く返済できるな。
「なるほど……それじゃあ、俺はこれで帰りますわ」
「ああ、もう大丈夫だろうが気を付けて帰るように」
「了解です」
キチンと一礼して職員室を出る。教室を出る際、職員室をざっと見渡してみたのだが、あんだけ激しい戦いをしたのに何処も散らかってなかった。まぁ、後片付けしたくないからラッキーって言えばラッキーなんだけど……小松原は、もしかして後片付けを嫌って、物を散かさないように配慮してた……のか?
「そうだとしたら、やっぱりアイツは人じゃねぇな……」
「ん?何か言ったか若葉」
「なんでもないです」
やっぱり奴の体は、通常の人体とは規格外だな……そう思いつつ俺は学校を出た。
※
家に帰ると、気付けばもう9時……普段ならまだ起きている時間だが、今日は色々とありすぎた。
悪夢を見て、堕天使の面々の夕食を作って、小松原と殴り合って―――
「ああ……早く、レベルを上げないと」
やることも、やらなきゃいけないこともまだまだ、たくさんある。その一つ一つを、もっと早くからやっていけばよかった……いや、そう嘆いていても仕方ない。
「とりあえず……今は、体を休めよう……」
そう思いながら、俺は眠りについた。
どうも。
いい加減に次話製作を始めなきゃいけない頃になりました……が。まだ一文字も執筆してません。正直言って、かなり不味い状態です。
まず、私は原作小説を読んだことがありません。アニメだけで頑張ってきましたが、そろそろ本気で不味いです。現段階ではそうではないかもしれませんが、@で投稿した最新話が最新話なので……。
かといって、原作小説を買ったら買ったで私のことです。執筆作業に入らずに惰眠を貪りながらダラダラと読むのは目に浮かびます。
難しいものです……近日中に何とか、対策を練ろうと思います、それでは。