気がつくと俺はコンソメ味のポテチを片手にピコピコ動画を見ていた。ああ、今日もポテチがうまい。
「いやぁー、たまにはこういうのもいいよねぇ。どうせ少ししたら俺は修行に励むんだし……ん?」
「ちょっとケースケ、起きてよー」
リンクをクリックすると、いきなりフルスクリーンモードになったかと思えば、ドアップでピクシーの顔が映し出された。もしや、これは夢……なのか?
「オーケーオーケー、あと五分ぐらいは良い夢見させてくれ、それくら罰は当たらないよな?」
そう言いながら俺はフルスクリーンモードを解除し、動画をまた見始める。
「むー……それならこうだよっ!」
フルスクリーンモードとは打って変わって、小さいウインドウからピクシーの顔が映し出される。どうやらピクシーは、何か俺に仕掛けようとしているらしい。
「おいおい、俺とピクシーのレベル差はもう15以上ついているんだぜ? いかな攻撃でも痛くも痒くも」
「えいっ」
「のわああああああああああああああああああああああああああああ!?」
余裕をぶっこいてたら、いきなり脇にあのトラウマと化していたあの、電気で脇を刺激した時特有の感覚が蘇ってきた。
驚いて起き上がった時に、勢いがあまって軽く壁に頭がぶつかったらしく、頭がとても痛い。
「ちょ、ちょっと驚かせすぎちゃったかな……?」
あまりの驚き具合に、ピクシーがドン引きしている。頼むから、人のトラウマと心の傷を抉る行為は止めてくれ……驚いた拍子に心臓が止まってしまいそうだ。
「勘弁してくれ……」
ホッとした俺はベッドに座り直すと、メガネをかける。それにしたって何だってあんな事を……?
「ところでピクシー、いきなり俺のトラウマを抉ってきた理由を聞かせてもらおうじゃないか、ええ? お嬢ちゃんよぉ」
少し不機嫌な俺の言い方が少し怖かったのか、ピクシーがちょっと焦り気味になりながら返してきた。
「え、えっとね、もう……寝坊してるよ?」
「あぁん? お嬢ちゃんはそんなことで俺に……へっ?」
目覚まし時計を見てみると、7時50分を過ぎていた。これは、いつもの起床時間を1時間程遅い。
「不味い不味い不味い、あやうく2度寝しかけていたけど、もうこんな時間なのか!? 」
昨日は倒れこんで泥のように眠っていたので朝飯の仕込みもしてないし、昼の分なんて言うまでもない。
「しかもケースケ、制服のまま寝てたでしょ」
ピクシーに指摘されて服を見ると、確かに俺は制服のままだった。しかも寝相が悪かったのか、制服のあちこちにシワが出来ている。
「やべっ、制服を着たまんまだったか! 畜生、もう朝食なんてどうでもいい! 卵かけご飯作って行ってくる!」
「いってらっしゃ――って、アタシも一応COMPの中に居るから一緒に行くんだけどね」
※
そんなこんなで卵かけご飯を食べて軽く腹を満たした所で、ちょっと早めに走りながら学校への道を行く。この調子なら、間に合わない時間ではない。
しかし、どうしてこんな時間まで寝てたんだ……あ、小松原の肘をモロに食らってダウンして、それで帰ってバタンキューだったんだ。
「おっすケースケ、お前もか!」
そんな声がしたので、横を見ると、Y字路の合流している所からいきなり山田が現れた。何という奇遇だ、山田も珍しく遅刻しそうなのか。山田は山田で陸上部らしく、すっかり萎んだゼリー型の10秒飯のパックを片手に走っている。どうやらそれを食いながら走ってきたようだ。
「ああ、ちょっと寝過ごしてな。お前は?」
俺が質問すると、山田はどうも急いでいる割には余裕そうな感じで返してきた。
「おお、俺も寝過ごしちまった。それより今日は何か遅れたらまずい授業あったっけ?」
「授業よりも遅刻したことを小松原に知られる事が一番まずいだろ、あの人外に説教されること自体が不味い」
「だな」
俺がそういうと、山田もうなずいた。やはり、山田だって小松原の説教は受けたくないみたいだな、当然だが。
「誰が人外だって?」
「「……え?」」
聞きなれた大塚ボイスが後ろから聞こえた……。おい、嘘だろ……?
走る足を止めずに俺と山田はゆっくりと首を後ろに向ける。
「ん? 教師のありがたさっていうものを、二人揃ってみっちり教え込む必要があるようだな?」
そこには例のバケモンが俺らの後を追いかけるようにして走っていた。しかも、徐々にこちらへと距離を縮めてきている。
「スピード上げるぞケースケ!」
「お前もへばるんじゃねぇぞ!」
そう声を掛け合い、ほぼ同時にお互いが走るスピードを上げる。死にたくないからな、俺等はまだ若いというのに、ここで小松原に殺されてたまるか。
「俺は陸上部だぞ? それよりもお前も途中で落ちるなよ?」
「へっ、言ってろ! 俺だってほとんど毎日バイトしてんだ、この足腰は並大抵の事じゃ」
「待たんかお前等ァ!」
俺の声を遮って後ろから、小松原の怒号が上がったかと思えば奴の足音らしきものがぐんぐん近づいてくる。メチャクチャ怖い、怖えぇよぉ!
しばらく走り続けると、道が二手に分かれているようだ。二手に分かれたら生き残る確率が上がるんじゃないか?
「おし、分かれるぞ山田!」
俺がそういうと、山田は素早く、
「おう、俺は右だ!」
と返してきた。俺は山田の左隣で走っているので、お互い分かれるときにぶつかる、なんてアホな事は起きないはずだ。
「OK、生きろ山田!」
「死ぬなケースケ!」
分かれ道で別れ、俺等はお互いを励まし合いながら逃げる。これで奴が迷って止まってくれれば……!
しばらく走り続けた後、振り返ってみると小松原はいなかった。
これは、奴から逃げることが出来たのか……? いやまて、これも奴の罠かもしれん。逃げ切ったと見せかけて油断させたところを襲いかかる。奇襲攻撃の基本的なパターンだ、安心するにはまだ早いかもしれない。
とりあえず近場の自販機の影に隠れ、辺りの様子を伺う。とりあえず怪しい人影はないようだし、どうもおかしな挙動をしている人間もいない。もし小松原が現れたなら、大概奴の独特の雰囲気がある。遠目でみえば何となくあれは小松原じゃないか? って感じの、なんというのだろうかその、威圧感みたいなのが。
「怪しい気配は……ないな、一応物影に隠れながら移動するか」
「適切な判断だ。いつどこで敵が出てくるか、トイレの個室の中に敵が潜んでいても、おかしくないことを忘れるなよ」
「んな事分かって……へ?」
後ろから声をかけられたので、振り向いてみるとそこには小松原が。しかも肩に乗っかっているのは……やま、だ? 山田らしきものは全く動いておらず、何か抜けているような感じがする。
「お前が考えることなんて大体分かっているからな。用心深いお前のことだ、先に山田を捕まえて後ろから回り込めばそう遠くには行っていないと思ってな」
クソッ、なんてこった。奴に完全に俺の性格共々把握されていたせいで、行動を読まれていたようだ。いや、まだだ。今がチャンス、奴は獲物を前にして舌なめずりをするようなもんだ。三流のようなことをしている。今なら逃げるチャンスだ!
「おっと逃がさんぞ」
逃げようとするところを予測していたかのように、小松原に首根っこをつかまれる、猫か俺は。一人担いで置きながらもう一人を片手で持ち上げるって本当に人かコイツは。
――結局俺はこのまま小松原に運ばれて学校へと登校。メチャクチャ目立って恥ずかしかった。これなら山田と同じように気絶してたほうがどれだけ楽だったか。何が辛いって女子がキャーキャー言ってた事と、首根っこ掴まれて宙ぶらりんの状態を良いことに、周りで興味深そうに見てきたことだよ。
しかも若葉君が受けだのどうだのっていう声とかも聞こえたし……正直言って鳥肌が立った。それよりも顔が真っ赤だったのを見られたこともかなり恥ずかしかった。穴があったらそこに水を入れて溺死したい。
「おっすケースケ、顔赤いぞ? 何あった」
「山田……お前はいいよな、気絶してたんだから……ましてや顔を見られた訳でもないんだ」
「? まぁ、お疲れさん」
どうやら山田は気絶したついでに気絶前の記憶を何処かに落としてきたらしく、山田は不思議な顔をして去っていった……全く、羨ましい奴だ。とりあえず授業に取り組もう。
※
とりあえず放課後まで難なく授業をこなし、小テストなんかもあったが一応一通りは解けた。いやはや、さっさと帰って準備したいんだが最後のHMがなぁ……どうせ小松原のことだ、面倒なことになりそうだ。
「えー、俺からみんなに話すことがある……若葉が、暫くここを離れアメリカに行くことになった」
きたよ、ええきましたとも。いやまぁ分かってはいたことだけど、それでも、恥ずかしいんだ。朝のあの一件もあったからかなり小っ恥ずかしい。
「おい若葉、一応そこまで長い間ではないが別れを告げるんだ、皆に一言ぐらい言ってみろ」
「あー……了解です」
そう言って前に行くと少しざわついた空気がピタッと止まり、クラスの視線が俺に集まった。この見られてる感じがニガテなんだよ、かなり話しづらくなった。
「あ……えっと、明日から3週間、アメリカに行ってきます! お土産はー……向こうに行ってから考えます」
危ない危ない、こっそり銃弾とか薬莢とかサバイバルグッズとかサバイバルナイフとかレーションとか言ってしまいそうになった。いやしかし、お土産買うとか言っちゃったけど……俺、残金大丈夫か? ハハッ、帰ったらウチの電気も水道も止められてたりして。
そう言って席につくと、周りがざわざわとざわめき立った。しかし小松原が話を続け、HM終了。さっさと家に帰ってさっさと準備を整えないと、直ぐに病院送りか、布を被された状態で、無言の帰宅をすることになる。それだけは勘弁だ。
「それでは、各自部活なり帰宅するなり、いずれにせよ気をつけるように」
そう言うと小松原は教室を出て行った。よし、それじゃあ俺も帰ることにしよう。
「「「ねぇ……若葉君」」」
そう思い、俺が席を立とうとすると、誰かから声をかけられた。この声からして……お奉行様達か。
「はい、なんでございますでしょうか」
「若葉君、アメリカ本当に行っちゃうの?」
ここでお奉行様が3人を代表してか、話しかけてきた……三人とも何故かとても真剣な顔をしている。
「あー、3週間ほどね、アメリカに行ってきます」
「そ、そう……」
俺がそう言ったら、お奉行様達はいつも通り審議に入り始めた……俺、何かやった?
不思議と、お奉行様の審議を見ていると、自分でも何か悪いことをしたわけでもないのに悪いことをしたような感じになる。これはお奉行様の持つオーラにでも当てられた、とでも言うのだろうか……。この人に問い詰められたら、如何なることも吐いてしまいそうだ……多分、将来警察で飯食っていけるな。
「若葉君?」
「はい?」
そんなことを考えているうちに、審議は終わったようで、お奉行様は俺の前に出ると改まった感じに、こっちを見てきた。お奉行様は恥ずかしいのか何か知らないけど顔が少し赤い。熱があるのか?
「そ、その……アメリカ、気を付けてね」
「あ、はい……」
簡潔に一言、それだけ言うとお奉行様達は帰っていってしまわれた……やっぱ熱でもあったんだろうか? 体は大事にしないと大変になりますよ。
「さて……じゃあ帰りますかね」
「ケースケさん」
次は小猫さんが話しかけてきた。小猫さんは、少し不機嫌そうな顔をしている。どうしたんだろうか、さては今日買ったチョコが溶けて大惨事とか? 意外に触っても溶けないけどお口で溶けるタイプのチョコは気を付けないと溶けちゃいますよ小猫さん。
「まぁ、チョコはあったかいところに放置しちゃダメだから」
「……? それよりも、お話があります」
何か違ったみたいだ、やっぱりチョコじゃないとしたら……まさかペロキャン落としてアリにたかられたとか、そんなちっちゃな子供みたいなこと……いや、まさかね。いくら小猫さんでもそれは考えすぎか。
「……ちゃんと聞いてください」
「ちょちょちょ、耳は、耳は引っ張ったら……イデェ!!」
小猫さんの怪力で耳を引っ張られ、本当に裂けるか、それとも剥がれるかぐらいの痛みが耳を襲う。少しは手加減してくれたって良いじゃないか。
「わ、分かった、分かりました! ちゃんと聞きますって、いや聞いてますから!!」
そう言うとやっと小猫さんは手を離してくれた……今、耳ついてるな? 血とかダラダラ流れてないな?
「ちゃんと、連絡をください。皆が心配します」
痛いところを突いてきた。確かに、最近俺はあまりにも無断欠席が多いからな……山田とかも心配してたし、小猫さんも少し気にかかってたみたいだし、なんだかんだいっても、あの人外教師小松原も気になるんだろう。俺も少しそういうことは怠らないように気をつけないと。
「あー……それは俺も気を付けるよ。最近無断欠席が多くて連絡つかないことが多かったし、ごめん」
そう言って頭を下げて謝る。最近、何度も小猫さんに謝ってるような気がする。理由は主に、俺がこういう風に人に心配かけたせいで。やっぱり少しは自分でもこまめに連絡を入れるべきなのか? 明日空港に着いたら小松原に電話入れるか。
「……本当に、約束してくれますか?」
どうも、その一言だけでは信用できないらしく、相変わらず不機嫌そうな顔をしている……いや、もしくは怒っているのかもしれない。
やっぱり何度も何度も約束破ったから、あまり信用されなくなってるな、俺。まぁ自分のしたことだから仕方ないことだけどさ。
「誓います、指切りげんまんだってやってみせますよとも」
「それなら……」
そう言うと小猫さんは、手を指切りげんまんをやるときの形にしてすっと差し出してきた……マジですか? いや、しかし……今約束した以上これをやらなきゃ男が廃る。これくらいやらなきゃな。これで人の信用を取り戻せるなら安い。
「あー……はい」
俺も同じように手を差し出すと、小指を軽くお互い絡み合わせる。
「「ゆーびきりげーんまん嘘ついたら針千本飲ーます。指切った」」
例のお約束の歌を歌って指を切る。こういうことをやっていると、ちっちゃい頃に戻った気分になる。
「ほいほい、これで嘘ついたら俺は針千本飲まされる訳ですか」
「嘘、つかないでくださいね」
一応形式上とはいえ、しっかりとした約束をしたせいか、小猫さんはさっきよりは怒ってはいないようだ。
「いやまぁ、連絡はこまめにするつもりだから」
「本当ですね?」
「うん、本当です本当です。ジャパニーズウソツカナイ」
「……怪しいです」
思わずくだらないことを言った途端に、小猫さんに怪しばまれてしまった――やはり、インディアンウソツカナイ方が信憑性が高かったか?
「いやいや、冗談はともかく気をつけるから、本当に」
「分かりました」
小猫さんの子猫の様な警戒心もやっと解けたのか、なんとか納得してもらえたようだ。
「それじゃ、俺は明日の用意がまだあるんで」
「さよなら」
「ほい、さよならー」
お互いに別れを告げて教室を出ると、俺は明日に備えての事を色々考えていた。
チケットはどうにかして取ったエコノミーのがあるし、パスポートもある。あとは着替えを持ってってサバイバル用の救急キットも、配布されるかわからんし一応持ってって、後は……水かな? 外国の水は腹を壊しやすいらしいからミネラルウォーターを何本か多めに持っていこう。
――明日から、訓練と修行の3週間が始まる。
そう自分に言い聞かせながら、俺は明日へと備えた。
どうも。
ケースケ君の行動力がとてつもないですけれど……まぁ、人間としてD×Dの世界でオカ研メンバーや堕天使勢に関わっていくわけですし、これくらいは仕方ないかもしれませんね。
さて、次回から”ケースケ君の愉快な新兵訓練編”になります――――と言えたら楽だったんですけれども、残念なお話です。
実は、アメリカに行く話……全然書いてません。ハイ、一文字どころか新規小説作成のボタンすら押してません。よって、ここから更新未定――――になりません。
なぜかと言うと、もうアメリカ編は番外編という形で設けて、”ケースケ君がレベルアップした”ということだけを一応本編に繋いでいくことにしたからです。
こんな見切り発車の小説が、ここまで見ていただいたのも全ては、皆さんの深いご理解と、東京湾より深い情けとお慈悲の心でこの小説は成り立っていると思います。
ですので、謝罪と感謝の意をこめて――――本当に申し訳ありません。
結局、今後どういう形になるか、といいますと。次話はケースケ君はアメリカから帰還した後のストーリーとなります。
本当に、改めて、申し訳ありませんでした。次話もunatというどうしようもない屑の作品でよろしければ、ご期待ください。