第18話:ケースケ、学校に帰還す
――今日は、記念すべき……かどうかは分からないが、俺が修行後に初登校する日だ。見慣れた学校の風景も、校内の雰囲気も、匂いも、空気も、3週間という長いような、短いような時間のせいで、すっかり懐かしく思えてきた。
校内に入り、足を一歩一歩進めていくとあの、いつも俺が通っていた教室が近づいてきた。
「これより出席点呼を行う。相葉……井上……」
教室に近づいていく旅に人外――小松原の懐かしい、出席点呼をする声が聞こえてくる。久しぶりに、奴にもご挨拶をするとしようか。
ドアに手をかけ、ガラガラ……と開ける。周りの目が俺に寄せられる、がもう人の目なんてどうでもいいぐらいに俺はこの懐かしさを体感していた……そして、一言。
「アメリカから帰ってきました!」
「おお、帰ったか若葉!」
そう言いながら小松原が親しげに近寄っているが……わかるぞ。コイツ、俺に一発かます気だな? コイツの足の動き方や、微妙な手の仕草、そして何よりコイツの性格からして、何をする気かが手に取るように分かる。
「では……確かめさせてもらおうか!」
予想通り、奴は俺に掌底を放ってきた。俺はこれを片手で軌道を逸らしていなし、奴の腕を右手で掴むと、左腕で奴の顎めがけて同じように掌底を放つ。が、やはり回避されてそのまま頭突きを一撃食らわされた、相変わらずの威力だ。
「今までよりかなり腕を磨いたようだな若葉、だがまだまだお前では俺に勝てん」
それもその筈、奴のレベルを測ろうとしたけど、できなかった。どうやら、自分よりあまりにも強すぎるとレベルが測れないようだ。リアス先輩はというと、最初は測れなかったけれど今なら測れる自信がある。
「まーもしこれで先生が負けたら一気に自信喪失して老いてくたばっちまいますからね。中年と老人から芸を取るもんじゃないとも教わったんで」
「フン、弱い犬ほどなんとやらだな」
「いつか超えてみせますよ、いつかね」
そんな感じに互いに言葉を交え、席へ着く。小松原も、さっきまでの一瞬の交戦も何も無かったように振る舞い、朝から注意事項だの説明している。と、ここで山田が話しかけてきた。
「なぁ、お前……若葉か?」
いきなりな挨拶だなオイ。確かに、初日にバリカンがガリガリ芝刈り機のように俺の髪を刈り取って行ったせいで未だ髪が短めだし、筋肉が引き締まったからちょっと、というよりかなり雰囲気は変わっているかも知れない。
「当たり前だろ、ってか俺をどういう風に見てるんだ」
「アーノルド・シュ●ワルツネッガー」
あそこまで筋肉ついてないぞ俺は。それに、自分で言うのもなんだが、シュ●ワちゃんここまで細身の筋肉質の男だったか? それとも俺の体に筋肉が異常に付いたのか。
「まぁ、シュワちゃんに一歩近づいたならいいや。あと俺寝るから……眠い」
俺はバッグから柔らかいクッションを取り出してそれに顔を半分埋めるような形で眠りについた。一時間目が何の科目だろうが、今の俺には関係ないぐらいに眠気が襲ってきている……とりあえず、寝よう。
※
「……きてください……ケさん。起きてください」
俺の睡眠が浅くなってきた頃、誰かが俺を呼んでいるような声がした。もう少し、もう少しだけ寝かせてくれ……あと、あと10分……。どうせ今日はもう全部フケるんだ……教室に居ながらしてフケるってのもかなり勇気があるだろうけど、それより何より眠い……今日学校休みゃよかった。
「……えい」
俺が反応しないことに苛立ったのか、小さい女の子が耳元で何かをささやいたような気がした。この声……どこかで聞いたような
「アガベッ!?」
突如、俺の耳の少し上のところの骨の辺りに猛烈な衝撃が走り、心無しかピキュッ、ていう怖い音が頭の中に響いた。
「目が覚めましたか?」
「あががっがあがががががっがっがががががが頭が頭が頭がっ……!」
頭痛と衝撃でジンジンしている頭を無理やり起こして、話しかけてきた人であろう人物を見上げると、案の定そこには小猫さんが居た。どうりて、どうりてここまで骨にも響くダメージを与えられるわけだ……後でちょっとレントゲンでも外科医に取りに行こう。
「大丈夫ですか?」
「いや、小猫さんあーたこれやっちゃ不味いやつだって、自分で分かって言ってるでしょ……って、あたたたたたたた……」
北斗百烈拳をやってるわけでも、北斗壊骨拳を受けた訳でもないが、今俺の頭は猛烈な痛みと衝撃はミックスされている。これがいわゆる脳を揺さぶる攻撃だとでも言うのだろうか。
「これから、イッセー先輩のクラスへ行くので、一緒に来てください」
「え? 先輩の所? あのアイスキャンデーペロペロはもう許してあげてくださイテテテ……」
何か言おうとするたびに、頭に言葉が響いて頭痛を呼び起こす。これで耳元で何か叫ばれた日には、俺の耳から脳髄が出てきてもおかしくないってぐらいには痛い。
しかし先輩のクラスに行くということは……ああ、そうか。
もうストーリーは始まっているのか……察するところ、イッセー先輩はレイナーレさんに刺されてドーナシークさんと鬼ごっこ♂した次の日辺り……ストーリーが始まるまでに色々と準備をしたかったのだけれど、急ピッチで色々と準備せにゃならんな……間に合わせるしかない、か。
「聞いていますか?」
「はいはい、聞いておりますです」
小猫さんは、またもや俺が話を聞いていないと思ったのか構えてきたので、慌てて俺は返事する。もしあの攻撃をもう一発食らうものなら、北斗神拳喰らったモヒカンと同じような末路を迎えるかもしれないし、それだけは勘弁だ。
……ちなみに、構えを見てみると、小猫さんはどうみても手がデコピンをする形をしている。あれデコピンだったのか……人一人殺れるぞ?アレの力で、もし指弾を使ったら大変なことになるだろう。恐るべしルークの小猫さん。
「行きましょうか」
「はいはい、お供させていただきます」
小猫さんが移動し始めたので、俺も後に続く。さながら気分は桃太郎の後に続くサルとかキジとかイヌみたいな感じだ……案外小猫さん桃太郎の格好似合ってるかもな、それっぽい。ただ、万年無表情で営業してるから鬼に勝っても喜んだ表情とか見れなさそうだけど。
※
「イッセー先輩、いいですか? リアス先輩の使いです」
小猫さんが先に教室の入口に立ったので俺は横で待機。どうやら、木場先輩の代わりに小猫さんがリアス先輩の使いに選ばれたらしい……これも、俺がリアス先輩達に関ったことと関係あるのだろう。
「ああ、小猫ちゃんが……」
「はい、ケースケさんも居ます」
そう言って小猫さんが一歩、俺が見えるように下がった――俺と小猫さん、10cm以上は身長差があるから、別に下がらなくてもいいんだけど……。
とりあえず、俺も居るということを言っちゃったので俺も先輩に挨拶をすることにした。
「先輩、お久しぶりっす」
「お前っ……俺を差し置いて小猫さんと二人っきりでいたのか!?」
「いや、二人っきりってなんすか、二人っきりって」
先輩の妬みっぷりと、性欲への忠実さは呆れる程にいつも通りで、何だか……。3週間ぶりに会ったのに、いつもと変わらぬ反応だし。
先輩はちょっと性格と行動を直せばモテるだろうけど、あんなんじゃあモテるわけがない。なんというか……うん、残念すぎる、色々と。
どう育てばここまで年中発情期とかウサギみたいな人間になれるんだろうか。ただ惜しむところは、その性欲のおかげで、先輩の神器は強い――何か複雑な気分だ、後輩として。
「イッセー先輩、小猫さんの事もいいですが俺等はリアス先輩の使いできてるんですからね、そこんところ忘れないでくださいね?」
先輩は多分、いやおそらくきっと小猫さんとの事でリアス先輩の事が空気になっているだろうから、念を押して注意しておこう。この性格のまま社会に出たらエラいことになりそうだし、さっさと直して欲しいもんだ……悪魔の社会がどうなってるかなんて事まで知ったこっちゃないが。
「そうだ、先輩は俺に使いが来るって言ってたけど……」
そう言うと先輩は思い出したかのように俺に話しかけてきた。まぁ、予想は出来ていたけれど……やっぱり完全に忘れてたな、鳥頭過ぎやしませんか先輩。
「付いてきてください。ケースケさんも」
「分かったよ小猫ちゃん。ほら若葉、お前も来いよ!」
「了解っす」
スタスタと歩き始めた小猫さんの後に先輩が続き、その後ろに俺が続く。まるでドラ●ンクエストを思い出すかのような、並び方。今は三人パーティだから、小猫さんは動物に変身させられた王女様役か。
またはお転婆ではないけど、武闘家のお姫様とその付き人とかそんな感じか。どちらかといえば、後者も捨てがたいが前者もなかなか……。
そんなことを考えながら、新校舎から旧校舎へと移動し、オカルト研究部の部屋の前へと到着。この中にリアス先輩含め木場先輩とかも居るんだろうか。一応、木場先輩とは初対面のはずだから挨拶しなきゃいけないな。
後は……あー、そういやそろそろはぐれ悪魔のバイザーっていうのが出るんだったっけ? 訓練の成果を試させてもおらう。確か討伐の命令が出るのはもう少し後だけど、それよりちょっと前に居るだろうし今夜あたり行ってみるかな。
そう考えていると、コンコン、と小猫さんがノックする。
「イッセー先輩を連れてきました」
「入っていいわ」
「「失礼しまーす……」」
リアス先輩から入室の許可が出たので先輩に続いて俺も部屋に入る。中に入ると、この部屋の独特の雰囲気と匂いが俺のトラウマを刺激してなんとも言えない気分だ。
「掛けていいわ」
そうリアス先輩が言うと、姫島先輩が二つの紅茶を運んできた――――つまり俺にも座れということか。お言葉に甘えて、イッセー先輩と一緒にソファに腰掛ける。
イッセー先輩は、姫島先輩の淹れた紅茶を飲んで、満喫しているようだが、いかんせん紅茶に手を付け難い。なにせ、一回一服盛られたのを引きずっていて、何も盛られていないというのが分かっていても、どうにも手が進まない。
「ほら、お前も飲めよ。姫島先輩が作った紅茶だぞ」
俺が紅茶に手をつけないのを不思議に思ったのか、イッセー先輩が勧めてきた。さすがにこうまでされると、手を付けないわけにはいかない――の、だけれども……。
「あー……砂糖ないですか?」
「はい、ここにありますわ」
苦し紛れに紅茶を飲む時間を延ばそうと、砂糖を貰おうと頼んだ。すると、すかさず姫島先輩が角砂糖の入ったカップを机に置く。相変わらず先輩は手際がいいなぁ……じゃない。
―――手ェ、付けないとさすがに失礼だよな……。俺の行動から、どう考えてもまだ疑ってるようにしか取られないし、それで姫島先輩が悲しそうな顔をして、こっちを見てくるのもかなり困る。何が困るって、悲しそうな顔、いかにもポッキリ折れてしまいそうな感じが、しおらしさと申し訳なさを引き立てるからだ。
とりあえず、角砂糖を2つほど紅茶の中に入れてかき混ぜる。砂糖は綺麗に溶かされていき、あっという間に消えていった……さて、どうするか。
「そんなに躊躇わなくても、大丈夫ですわ」
ここで、俺が難しい顔でもしていたのか、姫島先輩がそっと耳打ちしてきた。情けない、姫島先輩に心配かけてしまった……幾らなんでもさすがに失礼だぞ俺、腹をくくれ!
意を決してカップを持ち、傾けて飲む。口の中に、ほんのりと砂糖の甘さと紅茶の上品な香り、ミルクののど越しが相まって……
「……美味しいです」
思わず、ポロッと口に出してしまったが本当に美味い。やっぱり、良い茶葉を使ってるのだろうか。
それを聞いた姫島先輩が、少し嬉しそうな顔で微笑む。結構、気にかけてたんだろうな……あの件。俺はもう、そこまで気にしてないけどさ。そこまで気にすることなのだろうか、ドSなのに…………いや、流石に失礼すぎるなこれは。先輩だってドがつくSなんだろうけと、優しい一面があるんだろう。
確かに、自分の所為で人が一人死にかけたら、その人に対して何らかの責任感を抱いてもおかしくない……うん、人なら。決して姫島先輩が悪魔だから、というわけじゃない。姫島先輩だってリアス先輩だって、畜生道に堕ちきったようなイッセー先輩だって、俺の中じゃ、ちゃんとした人だと思っている。
「さぁ、これで全員揃ったわね」
完全に俺が気を抜いた所でリアス先輩が話を切り出してきた……けど、なんで俺まで? 俺はここに別に必要ないよね? なのにここにいるのは何故だ。
……まぁ、ある程度先輩達は信用してるから別に変に疑う必要もないな、あまりまたギクシャクした感じを作りたくないしな。
「私達オカルト研究部は貴方達を歓迎するわ」
「「はぁ……」」
貴方達? 何か俺まで勘定に入ってる? いやいやいや、俺悪魔とかそういうのノーサンキューですよ、遠慮します。それに、ポーンの駒とか余りはあるんだろうか……いや、悪魔になりたい訳じゃないぞ?
もし悪魔になろうものなら、カラワーナさんやテルミット反応辺りに、体中を串刺しにされた挙句、蔑まれた目でこっちを見てくるだろうし、流石に俺だってまだ死にたくない。
「単刀直入に言うけど私達は悪魔なの。もちろん、若葉君は違うけど」
「はぁ……」
まだ何を言ってるのかを理解できてないイッセー先輩は、ボケっとしたまま話を聞いているが……まぁ信じられない話だよな。いきなり私は悪魔ですとか言ったら、完全に頭のおかしい人だろうし。
「このオカルト研究部は私の趣味みたいなものなの」
「はぁ……」
イッセー先輩はまだ話が飲み込めていないらしく、適当に相槌をうっている。
「昨日の男、あれは堕天使よ」
「……っ」
おそらく、ドーナシークさんとの出来事を話すと、さっきまでとは打って変わって、イッセー先輩の顔が強ばった。なるほど……やっぱりゲイのドーナシークさんに追っかけられたらそりゃ誰だって強ばるよなぁ……トラウマになっても仕方な、じゃなかった。
そんなイッセー先輩を放ってリアス先輩は話を進めた。
「神に使えし存在でありながら、邪な感情を抱いた為に冥界へと堕ちた存在よ。彼らは人間を操り私達を滅ぼそうとしているの。冥界――――人間でいう地獄の覇権の為にね。堕天使の他にも、私達を滅ぼそうとする天使も居るの。つまり三すくみの状態ってわけね」
「……はぁ」
こんな事を切り出したリアス先輩に対して、イッセー先輩はまた、気の抜けた返事をしだした。さっきまでの強ばった表情はどこへ行ったイッセー先輩。まぁ、唐突にそんなことはなされても困るだろうけどさ。
「二人ともここまでは理解できたかしら?」
「
はい、まぁ」
「いやぁ……ちょっと、普通の高校生には難易度の高いお話っていうか……」
俺とイッセー先輩が一応返事をするが……この話、絶対信じてないだろ先輩。アンタ、ドーナシークさんに殺されかけたので大体理解できるだろうが。それにこの手のゲームも一応詳しいじゃないか先輩。
「……天野夕麻」
「っ!!」
リアス先輩が”あの名前”を口に出した瞬間、イッセー先輩の顔が強ばった。そうか、やっぱり刺されたのか……。
「忘れてはいないでしょう? デートまでしたんですもの」
「あのっ……!」
イッセー先輩が、真剣な顔でリアス先輩に話しかけてきた、さっきよりもずっと深刻な表情で。
「何処でその名前を知ったのかは、分かりませんけど、それをオカルトとかで話されるのは、その……不愉快なんで、すみませんけどっ……!」
「先輩……」
えも言えぬ表情で、イッセー先輩はそう言うと席を離れようとする……が。リアス先輩が懐から一枚の写真を机に置いた。
「「これは……っ!?」」
写真を見た俺と先輩は、ほぼ同時に息を呑んだ。イッセー先輩は目の前の写真に、消えた彼女が写っていたを知って。
そして俺は……あの、忘れもしない黒髪の給仕さん、御影さんがそこに写っていることを知って。
どうも。今回は前回の通りアメリカでの修行を終えたという話になっております。
さて、いよいよです。長かった前置きが終わり、ストーリーが始まります。これからがケースケ君の本当の戦いです……打ち切りはしませんので、ご安心を。
これから、パワーアップしたケースケ君がどんな活躍をするかの……乞うご期待ください。