「ん……今、何時だ?」
朝日がカーテンの隙間から差し込み、自然と目が開いた。目は覚めたものの、まだ頭はぼんやりとしている。今日はいつもより居心地のいい朝だ。しばらく天井を見続けているとようやく頭が回転し始めた。
「朝食、作るかぁ……」
ボソッと呟き、起き上がろうとすると片方の手が何かに軽く当たった。
「ん? 何だこ……っ!?」
隣に何か、丸いのがある。いや、正確に言うと俺の布団が何故か少しデカくなってて、デカくなった部分に人の大きさ程の何かが、俺の掛け布団の下に潜んでいる―――誰?
恐る恐る掛け布団を引っ剥がすとそこには……カラワーナさんが居た。しかも寝巻きがよく分からないが大人っぽい。
不法侵入はまぁカラワーナさんなら出来そうだからおいといて、俺カラワーナさんに住所教えたっけ? まぁ住所特定された程度でもう驚くことではないけど、何で俺の布団で寝てるんだ……?あれっ?俺昨日の記憶が消えてるぞ? も、もしかして昨日っ……!
※
「汚い所ですが……どうぞ」
そう言って俺は自宅のドアを開ける。今日はカラワーナさんが料理を教わるついでに泊めて欲しいとのことだった。
「ああ。今日、突然泊まるなんて言ったが……本当に大丈夫なのか?」
部屋に入る前に、カラワーナさんはどうやら俺に対して少し遠慮があるのか、自分で言ってきたことなのに少し躊躇っているようだ。
「大丈夫っすよ、どうせ俺一人暮らしなんで」
「そうか……分かった」
そう言ってカラワーナさんは中へと入っていったので俺も中へ入り、ドアに鍵をかける。最近少しだけ寒くなってきた。やっぱり雨の降る日は何処か肌寒い日が多いな。
「さて、早速だが……」
そう言ってカラワーナさんは台所へ行き、俺があらかじめ用意した材料を並べているのを、俺はぼんやりと眺めている。教え方としては、まず料理のお題を出して、基本的に俺があれこれ言わず、カラワーナさんに必要最低限の事以外は任せ、補助が欲しいときは回数制限を設ける、という方針にしている。
カラワーナさんは野菜を取り出し、水で洗うとそれぞれ一口サイズに切っている。やはり今まで教えた結果が少しずつ出ていっているようで何よりだ。
「う……何か急に眠くなってきた」
突如、なんの前触れも無く眠気が俺を襲ってきた。俺何かしたっけなぁ……? とにかく寝るな俺。ここで寝たら俺がここでカラワーナさんが頑張ってるところを見れない…じゃない……か。
「どうした? 寝るのなら寝てもいいぞ。料理ができたら起こしてやるからな」
「う……すいません。少し寝ます……」
そう言って俺はリビングで座布団を枕変わりにして横になる。すると意識が自然と溶けるように消えていった……。
※
「ん……ん?」
気がつくと目の前でカラワーナさんが俺の頭を撫でていた……えっ!?
「カ、カラワーナさんっ……!?」
「あ、いやケースケこれはっ……」
俺が起きたのに気づいたカラワーナさんが慌てて手を離して弁解し出した……そうか、坊主にした後だから特に短い後頭部の髪の部分とかザラザラしてて面白い触り心地なんだよな……仕方ない、というべきか……?
いや、これはカラワーナさんをイジるチャンスだ! きっと久しぶりに意地悪してもいいよという神様もとい、じーさんの御告だ! そうだそういうことにしよう。
「触りたいなら言ってくれればオーケー出しましたよ~?」
そう少し意地悪にニヤニヤしながらそう言うとカラワーナさんは少し動揺して返してきた。
「ち、違うぞ? お前が何時までも寝ていたから叩き起そうとしただけだ」
「ほぉ……随分ヤサシク叩き起してくれたようで」
ここまで追い込むと流石にカラワーナさんも観念したようで
「……ああ、分かった、認める。お前の頭を撫でていたさ」
と、諦めたように言ったがすぐに気を取り直した様子で
「……じゃあ、お前の頭を撫でてもいいな?」
と言ってきた。
「……えっ!?」
「お前が大丈夫なんだろう、なら撫でてもいいな?」
マズイ、してやられた。明らかに自分の発言で墓穴を掘ってしまった。
頭を撫でられるのは男として、非常に恥ずかしい。しかもやたらカラワーナさんの手つきが優しかったので更に恥ずかしい。
ここで俺は少し身じろぎをしてしまったので、動揺を誘えたと踏んだカラワーナさんが更に迫ってきた。
「どうした、撫でていいなら逃げる必要がないだろう?」
「あ……いや、それはっ……」
駄目だ、ここからどうやって逃げれば良いか分からない。とりあえず距離を取ろう。
「と、とりあえずトイレっ……」
トイレに逃げ込んで戦略を練り建てようとすると、カラワーナさんが後ろから抱きついてきた。主に胸と胸と腕が背中に当たっている。
これは不味い、俺の思考回路が半分以上ショートし始めてきて、少しヤバい事になってきた……耐えろ、耐えるんだ俺の理性と思考回路よ。これは間違いなく場の雰囲気にノったら不味いヤツだ。
もし、これで俺が間違えてでもカラワーナさんに襲いにかかった日には、間違いなく俺は、逆十字か十字架に貼り付けられて、西暦0000年誕生の人よろしく鞭打ちやら、槍で生死確認とかされるに違いない。
「ケースケ……私はな、お前が何時しか何処かへフラッと行ってそのまま消えてしまうんじゃないかと、そう思うと怖いんだ」
「カ、カラワーナさん……?」
俺がどうにかして理性を保とうと奮闘していると、カラワーナさんはさっきまでとは違って真剣な声で、俺の傍で囁いた。
「かつて……私が好きだった男がそうして消えたように、お前が居なくなるんじゃないかと……お前が居なかった間、ずっと……!」
「なぁに言ってるんですか、カラワーナさん。俺はそう簡単に死にゃしませんよ、今ここで世界が終わらない限り。……でも、アメリカの件は正直言ってすいませんでした。連絡も無しに」
あえておちゃらけた感じで、カラワーナさんに謝る。
やっぱり、そこまで不安だったのか……小猫さんの件といい、やっぱりどうも周りの人に心配させる癖がついたようだ。さっさとこの癖を治したいもんだな。
「……すまない、私の所為で要らぬ世話をかけた」
「いや、俺も連絡しなかったのは事実っすから……」
なんとかカラワーナさんは一安心したのか、落ち着いたようで俺から離れる。冷静になった後に思えば、少し嬉しいハグだったからちょっと残念だった。
「さて、すまないがシャワーを借りてもいいか? 少し気晴らしがしたいからな」
「ああ、いいですよ。えっと風呂場はそこです」
「分かった」
そういうとカラワーナさんは風呂場へと入っていった。駄目だ、ここでまた睡魔が……?
※
「おい、起きろケースケ。ここで寝たら風邪を引くぞ」
「ん……あぁ、また寝てた……?」
目が覚めると俺はカラワーナさんに揺すり起こされていた。ううん、今は……23時かぁ、駄目だもう眠さも疲れも限界突破。これはカラワーナさんの料理を明日食べることになるか。残念だが俺はもう限界だ……。
「カラワーナさん……俺、もう限界っす」
「ああ、分かった。寝室まで連れていこう」
そう言うとカラワーナさんは肩を貸してくれてカラワーナさんに歩くのを手伝ってもらう形で、寝室へ入った。布団は予めってか敷きっぱなしだったので好都合だ。
「うー……すんません。先に寝させてもらいます」
「ああ、遠慮するな」
俺は布団に入ると完全に意識が飛んだ……。
※
「――なんて事があったりしたのかっ!?」
そ、それでカラワーナさんが俺の布団に入って――うはぁっ! これ以上考えてたら頭がパンクしそうだ。
どうしようか、”責任、取ってもらうぞ”とか言ってきた日には……俺、親父や母さんに顔見せが出来なくなる。
いやいやいや、そもそも堕天使と人間の間に子供は生まれるのか……?いや、無理か。流石に、人種が違うくらいだったら良いけれど、人種どころか種族が違うんだから。
「ん…………ケースケ?」
「あっ、カラワーナさん、少し騒ぎすぎましたかね?」
慌てて様子で俺が体勢を立て直して、とっさに正座をすると、カラワーナさんは寝そべって頬杖をつきながら、少し意地悪そうに笑う。
「どうした? 昔みたいに”さん”付けとは寂しいな。いつものように呼び捨てで構わんぞ?」
「なっ……あっ、えっ!?」
突然の事に、俺は何が何だかちんぷんかんだ。俺、いつの間にカラワーナさんとそこまで深い仲になったっけ!?
そそそ、それともカラワーナさんの悪戯か!? うんそうだ、きっとそうなんだ! これはカラワーナさんが俺に悪戯をしているんだ、そうだそうだ。そういうことにしよう。
「と、とりあえず朝食朝食……」
今の俺の頭では状況を理解できないので、頭をフル回転できるようにするために、朝食の準備をしようとすると、カラワーナさんも起き上がる。
「それは私の仕事だよ。それにもう準備は済ませてあるから気にするな。だから……」
そう言うと、カラワーナさんは俺に近づいてきて顔と顔が触れそうな距離にまで近づいて――――俺とカラワーナさんの唇がくっついた。
紛れも無くキスをしたのだ、俺とカラワーナさんは。
「――――っ!?」
何が起きたのかよく分からないが、自分の顔が真っ赤になっていくのが分かる。カラワーナさんはそんな俺を見てクスクスと笑う。
「どうした、いつもしていることだろう? ほら、私が朝の気付けをしてやったんだ。頭を醒まして朝食の出来具合を見てくれ」
「あー……はい」
俺とカラワーナさんは、一緒にキッチンへ移動してみると、確かに朝食の準備ができていた。ちゃんと味噌汁も作りおきがあるし、朝の分のサラダも冷蔵庫にある。
「これを昨日作ってみたが……ほら」
そう言うとカラワーナさんは俺に温めた味噌汁を味見用のスプーンにすくい、俺に突き出す。味噌汁の匂いが鼻をくすぐり、食欲をそそる。
「どれ……うん、美味い」
「そうか、それは良かった。じゃあ早速食べるか」
そう言うとカラワーナさんは食器を棚から取り出し、ご飯をよそり出す。しかも俺のお腹いっぱいにならず丁度腹八分目になる程度の絶妙な量だ。クソゥ、見るだけで腹が減ってたまらん!
「私の箸も取ってくれ。それだ」
「はいはい」
カラワーナさんの箸と自分の箸を取り、よそったご飯、その他おかずを机の上に置く。何というか、幸せだ。この幸せと共にご飯も噛み締めたいもんだ。
「それでは……戴きます」
「戴きます」
そう言って俺とカラワーナさんはご飯を食べ――――――――
「あがががっ!?」
気がつくと、俺は何かの木材を、歯で思いっきり噛んでいた。歯、歯が……オデノ歯ガボドボドダァ……。
「ち、畜生! 夢オチかい!!!」
そりゃそうだよなぁ、いきなりカラワーナさんと同棲とか、絶対ありえないもんなぁ……。それにまだカラワーナさん、千切り出来るか出来ないかだもんなぁ……。微塵切りをしようとすると、木っ端微塵にしようとするし。木っ端微塵切りはオニが覚えてるから要らないっての……畜生、泣けてくるぜ。
「おや。目が覚めたかね?」
「ん?」
声の方を見ると、見知らぬ老人が立っていた。そして、辺りを見て見ると、俺の居る部屋は洒落た洋風チックで、少し昔のヨーロッパを思い出す場所……。
辺りを確認した俺はおもむろに頷きながら、一言。
「ここ何処よ?」
どうも。
今回の話も、随分と短いんですけれども、一応、繋ぎの話なんで仕方ないです(震え声)。
さて、果たして見知らぬ老人は敵なのか、味方なのか! (一応、ネタバレすると、オリキャラです)次回を乞うご期待ください。