「ここは冥界、堕天使と悪魔が未だに覇権を競い争う世界だ。私の連れや私の案内なしでは人間界には帰れん」
まぁ、薄々とは気づいてたさ、ここが人間界じゃないってことぐらいはさ。
「あー……まぁ、ここが人間界じゃないってことはまぁ、薄々勘付いてました」
「ふむ、ならば話は早い。外ではあまり私のそばから離れないようにしてくれ給え」
そういうとペオルさんは、スタスタと中庭を歩いていく。俺もそれに続くが、いま少し思い出したことがある。
ここは冥界で、堕天使勢力もここにいるんだよな? 確かレイナーレさんは”上に内緒で”インなんとかさん……じゃない、アーシアっていうシスターさんからセイクリットギアを抜き取ったわけだ。つまりは元々上司に知られてはいけない、または知られては不味いこと、ということだよな?
ということは、俺がレイナーレさんの密かに行っている計画を、その上司に洗いざらい暴露したらどういうことになるんだ?これがとても気になる。もし、部下の命を大切にする上司とかだったら、運がよければレイナーレさんの計画をぶっ潰した後に、命ぐらいは助けてくれるんじゃないだろうか。
もしそうだとしたら、俺の計画はかなり楽になる。どのくらい楽かといえば、最初から各宝石を5個ぐらい持ってメガテンストーリー始めるぐらい楽だ。とりあえず、人間界に戻る前に堕天使勢力の本部的なところに行くことにしよう。
「ペオルさんペオルさん」
俺がペオルさんに話しかけると、ペオルさんは歩きながらこちらを見ずに返す。
「何かね」
「万万万が一、はぐれたら大変なことになるので合流地点みたいなところを決めませんか?」
これは無論きちんと合流するためであり、実際にペオルさんとはぐれたら俺が無事に人間界へ帰れる確立が皆無に等しくなるからだ。
まあ、やろうと思えばリアス先輩のお家にお世話になるという手も無くは無いけれど……多分、無理。
俺の質問に対して、ペオルさんは少し考えた後、何かいいアイデアでも浮かんだのか、こちらに振り向いて答えた。
「ふむ、ならば……冥界には有名な待ち合わせスポットがある。そこを待ち合わせに使うとしよう」
「待ち合わせスポット?なんですかそれ」
分かりやすいところでいくと忠犬ハチ公の像があるところみたいな感じか?
「一度見てみるといい。君を帰すついでに冥界の名所を少し覗きに行く予定だ」
「名所ですかー……」
どんな場所なんだろうか。
もしかして、冥界版ス●カイツリーとかそんな感じなんだろうか? いや、そもそもあれは電波塔だから、冥界にTVでもない限り無いよな……?
※
「ここが、冥界で一番有名な場所だ。ここを合流地点にするとしよう」
そういいながらペオルさんが連れて来たの、は日本人ならおなじみ、あの有名な犬の像があるあの場所―――ってオイ。
「これ完全に忠犬ハチ公じゃないですか……」
そんな俺のツッコミをペオルさんは華麗にスルーし、この像について解説し始めた。
「この像は魔犬マガ公と呼ばれていてな、人間界にも似たような像があるらしい。奇しくも人間界にある像とこの像は元々ある悪魔とある魔犬の話が元になっていると聞いている。なんでも昔、禍々しい魔犬と禍々しい悪魔がいてな、その一人と一匹は毎日魔ブ谷を散歩するのが日課で――――どうしたのかね? 疲れきっているように見えるが」
「いえ、冥界ってそういう意味の冥界だったんだな……って」
もしかして、ここの初代あたりの魔王はこの世界を獲得するために、つるはしのような形をした破壊神を2~3回ぐらい呼び出したことがあるんじゃないだろうか。
「……?まぁいい。疲れているのなら何処かで、休みを入れるとしよう」
あんまりにも俺がくたびれている様に見えたのか、ペオルさんは気を利かせて近くで休む場所を探し始めたので、ここはご好意に甘えて――――じゃない。
とりあえず、第一目的は堕天使勢力の基地か何かを探すことだ。もし見つかったとしても、レイナーレさんの上司には会えないかもしれないけど、それは見つけてから考えればいい。
「あ、いえ大丈夫ですよ。それと……もしはぐれたとして行ってはいけない場所とかありますか」
「ふむ……ここら一帯は特に危険ではないが……いや、一つ。一つだけあるな」
「ほうほう、なんでしょうか」
堕天使勢力の駐屯地とかだったらいいなー。本部が何処にあるか分からないし、きわめて優しく親切に問いただせば教えてくれるかもしれない。
「ここから東……といっても方角は分からないだろう、ここから左に20キロほどいくとな」
そういってペオルさんは真剣な顔をして、東らしき方角を指差す。その表情からして、余程重要な事のようだ。
「ふむふむ」
「堕天使の本拠地がある」
堕天使の本拠地がある、と。なるほどなるほど、随分危ないもんだなぁ……って
「いやいやいやいや!え?堕天使の本拠地ここから左折20km先!? 近っ!?」
俺の動揺するのを見つつ、ペオルさんはさらっと答えた。
「冥界は意外と手付かずの地がほとんどでな、私達も好き好んでここに住んでいるわけじゃないさ。今は停戦中とはいえ、相手もうかうかと手出しはしまい」
ほうほう、そうだったのか……なかなかに肝が据わってるんだな、ペオルさん。そこら辺は貴族の貫禄といったところだろうか。
なんとか堕天使の本拠地を知ることが出来た。とりあえず、今の目標は堕天使の本部に乗り込んで堕天使の偉そうなのと会う事。よし、この目標を達成するとしよう。
「まあ、人間相手に堕天使が何かをするということもないだろうが……私達悪魔と接触したことが判ると、最悪殺されるかもしれない。そこは忘れないでくれ給え―――ん?」
俺の壱百八ぐらいあるんじゃないかという秘技の一つ、”一般人に紛れる”を使い、ペオルさんの視界から消える。ペオルさんには悪いが、ちょっと堕天使の本拠地を見てこよう。
「おい、オニ。聞こえてるだろ?ちょっと出入りするから準備しておけ。それとドワーフ、例の頼んでおいたブツは出来てるか?」
『おうよアニキ!出入りだって? 久しぶりだぜェ、腕が鳴るってェもンですよ』
『ワシを誰だと思っておる?神の武器をも作る職人じゃ、あんなもんすぐに出来たわい。しかし中々に面白いカラクリじゃのぉ……お主の注文も中々に興味深い仕様だったがの』
COMPの中のオニとドワーフの準備は万端らしい。なら、俺の準備も万端だ。早速堕天使本拠地へと歩みを進めよう。
※
「……よし無事拠点前に進入成功」
20kmほど歩くと本当に到着。足が重くなり始めているが、それくらいで音をあげてる場合じゃない。拠点前といっても、見張りもいなければ、見張り台の一つも見当たらない……停戦中、なんだよな?一応。
道中も同じく、詰め所とか見張りとか、そういったのは何も無かった。
これは逆に怪しい。これは、余程自分達の腕に自信があるということなのか。それとも、こうやって安心させた所を罠で嵌めるとか、またはここはダミーで嘘の情報が流れてるとかか?いずれにせよ、何かあるっていうことは確実に分かる。
でも、進むしかない。何か一つでも成果を得ないとわざわざ20kmも移動した意味が無いからな。
「おーいオニ、スタンバイ。あとドワーフ。例のブツはどうやったら取り出せる?」
とりあえずオニを召喚し、ドワーフも召喚しておく。どう作らせたブツを取り出すのか、それと使用方法も気になるところだ。
「うむ、これがお前が依頼した品じゃ。もう一つは今はまだ渡さない方がよいか?」
そういいながらドワーフが俺に差し出してきたのは10本近くある筒。筒といってもダイナマイトとかそんな危なっかしいものじゃないぞ?もっと平和的に使えるものだ。
「サンキュー。んじゃ、荒事は俺とオニに任せてくれよ」
「ワシももう少し若ければのう……」
そう言いながら少し残念そうに、ドワーフはCOMPに戻っていった。もう少し若かったら、どうするつもりだったんだ……もしや一緒に参戦するとか言い出すんじゃないだろうな。
「アニキ、これからどうするンで?」
一方のオニは随分と楽しそうにしている。最近まともな戦いがないからか?いや、まぁ戦闘になる確率はあるかどうか……結構低いと思うし、戦闘起きたら相手次第では死にそうだよな……。まぁ、どうにかなるんじゃないだろうか。いざとなれば、ここで無理矢理レベルアップするっていう手段もある。
「とりあえず、普通に入るか。普通に。いざとなったら、だからな? 戦ったりするのは」
「ヘイヘイ、分かってますよ」
オニは了解した、といってもやはり血気盛んだな……まぁ、一応俺の命令は聞いてくれるからこのまま召喚してたって大丈夫だろう。
「しっつれーしまーす。誰かーいませんかー」
ドアを開け、とりあえず入り口に入って呼びかける。
「…………」
返事が無い、ただの留守のようだ……いや、そんなこと思ってる場合じゃない。
困った、これは予測外の出来事だ……どうするかな。まさか、誰も俺が入ってきたことに気づいてないって事じゃないだろうな?
それとも、本当にここはダミーで堕天使の本拠地じゃ無かったって事か?
「と、とりあえずどうするかなー……うーん、困った」
「やっぱ間違えたンじゃねぇっすか?」
「いやでもなぁ……周りになんもないし、ここだと思うんだよなー」
うーん、どうしようか。どうする? やはりここは、最悪の結果を予想して用意したものを使う予定がありそうだな――――
「アニキ、とりあえず奥に……」
「あ、ちょい待ち。その前に」
とりあえず奥に言ってみる前に、ドアを無理矢理蹴ってドアの止め具を壊し、ドアを倒す。辺りに、ドアの倒れる大きな音が鳴り響き、遠くまで響いたようだ。
「よし、じゃあ行くか」
「イヤちょっと待てやアニキ」
俺がスタスタと奥に進もうとするとオニが呼び止めてきた。なんだ、兄貴分に対する口が相変わらずなっていないなコイツは。
「どうした、進むんだろ?」
「イヤイヤ、それよりなんでドア蹴り破ったンすか!?」
オニが慌ててドアの方を指差すが、俺は特に見向きもせず避難用のときの地図を見て、階段を探す。なるほど、ここから階段はそう遠くないなー。
「いや、だって……出入りだろ?これ」
俺がそう返すと、オニは何か納得がいっていないのか、やたらオーバーな手振りで返してきた。
「出入りって……ここまでガキ臭ぇことやるもンじゃあねぇでしょう」
「いいから、行くぞ」
そう言いながら俺は廊下にある、あの赤い懐かしい防災ベルの非常ボタンをプラスチックの部分を拳で破壊し、スイッチを押すとけたたましい音があたりに鳴り響く。うん、プラスチックが綺麗に壊れて気持ちいい。
「今の音は……!?」
ここで、流石にこの騒ぎに反応したのか誰か……といっても堕天使だろう。が、駆けて来る音が廊下から聞こえてきた。
「どうすンですかアニキ!見つかっちまいますよ!」
オニはやたら焦った様子で俺に耳打ちする。やれやれ、まだまだこういう経験を積み足りないなコイツは。
「焦るなって。よし、それじゃ……」
用意した筒のピンを抜き、音のした方向へと投げつけると、僅かな鈍い爆発音と共に、ここまで来るほどの濃い煙が立ち込めた。凄い煙幕だな……流石だ、ドワーフは良い仕事をしている。
「な、なんだこの煙はっ……?」
「何が一体どうなってる!?」
いきなりの防災ベルが鳴り響いたのと、あたり一面の煙に戸惑っているらしく、こちらに向かってくる様子はないようだ。ハハハッ、久しぶりにこういうことやったなぁ。
俺は楽しそうに笑いながらオニの方を振り向く。
「何事もたのしまねぇとな?オニ」
「まぁ、それだけは同感ッスけどねェ」
そんなやり取りをしつつ、煙幕に気を取られているであろう堕天使達を尻目に階段を上り、また途中で目に付いた防災ベルを片っ端から鳴らし続ける。気分はさながら小学生の悪ガキだ、だがとても楽しい!
「とりあえず派手に荒らすぞオニィ!」
「オウよアニキィ!」
そう言いながら、適当な階に煙幕を張りつつ階段を駆け上る。
「何だ!何が起こっている!?」
「どうやら何処かで火事が起こったらしい!」
何も知らない堕天使AとBは、あまりの煙に火事が起きたと思っているらしい。いいぞ、このまま混乱に乗じて一気にお偉いさんの所へたどり着こう!
しばらく階段を駆け上がり続けて、目に付いた男用のトイレの個室2つに俺とオニは忍び込んだ。
「とりあえず、ここで少し様子を伺おう。どうもお偉いさんみたいなのが何処にいるかわからんし、一番上に居るかと思ったけど、上に全然着かないし」
「いやアニキ、地図を見てたじゃないッスか。あれに書いてあったんじゃあないッスか?」
「残念だな、あれは一階の大雑把な見取り図だ。全くわかんねぇ……っと、誰か来た」
足音がするので静かに音を殺す。飯を食った後走ったせいか腹が痛いが我慢だ。
どうやら、廊下に2人いるようだ。その証拠に、2人分の足音と声が聞こえてきた。
「なにやら、下が騒がしいな」
一人は男らしい。声と口調だけで判断するとしたら、真面目そうだ。それに続けて、もう一人が返し始めた。
「ん~? 非常事態だったらここに連絡が来るはずだから特に問題ねぇだろ」
もう一人は、口調が軽い男だ。
真面目そうな方は、さっきまでの騒ぎに疑問を抱いているが、こっちの軽い方はどうも危機感が薄いのか、特に何も思っていないようだ。
「だとしてもこの騒ぎは異常だろう」
真面目そうな方が軽い方にそう返す。どうやら、このままやり過ごせそうだ。
声からして、二人ともそれなりに若いな……もしかしたら軽い口調の方がここの幹部だったりして。いや、流石にないよなーそんなの。ありえないありえない。
「んじゃ、騒ぎの本元を確認するか?」
「ああ、そうしたほうがいいだろうな」
そう言いながら、足音と声はまだこの階から聞こえてきている。
うーん、さっさと下の方に行ってくれないものだろうか、ちょっと催してきた。音を立てるような行為はしたくないんだよなぁ……。
「っと、その前に出すもん出してくる」
「全く……では先に下に向かっているぞ」
「おう」
そんなやりとりのあと、足音一人分がこちらに向かっている。さっきの会話から察するに、口調の軽い方だ。
不味い、これは不味い。ディ・モールト不味い……済ませる方がデカイ方じゃありませんように。今、二つしかない個室は俺とオニが使っているからな……。
そんなことを考えているうちに足音はトイレに入ってきた。デカイ方ではありませんように、そうではありませんように。
そう祈っていると、祈りが通じたのか足音は小さい方へと向かっていき、チャックが降ろされる音がする。
「ふぅ……」
そんな声といっしょに小さい方の音が、静まり返っているトイレの中に響く。ああ、何が悲しゅーてこんな音を聞かにゃならんのだ。
「……なぁ、居るんだろ? さすがのアイツも騒ぎの本元がトイレの個室に隠れてるたぁ思わなかったみてぇだが」
おもむろに、軽い口調の男がこちらに話しかけてきた。どうやら俺等が侵入者だとバレているらしいな……ここはシラを切るべきだろうか。
男は。無言で黙り込む俺等を見透かしているかのように更に話を続ける。
「今は俺の部下がやられた、なんて話が一切ねぇから俺はお前にこうやって話している。目的はなんだ?」
”今は”ってことは後々怪我人が出てきたら俺らを敵と認識するってことか……これ以上の沈黙は危険……か。
「フフフ……フハハッ……ンフッ、ンフハハハハハハハハハッ!」
「ちょっ、ア、アニキィ!?」
オニが何か驚いているが気にしている場合じゃない。とりあえず、相手に舐められないようにそれなりの態度で返さんと。
今やっているのは俺の壱百八ぐらいあると思う秘技の一つ”3段笑い”だ。ただの悪役がよくやる笑い方をモノマネしてるだけとかそういうのは言わないお約束だぞ!
「よくぞ私がここに潜んでいると見抜いたな! その観察眼、恐れ入る。では私もそろそろ次の行動に移させてもらおうか」
そう言いながら俺は便座からすっくと立ち、大きく深呼吸をする。そしてジーンズのチャックを開けると、その音がトイレに鳴り響く。
「ア、アニキ?」
ここで、オニが俺に話しかけてきた。なんだ、俺の神聖な儀式を声で邪魔してからに。
「今俺は真剣なんだ。余計なことを言って俺の集中力を絶やさないで欲しい」
「イヤイヤイヤ、今ジーンズのチャックを下ろす音がしたと思うンッスけど!?」
オニが俺の行為にいちいち突っかかってくるので、今からすることをはっきりと言ってやらんといけないようだ……やれやれ、手のかかる舎弟だ。
「当たり前だ、俺は今からクソをする。止めれるものなら止めてみろ! 俺はもう便座に座り直しているぞ?」
「よくもまぁこンな状況で出せるもンッスねぇ!?」
余計なお世話だ、生理現象を止められる人間なんて、世界中のどこにも居ないだろうに……むっ!?こ、これは!
「不味い……規模が俺の予想外だ……単純に言うとスッゲェ太い」
「ンなことこっちに実況しなくていいッスから!」
オニがやたらと俺にツッコミを入れてきているが、今はそれに反応する余裕すらない。
ま、不味い……これは、下手をしたら裂けるかもしれない。クソッ、料理がうまいからってあそこまでたらふく食うんじゃなかった!!
「あー……なんでこんな時に催すかね、マジで。こんなことならここ来る前に済ませればよかったわ……料理が美味すぎるのがいけないんだ、そうあの料……」
そう言った所でふと、違和感を覚える。何か、とてつもない事を忘れている気がしてならない、そんな違和感だ。
何か――とてつもない――――
「あっ」
”アレ”を思い出してしまった俺は、うっかり声に出してしまったが、それどころではない。
思い出してしまった。思い出してはいけない、あの禍々しい物を。触れただけで激痛を起こす、あの禁断の物を。
「アニキ?どうしたンすか?」
オニが、今の声に対して並々ならぬ”何か”を感じ取ったのか、さっきとは違う声のトーンで俺に話しかけてきた。
「オニ……いいか?決して、決して慌てるな。これを聞いた瞬間、お前は絶望するかもしれないが、パニックは起こすな。いいな?」
「あ、ああ」
さっきとは違った俺の声と口調に、オニもかなり焦ってきているようだ。だが、これはオニにも起こるであろう災い。俺はその災いをオニにも告げなきゃならない。
「聞く覚悟は出来たか?」
しばらく、時間を置いてオニに覚悟を決めたかどうかを問うと、すぐに帰ってきた。
「勿論。俺ァ何が起きたってぇアニキに付いてくぜ」
頼もしい限りのオニの答えが聞けて満足だ。
だから、俺は告げなきゃならない。あの恐怖と苦痛を、これから確実に来る災いを。
「よし、じゃあ言うぞ。俺等――――」
ここで、少し震えてきた。これから起こる災いが怖くて、だ。だがそんな程度で震えてちゃ、オニの兄貴分失格だ。
震える声を無理矢理押さえ、勇気を奮い立て俺は、言った。
「―――俺等、ここに来る前に激辛スープ飲んじゃってるよ……」
あの激辛スープのせいで、もし裂けたら絶叫では済まされないぐらいの苦痛が訪れるかもしれない。下手をしたら最悪、あまりの苦痛に失神するかもしれない。
ああ、なんという恐ろしい災いなんだ!
「ちょ、オニ。ヤベェよこれ!」
「アニキ……俺、帰っていいッスか?」
焦りに焦っている俺に対してオニはやたら呆れ返った声で返す。ここまで兄貴分への思いやりがないとは……いや、そんなことを考えている暇はない。もうすぐそこまで来ている特大サイズの爆弾をどうにかしなければ……っ!?
「あ、いかんこれもう出る」
「えっ」
俺の一部に熱いものが集まっていくのを感じ取る。これは……間違いなく、”奴”だ。激辛スープの辛さはまだ残っているようでかなりの激痛が俺の体を支配する。
「――――っ!?」
声にならない絶叫がトイレに響く。そして、”奴”はとうとう顔を出して――――
※
「勝った、俺は苦痛に打ち勝ったぞ……」
結果的に言えば俺の門は奇跡的に破壊されることは免れた。多分俺の今までの人生でかなりの危機を乗り越えたといっても過言ではないだろう。
大きく深呼吸をする。大きな安息が俺に訪れる。よし……さっきまでの緊張もほぐれた。
「よし。オニは一回戻ってくれ、俺だけでいいだろ話をするのは」
「アニキ……いいんすか?」
オニは俺を心配しているようだが、俺はなんも問題ない。むしろオニの様子を見られる方がアレだし。
「安心しろ、お前までクソをし始めたらキリがないからな」
「ヒデェ!?」
そんなやりとりをしつつオニをCOMPに戻す。
とりあえずどんな奴かも分からんけれど、さっき”俺の部下”とか言ってたしおそらくはそれなりに高い階級なんだろう。話をしてみるのも悪くはないかもしれない。
そう思いつつ俺は個室のドアを開けると、さっきまで空気と化していた男がそこには立っていた。なんというか、さっきまでのやりとりを聞いて気が抜けた顔をしている。
とりあえず、自己紹介とまではいかなくても名前は名乗っておこう。
「えー、私、人間、若葉啓介。コンゴトモヨロシク……」
定型文となったような挨拶と一緒に軽い会釈をすると、男もさっきと変わって気を取り直して名乗り返してきた。
「俺の名前はアザゼル、堕天使どもをまとめている。気軽に総督と呼んでくれ」
そういうとアザゼルさんの背中から、6対と12枚の黒い翼がトイレの狭い部屋の中に広がる。ちょっと小便器に翼の先っぽが当たってそうで嫌だ……じゃない。
いきなり堕天使の頭と出会っちまったよ、コマンド?
どうも、私です。
ようやっと最新話になりました、相変わらず迷走していますね、ケースケ君。
そして、今回から更新ペースが3日に1度から不定期更新となります、ご了承ください。現在次話を鼻づまりと鼻炎に苦戦しつつ絶賛執筆中です。
いきなりアザゼル総督にエンカウントしたケースケ君がどういった行動をとるのか。
次回、『挨拶代わりは拳の交わり』。乞う御期待ください。
サブタイトルは流石に嘘ですよ?