とりあえず、今の状況を確認してみよう。
俺がはぐれ悪魔ことバイサーさんをとっちめたら、疲労によりダウン。その後、ペオルさんの下僕に連れてこられてあのお屋敷に。
それで冥界の名所、魔犬ハチ公を紹介してもらったあと、左折して20km進んだら堕天使の本基地。しかも初めてエンカウントしたのがどうやら一番上の人。
どう考えても、御都合主義でもそうそう見ないパターンだなこれ。物事がトントン拍子に進みすぎていて、逆に怪しい。
もしかしたら、これは俺を嵌める罠かもしれない。その可能性が万万万が一ということもあり得なくは無いし、下手に相手の要求を全部呑むよりは、こちらもその要求のいくらかを呑む代わりにいくらかこちらの提案を呑んでもらったほうがいいかもしれないな。
何にせよ相手は堕天使だ、油断の出来る相手じゃないだろう。今目の前にいる相手だって、一番上の頭というのも実は嘘で、影武者か何かかもしれない。
そう思いながら、俺は目の前にいる自称総督に話しかける。
「&M%G#ZZ>T?」
「……?」
どうやら、何を言っているのか分かっていないらしい。”何を言っているんだコイツは”とでも言いたそうな顔だ。
「DTO、&M%G#ZZ>TS($S>K)」
「すまん、確か若葉啓介とか言ったよな?名前からして―――日本人か、なら日本語で頼む」
「……ああ、そうか。こうしないと聞き取れなかったか」
うっかりしていた。ついついピクシー達と話す時みたいになっていた。相手はピクシー達とは違うんだったな……そういえば、ピクシーと最近話をしていない。たまにはリリムに血を吸わせたり、ガルムを風呂でシャワーしてやったり、エンジェルと話をしてやったりするのも悪くないな。
「何の言葉で話していたかは知らねェが……で、何の為にここに来た?」
さっきまでとは打って変わった調子でそう俺に尋ねる。
堕天使の総督だからか、物凄いオーラというのか、圧力を感じる。俺が計れるようなレベルじゃないのは明らかな、それもはぐれ悪魔程度じゃ比べ物にならないくらいだ。
仮にこれが影武者だとしても、影武者でこの程度ということになる。間違えてでも刺し違えたりしたくはないな。
「……やめとけ、お前じゃ俺には勝てないぜ?」
「えっ?あ、ああうん」
そう言われて、俺は初めて自分が知らぬ内に臨戦態勢に入っていたことに気づく。駄目だ、これじゃあ相手に舐められる。気をしっかり保て、俺!
「えーっと、で。ああ、そうそう。俺がここに来た理由?だったっけな……」
落ち着いて俺は今居る相手に伝えたいことを頭の中でまとめる。えっと、確か―――
”レイナーレさんがやらかして魔王の妹に喧嘩を売りそうだ”と伝えればいいのか?
待て待て、落ち着け俺。レイナーレさんの名前を出したところで、名前を知らない場合だったらどうする。それに、大雑把過ぎる。こういうことは事細かく伝えないとおかしな風に認識されそうだ。
「あー……ちょい、ちょい時間ください。用件が上手く纏まらないんで」
「いや、普通そういうのは考えてから来るもんだろ」
ごもっともな意見だが、そうもいかない。こちとら時間が無い、こうしている間にもイッセー先輩がアーシアさんに出会っているかもしれないんだ。頭を余計なことに動かす前に体を動かさないと。
「いやぁ、まさか入り込んでいきなり出会ったのが、一番上の総督……だったか。総督に出会うとは思わなかったもんで。誰も普通にトイレで出くわすとは思いもしませんがな」
「ああ、まあそりゃそうだろうな」
「ご理解いただけてどうも」
なんとか理解してもらったので、急いで伝える用件をまとめよう。簡潔に、早急に分かりやすい言葉で、だ。
「えーっと、まず。レイナーレっていう堕天使を知ってます?」
俺の質問に対して、アザゼルさんはしばらく思い出そうとして考え込むことおそらく10秒。
「いや、聞き覚えがねえな」
なんということでしょう、レイナーレさんは上司に認めてもらってそれなりの階級を目指すために、アーシアさんからわざわざセイクリットギアを抜き取ったというのに、名前すら覚えられていないとは。なんというか、少しだけ同情したわ。
「あー、んじゃそういう堕天使がいるというのは覚えていてください。んで、その堕天使がですね。どうもセイクリットギア所有者を巡って悪魔といざこざ起こしそうなんですね。というか、起きる予定です」
「なるほどな……別に構わんだろ、多少の小競り合い程度で俺が口出しするのは、俺の面子が立たねェ」
そうアザゼルさんは言い切った。どうやらこういう小競り合いはよくあるらしい。只、それはそこら辺の悪魔が相手だからだろう。もし相手が、リアス・グレモリーという魔王の妹だったら?
「いやー、相手が相手なもんで……しかも、レイ……その堕天使も堕天使で、無駄なプライドがあるもんで。相手が上級悪魔っていうのを知らずに意気込んでいるんで、間違いなく死にますね」
「……で、それがどうやったら俺に対して頼み事をする程のモンになるんだ?」
どうやら、まだまだ関心は薄いようだ。どうも、これは洗いざらい全部ぶちまけなきゃいけなくなるかもしれないな。それだけは、こちらが不利になるかもしれないので、完全に乗り気になるまで控えたいところだ。
「えっとですねー……俺、その悪魔と堕天使の両方と知り合いなんですよ……流石に、俺の学校の仲のいい先輩達と、知り合いが殺し合いをするのは避けたいんですよ」
「……つまり、俺が出て行ってその殺し合いの仲裁をしろってか?そりゃ―――」
アザゼルさんはそこまで言った所で、ふと何かを思い出しているのか言葉が止まり、何かを思い出そうとしている。
「――――その先輩ってのは、ひょっとして髪が紅いか?」
「よく知ってますね?紅いですよ、かなり真っ赤で確か名前が……」
「「リアス・グレモリー」」
丁度俺がリアス先輩の名前を言うのと同時に、アザゼルさんもその名前を口にした。これは、ひょっとしたら脈有りか?
「あー、先輩の名前って結構有名だったんですね」
「……その話を、もっと詳しく話してくれ」
そう言うアザゼルさんの顔は、一気に険しくなった。さっきとは全く違う、真剣そのものの表情だ。これは、俺が予想してたのと少し違う反応なんだけれども……とにかく、話を続けるしかない。
「えーと、で。どうしてこうなったのかを話すのはかなりしんどいですね……」
どう説明すればいいんだろうか。まずは、イッセー先輩がレイナーレさんに殺されるところからか?それとも、リアス先輩のことを詳しく話せばいいんだろうか。それとも、両方か?
「ああ、どうやらここで話せるような話じゃねェみたいだしな」
俺の顔から、色々と汲み取ってくれたのか、アザゼルさんはトイレを出てようとしているので、俺も後に続く。
「さっきの騒ぎだが、どうやら――――」
トイレを出た瞬間。さっきのやたら生真面目そうな声の持ち主が俺とアザゼルさんの目の前にエンカウントした。
「どうやら―――手早に済みそうだな」
「……!」
そう言うと、俺に向けて光の槍を向けてきた。その動きは冷徹に俺に狙いを定めていて、下手に動こうものなら心臓を一突きされてYOU DIEDだ。
「あー、悪いな。俺も最初はそうする気だったが――そうもいかなくなっちまった」
「……何?」
アザゼルさんがフォローしてくれたので、そういう事をする場面じゃないというのを理解してくれたのか、一応光の槍を収めてくれた。
よかった、本当によかった。間違いなくあのままだったら俺は死んでいたかもしれない。俺の運のよさアザゼルさんに感謝だ。
「本当に……一発で会ったのがアザゼルさんで良かったですわ」
「ああ、感謝感涙して咽び泣いとけ……そういや、お前どうやって此処まで来たんだ?」
それを言っていいのかどうか……いやこのまま白を切るのも、相手の俺に対する心証が悪くなるかもしれないし、これ以上無駄に出し惜しみをして俺の命が亡くなったら元も子もない。
「えーっとですね、これ。これのレバーを握ってからこのピンを抜いて投げると煙が出るんですね」
そう言いながら、俺は発炎筒のレバーとピンの交互を指差す。まあ、これくらいは教えても大丈夫だろう。
「なるほど、これで混乱させてから一気にここまで駆け上がってきたのか」
「あーはい、何か運が良かったみたいです」
今思うと、最近のご都合主義も真っ青なくらいのリアルラックだったな……。正直言って、こんな危ない綱渡りは二度としたくない。
「ていうか……ここ、入り口に人はいないし、人自体がこの建物に少ないし、堕天使の本拠地って聞いたんで来たんですけど……」
俺がうっかりそうポロッとこぼしてしまった言葉を聞いて、アザゼルさんともう一人の生真面目そうな方がおかしそうに笑い始めた。
「ハハハハハハッ!ここが本拠地だと?この程度の規模でか?冗談にしちゃぁ少し凝り様がねェな」
「全くだ。冗談が過ぎる」
どういうことだ?やっぱり、ここは堕天使の本拠地じゃなかったってことだったのか?
「あー、もしかして……違いました?」
「俺達も随分と見くびられたもんだなぁバラキエル?」
「ああ、全くだ」
この反応からして、どうやらここは本拠地じゃないようだ。まあ……流石にそれはありえないよな。左折して20kmで堕天使の本拠地とか、どう考えても現実的じゃない。
「まあ、そういうことを聞きつけて、俺はわざわざここに結構な覚悟で来たんですけどね……」
そう言うと、俺の口から思わずため息が出た。まあ、一番上であるアザゼルさんに会えたのが唯一の救いだった。
「ハハハ!ま、運が良かったな」
そう言ってアザゼルさんは、俺の肩をポンポンと叩いてくれた。この僅かな心遣いが少し嬉しい……じゃない、話が完全に脱線していたな、話の続きをし忘れていた。
「えーと、まあ。で、話の続きをですね……」
俺がそう言うと、アザゼルさんはさっきまでとは表情がガラッと変わり、ヘラヘラした感じから真剣な顔に戻った。
「ああ、悪ィな。んじゃ、適当な部屋に入るか」
アザゼルさんはそう言いながら適当な部屋を探しているので、俺もその後に続く。ついでに生真面目そうな方も一緒に付いてくるようだ……俺の後ろの絶妙な位置に立っている。まあ、俺がどういう人間か、まだ分かっていないから仕方ないといえば仕方ないんだろうけども。
「ま、俺の部屋でいいか」
そう言うと、アザゼルさんは一等立派そうな部屋の中に入っていった。後ろに居る生真面目さんが俺に早く入れと促していそうなので、俺も急いで中に入る。
「適当に掛けてくれ」
アザゼルさんは立派な椅子に座り、その後ろに生真面目さんが立っている。俺も言われたとおりにソファに腰掛ける。中々に良い素材で作られているのか、フカフカで弾力性がある。
「中々にいい座り心地ですねこれ……じゃなかった。ええと、どこから話せばいいでしょうか」
「んじゃ、手短に頼むぜ?」
「ああ、それじゃ……まずそのレイナーレっていう堕天使がとある高校生……セイクリットギア所有者を殺したことから始まるんです」
その後、俺はなるべく事細かにかつ手短に今まで起きているであろうことを話した。
具体的に言えばセイクリットギア所有者と発覚したイッセー先輩をレイナーレさんが始末して、死にそうになった所をリアス先輩がイッセー先輩を悪魔にして、それでその後アーシアさんがイッセー先輩と出会い、そのアーシアさんはレイナーレさんがセイクリットギアを抜き取る為にあの町に来たのだけれども、それを聞いたイッセー先輩が、レイナーレさんからアーシアさんを取り戻そうとしているという話だ。
「えーと、で。まあ、何が面倒臭いかっていうとですね、そのレイナーレさんっていう堕天使が、そういうのをアザゼルさん達に秘密で行っているっていうことと、俺はリアス先輩達とレイナーレさん達とそれなりの仲というか、知り合いなんですね。どちらも、俺にとっちゃ両方大切なんです。かといって、俺が出たぐらいじゃ多分何の意味もなさないでしょう」
「つまりは、俺に頼み込んで仲裁しろって話だろ?その小競り合いを」
「まあ、簡単に言えば」
どうだろうか、これでアザゼルさんが動いてくれれば俺も一安心なんだけれども……。
「悪いな、俺の立場からじゃ、そりゃ無理な願いだ。堕天使と悪魔の小競り合いなんてのはよくあることだ。それについて俺が口を出すってのはな、最悪戦争が起きるかもしれねェんだ。もし戦争がまた起きたら、俺等堕天使だけじゃねェ、悪魔も天使も人間も破滅だ」
クソッ、ここまで来てこれか!
戦争は俺も嫌いだ、だけど俺の知り合いが、レイナーレさん達がそれの代わりに死ぬのは納得がいかねぇ!
確かに、レイナーレさんは見ての通りあの性格だ。顔とスタイルと性格で天秤を取ってると居えるほど、顔とスタイルの何倍も酷い、どうしようもない絶望的な性格だ。
俺やドーナシークの旦那やカラワーナさんやテルミット反応を、アイアンナックル片手に追い掛け回して、挙句俺が食ったら確実に死ぬような猛毒を料理に盛ったということも重々承知だ。正直、今でもあんなことがあったと思うと泣けてくる。
だけど、だとしても!レイナーレさん達は俺の大事な知り合いだ!俺の知り合いが死ぬ予定なのを”残念だった”で済ませる気は俺にはない。
俺がそんなことを思いつつ、これからどうするかを考えていると、アザゼルさんはおもむろに口を開いた。
「……そんな顔すんな、仲裁の代わりはできるぜ?」
「というと!?」
俺は思わずソファから思い切り前に寄りかかる。あんまりに必死の形相だったのか、アザゼルさんは舌うちをしながら人差し指を横に振り、落ち着けという合図をしてきた。
「おいおい、落ち着け。いいか?まず、俺等はセイクリットギア所有者を見つけたら無理矢理殺す訳じゃねェ。セイクリットギアで暴走を起こすような奴か、セイクリットギア自体に強大過ぎる力を持つってェのだけを始末するようにしてる」
「なるほど、つまり”イッセー先輩をとりあえずセイクリットギア所有者だからという理由で殺した”ということで無理矢理拉致って職務怠慢を突き詰めれりゃいいのか!レイナーレさんはそういう上から圧力を掛けられるのを嫌って大人しく従うだろうし……いや、待てよ?確か先輩のセイクリットギアは……」
確か、物凄い強いセイクリットギアで、神様やら魔王ですら滅ぼせるというくらいだったような……あれ?
「えーと、確か先輩のセイクリットギアの名前は……えーと、リアス先輩の髪の紅と一緒の……えーと、ドラゴンだったっけな……何リューテーだったか」
俺がそう呟くと同時に、またしてもアザゼルさんと生真面目さんの顔が凍りついた。
「またですか……」
こうやって二人が凍りついたり、顔の表情が一変するのは俺の心臓にとても悪い。二人とも、俺が悪魔でも堕天使でもないパンピーだということを忘れているんじゃないだろうか。
「なあ、若葉啓介。そのセイクリットギアの名前は―――赤龍帝って名前か?」
「ああ、それですそれ。リアス先輩とイッセー先輩で紅コンビと勝手に今命名しました」
今考えた名前にしては中々……いやでも、捻りが足りないかもしれない―――じゃない!
こんなアホなことを考えている内に、アザゼルさんと生真面目さんは険しい顔をして何かを話している。
――――どうも、何か嫌な雰囲気だ、嫌な予感がする。
どうにかしてこの雰囲気を穏やかにするべく、何か質問をしてみよう。そう、何かこの場を和ませるような……!
「あ、そういやまだアザゼルさんにしか自己紹介してなかったですね。俺の名前は若葉啓介っす」
俺が自己紹介するものの、まったく二人とも動じない。どうやら俺は空気になっているようだ……本当に、不味いなこれは。
「こりゃ……下手すりゃ職務怠慢どころじゃ済まねェかもな」
「えっと、つまりは?」
「最悪、いや……かなりの確立で不味いことになる」
「不味いこと―――ですか」
アザゼルさんは、更に話を続けた。さっきまでとは比べ物にならないくらい程に真剣で、真面目な顔をしている。
「グレモリー家はな、眷属や身内に対しての愛情が深い。お前もそういう一面を見たかもしれねェな」
そう言われると思い起こすフシはいくらでもある。リアス先輩が、イッセー先輩に対して裸で添い寝するわ、添い寝するわ、添い寝するわで、イッセー先輩の性欲を無駄に掻き立てているのをよく覚えている。
「ええ、まあ思い当たるフシはいくらでも」
俺が激しく同意すると、アザゼルさんも納得したように話を続けた。
「もし眷属に手を出そうもんなら、主の怒りを買う。それに、眷属同士での繋がりも厚い。つまりは、だ」
「その、もしレイナーレさん達がリアス先輩の眷属の一人でも傷つけたら、大変なことになる……と?」
俺の発言に対して、アザゼルさんは「それだけじゃねェ」と付け足した。
「相手はな、リアス・グレモリー……魔王の妹だ。それに、眷属に赤龍帝がいる。もしソイツ等が、リアス・グレモリーか赤龍帝を傷つけたら?その状況で、俺が口出ししたら……?最悪――――戦争が起こる」
「戦争って……いや……」
つまり、どうにかしようとすれば最悪戦争が起きて、何もしないとレイナーレさん達が死ぬ。選べるのは二つに一つ、どちらかだけ……ってことか!?
「嘘だろ……?命一つ助けるだけだぜ?なんで、なんでこんなっ……!」
あまりの絶望に、俺の頭はパンクしそうだ。
今、俺がここにいるのは夢じゃないのか?こんな、信じられないことが他にあるか?死ぬ運命を変えるっていうのは、そんなに因果なことなのか?
「畜生……!俺にゃ何もできねぇのか。力を手に入れたって、これじゃ何の意味もねぇよ……っ!」
何か、まだ他に手段は?方法は?
一つでいいんだ、一つだけでいいから。俺の数少ない知り合いが消えるのはうんざりなんだよ……だから。
「一つでいいから、俺の大切な知り合いを助ける方法をくれよ神様っ……!」
ボソッ、と言葉を呟く。俺の目頭から熱いものが流れて、目に熱いものが溢れ出てきた。それは俺の頬を伝い、顎から滴り落ちる。
「お前……」
「すんません、アザゼルさん。少し、俺に時間をください」
「……ああ」
俺は、震える手を強く握って深呼吸をする。深く息を吸い、肺にたまった空気を吐く。それをしばらく、体の震えが止まるまで繰り返した。
「すんません……本当に、こんな迷惑かけてすんませんでした」
ソファから立ち、アザゼルさん達に頭を下げる。
「いや、気にすんな。それより……だ、そこまでしてソイツ等を助けたいか?」
そのまま部屋から去ろうとする勢いの俺を、アザゼルさんは呼び止めた。
「ええ、俺の命の恩人だったり一緒に飯を食ったりしたんです。今度はこっちが命を助ける番です」
今思えば、カラワーナさんやテルミット反応に利根川から引きずり出されなかったら、間違いなく俺はあのまま川底でカニの巣穴兼餌になっていた。
リアス先輩達オカルト研究部のメンバーに出会えたのも結果的に言えばあの2人のおかげなんだ。だけど、助けるのは2人だけじゃ駄目だ。
レイナーレさんがいて、ドーナシークさんがいて、カラワーナさんがいて、テルミット反応がいるのが普通なんだ。それは何があっても欠けちゃ駄目だ。
「それに、約束したんですよ。まあ、当の本人にとっちゃ……ほんの些細な約束だろうし、聞いたところで覚えてるとは思えませんけどね」
レイナーレさん――――いや、御影さんとも”また一緒に料理を作る”っていう約束すら果たせてないんだ。
それを聞いて、アザゼルさんはしっかりと俺の決意を受け取ったのか、こう言い出した。
「そうか――――なら、俺がやれるのは一つだけだ。だが、お前にそれなりの物が代償になるだろうな」
「……俺にできることなら」
迷うことはない、ここまで来て何をためらう必要があるんだ?
俺の望む物――リアス先輩達と過ごす学校生活と、レイナーレさん達と一緒に俺が飯を作って食う……そんな日常が手に入るんだ。
「確か――――お前はリアス・グレモリーやその眷属とそれなりの仲らしいな」
「ええ、確かにまぁ……多分」
俺は一応オカルト部員みたいだし、リアス先輩曰く。多分普通に部室に遊びに行っても大丈夫なくらいの仲じゃないだろうか。
「なら―――お前がソイツ等の命を助ければいい」
「……というと?」
そう質問すると、アザゼルさんは「なぁに、簡単な話だ」と切り出してきた。
「お前が、リアス・グレモリーに頼んでみろ。”頼むから命だけは見逃してやってくれ”ってな」
「……それで、リアス先輩が素直に分かった、なんて言うとは思いません」
都合のいい時だけ先輩達にそういったことを頼めるほど、俺はリアス先輩達とは親しい仲じゃないと自覚しているつもりだ。
「そこはお前がどうにかするしかねェな。その後、俺の部下がソイツ等を回収する」
「なるほど、確かにそれしか手は――――いや、ちょっと待ってください。一応、俺の懇願が成功した時点で決着はついてますよね?アザゼルさんが回収する意味がないじゃないですか」
アザゼルさんは、首を横に振った。つまりは、何か重大なことがあるということなのか。
「まず、アーシア……だったか?その娘からセイクリットギアを抜き取ろうとしたことと、知らずとはいえ、魔王の妹にちょっかいを出して悪魔との戦争へ展開させかねなかったという2つだ。特に後者の罪は重い。それを見逃すってのは、俺達が戦争継続に賛成だと受け取られちまう」
「そんなに……不味いんですか?」
そう質問すると、極めて真剣な顔でアザゼルさんは頷いた。
「さっきも言ったが、戦争が起きると全てが破滅だ。俺はな、前の戦争で多くを失った。数え切れない部下に、古い友人、戦友……とにかくな、俺はもう戦争なんざクソくらえだと思ってる」
「……なるほど。だから、これ以上争いの種を生むのは処分、ですか」
つまり、いずれにしてもレイナーレさん達はどうしようにも救いようがない……ってことか。
ちょうど俺がそう思った瞬間、アザゼルさんはその考えを遮るように話を続けた。
「いや、その処分を軽く出来る方法がある。それはお前にしかできねェことだ」
「……それが、俺の払う代償ですか」
つまり、アザゼルさんは俺に対して何らかの利用価値があると踏んだんだろう。それで、レイナーレさん達の処分を軽くする代わりに俺に一仕事働いてもらおうって訳か。
そんなことを俺が考えていると、アザゼルさんは軽く笑いながらこう言ってきた。
「簡単な話だ。喧嘩をしたら、仲直りだろ?つまりは、俺等と悪魔との和平の仲介人になれってことだ」
「何?」
「えっ?」
いきなりの話に、ここまでの話を理解した俺の頭も流石にまだ処理が落ち着いていない。さっきまでアザゼルさんの傍で、沈黙を保ってきていた生真面目さんも、俺と同じくいきなりの話に付いていけなかったようだ。
俺が?仲介人?何の?いや、俺等ってことは……堕天使と悪魔の?いや、なんで?もう少しまともな人材がいるでしょ?
「あー、えっと?つまり?俺が?堕天使と悪魔との仲を紡ぐきっかけになる人だと?」
「おお、そうだ。悪魔と堕天使の和平を仲介した人間として冥界の歴史に残るぜ、お前」
そう言いながらアザゼルさんはニヤニヤと笑っている……なんちゅー無茶苦茶だ。
どうも、お久しぶりです。
今回の話で大分物語が進行しましたね。原作で言うところの一巻の半分がもう終わりました。はい、24話かけてやっと半分です。先が思いやられますね、はい。
最近は執筆作業もなかなかに捗っているので、余程のことがない限り2ヶ月や半年更新しないなんてことは無いでしょう――――半年更新しなかったこともございますけれども。
執筆している最中もアザゼルさんやバラキエルさんの口調やキャラが崩壊していないか内心ビクビクしながら執筆している毎日です。ああ、早く10巻まで揃えたい……お金が無いのも困り者です。