ただのゲーマー高校生のハイスクールD×D   作:unat

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第28話:ドカンと弾ける5秒前

 とりあえず腹が減っては戦は出来ぬ、昼になる前には昼飯を用意しよう。腹が減って動けなくなったら元も子もないからな。

「さて、肉野菜炒めの材料は――――と、あったあった」

 材料をまな板の上にドンドンと並べる。肉にピーマン、ニンジンとキャベツにモヤシ……うん、全部揃ってるな。とりあえず野菜を洗ってそれぞれ下ごしらえをしておこう。

 

 何故俺がここまで緊張感が無いのか。それは、恐らくレイナーレさんが動いてアーシアさんをかっさらった後、セイクリットギアを抜き取るまでにそれなりの時間がかかるであろうからだ。そしてそれをいかに早く妨害して、アーシアさんを助け出すのかが今回のレイナーレさん救命の鍵だ。

 

 正直な話、レイナーレさんの命を見逃してもらうだけなら、俺が出て行ってレイナーレさんを殴ってアザゼルさんの所へクール便配達した方が手っ取り早い。でも、それが出来るのなら苦労はしない。

 

 ド腐れ神父フリード君やカラワーナさん達は不意打ちで無力化するからまだいい。ただ、レイナーレさん達含めはぐれ神父達の集団がかなり厄介だ。フリードみたいに飛び道具を持っていたら火力負けすること間違いなし。それに、レイナーレさんも邪魔されまいと必死に俺を止めてくるだろう。今のところ俺とレイナーレさんはそこまで力差はない。だから、はぐれ神父集団に気をとられすぎていても負ける。これは多分、俺の仲魔全員召喚しても変わらないだろう。

 

 もし勝てるとしたら、レイナーレさんを一瞬で無力化した後に俺の仲魔とで全員ではぐれ神父集団と戦うこと。ただ、これは無理だ。おそらく、はぐれ神父に見つかった瞬間にレイナーレさんも気づくだろうしはぐれ神父がレイナーレさんの壁になって攻撃も通らないだろう。

 

 それにいくらレイナーレさんと力差がそこまで無いとはいえ、空を飛べる相手と戦うのは分が悪すぎる。こっちは素手、または鉄パイプみたいなリーチのある武器だろうとそれが届かない場所まで飛ばれたら、こちらがアウトレンジの場所からひたすらに攻撃を受け続けることになる。そこで飛び道具が欲しくなるところだけれど、いくら多少訓練を受けたとしても飛びまわる標的に当てるのは難しいし、当たり所が悪ければ死ぬかもしれない。助けるために戦ったら殺しちゃったなんてブラックジョークは止めておきたいところだ。

 

 破壊魔法は破壊魔法で、ザンを手から衝撃波のように出すことが出来るが、有効射程距離が短い。普通に撃つとスピードはあるがさっきも言ったとおり当てる自信が無い。ジオは撃ち慣れてきているためか、他の魔法よりかはコントロールも得意だし、当てれば麻痺させることもできるかもしれない。だが、これも当てられるかどうか怪しいところだ。

 そして、全体的にジオよりも広範囲に当てられるマハジオは未だ撃ったことが無いからうまくコントロールできるかどうか……手堅く確実にいきたい時の一手としては入れないほうが良いが、土壇場で使うのには良い一手かもしれないな。

 

 他のアギやブフ――――炎や氷の破壊魔法は、精々アギで指先からマッチのように火を出したり、ブフでコップを冷やす程度。普通に撃ち出して他の魔法と変わらないぐらいだ。

 やっぱり、何かもう少し飛び道具が欲しい。今後もこういうレイナーレさんみたいな、空を飛べるタイプの女神転生の悪魔達を相手にする時のためにも何か保険が欲しいところだ。

 

 こういう時にドワーフの仕事なんだけれども、生憎さっき仕事を夕方までに終わらせるように頼んだので今追加注文をするとあのドワーフのことだ、追加報酬やら時間の事で色々と面倒臭いことが起きるに決まっているだろうから止めておこう。

 

「――――っと、料理に集中しないと具材が焦げる」

 考えすぎで野菜や肉が焦げないように、なおかつ均等に熱が回るように箸でかき混ぜるように具材を炒める。後は適当に塩やコショウで味付けをして完成――――なんだけれども、やっぱり対空手段を持ったほうがいいよな。如何にして空にいる敵を引き摺り下ろす、または攻撃を当てるか……それが今後の課題だ。

 

 ここまで考えて、ふと目を下に向けるとそこには、フライパンの中で焦げる寸前にまで火が通った野菜や肉の数々。あわてて火を止めて全体的に焦げているかどうか確認すると、ギリギリ焦げていない。よかった、このまま焦げていたら今日の昼と夜の分の一品がおじゃんになる所だった。危ない危ない……。

 

 何はともあれ今日の昼ご飯の分は完成。あとはこのままゆっくりと――――

「むぅぅ! ケースケ、今日くらいはかまってよー!」

「私もです!」

 するわけにはいかないらしい。ピクシーとエンジェルが我慢できずに飛び出してきた。多分、しばらく召喚されなかったし、勝手に出るわけにもいかない状況が多かったから、色々と鬱憤が溜まっているんだろう。たまにはかまってやるか……。

 

「しゃーない、他の奴等も呼ぶか……おーい! オニ、ガルム、ケットシーにリリム! それと……ドワーフは仕事してるだろうしいいか。ともかく……出て来い!」

 目に悪い光と共にドワーフを除く俺の仲魔全員が召喚される。そのせいか、いつもよりもリビングが賑やかになって何よりだ。

 

「もう、血を吸わせてくれないと禁断症状を起こしちゃうよ?」

 そう言いながらリリムはガオーッと何か猛獣のマネでもするかのように指を曲げて八重歯を見せる。少しふざけてはいるもののやっぱり寂しかったんだろうな……。

「はいはい、血なら後で吸わせてやるから。というか夢魔のお前が血を欲求してどうするんだ? 吸血鬼じゃあるまいし」

「血から精気吸い取ってるのー! それとも……他の方法で貰ってもいい?」

 リリムは妖しげな笑みを浮かべながら俺ににじり寄る。流石は夢魔といったところか、物凄い元が可愛いし惹かれそうになる。だが、生憎童貞をささげる気は無い。捧げたら捧げたで、主従関係とか逆転しそうだしな。

 

「むー、釣れないなぁ……」

「もう、ご主人様をみだらに誘惑してはいけませんよ」

「ぶーぶー……」

 頬を膨らますリリムをエンジェルが軽いお説教をする……なんて平和なんだ。妹を叱る姉みたいな感じで、見ててとても微笑ましい光景だ。

 

「悪くねェな。悪くはねェ……」

 オニもその光景を見てニヤついている。どうやら色々と分かっているようだな、コイツもコイツで。相変わらず趣味だけはいい趣味してるよコイツは。

 

「な? 悪くないだろ?」

「エンジェルってぇと頭がお堅い説教屋とばかりに思ってたんスけどねェ……コイツァなかなかに悪くないっスよ。アニキもいい趣味っスねェ?」

 オニは更にニヤけながらも俺をひじで小突いてくる。それを見てエンジェルが

「貴方の行動はCOMPの中でよく見ておりましたよ。お仕置き……されたいですか?」

 ただそう言いながら笑う。ただ、その笑顔とは裏腹に声のトーンがとてつもなく低くて……とてつもなく、怖い。

 

「イヤ、何でも無い……デス、ハイ」

 流石のオニも並々ならぬ何かを感じたのか、いつもより3割増しくらいで丁寧語を使っている。なるほど、確かにあれはとてつもなく怖いな……。

 そう思っていると、オニがエンジェルに聞こえないように小さな声で俺に耳打ちする。

「アニキィ……やっぱ女ってのはおっかねェモンっスね……」

「ああ、俺もそう思う……」

 俺とオニの意見は完全一致したようだ。二人揃ってため息をついたところをエンジェルがクルリとこちらを見て笑う。

 

「聞こえましたよ?」

「「はい、すんませんでした」」

 綺麗に俺とオニは土下座をする。そうまでしないと、後で何されるか分かったモンじゃないからな。笑顔だけでここまで威圧できる女の人って怖いわ……。

 

「クゥーン……オレサマスコシ、サミシカッタ……」

 次はガルムが擦り寄ってきた。擦り寄ってくるのはいいんだが、首輪のトゲが軽く俺の体に刺さりかけていて非常に危ない。せめて首輪を外れないかどうか後で試してみるか。

「分かってる分かってる、お前とリリムが一番出番無かったもんなー。結局なんかとりあえず新キャラだから顔見せしといたまま、人知れず物言わぬモブキャラになるであろうタイプだったもんなーお前」

「オレサマ、ソレイワレタクナカッタ……」

 ガルムはうな垂れてしょんぼりとする。耳まで下にパタリと落ちていて、とても申し訳ない気分になる……。せめて少しぐらいは機嫌をとってやらないとな。

 

「ほら、今日の昼の野菜炒めの肉が少しあまったから。そんなにしょげるなよ」

 冷蔵庫から豚のバラ肉を取り出してガルムの前に置く。すると、ガルムは尻尾を振りながら嬉しそうに近寄って豚バラにがっつく。これはこれで可愛いな……。

 

「オレサマ、アブラミモイイケド、ウシノロースガオコノミ」

「牛ロースとか絶対くれてやるか、勿体無さ過ぎるわ」

 軽くガルムの頭をパシパシ叩く。ガルムは喉を鳴らして随分と楽しそうだ。

 

「ねぇねぇ、ケースケ。和気藹々としている所悪いんだけどさー」

 つんつん、と俺の肩をピクシーが叩く。どうもピクシーの手が小さくて叩くというよりも、つつくという方が近いかもしれない。どうしたんだろうか?

「どうした?」

「んとねー……料理、冷めかけてるよ?」

「おっと、忘れてた」

 急いで丼に飯をよそって箸を用意する。野菜炒めの温度を確かめるために混ぜてみると、どうやら中に熱が篭っていたのか熱々の湯気が上がってきた。これ以上冷まさないために早めにいただこう。

 

「ねぇねぇ、ケースケ。アタシも少しもらっていい?」

「ご主人様、私も少々頂いても……」

 ピクシーとエンジェルが、なにやらもの欲しそうな顔をしている。どうやら、少し肉野菜炒めをくれということらしい。まあ、少しぐらいはあげても良いか。

「ほら、取り皿と箸。あとピクシーはいつも通り爪楊枝な。あとは、お前等も食うか? 野菜炒め」

 エンジェルとピクシーに適当に野菜炒めを盛り付け、オニやリリムにも欲しいかどうかを聞く。まあ、リリムは食う物が違うから必要ないかもしれないが念のためだ。

 

 とはいえ案の定、どちらの反応も薄くオニは

「あー……アニキ、オレァ今腹減ってねェんでいいスよ」

と首を横に振りながらあぐらをかき、随分とくつろいでいる。リリムもリリムで

「うーん……精気の方が欲しいかな。くれるなら今すぐにちょーだい♪」

そう言いながら俺の方に妖しい笑みを浮かべながらにじり寄ってくるのでデコピンで撃退し、飯を盛ることにした。

 

「あうー……ケースケのデコピン痛いよ」

「汝濫りにやらしい事に手を出す事なかれって聖書でも書いてあっただろ、確か」

 冗談半分でそういうとリリムは思いっきり不機嫌そうな顔をして頬を膨らませる。

「いいのー、悪魔だもん。夜魔だもん。カトリックでもプロテスタントでもないのー!」

 これ以上はおちょくると本当に押し倒されそうなので、後でちゃんと血を吸わせてやろう。

「OKOK、そこまで腹減ってるなら飯食ったら吸わせてやるからな」

 その一言にリリムの表情はは一気に上機嫌なものへと変わっていった。現金な奴め。

 

「それじゃ……いただきます」

「「いただきます」」

 まずは野菜炒めを口に入れる。野菜にも肉にもきちんと通っていてかみ締めると肉汁が口の中に溢れ――――

 

 

 

「味薄っ……」

 エンジェルとピクシーもこの微妙な野菜炒めを口にして何とも言えない顔をしている。やっぱりこれはあんまり美味くないよな……。

「肉汁というよりは、ただの油ですね……。味付けはしましたか?」

「味付けは、確か塩を足して―――あっ」

 記憶を少し前にまき戻してみると、確かに塩で味付けをしようとしたけれども色々と考えていて結局、塩を手にしたものの味付けはしてない事に気づいた。なんというポカだ。

 

「あーくっそ、塩足し忘れた……どうりて野菜とかにも味に物足りなさが出たわけだ」

 急いで塩を台所から持ってきて適当に塩を足して野菜炒めをかき混ぜる。試しにもう一度味見をしてみると、さっきとは違って肉に塩気が、野菜に甘みが加わって美味い。

「うん、今度は大丈夫だな」

「あ、ホントだ。おいしいね」

「簡単な味付けでここまで味が深まるのは塩という海の恵のおかげですね」

 今度はエンジェルもピクシーも美味しそうに食べてくれるので何よりだ。

 

                    ※

 

 昼飯を食べ終え、片付けてやっとリラックスできる時間がやってきた。夜に備えなきゃいけないわけだけれども、ドワーフの仕事を待つしかないわけなので頭を使わずに体力を温存しておきたいところだ。

「うーん、料理って何か欠けると結構致命的に不味くなったりするんだろうなー……」

 そう思わず呟いた所をエンジェルが同意するようにため息を吐いた。

「ええ、そうですね。私も一回料理を興味本位で一回作ったことがありまして……案の定失敗しまして」

「へぇ、エンジェルも料理作ろうとして失敗したことあるのかー。まあ、料理なんて練習すりゃ上手に作れるようになるだろ」

「そうですけれども……その、なんと言ったらいいのでしょう」

 エンジェルは何か言いたそうだが躊躇っているのか、腕を組んで何か考え込んでいる。珍しい、素直に言えることはスパッと言って言えないことは言えないと断言するタチだと思っていたんだけどなぁ。

 

「余程の事でもないんなら俺は怒らんし、言ってみ?」

 そう言ってようやくふんぎりがついたのかエンジェルは少し恥ずかしそうに口を開く。

「あの……ご主人様、今もその失敗した物が……その、凍らせて……あるんです。冷蔵庫に」

「ああ、なんだそんなことか。別にそれなら何にも問題ないけど」

 しかしエンジェルはまだ何か隠しているのか、もじもじとしたままそのまま口を閉じてしまった。これなら実物を拝んだ方が早いな……見てみるか。

 

「よーし、そんなに凄いならちょっと解凍してみるか」

「どうなっても知りませんよ……?」

 ここまで念を押してくると怖いものがあるものの、怖いもの見たさで冷蔵庫の冷凍室を探る。中をパッと見てみると、いつもどおり冷凍食品やらアイスやら、普通の物が敷き詰められている。

 

「んー……奥のほうか?」

 更に物を掻き分けていくと、タッパーを一つ見つけた。今までタッパーに何かを入れて冷凍した覚えはないので、恐らくこれだろう。

 蓋を開けると、なんと言えばいいのか名状し難い臭いを放っていて、色はヘドロを思い浮かばせるような色だ。

 

「これ……産業廃棄物?」

「いえ、これは凍っているのでこのような臭いを放っているのです。解凍してみれば分かります」

「ホントかよー……」

 とりあえず、エンジェルの言うことを信用してタッパーにラップをかけ、電子レンジに入れる。そしてそのまま解凍すること数分。

 

「大丈夫か……これ、本当に」

 電子レンジから取り出したタッパーのラップ部分が水滴や水蒸気で曇ってるので中身はよく見えない。本当にこれは食べても大丈夫なのか……?

 恐る恐るラップを剥がすと、湯気と一緒になんともいえぬ程よい匂いが鼻をくすぐる。例えるなら、そうだ。海苔やカツオでとったダシなどの匂いを混ぜた和風チックな匂いだ。そして色は変わらないものの、見た目は多少濃く煮詰めてドロドロになっているように見える。

 

「おお、確かにこれはいい匂いだ。ダシとか煮詰めて限界まで濃くした結果こうなったのか? それなら確かにあのキツい色は納得だわ」

 思わず指で少しすくって舐めてみたくなったが、ぐっと我慢をする。流石にまだ熱いだろうからもう少し冷ましてからにしよう。

 とりあえず少し冷ますために台所にタッパーを置くと、オニが鼻をヒクつかせながら台所に入ってきた。

 

「ンー……アニキ、なんか作ってるンすか? さっきからやたら良い匂いが……」

「ああ、これのことか? エンジェルが作った奴なんだけどさ」

 そう言って俺がタッパーを指で指すとオニは楽しそうにタッパーに入っているダシ汁エキスを指ですくった。不潔なことに、手を洗ってもいない。

「おい、お前な。せめて手ぐらい洗ってからスプーンですくうとかそういう配慮ってモンがあんだろ……」

「まぁまぁ、アニキ。ここは俺が毒見って奴をやるンですよ。多少の無礼は許してくださいや」

 そんな俺の説教もオニの前では馬に念仏のようだ。馬じゃなくオニだけれども。そしてオニは涼しい顔をしてそのまま口に含んだ。

 

「……美味いか?」

 オニはしばらく口の中でゆっくりゆっくりと味わっているのか、うーんと唸ってから一言。

「シイタケの旨味にコンブと海苔の風味、後はなンですかねェ……カキのエキスも混ざって――――」

 そこまで言った所で、オニの様子が少しおかしくなってきた。呂律がうまく回らないのか、ゆっくりとした口調になってきていて、非常に嫌な予感しかしない。

「混ざって?」

「非常に―――」

 そこまで言うのが限界だったのか、オニはフラフラと立ちくらみを起こしたかと思うと、後頭部から床にダイビングをした。その際、非常に強く打ったのか、中身のたっぷりと詰まったカボチャを殴って抉ったような鈍い音がしたかと思うと、オニの両腕両足、果ては胴体が一回大きく痙攣したかと思うと、そのままピタリと動かなくなった。

 

「オニ……馬鹿野郎、無茶しやがって」

 息の根を完全に止めるために近づいて脈を確認すると、先ほどの出来事を無視するかのように脈拍はきわめて正常なようだ。やはり首を刎ね飛ばすか心臓を一突きしないと地獄に送り返せないようだ、頑丈な奴め。

「安心しろオニ。今すぐ楽にしてやるからなー……」

 刃の部分が長いのが特徴的な刺身包丁を包丁入れから抜き、オニに歩み寄ろうとするとエンジェルがいきなり焦ったようにオニの前に立ち塞がった。

 

「ご、ご主人様!? 一体何を……」

「安心しろ、ちょっと処方してやるだけだから。大丈夫大丈夫、動いてる物止めるだけだからさ」

「それは処方じゃなく処刑ですよね!?」

「そうとも言う」

「そうとしか言いません!」

 ノリノリで突っ込んできてくれるエンジェルをさておき、更にオニに歩み寄る。

「だ、駄目です! 殺生はよろしくありません! 確かに一回死んで無間地獄で数兆年苦しみぬいた挙句大量に掃いて捨てる程居る中の亡者Aみたいになられた方が身のため世のためになるような相手でも殺生はいけません!」

「いや、その言葉だけでメンタルが弱い人一人殺せそうな言葉だぞ、それ……」

 思わずドン引きして一歩身を引く程酷いが、何が恐ろしいってエンジェルはこれを無意識にやっていることだ。よくもまぁここまで人、というよりは悪魔の心をズタズタに引き裂くような事を言えるもんだ。これを無意識のままならともかく、意識して言っているのだとしたら末恐ろしい。

 

「と、とにかくいけません!」

「冗談だって冗談」

 これ以上ふざけるとエンジェルが何かやらかしそうなので刺身包丁を元の位置に戻し、オニに近寄る。オニの様子は呼吸も安定しているようだし特に問題があるというほどでは無いように見える。

 

「まあ、これなら放って置いても大丈夫だろ。なんならサンドバック代わりとかサッカーボール代わりにしてみるか」

「そんな酷い事……もしこれで重症だったら」

「ンー……兄貴ィ、いやケースケ。これからは俺の事をアニキって呼ぶんだなァ……」

 必死のエンジェルの弁明も空しく、オニが空気を読まずに寝言を大声で言い出した。しかも、明らかに俺に対して喧嘩を売っているとしか思えない内容をニヤニヤとふざけた笑みを浮かべながら。

 

 俺とエンジェルは無言で顔を見合わせ、頷くとオニの顔面にそれぞれ手を添える。エンジェルはオニのデコを、俺はオニの鼻っ柱に手を添えている。

「「いっせーの……ザン!!」」

「ギプルチッ!?」

 俺とエンジェルの全力のザンをデコと鼻っ柱に受けたオニは、あまりの痛さに意味不明の言葉を発して顔面を手で覆いながら、一本釣りでカツオ漁船の船上に釣り上げられたカツオのように跳ね回ったり床を転げまわっている。いい気味だ。

 

「いやー、悪いなオニ。ついついそんなところで気持ちよさそうに寝てるからザンを撃っちまった」

「アニキィ……そりゃねェッスよォ……」

「大体、兄貴分の話も聞かずに勝手に食って勝手に自滅したバカは何処のどいつだと思ってるんだ?」

「グゥッ……」

 オニも流石に自分に非があると認めざるを得なくなったのか、諦めた様子で口を開いた。

 

「そういや、アレ何なンスかねェ? 口に入れた途端に眠気が襲って来たンスよ」

「ああ、あれか? 俺もよく分からん。ただ、どこかの兄貴分不孝のオニが人の話も聞かないでまんまとモルモットになってくれたから効果はよく分かったぞ」

「相変わらず手厳しいッスねェ……」

「お前が悪いんだろうが、お前が。――――ただ、これを上手く使えば例の作戦が更にグッと成功率も効率も高くなるんじゃないか……?」

 改めてこのエンジェルの作った料理―――もとい非殺傷兵器――を見てみる。もう少し安全性、用量、用法、持続時間を確かめてみないといけない。

 チラリ、とオニの方を見るが……駄目だ。人間でどれくらい効くのかどうかが分からない限り安心できない。そしてここで今すぐ試せる人間は俺一人―――か。

 

「し、仕方ない。俺がほんの少しだけ舐めてこの兵器の効果を確かめるしか……」

「兵器って……そりゃ言いすぎッスよ兄貴」

「ええい、これを非殺傷兵器といわないでなんと言う!睡眠薬か? 薬なのか? これが薬に見えるか? どう見ても薬というよりは人をあの世に送って楽にするための物だろ!?」

「そ、そんな……そこまで仰らなくても……」

 そう言いながらエンジェルがひどく傷ついたような表情でこっちを見ている。まぁ実際は顔を布で隠してるからよく表情は分からないわけだけど。

 

「あー……うん、さすがに俺も言い過ぎたよ。悪かった悪かった」

「では、しっかりと食べてくださいね?」

「えっ」

「……えっ?」

 冗談にしてはかなりキツいことを聞いたような気がする。言うなら、無害な一般人を殺せとか今から銀行強盗して人質と一緒に立て篭れとか、そんなレベルの無茶振りを。

 空耳をしたのかもしれないので一応、再確認のためにエンジェルにもう一度尋ねる。

 

「これを、しっかりと、食べる? スプーンとかでおいしくこれ頬張れって言ってるのか?」

「できないんですか?」

 目を隠しているのに上目遣いでこちらをみるエンジェル。いや、できるできないじゃなくて、それは俺に対して睡眠薬を大量服用して死ねって言ってるのと同意義だぞ……? オニが少し口に入れただけですぐに昏倒するようなモンをスプーン―――おそらくオニが口にした量の10倍、いや15倍は下らない量を一気に人間の俺が服用したらどうなるか……。どう想像しても、その先に待っているのは冷たくなった俺の体を囲む俺の仲魔達とエンジェルが首を吊らんとする勢いで懺悔している光景しか思い浮かばない。

 

 いや、もしかしたら口に入れるだけなら飲み込まないからギリギリセーフかもしれない。いずれにせよ、効果が出るのは口に入ってからか、それともきちんと飲み込んでからなのかも確認する必要はあるわけだしな……。ここは覚悟を決めるしかないか。

 

「よし分かった、やってやるよ」

 スプーンを食器棚から取り出し、一気にすくって口に放り込む。舌触りは見た目と違ってサラサラとしていて悪くない。そして味もなるほど、オニの言ったとおりシイタケの旨味にノリの風味と、カキらしきもののエキスか何かが混ざり合って非常に―――

 

 

「非常に―――」

「非常に?」

「―――不味い」

 なんとか声を搾り出して一言言うと、すぐに眠気が俺を襲ってきた。これは……随分と強力な……本当に、俺もう死ぬんじゃないか……?

 

 眠気で頭をまともに回転させることもままならないまま、俺はそのまま眠りについた。

 

 

 

                     ※

 

 

 

「――起き―――い。――様。ご――人様!? 聞こえてますか! ご主人様! ご主人様!」

「ん……んー……」

 意識が覚醒してくると、エンジェルが必死の形相で俺を抱きかかえていた。どうも視界が激しく動いているのはエンジェルが激しく揺さぶっているからか。あんまりにも激しく俺を揺さぶるのでもう一回俺の視界がフェードアウトしそうだ。

 

「おい、やめ……頭を揺らすな。もう一回気絶するだろ……?」

「ご主人様! お気づきになられたのですね!」

 このままボロボロと泣き出すんじゃないかというほどの勢いの表情でエンジェルが俺に抱きついてきた。一応人ではないのでエンジェルとはいえ、並の人以上の力で強く抱きしめられるので今度は骨がミシミシと軋み始めてきた……俺に何の恨みがあるんだ。

 

「ちょっ、骨……折れ、折れっから、俺が悪かったから、俺が悪かったからベアバックは簡便……死ぬ、死ぬから」

「ああっ、すいませんご主人様」

 慌ててエンジェルが俺を手放すと、まあ当然俺は体勢をまともに取れていないので、そのままあわや床に頭をぶつけそうになったが、何とか手が床につく方が早かったようだ。

 

「危ねっ……危うく二度寝か永眠するところだったぜ」

 少し重い体を持ち上げておきると体が重い以外に特に変わった所はない。多分これはまともな場所で寝てないのと体がまだ完全には起きてないからだろう。あとはどれだけ俺が寝ていたか、だな。

 

「なぁエンジェル、どれくらい寝てた?」

「数時間程は」

 ということはもう夜だ。これは急いで準備をするしかない。幸い、もう俺の頭の中では準備する物も計画も練りに練っている。後は行動を起こすのみだ。

 

「よし、エンジェル!お前も手伝え、少し忙しくなるぞ」

「分かりました。では、まず私は何をすれば?」

「まず、どんぶりにサランラップを敷いてご飯をその上に乗せます」

「はぁ……」

 言われたとおりにエンジェルはどんぶりを用意してくれているので、このまま次の注文をつけよう。

 

「次に、塩を程よく適当に振りかけてラップでご飯を包み、三角形になるように手で少しご飯を固めつつ三角形の形を作ります」

 エンジェルにまかせっきりでは効率も悪いので俺も横でエンジェルに指示を出しながらサランラップに包んだご飯を握る。

「なるほど……少々綺麗に形を作るのは難しいですね」

 エンジェルの握っているご飯の形をみると、三角形にすることを意識しすぎてか、握るたびに形が崩れているようだ。

 

「んー、もう少し強く握ってみれば上手くいくだろ。あ、あと握り終えた奴はそのままにしといて。その後は俺がやっとくから」

「分かりました」

 そんな会話をしているうちに一個目のおにぎりが完成。とりあえず3つ作れば間に合うはずだから、もう一つは俺が作ることにしよう。

 

「ところでエンジェル」

「なんでしょう?」

「お前、どうやったら正16面体を手で握って形作れるんだ……?」

「あら、すいませんご主人様。つい余所見をしてしまいました」

 こんな感じで、果たして無事におにぎりをエンジェルに握り終わらせることはできるのか……?

 

 

                     ※

 

 

「―――よし、無事……かどうかは分からんけれどもおにぎりは出来たな」

「ふう、こういう事をたまにするのは気分転換になりますね」

 楽しそうに微笑むエンジェル。確かに料理は気分転換には丁度いいのかもしれない。まあいつもいつも作っているから特にそうは思わないんだがな。

 

「あとは小道具を用意して終わりか。ドワーフもそろそろ仕事が終わってるだろうし、呼んでみるか……おい、ドワーフ!」

 ドワーフを召喚すると、恒例の目に悪い光柱からドワーフが召喚された。光柱の中心から見える頼もしそうなシルエット。やっぱり、これからもドワーフは頼りにな――――

 

 

「おぉぉぉぉぉぉ! こりゃ凄い! こんな松葉くず―――」

「そぉい!」

 夢中でエロ本を読んでいたドワーフが興奮しすぎて放送禁止用語を発言しそうになったので 、下段回し蹴りでドワーフを蹴り倒す。丁度わき腹にクリーンヒットしたのか、くの字に折れ曲がったドワーフの体は気持ちいいまでに吹っ飛び、壁に叩きつけられた。その際ですらエロ本を片手に持って離そうとしない根性だけは見上げたもんだ。

 

「おい、ドワーフ。お前、R-15を飛び越すような内容はNGだと言ってなかったか? 四十八手は完全にアウトだバカ野郎」

「うむ……すっかり夢中になって忘れておったわい。例のお主の頼んだものは、もうできあがっとるよ」

 エロ本を懐にしまい、キリッとした表情で仕切りなおしたドワーフは俺に筒状のものを渡してきた。見た目はこの前に作ってもらった発煙筒と殆ど変わらないが、筒のところに小さな爆発のエフェクトのようなマークがある。多分これはドワーフが俺に見分けをつきやすいようにしてくれたんだろう。

 

 ちなみに、これは閃光音響弾―――つまりはスタン・グレネードだ。物凄く強い光と音でパニックにさせたり思考を停止させたりするためのもので、これがあれば恐らくはぐれ神父が何人いようともモーマンタイ。希望的観測はよくないものの、これが無いと有るとではアーシアさん救出作戦の成功率は雲泥の差がある。

「これの使い方も前のとそう変わらないんだよな……しかし、このマークを見てるといかにも爆発しそうで怖いな」

「案ずるでない、しっかりと試しをしておる」

 それならばいいものの、いきなり爆発とかそういうのは勘弁して欲しいところだ。まあ、ドワーフの事だから大丈夫だろ。

 

 そう俺が思っていると、ドワーフは徐にスタン・グレネードをまじまじと見ながらボソリとつぶやいた。

「しかし……儂は武器を作り続けてきたが、なるほど。近頃のものもからくりが施されておって中々に面白い。儂もこういった物を作ってみるのも悪くはないかもしれんのぅ」

 どうやら、割とドワーフは鍛冶だけでなく、こういう現代兵器を作ったりするのもわりと嫌いではないようだ。それなら多分、もう一つ作って欲しいものが今出来たのだけれどもやってくれるかもしれないな……少し頼んでみるか。

 

「あー、ドワーフ。それならお前が好きそうな物を作ってもらいたいんだが―――」

「ほほほ、次の注文は今回の報酬を受け取ってからじゃ。いつまでもツケが溜まってはたまらんからのう」

 俺が全て言うよりも早くドワーフはさっと断ると朗らかに笑った。抜け目のない奴め。まあどうせ今頼もうとも完成するのは後になるだろうから、おとなしくこのまま作戦を開始するに限る。

 作戦に向けた準備のために動きやすい服に着替え、必要な物をきちんとリュックサックなりヒップバックなりに詰め込む。ヒップバックにはもちろんスタン・グレネードと発煙筒を入れて、他にも細々とした物を入れておく。自分で使ったスタン・グレネードで自滅しないための耳栓だとか黒いサングラスだとかだ。

 

「さて、揃うものも揃った。やることも決まった。時間は余裕がある。事を終わらせるのに早過ぎて不味いことはない。早過ぎて悪いのはナニの時だけだ」

「下ネタは厳禁とさっきお主言っておったろう……」

 ジト目でドワーフが横で何か言っているが、気にしない気にしない。

 そのまま俺はケータイでアザゼルさんにメールを送る。内容は、これからレイナーレさん達の確保に向かうので、待機またはいつでも合図に応じれるように準備をして欲しい、といった感じの内容だ。

 

 よし、これで下準備は全てそろった。後は行動あるのみだ……けれど、その前にCOMPにアイツ等を戻しておく必要があるな。

「おーい、そろそろ俺は出かけるから全員COMPに戻すぞ」

「ウース」

「うむ」

「分かりました」

「了解ニャ」

「ケースケ、バイバーイ」

「豚ノアブラミ、ウマカッタゾ……」

 それぞれ、別れの言葉を告げておとなしくCOMPに戻っていった――――が、一人だけCOMPに戻らない奴がいた。

 

「ケースケ……血ヲ吸わせテくれルって……言ッたよネ……?」

 ニッコリとこちらを微笑んでくるリリム。ただ、笑っているだけなのに殺意のようなものをプンプンと感じて仕方ないのはなぜだろうか。

 とりあえず、これ以上血を吸わせてやらないと吸血鬼よろしく襲い掛かってくるだろうからそろそろ血を吸わせてやる必要があるな。少し血をやるのは苦手なんだが……まあ致し方ないか。

 

「ほら、特別サービスだ。時間がないから手短にな?」

 おとなしく首筋を見せると、リリムはさっと表情を変えて喜んで近寄ってきた。現金な奴め。

「いっただっきまーす♪」

 俺の耳元でリリムはそういうと、リリムの唇が俺の首筋に吸い付いた。その柔らかい唇はとてもと言うほどじゃないが、くすぐったい。これが俺がリリムに血をあまり吸わせたくない理由だ。

 どうやらリリムは直接歯を立てずとも血を何か特殊な方法で吸血できるらしい。ただ、吸う時に舌で軽く舐めてきたりするので物凄くくすぐったい。こっちがそう感じるのを分かっててやってるんじゃないかと思うくらいだ。

 

「―――ふぅ。ごちそうさま! おいしかったよ、ケースケ♪」

 リリムは満足そうに微笑むと俺の頬に軽いキスをするとCOMPに戻っていった。こういう所は可愛らしいといえばそうなんだけれども、血を吸わせた後の多少のめまいや少し頭がぼーっとなる感覚が苦手なんだ。これも血をあまり吸わせたくない理由のひとつだ。

 

 これでリリムもCOMPに戻ったので、俺は黙ってオヤジさんに借りてきた店のエプロンを着て、これまた黙って借りてきた空の瓶とケースを持っていく。

 外に出ると、分かってはいたがもうすっかりと夜だ。昼からしばらく時間が経ったので腹も少し減ってきたがそれは後だ。

 

 俺は自転車に乗ってレイナーレさん達が居る廃協会を目指す。俺のハンドルを握る手も、ペダルを扱ぐ足も、いつもより力が篭っていて汗ばんでいる気がした。

 




どうも、久しぶりの更新となってしまい申し訳ありません。そして今回もただ引き伸ばしまくった内容のない回になってしまいました……。

しかし、もうそろそろで第一巻も終わりそうです。あと5話以内には終わるんじゃないでしょうか……多分。いや、おそらく。

次回、いよいよケースケ君のアーシアさん救出計画が始まります。一体、どのような作戦で、どのような展開になるのでしょう……乞うご期待ください。
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