自転車を漕いでいくと、教会が若干見えてきた。
裏道に確か、”まさか正面から突破してこないだろう”とか考えて正面に見張りすら配置しない、頭が残念なテルミット反応がいたはずだ。
鼻歌交じりに裏道を自転車で歩いていく。テルミット反応はどこにいるのやら。
「こっこはーお国のなんとやら~……」
鼻歌から更にランクアップして歌を軽く口ずさんでいると、目の前から誰かが木か何かから飛び降りてきた。テルミット反応だ。
「ハァイ♪ 下等な悪魔の下――――ってなんだ、ケースケじゃん」
「そういう貴方はペッタン子」
「……たまーに思うんだけど、ウチが堕天使だって忘れてない? アンタ」
どうやら俺に対してもうキレたりするのはただの体力と気力の無駄遣いだと学習したらしい。
チッ、これでいつもいつもテルミット反応の発狂寸前じゃないかっていう怒り具合を楽しく鑑賞するのもできなくなった。
しかし、そんなことはどうでもいい。とりあえず適当に機嫌をとってさっさとカラワーナさん達を呼ばせよう。
俺は腰を90度近く曲げて揉み手摺り手でテルミット反応に話しかける。
「いえいえ、今日は最近の非礼をお詫びにちょっとした差し入れを持ってきたんでございますよ」
「へぇ? ウチらの力をやっと理解できたんだぁ? ま、今までの行動を省みて? ウチに土下座でもしてみれば許してあげないこともないけどぉ?」
「なーに調子に乗って言ってんだ顔面ヘロインドラム缶娘」
「がっ――――!?」
しまった、あんまりにも調子に乗ってニヤけたドヤ顔で俺の額を中指でグイグイ押してくるもんだから、腹が立って俺の思いつく限りのテルミット反応の見た目を比喩してしまった。
まあおかげでテルミット反応の開いた口がふさがらないというマヌケ顔を拝めるわけだが。
「―――もう許さない! 絶対許さないから、極刑確定っしょ!」
怒り狂ったテルミット反応が俺の胸倉を掴む。やっぱり人並み外れた力だ。このまま口喧嘩をしてテルミット反応を泣くまでいじるのもまあいいかもしれない。しかし、しかしだ。
……よく考えてみるとレイナーレさん達は罪は軽くなったとしても、万が一、下手すれば俺がこの世界にいる間、いや俺が生きている間に会えるのかどうかも分からない。そう考えると、こうやって喧嘩別れするよりも、俺が後悔しないようにした方がいいのかもしれない。
「……うっわ何、その顔。殴る気すら失せるんですけど」
俺の顔から何か察したのか、テルミットは俺の胸倉を離した。どうやら俺はよっぽどの顔をしていたようだ。
「いや、ちょっと色々あって。これが最後かと思うとさ。なんとなく、これでいいのかなーと思って」
「ハァ? いきなりそんなこと言われても理解できるわけないじゃん。バカ?」
「バカ……まあ、バカかもなぁ」
今までの行いを振り返ってみると、俺も色々と馬鹿な事をしたかもしれない。小猫さんとの約束も破るわ、ご都合主義の如き展開で読者の度肝を抜くわ……。ああ、度し難いことばかりしてるな俺。
俺がそんな風にボケッと思いふけっていると、テルミットが気味の悪そうな目で俺を見ている。
なんだ、俺がセンチメンタルな気分になって悪いのか寸胴め。
俺が心の中でテルミットに毒づくとテルミットは軽くにらみつけてきた。
「……今ウチに喧嘩売ったっしょ?」
どうやら読心術なんていう、今時流行らない無駄な廃れきったテクニックをテルミットは会得しているらしい。自分の中身を外見と同じどおりにしようと時代の流れに必死に追いつこうとして会得したなら、お涙頂戴ものだな。
そんな風な事を考えて余計な時間を費やすのはただのお間抜けな行動なので、適当に誤魔化してさっさとほかの二人も呼んでもらおう。
「気のせい気のせい。カラワーナさんとドーナシークさんいる?」
「あー、今から呼ぶから。カラワーナ、ドーナシーク、デルパ!」
テルミットは何かを念じるように呪文を唱えると、魔方陣からカラワーナさんとドーナシークさんが出てきた。……召喚した呪文が非常に聞き覚えがあるのは気のせいだろう。
「どうした、テル―――ミッテルト」
カラワーナさんが出てきて開口一番にテルミット反応の名前を間違えかけた。やっぱりミッテルトよりテルミットの方が覚えやすいようだ。
テルミットはテルミットでカラワーナさんが間違えかけたのを耳ざとく聞き逃さずに食って掛かる。
「今ウチの名前をテルミットって言おうとしたよね! したよね!」
「ああ、すまない。間違えた」
毅然とした態度で謝るカラワーナさんに援護をするようにドーナシークさんがテルミットをなだめるように話しかけた。
「まあ落ち着けアル―――ミッテルト」
おい、待て今なんと言い間違えたんだ。
それを聞いたテルミットがさらに憤慨して俺たち3人をにらみつけながら半分発狂したように、まくし立てる。
「ウチの名前はミ・ッ・テ・ル・ト! テルミット反応でもアルミノテルミー法でもないっつーの!」
「分かった分かったミ・ッ・テ・ル・ト! さんよ。貴方の名前はミ・ッ・テ・ル・ト! さんだってことはよく分かったから」
次に名前を間違えたらテルミットがキレて話も進まなくなるので今度こそ名前を間違えないように俺がきわめて丁寧に大事なことなので2回言うと、ミッテルトは若干の涙目になりながら三白眼で俺をにらみつけてきた。
「―――ッ! ―――ッ! ――――――ッ!」
足をバンバンと地面に叩きつけるように地団太を踏むテルミットの口からは言葉にもならない声――おそらく俺に対しての恨みの念が篭っている――を発声している。
さすがにこれ以上やってはテルミットが可哀想だし時間を無駄に食っているのでさっさと謝っておこう。
「あー、うん。その、ミッテルト。ごめん、ちょっとふざけすぎた」
おとなしく頭を下げると、テルミット反応は敵意むき出しのそろそろ本当に泣き出すんじゃないかという目で口を開いた。
「……今、ウチのこと心の中でテルミット反応って呼んだ」
おう、無駄な読心術使ってんじゃねーぞドラム缶。話が進まなくなるだろ。
「それに今、無駄な読心術使うなドラム缶って思った」
「分かった分かった……お前さんには負けたよ。俺が悪かったよ、ごめんな。ミッテルト」
さすがにここまでミッテルトをいじめるのはやりすぎたかもしれない。何事もやり過ぎはいけないよな、うん。そうだそうだ。
心の中でも反省しつつミッテルトに頭を下げると、ようやっとミッテルトは敵意むき出しの目で見るのをやめた。そしてこちらを見て話しかけてくる。
「……ホントに反省した?」
「ホントです。ジャポンズヒューマン嘘ツカナイ」
もみ手すり手でそういうと、ミッテルトは機嫌を良くしたようだ。これで話も進められるのでとりあえずさっさと要件を済ませよう。
「あー、それでですね。こんな時間ですが用があってですね。結構大事なんですけど結構簡単に済むんでちょっと聞いてください」
俺がそういうと、3人共俺の方を向いた。少し緊張もするがきちんと言っておかなければいけないことなので、しっかりと3人の目を見つつ俺は口を開いた。
「えっとですね……実は、身の上の都合が色々ありまして。近々、もう会えないかもしれないんですよ……」
それを聞いたカラワーナさん達は、一瞬の沈黙の後にボソッとつぶやいた。
「なんだ、そんなことか」
「はい、そうなんです……。いや、え?」
思わず耳を疑ってしまうような、思わぬ変化球が飛んできたので驚いた。あれ、夕方まで俺に”勝手にどこかに行くな”とか言ってた人物とは思えないくらい随分とさっぱりとした反応だ。
「意外か? 私達を何だと思っている。堕天使だぞ?」
ドヤ顔でカラワーナさんがそう言って、それに続くようにテルミットが不敵な笑みを浮かべ、ドーナシークさんがうなずいた。
ただなぜだろう、物凄く堕天使と言われても説得力が足りなくなってきた気がする。最初のときの第一印象と随分かけ離れ過ぎているからだろうか。
「場所さえ分かればお前の所に行くことくらい容易い」
「あー、なるほど。そういうことですか」
つまり移動できる魔法みたいなのがあってそれで行けると。随分と便利だな、悪魔と堕天使。
何はともあれ、自信満々にそう言われたので安心したフリをしておこう。
「じゃあ、また会えますね」
「ああ、いつでも会えるぞ。約束してもいい」
そう笑いかけるカラワーナさん。俺もそれに答えるように笑い返した。そして、俺はバックからおにぎりを3つ取り出した。
「ああ、それと今回ついでにおにぎりも作ってきたんですよ。どうぞ」
そういって俺は3人におにぎりを手渡す。無論中身の具はエンジェル特製のあの非殺傷兵器だ。
「すまないな、受け取っておこう」
「おお……久しぶりのまともな食事か」
「……なんかウチのだけ正16面体なんだけど」
上から順番にカラワーナさん、ドーナシークさん、テルミット反応がそれぞれ嬉しそうに受け取ってくれた。若干一命だけいぶかしんでいるように見えるが気のせいだろう。
しかし、テルミット反応も運の悪い奴だな、エンジェルの作ったおにぎりを手にするなんて。ある意味おいしい所をいっつも持ってくな本当にコイツは。
「さ、どうぞどうぞ。食べてつかぁさい」
俺が3人にそう勧めると、3人ともお握りを口にしてくれた。ちゃんと齧れば一発で中の具が口に入るように考えて入れたので大丈夫だろう。これで後は3人は何を知るわけもなく、ぐっすりと寝て気づけば―――。長くなるだろうな、このしばらくの別れは。
「これで少しの間お別れですか……。いや、でもやっぱり、もう会えるかどうか……」
それを聞いたカラワーナさんが俺に笑いかける。まだ堕天使というだけあって効いてくるまで時間がかかるようだ。
「何を言っている、約束しただろう?」
「そうなんですけど……。いや、やっぱ謝ります。すいません。ホント、すいません……」
「大丈夫だ、安心―――?」
カラワーナさんがそう言いかけた所でやっと効果が出てきたらしい。多少の立ちくらみを起こしたようにフラフラと立つのもおぼつかなくなってきたようだ。
とうとう立てなくなり倒れ掛かってきたカラワーナさんを俺は受け止める。
「ケースケ……?」
「ホントすいません。ホント……守れない約束させちゃって、すいません」
俺がカラワーナさんの耳元でそう呟いた頃には、カラワーナさんはもう目を閉じて寝息を立てていた。ドーナシークさんの方は木にもたれかかるようにして、テルミット反応は……生きてるのかどうか分からないが大の字で仰向けに突っ伏して寝ている。
3人をガムテープで手足を縛り、ついでにロープで近くの木に3人を縛り付けておく。さすがに3人を縛るって運ぶと面倒臭いが、これも逃げられないためだから仕方ない。
「後は……念のためにリアス先輩が来たときに備えてこれを……」
3人の額に紙に”リアス先輩へ、手出し無用です。若葉啓介”と書いてガムテープで貼っておく。これで一応手出しはしないだろう。多分、きっと。
とりあえず、最初の段階は無事に終了。次はド腐れ外道のフリード君をどうにかしよう。まあ、不意打ちにせよ、おにぎりを食わせるにせよすぐに終わるだろう。一応ただの人間だし。
教会の前まで来たので、俺は空き瓶ばっかりを積んだケースを持ち運びながら教会のドアを開けた―――が、誰もいない。おかしい、誰もいないのか?
「すんませーん。誰かいませんかー?」
『あーん? 俺っちただいま睡眠中。夜更かしはお肌に悪いんですのー』
俺の呼びかけに誰かが英語でそう答えると、ベンチから誰かが起き上がってきた。
この風貌とこの口調……間違いない、ド腐れ外道のフリード君だ。どうやらベンチで寝てたらしい。なにが夜更かしだ深夜でもなんでもないだろうに。
『あー、ここにワインを配達しろって言われましてね。今持ってるのと他にあと何ダースかあるんですよ』
俺がそういうと、フリードは機嫌よさそうに口笛を吹いた。
『ワーオ、あの堕天使のねーちゃん気前いいねぇ!』
そしてそのままアホ面を引っさげたままフリードは俺の後ろを通り過ぎ、簡単に俺に背後を見せ、覗き込むようにドアから外を覗き込んでいる。
『あ? ワインなんて何処に――――』
「お前に飲ませるワインなんてねーよ馬鹿野郎」
無防備な後頭部にそのまま空のワイン瓶を叩き込む。なんとも言えない鈍い音がしたかと思うとフリードは無様に地面にキスをしたまま動かなくなった。まあ、生きているだろう。
念のため脈も確認したが大丈夫だし呼吸もしてるから自律神経は正常らしい。ならとりあえず先に中に入れておこう。
そう思い、俺がフリードを中に入れようと持ち上げたところで、茂みに隠れている小猫さんと目が合った。木場先輩もイッセー先輩も一緒のようだ。やっと本命が到着したな。
そのまま先輩たちは小走りで俺の方へと走ってきて、まず小猫さんが俺に対して話しかけてきた。
「ケースケさん、こんなところで何をしているんですか」
「ああ、小猫さん。詳しい話は後ね後。あんまりゆっくりしてられないからさ」
そう言うと俺はフリードを持ち上げるのをやめ、先輩たちを先導するように中に招き入れると、中央にある教卓のような机を指差す。
「あそこ、あそこを動かすと隠し階段になってるみたいなんで突入しますよ。まず、俺が……」
俺が話し始めると、イッセー先輩が俺に対して焦った様子で俺に話しかけてきた。
「なあ、なんでお前がここにいるんだよ! お前、最近連絡つかなかったり小猫ちゃんが心配してたんだぞ!?」
まあ、当たり前だが俺がここにいることがおかしいのでイッセー先輩もパニックのようだ。木場先輩や小猫さんも随分と俺がいたことに動揺を隠せないようだし。
しかし、そんなことを悠長に話している場合ではない。さっさと儀式が終わる前にアーシアさんを助けないと色々とめんどくさいことしか起きないからな。それにアーシアさんもやっぱり死なせずに助けたい。
俺はゆっくりとイッセー先輩に言い聞かせるように話しかける。
「イッセー先輩。こういうことは初めてですか? 肩の力抜いてください。とりあえず、アーシアさんを助けるのが先ですよ」
「あ、ああ。そうだまずはアーシアを……!」
急いでイッセー先輩が隠し階段のある教卓もどきへと駆け寄ってどうにか動かそうとするものの、少し重いらしく動かないようだ。
「退いてください」
見かねた小猫さんがワンパンで教卓もどきをふっ飛ばした。相変わらずの力持ちっぷりに少し肝が冷える。よくあんな細腕から力が出るもんだ。
「よし、道は開けました。では作戦を言いますから……」
「今行くぜアーシア!」
「ちょっと待てや」
俺の話を無視して駆け下りようとするイッセー先輩の首根っこをつかんで引き戻す。やれやれ、熱血漢なのはいいんだけれど策を練らないと駄目ですよ先輩。
「だから肩の力抜いてくださいって。落ち着かないと助けるものも助けられません。いいですか、私が先導しますので、私の後ろに木場先輩と小猫さん、それと一番最後にイッセー先輩です」
それを聞いたイッセー先輩が物凄く何か言いたげな表情をしているので、俺は何かを言われる前に付け足すように話す。
「これにはですね、向こうには大量の外道……じゃなくてはぐれ神父がいるので、木場先輩と小猫さんが道を開いて、その道をイッセー先輩が突っ切ってアーシアさんを助けるという一連の手段を効率よくするためです」
「でも、はぐれ神父の他にもイッセー君が言っていた堕天使もおそらく居ると見ていいはずだよ。そう簡単にはいかないんじゃないかな」
木場先輩が難しげな表情でそう俺に言ってきた。まあ、確かにそうだがこっちには秘密兵器がある、これは少なくともはぐれ神父には聞くだろう。
俺はバックから例の発煙筒と閃光音響弾を取り出す。
「これを使います。これで奴らの目と耳をつぶして、てこずるようであったらこれで煙をまいて視界を塞いでからアーシアさんを奪回します。アーシアさんを奪回するのが今回の目標ですので、取り巻きとの交戦は避けましょう」
「なるほど、奇襲をしかけて一点に集中して相手の反撃を待たずに助け出すんだね」
感心したようにそう言った木場先輩。我ながらこの作戦は結構出来ていると思う。
「ええ、こっちの方が数は少ないと思われますし、さっさと終わらせますよ。じゃあ付いてきてください」
俺が先輩たちを先導して階段を、なるべく人数を音で判断されないように忍び足かつ迅速に降りる。薄暗い中をヒタヒタと歩いていくと、曲がり角だ。そこから光が差し込んでいるのでその先がおそらく儀式の場と見ていいだろう。
こっそりと覗くと、やはりビンゴだ。数十メートルくらい先に無駄にでかい階段がありその上にアーシアさんが十字架にかけられていて、その隣でレイナーレさんがなにやら怪しげなことをしている。無論その間に40人程はくだらないはぐれ神父が控えている。
俺の視線に気づいたのか、レイナーレさんはこちらの方を振り向いたので俺はすかさず顔を引っ込め、先輩たちに状況を報告する。
「数十メートルくらい先に無駄にでかい階段があります、そこをまっすぐ行けばアーシアさんと誰かいますね。多分堕天使です。それとはぐれ神父もいます。こちらの10倍くらいは数はいるんじゃないですかね」
木場先輩と小猫さんは落ち着いて俺の報告を聞く。イッセー先輩も多少冷静になったらしく俺の話を黙って聞いている。
「作戦は、先ほど話したとおりです。まず、木場先輩と小猫さんで道を開いてイッセー先輩はすばやくアーシアさんを奪取、それを確認次第とんずらこきますよ」
「ああ、分かってるよ」
「うん、僕も大丈夫」
「分かりました」
イッセー先輩、木場先輩、小猫さんがそれぞれうなずいた。それを見た俺はサングラスをかける。
「軽く耳塞いでおいてください、物凄い音がしますんで。突入の合図は肩を叩きますので叩かれたら後ろに人に肩を叩いて突入してください」
「もう隠れていないで出てきたらどう? 悪魔の皆さん」
レイナーレさんの声が聞こえる。どうやらこちらに気づいてくれたようだ。手間が省けて助かる。
「それじゃ、ご要望どおりいってきてあげてくださいねっ……と!」
俺は閃光音響弾のピンを抜いて力強く投げる。そして耳を塞ぐと、ほんの僅かな時間を置いて耳を塞いだとは思えないほどの大音量が聞こえてきた。
あまりの音量に多少驚いたが、効果のほどを確かめるために少し覗いてみると、はぐれ神父達は全員ノックアウト状態だ。それぞれが耳を塞いでうずくまったり、立ったまま硬直していたり、床を転がりまわったり、失神していたりと阿鼻叫喚の地獄を味わっている。
「GO!GO!GO! 早く!」
俺が叫びながら木場先輩の肩をバンバンと叩くとそれに次いで木場先輩が小猫さんの肩を叩き、小猫さんはイッセー先輩の方を叩いて駆けていった。イッセー先輩もそれに負けずと突っ込んでいく。
そして俺は後方を注意しつついつでも先輩たちが脱出できるように発煙筒を片手に覗くようにして先輩たちの様子を見ている。要は俺はケツ持ちだ。
「イッセー君、プロモーションを!」
駆けながら木場先輩がイッセー先輩にそう叫ぶ。
「プロモーション!」
イッセー先輩がそう叫ぶと、みるみるとイッセー先輩は加速していってあっという間に階段を駆け上がっていった。どうやら、あれはナイトの駒にプロモーションしたらしい。
そして、イッセー先輩は一回殴りつけて鎖が壊れないと見るや、もう一回プロモーションをすると今度は簡単に鎖を引き裂いて軽がるとアーシアさんを持ち上げた。なるほど、今度はルークか。
しかし、アーシアさんの傍にはレイナーレさんがいる。無論イッセー先輩を見逃すわけがない。レイナーレさんは光の槍をイッセー先輩に投げつけるが、やはり先ほどの音響閃光弾のために狙いが定まらないのかイッセー先輩はするりとかわすとこちらへと駆け寄ってきた。
「先輩、無事ですか! 早くッ!」
俺がたまらずイッセー先輩をせかすように叫ぶと、回復してきたのかレイナーレさんがイッセー先輩の背中めがけてもう一度光の槍を投げてきた。
「先輩後ろッ!」
俺があわてて叫ぶが、その間にも光の槍はイッセー先輩が回避するには不可能な距離にまで届いていた。
「危ないっ!」
ここで木場先輩が飛んできた光の槍を一刀両断、スパンと横から真っ二つに槍を斬り捨てた。木場先輩、流石の物凄い腕前だ。
そして木場先輩はレイナーレさんの方を向き直ると剣を構えた。
「イッセー君、君は先にアーシアさんと一緒に! 僕は少し足止めをするから!」
「木場ァッ!」
心配そうにイッセー先輩が木場先輩に向かって叫ぶ。そして更に小猫さんまでもが木場先輩と並んでレイナーレさんの方へと拳を構えた。
「私も残ります」
「小猫ちゃんも!」
「先輩一人では不安ですから」
あいも変わらぬ無表情でそうきっぱりと言う小猫さん。木場先輩は苦笑しながらもレイナーレさんの方へと視線をそらさない。
イッセー先輩は俺の所へようやく到着。急いでイッセー先輩に階段を上がらせる。俺はケツ持ちだがこの場合はイッセー先輩とアーシアさんを一刻も早く来ているであろうリアス先輩たちに保護してもらったほうがいいだろう。
「無理しないですぐにこっち来てくださいね!」
俺はそう叫ぶと急いでイッセー先輩の後を追う。
教会についた後、肩で息をついているイッセー先輩に駆け寄る。
「イッセー先輩、急いでリアス先輩の所へ!」
「ああ、だけど……それはお前がやってくれないか? 俺は今すぐにでも木場や小猫ちゃん達の所へ行かないと!」
「駄目です! いつあそこにいるクソ外道が目を覚ますかも分からないのに、でアーシアさんを運んでいるところを襲われたら、俺一人じゃアーシアさんを守れませんよ!」
俺の話に一理あると見たのか、イッセー先輩は一瞬と惑っていたが、
「……クソッ! もう少し待っててくれよ、木場! 小猫ちゃん!」
そう言うと俺にアーシアさんを預ける。俺も急いでアーシアさんを背負うと駆け出す。
「急ぐぞケースケ!」
「分かってますよ!」
俺とイッセー先輩は急いで走り出す。若干足は遅くなるがアーシアさんは軽いので負担にも苦にもならない。
『んー……頭イテェ』
「お前は寝てろっ!」
ダメージから復活した腐れ外道フリードが体を起こしたが、そこをイッセー先輩が勢いよくサッカーボールキックを食らわせた。
蹴りは見事にクリーンヒット。フリードは汚い雑巾みたいな吹き飛び方をするとベンチに激突し、そのまま物言わなくなった。成仏してくたばってくれ。
「えげつないことしますねぇ、先輩も」
「今はそんなこと気にしてる場合じゃねぇッ!」
そう言いながら教会を出ようとすると、俺とイッセー先輩の間を何かが通り抜けた。
それは俺の頬をピッと掠め、頬からは少し出血をしている。
「逃がさないわよ」
後ろから聞こえる声。間違いない、レイナーレさんだ。時間稼ぎが終わるのが予想以上に早い、このままだとアーシアさんを逃がしている暇はない……か。
『イッ……セー……さん?』
突如、このタイミングで俺の背後でアーシアさんの声が。どうやら目が覚めたらしい。丁度いい、このままアーシアさんには逃げてもらって俺とイッセー先輩で足止めをしよう。
アーシアさんを降ろすと、アーシアさんはしっかりと足で立っている。これなら走れそうだが、念のために確認しないといけない。
『アーシアさん、走れますか!?』
俺がアーシアさんに話しかけると、少し何が起きているのか分からないような目でアーシアさんは答えた。
『ケースケさん……? はい、何とか』
「アーシア! 逃げてリアス・グレモリーって人の所まで走るんだ! 紅い髪をしてるからすぐ分かるから!」
イッセー先輩がそう言うと、後ろを向いて構える。俺もそれに続いて構えた。
「何でお前も逃げないんだよっ!」
「一人より二人ですよ。こういう展開だと、大体敵は負けフラグが立ちますっしょ?」
驚いた様子で話しかけるイッセー先輩に対して俺は不敵にそう笑い返す。俺の冗談に、イッセー先輩も少し笑いながら構えなおす。
「そうだな……。俺とお前、負ける気がしねぇよ!」
「ええ、俺もそう思います。さ、アーシアさん早く逃げてください」
振り向かずに俺がそう言うと、レイナーレさんは明らかに小馬鹿にしたように笑い出す。
「1と2が合わさったって3じゃない。所詮1000や2000には勝てないのよ」
それに対しイッセー先輩は自信たっぷりに言い返した。
「1と2? 違う、俺達は二つ合わせて―――1万だ!」
なんておいしい発言をしたんだ先輩は……今俺が言おうと思ったのに。
「あっ、俺が言おうと思ったんですけど……」
俺がそう言うと、イッセー先輩は笑いながら俺に対して口を開いた。
「へへっ、お前にばっかりおいしい所を――」
その瞬間、イッセー先輩の腹に光の槍が突き刺さった。
「ぐっ……がぁぁぁぁぁぁっ!?」
イッセー先輩が悲鳴を上げて倒れこむ。見てみると、傷は随分と深く出血は激しい。急いでエンジェルとピクシーに治療をしてもらわないと……!
「イッセー先輩!」
「だから言ったじゃない。1と2は合わさっても3なのよ!」
そう言いながら可笑しそうにレイナーレさんは大笑いをしている。今すぐにでも顔面を殴ってやりたいところだが、今はそんなことをしている場合ではない。まずは止血してディアをしないと……!
そう思い、俺がしゃがみこもうとすると、その前に誰かが俺の前にしゃがみこんだ。
『いいえ、お二人だけじゃありません……。私も―――私だって、私だってお二人の役に立てるんです!』
そう言いながらアーシアさんがイッセー先輩の傷に向かって暖かい、緑の光を当てている。その光に当てられたイッセー先輩の傷はみるみるとふさがっていく。何度見ても凄い治癒力だ。
「アーシア……逃げたんじゃ」
傷が完全にふさがったイッセー先輩がアーシアさんを心配そうに見上げている。
『イッセ-さん。私、決めたんです。このまま逃げていたって、誰かが悲しんで傷つくだけでしかないなら―――私、もう逃げません!』
しっかりとした目でイッセー先輩にそう話しかけるアーシアさん。これはもう俺達がどう言ったって無理だろう。てこでも動かなさそうなほど、強いまなざしだ。
「アーシア……ありがとう。俺、今からお前が生きようとするのを邪魔する奴をぶっ飛ばしに行くからさ。そしたら……俺達、また一緒に遊ぼうな!」
『はいっ……!』
涙を流しながらアーシアさんがイッセー先輩と熱い王道の展開を繰り広げている。俺とレイナーレさんは全くの空気だ。さっさと倒すようにするからイチャつくのやめてくれませんかね、ホント。
「アーシア。本当にもう戻る気はないのかしら?」
ここでレイナーレさんが空気を読まずに口を開いた。どうせこの展開をひっくり返すのは無駄だというのに、余計にイチャつかせないでくれませんかね。
『はい……。私、もう戻りません』
「そう……残念ね」
そう言うと、レイナーレさんは表情を変え、飛びながら両手に光の槍を構える。
「行きますよ、先輩!」
「応っ!」
俺とイッセー先輩も構えながらレイナーレさんの方へ駆け出す。
―――さあ、ここからが本番だ。連携と団結の力を見せてやるぜ!
どうも。お久しぶりです。
さあ、いよいよ始まってまいりました。レイナーレさんVSイッセー先輩&ケースケ君。いよいよ物語りもクライマックスを迎えます。
今回はなんとか熱い展開にしてみようと頑張ってみました。いかがだったでしょうか?
次回、果たしてイッセー先輩とケースケ君は勝てるのか。乞うご期待ください。