「無駄よ!」
そう言ってレイナーレさんは光の槍を投げる。おそらく、まとめて俺達を避けられないであろう範囲内で爆風で吹き飛ばそうって魂胆だろう。そうは問屋が下ろさない。
「オラァ!」
俺は掛け声と同時にイッセー先輩の左手―――つまりセイクリットギアで覆われてる手の甲を引っ掴むと光の槍に手の甲をぶつけて無理受け止める。
少し鈍い金属同士のぶつかった様な音がしたかと思うと、光の槍は先っぽの部分がへし折れは消えた。よし、駄目元だったけれど成功した。
「痛ッッッ! ケースケ、おまっ……俺悪魔なんだぞ!? 光でダメージ倍増だっての!」
「大丈夫大丈夫、セイクリットギアは悪魔で出来てるんじゃないんですから」
俺が思うに、おそらくレイナーレさんの光の槍は多分色々とおかしい。というよりは、やっぱり不完全なのかもしれない。
例えば、光の槍を地面に突き刺さると爆発を起こしたがイッセー先輩の体を貫いたときは貫通しなかった。一撃で仕留めるにはどう考えたって、体の中で爆発させた方が威力も高いしグロいしR-18Gとかタグ付けざるを得なくなってこの小説をおしまいにすることだって出来る。
しかし、それができないということは……つまり、光の槍には言ってみればミサイルやロケットみたいなもの……グレネード弾だっていい。そういうのには衝撃信管があって、それがいわば爆弾のスイッチの役割になるわけだ。どうもそのスイッチがレイナーレさんの場合ぶっ壊れていると見て良い。つまり、人間の肉体との衝突での衝撃ではスイッチが反応しないが地面との衝突での衝撃では反応するってことだ。
今回は、非常に危うい賭けだったけれどもセイクリットギアで光の槍を受け止めてみた。結果は大成功、受け止めたときの衝撃では光の槍は反応しないようだ。
よかったよかった、これでもし爆発したら先輩の左手は弾け飛んでただろう。ついでに俺も多分爆風に巻き込まれてもれなく爆死してたに違いない。本当に運が強くて感謝だ。
それに、イッセー先輩も痛がってはいるが光でのダメージじゃなくて単に手首を少し傷めたようだしそこまで心配しなくて良いだろう。
「さーて、これでもう光の槍は怖くない。一つ武器を潰せましたよ」
「俺の武器も潰さないでくれ……」
割と痛そうにイッセー先輩はそう言いながら左手をぷらぷらとしている。まあ、多少痛い程度で動かすには全くの問題もないようだ。
とはいえ、やっぱりイッセー先輩の左手ばっかりに負担をかけるのはあまり良いことじゃない。ほかにも受け止められる物があればいいんだけれども……。
「その程度で勝ったつもりなの? おめでたいわね!」
レイナーレさんはまたしても次の光の槍を投げてようと大きく振りかぶった。無論俺達は無防備に立ち尽くしたまんまだ。
「やべっ、流石に暢気に構えすぎた!」
そう叫びながら俺はとっさに先輩の前に出ると、真ん中でポッキリと割れている壊れたベンチを持ち上げて投げる。半分に割れているとはいえベンチを投げるとは我ながら化け物じみているとは思う。これどんくらい重いんだろうな……。
「くっ! 無駄な足掻きをしてくれるじゃない」
流石にこれは直撃は危険と見たのか、レイナーレさんは投げるのを諦めて回避した。残念、直撃してくれれば一発で昏倒はしないだろうが墜落確定だったのに。
「先輩、俺らにだって対空手段はあります! そこらへんのベンチとか石とか!」
「石はともかくベンチは投げるもんじゃねーよ! まあ、やるけどな……っと!」
そういうと先輩もなんとかといった様子でベンチを遠心力を利用してレイナーレさんめがけて投げつける。ルークにプロモーションしてるからだろうけど、やっぱり化け物じみた力だ。俺も人のことは言えたもんじゃないが。
「っ……無駄よ!」
流石にベンチ丸々は避けづらかったのか、レイナーレさんは少し焦ったように回避する。回避されたベンチは壁にぶつかり、落ちるとバキッ、という音と共に何等分かに割れた。
「よっし、これで俺も投げれる! どんどん投げちゃってください」
急いで俺はもう一個の割れたベンチを投げると、イッセー先輩が投げたベンチの残骸へと向かう。
向こうは光の槍のストックはいくらでもあるんだろうが、こっちにだって投げるものはいくらでもある!
「おう、俺だって伊達に筋トレ始めた訳じゃ―――ねぇっ!」
もう一回、俺のダッシュを援護するようにイッセー先輩はベンチを丸々と投げる。ここぞというときはカバーしてくれる先輩は何だかんだ言って頼りになるなぁ。
「チッ……何度も何度もっ……!」
流石にレイナーレさんも焦りを隠せなくなってきた。光の槍を作ってる暇もなく回避に専念するしかないようだ。
これで形勢逆転、あとはこのまま押し切って難なく撃破だ!
※
「ケースケ! そっちいったぞそっち!」
「任せてください……オラッ! ああ、外れた! そっち行きましたよ今度は!」
「いい加減当たれよっ……!」
かれこれ10分くらい、俺とイッセー先輩でのレイナーレさんとの死闘は繰り広げられている。いい加減、誰か援軍来ませんかねホント。小猫さんや木場先輩はともかくリアス先輩や姫島先輩は何やってんですかマジで。
レイナーレさんもレイナーレさんで無駄に粘る。粘る粘る。とにかくかわして俺達が疲れるか自分が疲れるかという体力比べの持久戦に持ち込む気らしい。
おかげで俺達はベンチの残骸やらベンチやらを持って追い掛け回している。原始人が鳥を狩ろうと必死になっているようで、なんとなく古に眠っていたDNAか何かが目覚めて気分はすっかりネアンデルタール人。なぜかちょっとだけ楽しくなってきた。
「羽か腕狙いましょ羽か腕!」
「んじゃ俺羽な!」
「じゃあ俺腕で!」
とうとう気分が最高にハイってやつになってきたのか、虫取り少年がどっちがカブトムシでどっちがクワガタを狙うかみたいな会話になってきた。これもレイナーレさんが粘るのが悪い。俺達は悪くない、うんうん。
「揃いも揃って私を馬鹿にしてっ……! 私は至高の堕天使なのよ!」
先ほどの発言でレイナーレさんの無駄に高いプライドのせいで我慢が出来なくなったか、光の槍を構えた。よし、チャンスだ!
「三角筋ッ! 頂きぃぃッ!」
「キャオラッ!」
俺とイッセー先輩による同時攻撃。光の槍を構えるなんておろかな行動をしたレイナーレさんは避けられるわけもなく、二つともが直撃。これでレイナーレさんは流石にもう飛べないだろうし片腕も潰せたと見ていいんじゃないだろうか。
「よし、これでチェックメイト!」
そう俺が喜びの叫び声をあげたのもつかの間、突如光の槍が飛んできた。しかし、それは見当違いの真上へと飛んで行き――――爆発。
「先輩、危ないッ!?」
咄嗟に先輩を抱きかかえるようにしてタックル。間髪要れずに俺とイッセー先輩のいたところへと瓦礫が落ちてきた。瓦礫キルを狙うとは、なんと言う高度なテクを。これはFPSでもそうそう―――じゃない。
急いで先輩に手を貸す。さっさとレイナーレさんを倒さないとめんどくさいことが起きる。
「先輩立てますか?」
「おう、大丈夫……よっと」
先輩は俺の手を握って普通に立ち上がった。俺の体もイッセー先輩の体も特に以上は無いようだ。何も無くて幸いだ、頭とか強かに撃ってたらとうしようかと思ったがそんな心配も無駄だったな。
「それじゃ、さっさとレイナーレさんをたおしマ゛ッ―――――?」
軽い衝撃と同時にうまく話すことが出来なくなった。口の中で鉄っぽさと血なまぐさい何かがあふれかえる。たまらず吐き出すと、赤い赤い新鮮な血が出てきた。本当に動脈を流れてる血は赤いんだな。割と綺麗だな、絵の具を水に溶かしたのよりも綺麗かもしれない。
下を見てみると、俺の体には綺麗に穴が開いていた。この様子だと、腎臓もやられてるだろうし、小腸とか大腸はズタボロだろう。むしろ、よくも体からはみ出ないもんだと思うくらいだ。
これを確認すると、次は俺の体から簡単に力が抜けていく。自然に、血といっしょに体といっしょに流れ出てるんじゃないかと思うくらいだ。そしてそのまま、自然とイッセー先輩に倒れこむような形になった。
こうやって、今自分の状況を冷静に確認できるのが自分でもやっぱり不思議だ。やっぱり、一回体験したことだけど人間死に際は冷静になるもんらしい。
「ケースケッ!?」
イッセー先輩が取り乱した様子で俺の名前を叫ぶ。
駄目ですよ、先輩。こういうときは取り乱しちゃいけないんですよ、ほら、落ち着いてください……。
ニッコリと俺が笑うとさらに血が喉から遡って来た。それを見たイッセー先輩は余計に取り乱した表情でこっちを見る。
ははっ、安心させるつもりが余計に焦らしちゃいましたね、すいません。
『ケースケさん!』
慌ててアーシアさんが俺の傍に駆け寄ってきて俺の傷所に手を添える。淡い光が俺の傷をふさいでいくが、それでもやっぱり俺の流した血の量はすさまじい。傷がふさがるまでにも俺の血は勢いよく体から出て行っていく。
多分、傷がふさがっても俺は血が少なくなって死ぬだろう、間違いなく。
ようやく血があふれかえってこなくなったので、俺は血反吐を吐き出して声を出す。
「ははは……。いやー、油断大敵とはよく言ったもんですね……」
「いいから黙ってろよ! そのままじっと動くなよ!?」
涙目になりながら先輩が俺を励まそうとしている。しかし、俺の体は正直らしい。物凄く眠い。ただ、随分と心地のいい眠気だ。このままぐっすりと寝てしまいたい。心行くまで思いっきり寝てしまいたい。
「あー、じゃあちょっと寝ます。すぐに起きますんで……」
そういうと、俺は目を閉じた。
意外と、教会に敷かれた絨毯も悪くないな……。
※
「ケー……スケ?」
目を閉じたまま動かない俺の後輩。一回、頬を思いっきりはたいてみた。
まったく、何の反応も無い。
「嘘だろ……? おい、ケースケ。なあ、起きろよ。お前のブラックジョークはいつも笑えないんだよ。……何もこんな時にさ、タチの悪い冗談は止めてくれよ。なあ、なあ!」
今度は思い切り肩を揺さぶる。何度も、何度も揺さぶったって何の反応も無い。
止めてくれよケースケ。本当は今すぐでも起きれるんだろ? ”死んだと思った? 残念、死んだフリでした!”ってやってくれよ。いつもは笑えなかったけど、今日だけは笑ってやるからさ、頼むよ。お前が探してた俺の秘蔵本だってなんだっていい。全部くれてやるよ。俺はお前と一緒にクリアするって言ってたガンコンだって結局まだ最後のボス倒せてないんだぜ? ランキングを俺とお前で全部埋め尽くすのだってまだ半分も住んでないんだよ。
頼むよ。頼むから。なんだっていい。神様。こいつは悪魔じゃない、人間なんだよ。俺なんかと違ってちゃんとした、俺の数少ない唯一の後輩なんだよ。だから、だからさ。
「なあ神様、頼みます。なんだっていいです。なんだってやりますからケースケを連れてかないでやってくれ! なんで俺じゃなくてこいつが死ななきゃならないんだよ! 俺が悪魔でこいつと仲良くしたのがいけないんですか!? こいつは何もしていないってのに、何でこいつが死ぬんだよ! こんなの、あんまりだ……ありえねぇよ! なあ神様頼むよ――――!」
気づけば、俺の目から涙がボロボロと流れてた。俺の願いは教会の中で響くだけで何も起こらない。
「悪魔が教会で懺悔なんて、どういう冗談かしら? 笑えない冗談ねぇ?」
レイナーレだ。振り向くと、アイツは笑っていた。
アイツだけは許せない。アイツだけは、絶対に許さない。アーシアを利用しただけじゃなく、ケースケを殺した。俺の後輩を。
「レイナーレ! テメェッ……よくもっ」
「まあ、お似合いのコンビなんじゃない? 貴方もそこの死んだ――――若葉って言ったかしらね? 貴方と同じでちょっと遊んであげただけで面白い反応するんだもの。そっくりさん同士仲良くやれるじゃない」
そのままクスクスとレイナーレは笑う。……どういうことだよ? なんでコイツがケースケの事を……?
「テメェ……まさかケースケまで弄びやがったのか!?」
「まさか。たまたま私の部下が連れてきたから色々と使っただけよ。まあ、作った料理はお世辞にもおいしいって言えなかったわねぇ。カラワーナもドーナシークもミッテルトも最近だらしなかったから、これでも見せれば多少は身が引き締まるかしら」
レイナーレはいいことを思いついたとでも言わんばかりの笑顔で笑う。それを見てるだけで吐き気がする。こんなんじゃどっちが悪魔なのか分かったもんじゃねぇぜ……!
「レイナーレ! テメェだけは、テメェだけはっ……!」
気づいたときには俺はそう言いながらもう走り出していた。ただまっすぐに、アイツだけを殴るために。
「あんまり私の名前を気安く呼ばないでくれるかしら、汚らわしい」
レイナーレがそう言うと同時に光の槍が俺めがけて飛んできた。これを交わすことが出来ずに深々と俺の太ももに光の槍が突き刺さる。
「――――ッ!」
声にならない悲鳴が口から漏れ出る。太ももが燃えるように熱い。力が抜けて今にも立っていられなさそうになり、たまらず倒れた。
でも。それがどうした。
「こんな痛みがどうした……ケースケは、アイツが味わった苦しみはこの程度じゃねぇ!」
≪Boost!≫
俺のセイクリットギアが力をくれる。俺の心、意志の強さがそのまま俺の力になる。アイツを、ただアイツを一発でいい。
「アイツを一発殴らせる力をくれェェェッ!」
「無駄って言ってるじゃない」
立ち上がったところで、俺のもう片方の太ももに光の槍が突き刺さる。無様に俺はまた倒れた。
「―――ッ! ―――ッ!」
悲鳴を無理やりに堪える。これじゃ駄目だ。まだ、まだ力が足りない。もっと力が欲しい。
「へえ? まだ耐えるなんて丈夫じゃない」
―――力が欲しいんだ。頼む。頼むよ。
「神様……よりは、悪魔の神様―――じゃないか。魔王だよな、悪魔だったら。魔王様。お願いです、俺に力を、俺の力を下さいッ……!」
無理に足に力を入れて立ち上がる。太ももから血がドロドロと噴き出てくる。けど、そんなの構わない。
「なっ……!? な、なんで立てるのよ! 両足に光の槍を刺したのよ!? ありえない、ありえない……」
驚いた顔でレイナーレが俺を見ている。そのまま止まっててくれ。今すぐにでもその顔に俺の拳をめり込ませたいんだ。
一歩一歩、レイナーレに近づく度に俺の足からさらに血が噴き出る。痛みで頭がどうにかなりそうだ。眩暈もする。このまま倒れてそのまま動きたくなくなくなってすらくる。
―――でも、それでも。
「俺は、テメェにムカついてんだよっ……!」
拳をレイナーレに向ける。その瞬間、左手のセイクリットギアが光り輝いた。
≪explosion!≫
俺の左手のセイクリットギアは気づけば形が少し変わっていて、完全に俺の手はセイクリットギアで覆われていた。
力もドンドン溢れてくる。大量の力だ。
魔王様、ありがとう。これで思う存分―――
「お前を殴れる! レイナァァァァレ!」
「ヒィッ……!」
空を飛ぼうとレイナーレはおびえた表情でもがくが、飛べない。
それもそうだ。俺がコイツの羽を潰したんだからな……!
「逃がすわけねえだろッ!」
全身のありとあらゆる力を拳にかけてレイナーレの顔面を殴る。
「ギッ……アアアアアアアアアァァァ!」
面白いようにそのままレイナーレは吹っ飛んで教会のガラスに突っ込み、そのまま外へと飛んでいった。
「へへっ……ざまぁみやがれ」
俺の体から力が抜けていく。それを誰かが倒れないように肩を貸してくれた。
「いやー、レイナーレさんは強敵でしたね」
「ケースケ、やめてくれよそのネタ――――って、は?」
俺に肩を貸してくれていたのはケースケだった。死んだはずの、俺の後輩だった。
あ、ありのまま今起きたことを話すぜ!
―――死んだ後輩の仇を討ったと思ったら、倒れそうになった肩を貸してくれたのがその後輩だった。お、俺も何を言っているのかさっぱり分からねぇ……。主人公補正だとか、欝クラッシャーだとか、そんなチャチなもんじゃ断じてねぇ!
もっと恐ろしい、何かの片鱗を味わったぜ……。
※
ギリギリ倒れる寸前に先輩に肩を貸すことは成功。とりあえず先輩の傷をさっさと治してもらうためにアーシアさんを呼ぼう。
『アーシアさーん。先輩の傷お願いします』
『は、はいっ!』
アーシアさんが駆け寄ってきてイッセー先輩の傷の治療をする。
やっぱり、いつ見ても感心するくらいの治癒力だなぁ。俺もディアでこれくらいできるんだろうか。
「もう立てますね? 離しますよー」
ゆっくりと慎重に先輩から離れると、なんともなかったかのように先輩は立っている。うん、やっぱり光の効果もアーシアさんの場合は完全に無効化することもできるらしい。色々と便利だなー、常世の祈りみたいだし、常世の祈りみたいにMPもそんなに使わないだろうし。
「ケースケ、お前死んだんじゃなかったのかよ!」
そう言いながらイッセー先輩は必死の形相で俺の胸倉に掴み掛かる。
失礼な、勝手に人を殺さないでもらいたいですね。先輩そこまで俺が嫌いなんですか……。そりゃ確かに俺もあんだけ血が体からドクドク出てたら死んだなとか思ったけれども、人間の体以外に頑丈だったね、あれくらいじゃ死にゃしないらしい。体が寒かったのだって、そりゃー自分の体が血で濡れてたら寒くもなるわな。
「いやー、死ぬなんて言ってませんよ? 寝てただけなんで。呼吸とか脈確認しました? あと顔の両頬が起きたときに真っ赤に腫れ上がってて痛かったんですけど、何してくれてんですか」
未だにまだ頬がなんか温かし、指で触るとヒリヒリするんですけど。どんだけ強く俺の顔叩いたんですか。
「だから言ったじゃないですか。落ち着けって。なんであれほど俺が何べんも落ち着けって言ったのに先輩は人の話を無視するんですか」
「お前が寝るなんて紛らわしい、それっぽい死に際の台詞みたいなこと言うからだろ!? 俺、お前が本当に死んだと……」
すっかり安心したのかイッセー先輩はへなへなと尻餅をついてしまった。さっきまでのレイナーレさんを殴り飛ばした気迫はどこへやらだ。
しかし、先輩の言うことももっともで、あそこで寝た俺が悪いといえば悪い。
とはいえ……なんであんなに眠かったんだ?
「いや、俺も不思議なんですよ。物凄い眠気がしたと思ったら気がつけばバチッと目覚めて体は寝る前よりも快調になってるし、何がなんだか……。何か分かりますかね、リアス先輩」
壁によりかかってにこやかにイッセー先輩を見ているリアス先輩に話を振ってみる。
リアス先輩はどうもイッセー先輩が成長したことが随分と嬉しいのか上機嫌だ。
「ぶ、部長まで居たんすか!?」
「ええ、道中で堕天使の気配がしたと思ったら、ガムテープやロープで縛られて若葉君が書いた”手出し無用”って紙を額に張りながらもがいてる堕天使達が居たのよ。ちょっと反応に困ったけれど、そのあとすぐに全員ぐっすりと眠りだしたからそのままにして、儀式の場所まで移動したら祐斗と小猫がはぐれ神父との大立ち回りをしてたから、朱乃と一緒に少し加勢してたの。まさか一人で堕天使を倒すとは思わなかったわ」
イッセー先輩をベタ褒めするリアス先輩。まあ、それはいいんですが俺のことに関しちゃノーコメントですか。そうですか。
いやまあ、うん。そりゃー俺ただの人間ですもん。オカルト部員じゃねーですよ。うん。でもね、少しは心配してくれるかなーとか思ったんですよ? 一応血だらけで倒れてたんですし、万分の一ぐらいは心配してくれてもいいんじゃないですかね。
そんな風にちょっと悲しそうに俺がリアス先輩を見ていると、リアス先輩がこっちを見て不思議そうに口を開いた。
「そういえば、若葉君はどうしてここにいたのかしら?」
まずそっちですか。はい、そうですね。俺、無関係の人間ですね、この一連の事件に関して無関係の人間ですもんね! 表向きは!
このまま俺グレてさっさとレイナーレさん回収して不貞寝してもいいんじゃないかな、そう思うんだ。
「へっ……まあ、大体皆そういう風に言いますよね。そうですよ、どうせ俺はここに居ちゃいけない人間なんでしょう、知ってますよ。でもね、いいじゃないですか。少しは、少しは心配されたって。こんな自分の血でドロッドロになって死にかけて、かけられた台詞が”どうしてここにいるの?”ですか、そうですね。はい、そうですよ……。どうせ、どうせ俺は命張って誰か助けるなんて柄じゃないですよ、ええそうですよ……」
大体、レイナーレさんを倒すのに俺だって半分くらいは貢献してるんですよ? まあ、どうせ先輩一人でも主人公補正とかついて結局倒せるんでしょうけどね。そうですね、俺はいらない子ですよ。俺はどうあがいたってちょっと余分な子ですよ。そういう運命なんでしょ? うん、知ってた。
俺が落ち込みながらそういう風につぶやいていると、リアス先輩が苦笑している。なんですか、その”しょうがない子ねぇ”みたいな感じは。そうですよ、どうせ俺はめんどくさい手間のかかる子ですよ……。へっ、どうせひねくれた根性曲がりですよ。
「ふっ、俺ァどうせぼっちの運命、ぼっちの人間ですよ……。こうもりですこうもり。獣と鳥の間を行ったり来たりでどちらからも嫌われるただの道化です」
俺が拗ねていると、どこからともなく外からレイナーレさんを引きずってきた小猫さんが近寄ってきた。
「ケースケさん、頑張りました」
そしてそう言いながら小猫さんが俺の頭を撫でてくれる。いつものデコピンだのとかとは違って物凄い優しい手つきだ。
「神はここにいたのかっ……! 救いの女神だ……。万歳っ……万歳っ……!」
その後20秒という永い永い至福の時を過ごし、俺の体は元気百倍、今なら何だってやれる気がする。
「ケースケはアーシアを助けるときにも、堕天使を倒すのにも一役買ってくれたっす。あいつが居なかったらきっと、俺達だけじゃ無理だったかも……」
さらにイッセー先輩が援護射撃をしてくれた。ああ、本当にやっぱりイッセー先輩は性欲以外は全面的にいい先輩だ。性欲以外は。
イッセー先輩の話を聞いたリアス先輩はにっこりと俺に笑いかける。
「そう……ありがとうね、若葉君。色々とお礼をしないといけないわね。貴方には色々と貸しもできたから、そろそろ貸しも返したいわ」
「あ、いいんですか? 俺遠慮ないですよ?」
「ええ、遠慮なく言ってみなさい。なんでもいいわよ」
ん? 今なんでもいいって言いましたね? よし、言質は取った。じゃあ遠慮なく言わせて貰いましょうかね。
「んじゃ、そこにいるレ……堕天使の命を見逃すってのでどうですかね」
それを聞いたリアス先輩の顔はなんともいえない難しい顔をしてきた。
まあ、そりゃそうだろうね。可愛い可愛い下僕に手を出してるからやっぱりそう簡単には許してくれるとは俺も思っちゃいない。
ここはやっぱり、粘り強い説得でどうにかするしか
『あー……首』
「だからお前は寝てろって」
起き上がってきたフリードに対してすばやく手元にあったベンチの残骸を投げつける。これも側頭部に見事にクリーンヒットしてまたフリードは物言わぬただの肉塊となった。
どうしてアイツはここまでしても死なないのかが不思議だ。無駄に丈夫な上に気絶から回復するのも早いのが腹立たしい。
「あーもう、アイツもガムテで縛っとくか……」
俺はフリードを担ぎ上げてレイナーレさんのそばに置くとガムテープで縛り、すばやく気絶させるために空き瓶もそばでスタンバイ。これでいつフリードが起きても即座に対応できること間違いなしだ。
「えーと、それで何の話でしたっけ? そうそう、こっちの堕天使の命を見逃してもら」
「ぐっぁ……う」
「だから寝てろってゆーとるやろが」
今度はレイナーレさんが起き出した。すばやく俺は後頭部を死なないよう安全かつ強かに空き瓶を打ち付ける。
「――――っ! アァァッッ!」
少し鈍い音がしたかと思ったらレイナーレさんは痛そうな叫び声をあげる。なんてことだ、まったく気絶しない。それどころか気つけの役割になってしまった。
めんどくさいことになった、早々に気絶させないとどうせ余計な命乞いなんかして死亡フラグを無駄に立てるだけだ!
「はーいレイナーレさんちょっと寝ててくださいねー少しガツンとするかもしれませんが我慢してくださーい」
もう一度強かに空き瓶を打ちつけると、なんと瓶は割れた。ガシャンといいながら瓶は二つに割れた。さながら映画のワンシーンを見ているようじゃないか。それかミステリードラマで犯人が犯行におよんでいるようだ。
「―――っ! や、やめっ……」
レイナーレさんはまだ健在のようだ。なんてこった、とりあえず適当な物で気絶させないと!
「ちょっとだけ! ちょっと痛いだけだから! ほーら痛くない!」
今度はベンチの残骸で後頭部を打ち付ける。
これでどうだ、今度はちょっと威力を強めに意識してみた!
「ア゛ッ!? い、いや、死にたくない。許して、命だけは……命だけは……」
駄目だ、全く効いていない。それどころか命乞いを始めた! レイナーレさんの馬鹿、自分から首を絞める気か! はやく止めないと後戻りできなくなる!
「こ、こうなったら……秘儀! 人を眠らせる秘孔突き!」
手を二手貫の形にすると、レイナーレさんの首筋のとあるポイントを突き刺すように思いっきりつよく押した。
すると、ぐにゅりと何かに少し当たったような感触がした。よし、手ごたえありだ!
この技はひそかにアメリカで中国人の超から習った極秘テクニック、いくらレイナーレさんでもこれで気絶するはず!
「――――ッ! ――――ッ! ――――ッ!」
レイナーレさんの体は声にならない声と同時に大きく何回か跳ねるように痙攣している。よし、このまま気絶すれば……。
「んん? 間違えたかな?」
思わず声に出してしまったが、まったく気絶する傾向がない。というよりは、むしろエクソシストに出てくる少女を思わせるような大きい痙攣になっていく。もしかして悪魔祓いごっこができる秘孔を突いちゃったか?
「あ、そうかそうか。右首筋じゃなくて左首筋だ」
慌てて左首筋の似たようなポイントを二手貫で突く。これで今度こそ気絶するはず……。
「―――ッ! ―――ッ! ……イッセー君、助け……私、死にたくない……」
痙攣は治まったものの、駄目だ。また命乞いをし始めた。しかも今度は涙を流しながらの迫真の演技付きだ。まったく、腐りきった根性だとは知ってたけどここまでとは知らなかったぜ。
レイナーレさんのゲスっぷりの性格を再確認したところで、ともかく急いでリアス先輩達の心証が悪くならないように急いで気絶させないと。もはや手段を選んでる暇はない。
「よ、よーしお兄さん奥義中の奥義使っちまうぜ! ……オラッ!」
手でレイナーレさんの特定の首筋、特に先ほど秘孔を付いた部分付近をそれぞれ親指と人差し指あたりで力強く押さえつける。
「宇宙人から教えてもらったこの技―――バル●ン神経掴みをくらえっ!」
「―――ッ! ア゛……ギ……ダ……」
「まだアギダインを唱えようとするくらい余裕だと!? どういう体してんだよもう!」
なんということだろう、体中の神経という神経を知り尽くした宇宙人の奥義も通用しないとはどういう体の持ち主なんだ! 頑丈すぎる、なんてタフなんだ堕天使は!
こうなれば、一か八かあの技で落とすしかない! これが最後の賭けになるだろう。しかし、俺は諦めない。レイナーレさんは死なせん! やらせはせん、やらせはせんぞォォォ!
少々見苦しい技をレイナーレさんにかけるので、リアス先輩達からは見えないように俺は先輩達に背を向ける。
そしてレイナーレさんも俺と同じ方向を向かせると、気道を締めつけないようにきちんと配慮しながら首の頚動脈を思いっきり締め上げる。
「裸締めッ! 極めれば逃れることは出来ないッ! このままじわじわと意識を地の底まで落としてくれる!」
そのままゆっくりと首を折らないように締め付ける力を強めていく。気道も圧迫していないか心配だ。
締め付けるにつれ、レイナーレさんの抵抗も激しくなっていくが、しばらくするとその抵抗も弱くなってきた。よしよし、順調に血の流れを止めていってるな。
そして最終的にレイナーレさんはぴったりと動かなくなった。脈も確認してみたが正常だし、心臓もきちんと動いている。裸締めによる気絶は成功したようだ……。
「ふう、やっと気絶しましたよ。いやー、皆さん真似しないで下さいよ? この人多分特別な訓練受けてますからここまで粘りましたけど、多分一般人だったら瓶が割れた時点で死んでますんで」
そう言って振り向き、笑いながらリアス先輩達に話しかける。ちょっとした冗談でさっきまでのレイナーレさんの性格のゲスさが誤魔化せればいいんだけれども。
リアス先輩はリアス先輩で物凄い複雑な表情で俺を見ている。あれ、これはレイナーレさんについて心証最悪なパターンか?
「そ、そうね……やりすぎは駄目ね。私分かったから、その。ええ、その……。ごめんなさい、こういう時どんな反応をするべきかわからないわ」
「笑えばいいんじゃないですかね」
「そ、そうよね!」
そう言いながらリアス先輩は物凄いぎこちなく引きつった笑みを浮かべる。なんというか、非常に無理をしているためにそのまま頬の表情筋がつるんじゃないかってくらいに無理をしている。
「あー、やっぱり、駄目……ですかね。その、やっぱり命、取っちゃいます?」
「取りたくないわよ……取れるわけないじゃない」
俺が恐る恐る聞くと、リアス先輩はなんというか頭を抱えて非常に疲れた様子だ。なんだ、とりあえず許してくれるのか?
「若葉君。私、貴方に行ったことを反省しますわ。嗜虐行為とははここまで残酷な物だったんですね……」
今度は姫島先輩がなんか知らないけど、非常に申し訳なさそうに俺に謝ってきた。なんですか、いきなり。怖いじゃないですか姫島先輩。また俺は先輩とのプレイに付き合わされるんですか?
何はともあれ、レイナーレさんの命は助かったようだ。いやはや、何事も平和的解決が一番だ。
「いやー、しかしよかったよかった。流血沙汰はやっぱり避けるべきですよね。もう二度とこんなことはさせないんで、大丈夫ですよ」
それを聞いたリアス先輩が遠い目をしながらこう呟いた。
「……空き瓶で後頭部を乱打されて、瓦礫で後頭部を乱打されて、神経器官を狂わせるようにいじられて、命乞いも聞き入れられずに挙句首を絞められて死ぬような思いを一回に何度も味わったら、私なら二度と同じ真似しないわね」
「ケースケ、もしかしてお前……実は結構刺されたこと恨んでないか……?」
イッセー先輩がそうドン引きした様子で俺に話しかける。そんなまさか、恨むなんて。
「まさか、面白い冗談を。そこまで恨んでませんよ。そこまで」
「ああ、恨んではいるんだな……」
「否定したら嘘になりますね、はい」
俺がきっぱりとそう言うと、イッセー先輩は「俺、絶対アイツは怒らせたくないっす……」みたいなことをボソリと呟いていた。詳細まではよく聞こえないし実際にそう言ってたかも分からないので追求しないでおこう。
「さて、先輩達はどうするんですか? 帰ります?」
「帰るって、お前はどうするんだ?」
イッセー先輩が不審そうにそう聞いてくる。まあ、アザゼルさんに引き渡すなんて馬鹿正直に話してもめんどくさいだけなので適当に誤魔化そう。
「そりゃーもちろん縛って起こして……うわっ」
倒れこんで気絶したレイナーレさんの顔を持ち上げて見てみると、鼻が折れて顔芸したまま気絶してる。さらに後頭部には殴打されたような跡が複数あり、たんこぶが、たんこぶというよりは脳みその一部がそっちに行っちゃってるんじゃないかと言うほど膨らんでいる。誰がこんなこと惨い真似を……。
「生きてるよなーこれ。心臓も一応動いてるし……」
とりあえず鼻を元に戻しておこう。力を入れて鼻をねじると、多少痛そうな音がして鼻は元の位置にきちんと戻った。
「よし、これでOK……じゃない。確かもう一回鼻を折るんだっけな治療法は」
鼻に力をこめてもう一度折る。そして嫌な音がもう一度したその瞬間、一瞬レイナーレさんの体がビクンと大きく一回震えたが、すぐにおさまった。
もう一度鼻を元に戻す。これできちんと鼻がくっつくことを祈ろう。
「今度こそ大丈夫……で、なんでしたっけ話って?」
「帰りましょう、今すぐ」
リアス先輩が頭を抱えてそうきっぱりと言った。どうしたんだろうか、先輩も偏頭痛か何か持病があったりするんだろうか?
「頭痛いんですか? 頭痛薬ありますよ?」
「大丈夫よ。多分今夜はよく寝れば直ると思うから……帰らせて頂戴」
そう言うと、頭を抱えながらリアス先輩は教会から歩いて出て行った。なんだ、このまま普通に魔法で転送とかしないのか?
「先輩、お大事にー」
「ええ、貴方も体は大事にね……」
そう言ったリアス先輩は物凄く疲れているように見えた。まあ、夜もだいぶ遅いし時間だし、疲れて眠くなってきても仕方ないよな。
「それじゃ、俺達も帰るから」
そう言って先輩達も教会を後にする。
「お疲れ様ですー、おやすみなさーい」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい」
「じゃあね、若葉君」
「さようならですわ」
先輩達と一通り別れの挨拶もすませ、先輩達が教会から離れるのを確認すると俺は大きく伸びをした。
本当に、今日一日だけでも随分と内容が濃かった。色々なことがあった。今日一日で結構な数の命が亡くなるはずだったのに、その全部が死なずにすんだ。
「あー……達成感あるなぁ」
思わずベンチに腰掛けてそう独り言を言ってしまうくらい達成感がある。嬉しさや気持ちよさが混じってなんて言えばいいのか分からない。
「そうだ、アザゼルさんに連絡しないとなー」
アザゼルさんに”万事順調に終了しました。回収お願いします”というメールを送る。
「送信……っと。これであとは帰って寝るだけ……。色々あったなー」
今日の出来事に思いを寄せていると、ふととある疑問が俺の中に浮かんできた。たった一つ、あの場で起きた不可解な出来事。結局話をしている間にうやむやになってしまった、あの出来事。
「なーんで俺、レイナーレさんに刺されて治療されたあと寝たんだろ?」
今でも全く理由が分からない、あの猛烈な睡魔。あれは結局なんだったんだろうか。俺が死にかけたから、自分の体が回復させようと寝たのか? それにして眠りから覚めるのが早すぎる。
そういえば、随分と引っかかることをリアス先輩も言っていた。カラワーナさん達が起きてもがいていたがまたすぐに寝た、とかなんとか。
カラワーナさん達はリアス先輩を見てまた二度寝するほど馬鹿じゃない。むしろ襲い掛かろうとしたっておかしくもない。それがどうして二度寝なんてするのか……妙に引っ掛かる。
「うーん……謎だ。なんで寝たんだ? リアス先輩に何か盛られたとか? いやでもそのままにしたって言ってたしなぁ……。いや、まてよ。盛る?」
盛る。一服盛る。つまり、睡眠薬を飲んだってことだ。俺が一回エンジェルの非殺傷兵器を食わせたからカラワーナさん達は寝たんだ。
それで、俺も例のエンジェルの非殺傷兵器を口にして一回寝た。もし、俺の場合とカラワーナさん達の場合に共通点があるとしたらそれだけだ。
それでもし、アイツも俺と同じことが起きたなら、おそらくは……。
「エンジェル、ちょっといいか?」
エンジェルを召喚する。相変わらず目に悪い紫色の光だ。
「はい、なんでしょうか」
「俺が寝てる間、オニが一回寝なかったか? 物凄く眠いだとかなんとか言って」
俺がそういうと、エンジェルは少し思い出そうと顎に手を当てている。しばらくすると、思いあたりがあるようにこちらに顔を向けた。
「そういえば、ご主人様が倒れたあとに眠いと言って寝ていました。そのあと元気そうに起きましたが」
「なるほどね、サンキュー」
確認も出来たのでエンジェルをCOMPに戻す。なるほど、つまりはそういうことか。
あのエンジェルの作った非殺傷兵器には副作用というのか、一度眠くなったあとにもう一度強烈な睡魔に襲われるようだ。ただ、その睡眠時間は随分と短いらしい。これだともうそろそろカラワーナさんも起きだしてくる頃だろうから早くアザゼルさんの回収を急いで欲しいもんだ。
ここでブルブルと俺のケータイが鳴った。アザゼルさんからかな?
届いてきたメールを見ると、アザゼルさんからだ。”すぐに俺の部下が行く”と書いている。全然こないんだけど。どういうことですかねアザゼルさん。
「全然来ないじゃ―――ん?」
いきなり地面から魔法陣が出てきた。魔方陣は強い光を放っていてまぶしい。無駄にまぶしい。だいぶ教会の中は暗いので夜目に慣れた俺の目にはこの光はとてもまぶしく見える。
しばらくすると、目の前に堕天使の一団さんが現れた。特に、その中でもリーダー格なんじゃないかと思われる人がこっちに向かってきた。
「はじめまして、私の名前はシェムハザと申します。以後お見知りおきを」
「あ、俺の名前は若葉啓介っす。ご丁寧にどうもすいません」
お互いに真面目に頭を下げて挨拶する。こんなまともな初対面の人はどれくらい久しぶりだろうか。最近だとアザゼルさんとかそこで転がってる外道神父フリード君やらが悲しいことに今まで初対面の最も新しい3人のうちの2人なんだ。どんだけロクな出会いをしていないんだ俺は。
「ここにいる堕天使の他にも私の部下が拘束された3名を発見しました。全員で4名で間違いないですね?」
「あ、はい間違ってないです。あとそこの神父もいいですかね」
「構いませんよ」
気がつけばトントン拍子に物事が進んでいく。ああ、このテンポの良さがむしろ気持ちいいと感じられる。なんて順調なんだ。こんなサクサク物事が進むのも新鮮でいいな。
気づけばシェムハザさんと俺以外の全員が居なくなっていた。レイナーレさんも腐れ外道フリード君も居ない。回収も撤退も随分と早いな、キビキビしすぎてて関心すら覚える。
そんな風に俺が思っていると、シェムハザさんが徐に俺に話しかけてきた。
「それとこれは、アザゼルから聞いたのですが……。貴方が和平の為に一役買ってくれているとか」
「え? あ、その事ですか……。まあ、一役買ったといえばそうなのかもしれないですけど……」
普通にあれって、よく考えれば誰でも出来るんじゃないだろうか。アザゼルさんから和平提案の紙をレヴィアさんに送るだけだったし。いわば、俺は郵便配達員みたいなもんで何が凄いのかがよく分からない。
物凄く俺が無駄に持ち上げられてる気がしなくも無い。アザゼルさんが俺に何かしようと企んでるんじゃないのかこれ?
「突然のことで混乱すると思いますが、私は貴方にとても感謝しているのです。是非とも貴方に会って一言言いたくてこの仕事を買って出たのです」
「はぁ……なるほど」
「貴方にただ一言、言いたかった。―――ありがとう、と。貴方には感謝しきれません」
そう言ってシェムハザさんは俺に頭を下げた。いやいや、そんなにいきなり頭を下げられてもこちらとしてもどう反応すればいいのか分かりませんよ、笑えばいいんですか?
「そ、そんな俺もたいそれたことをしたわけじゃありませんよ!」
とりあえずシェムハザさんに頭を下げてもらうのをやめてもらおうとすると、すんなりとやめてくれた。色々と機転も利く人で、とてもまともないい人だなぁと本当に思う。アザゼルさんがあれだからこうなったのかもしれないけど。
「俺もアザゼルさん達には色々と感謝―――」
そういった瞬間、ケータイがまた震える。誰だこの重要な時に……。
「すいません、本当にすいません。少しメールが来ましたので確認を―――」
ケータイを開くと、イッセー先輩からだ。
題名は……”逃げろ”? 題名から物凄く嫌な予感しかしない。急いで内容を確認すると”だてんしがそっちにいってるにげろおれたちもすぐいく”……だって?
「ちょ、嘘だろマジか……。シェムハザさん、不味いことになりました」
「緊急事態ですか?」
「こっちにちょっとリア―――知り合いの悪魔の人たちがこっち来てます! 今鉢合わせしたら確実に不味いことに――!」
そう言った瞬間、さすがはシェムハザさん、すぐに転送魔法を展開させて……
「おいケースケ! 大丈夫……」
急にいきなりイッセー先輩が教会のドアを蹴り破ってきた。無論すぐ後ろには先輩達が肩で息をきらせて物凄い必死の形相だ。
それと殆ど同時にシェムハザさんは転送魔法で姿を消した――――が、絶対シェムハザさんは見られた。リアス先輩とか木場先輩とか姫島先輩が特に凄まじい表情でこっちを見ている。
ここまでくるともはや誤魔化すのも不可能に近い。ただ、一か八か誤魔化してみるしかない。
「ど、どうしたんです? 物凄い形相ですよぅっ……財布でも落としました?」
あ、駄目だ。試しに言ってみたけど少し声が裏返った。明らかに挙動不審の男にしか見えないじゃないか、最悪だ。
「若葉君、正直に答えて。今の人と何を話してたの? 答えて」
いつも以上の、先ほどの頭抱えてた人と同じようには見えないくらいの真面目で迫力のある、言い変えると物凄い表情で更にドスの聞いた声でそう俺に話しかけてくる。
「ど、どうしたんですか先輩。物凄い怖い顔してますよ」
「誤魔化さないで。すぐ、答えて」
これ以上誤魔化したり少しでも本題からそれた発言をした瞬間俺の首が飛びそうなくらいだ。どうすればいい?
いっそのこと、本当の事を――――話した所で信じてくれるだろうか。実はシェムハザさんとは初対面で初めて今回会いました。実は俺はアザゼルさんに頼み込んでレイナーレさんたちの罪を軽減する代わりに悪魔の人たちと会ったりしてました。そのときにシェムハザさんと俺は初めて会いました……か。
それを聞いてリアス先輩達は、信じてくれるだろうか。にこやかに笑って、なんだそうだったのかと言ってくれるだろうか。
―――無理だ、無理に決まってる。誰がこんな話を信じるんだ? 俺だって最初自分の事なのに信じられなかったくらいだ。自分でも信じられないことを信じてもらえるわけも無い。
俺が沈黙を保っているのが拒否と受け取ったのか、リアス先輩はもう一度俺に話しかける。
「……質問の仕方を変えるわ。貴方は何者なの? 貴方の目的は? 今すぐ答えなさい、じゃないと―――」
前よりも厳しい、さらにドスの効いた声。リアス先輩の心証は秒読みレベルで悪化して言っているのが嫌でも分かる。
「―――貴方は、私達の敵よ」
「……っ」
それを聴いた瞬間、俺の全身が雷に打たれたような感覚に囚われた。今までの何よりもその発言が俺にとってショックだった。
敵。つまり、俺はリアス先輩達の敵になる。姫島先輩の、イッセー先輩の、木場先輩の、小猫さんの……全員、もしかするとアーシアさんの敵にも俺はなるかもしれない。
信じてもらえるはずも無い事実を話すか、嘘を話すか、何も言わないか。その三つのどれかを俺は選ばなければいけない。どの道も結果は同じ、誰一人俺を信じることなんてなく先輩達の敵になるんだろう。
「ははは……参っちゃいますね」
そう言いながら少しベンチに思わず腰掛けようとしたその瞬間。
「動かないで。動けば貴方を消滅させるわ。だから、動かないで」
どこまでも底冷えするような声。
それを聞いて俺は、もうリアス先輩の敵になってしまったんだと感じた。もう、何を言ったって信じてくれないだろう。俺がずっと沈黙を続けていたせいで。
――――結局、俺はリアス先輩を信じることも出来なかったし、リアス先輩も俺を信じることは出来なかったんだよな。
俺はそう悟る。それだけでもう十分だ。たくさんだ、これ以上何も考えたくない、感じたくも無い。
「俺は―――」
気づけば、俺は言葉を口に出していた。俺のただ一つ、俺の言える真実。そして言葉と同時に俺の目から何かが流れているのが分かる。
「俺は、先輩達の後輩です。小猫さんの同級生です。友達です。そのつもりでしたが―――」
そう言うのと同時に頭の中でトラエストを唱える。
「―――俺がただそう思ってたつもりだっただけみたいです。それじゃあ、さよなら」
そう先輩達に言い残し、次の瞬間には俺は家の玄関に居た。
俺はそのまま靴も適当に脱ぎ散らし、布団に頭から飛び込む。
その夜、俺は初めて夜を泣き明かした。
どうも、私です。
筆が乗りに乗ってしまった結果こうなってしまいました……。物凄く長くなった挙句、適当なころあいで切ると中途半端な長さになってしまうため、やむなくこのような長文となってしまいました。申し訳ありません。
今回はシリアスとギャグが激しく入り混じるという多少読み手の皆さんを置いて独走しかねないような感じになってしまいました。これも私の未熟さゆえでしょう、面目ありません。
さて、物語はとうとう終局です。リアス先輩達と深い溝が出来てしまった若葉君。果たして一体若葉君は、オカルト研究部のメンバーは悲しい最後を迎えるのでしょうか、それとも和解できるのでしょうか。乞うご期待ください。