ただのゲーマー高校生のハイスクールD×D   作:unat

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おまけ
幕間:俺と小猫さんのグルメな一日


 ――――昨日のあの出来事から翌日。待ちに待った買い食いツアーwith小猫さんの日がやってきた。あんまりにも楽しみだったので、今俺は待ち遠しい時間を潰すためにタイピングゲームをPCでやっているけど、楽しみすぎて手が震えるので二回くらい無駄タイプするという、致命的なミスをしまくっている。いつもならA判定余裕なのにC判定貰ってしまった。

 

 よくこんな風に時間潰しをしていると、何か忘れてるんじゃないかと思うことがままある。そもそも俺がこの世界に入ったのは……そうだ、特に理由なんてなかった。うん、なかった。神様ことじーさんを助けた俺はお礼としてこの世界に入り込んだわけだ。振り返り終了。

 

 振り返りも終わったけれど、何か不安がまだ残る。何か大切なことを忘れているような忘れていないような……何と言えばいいのだろう、自分が自分であるための何かを忘れてしまったような―――。

 

「……流石にこの年で中二病発症は恥ずかしいぞ俺」

 そう自分を戒めてみるものの、どうも引っかかる。こういう時は大人しくその”引っかかる何か”を見つけてすぐに対処したほうがいいんだけれど、それでも見つけるのが難しかったり骨折り損だったりする。

 

 じゃあ、どうするか? 簡単だ。さっさと小猫さんとの待ち合わせ場所に行こう。

 

 

 

                      ※

 

 

 

 待ち合わせの時間よりも思ったよりも早く着いた。待ち合わせ場所には小猫さんらしき影が。どうやら早く着いたらしく、俺より先に待ち合わせ場所で待っていたようだ。

「小猫さーん」

 名前を呼びながら駆け寄るとこっちに気づいた小猫さんが振り向く。見返る姿も可愛いな小猫さん。

「ごめん小猫さん、待った?」

「さっき来たばかりです」

 よかった、さっき来たばかりということは大丈夫―――いやいや、待て待て。30分くらい早く来て待ってたとかそういうのを聞いたことがあるぞ、大体そういうことするの男だけと聞くが……そもそもそんな30分早く来て何の得があるんだ? なんかのリハーサルでもするのか、それとも女は待たせちゃいけないみたいな心得か?

 

 ともかく、そんなことを考えて時間を浪費するよりは美味い物を食べるために動いて消費した方が何倍もマシだ。

「それじゃ小猫さん、ちょっと予定より早いけどもう行く?」

「はい」

 俺がそう聞くと、こくりと小猫さんが頷いて同意する。可愛いなぁ。

 

 まず最初に二人で行ったのは近くにあるクレープを売っている屋台。一見そこらと同じような屋台と見間違えるほどの平凡な見た目だが、ここにあるクレープはどれもうまい。店主はちょっと優しそうな中年のおじさん。唯一ネックなのが週に数回、それも曜日などは決まっていない完全ランダム。おじさんの仕込みの日の気分次第でやったりやらなかったりなので、今日やってるかどうかは完全に運任せだったがラッキーな事に今日はやっていた。

 

 俺はマンゴーとみかんのクレープを、小猫さんはシンプルなイチゴと生クリームのクレープを頼んだ。「んじゃここは俺が払うよ」

 二人分の料金を払おうとすると、小猫さんが俺の手を止めてきた。

「私も払います」

 しかしここで、はいそうですかとすんなり払ってもらっては締りが悪い。男の沽券に関わる。

「いやいや、普段いろいろと迷惑をかけて悪いから」

「ここは譲れません」

 ここで折れない俺も俺だが小猫さんも小猫さんで中々にしぶとい。仕方ない、ここは折衷案で行こう。

「分かった、せめてここは払わせてくれないかな。言い出したからにはやらなきゃ締りが悪いし……ね?」

 俺がここまで言うと、小猫さんもさすがに折れて「分かりました」と言うとお金をしまってくれた。よしよし、素直な子は好きですよ俺。

 

 買ったクレープはちょっと離れた所で立ち食いする。ベンチで座ってゆっくり食べても悪くはないが、なんとなくこういう物は立って食った方がうまいと感じるからだ。立ち食いそばとか、座って食うそばより安いのに悪くない感じなのもそのせいなんじゃないかと思う。

 

 そこそこ評判のクレープは、頬張るとみかんのほんの僅かな酸味が爽やかさと、マンゴーとみかんの甘さをしつこ過ぎないようにしていて、さっぱりとしていておいしい。

 

「んー、うまい。ここのクレープ美味いなやっぱ」

「美味しいです」

 小猫さんもお気に召してくれたようなので何よりだ。小猫さんは少し感情を読み取りにくいけれど、なんとなくで今嬉しいとか悲しいとかは分かる。一番分かりやすい見分け方は眉がどんな形をしているか、だ。

 

 たとえばイッセー先輩がセクハラしていると思いっきり眉とか目が不機嫌そうというか侮蔑のそれになるし、ちょっと嬉しい時はちょっと眉が上がる。意外と見分けはつくもんだ。これもアハ体験30分耐久とか暇なときにやった賜物だな、きっと。

 

 そんな事を考えていると小猫さんが俺のクレープを少し欲しそうに見ている。柑橘系のにおいって嗅ぐだけで食欲沸くもんな。

「……食べる?」

「はい。私のも食べますか?」

 そう言いながら小猫さんは俺の方へクレープを向ける。こういうのはありがたく頂戴しておこう。

 

「ん、ありがたく頂いとくよ」

 申し訳程度に端っこの方から少し貰うと、なるほど。イチゴとそんなに甘くない生クリームで丁度いい甘さになってる。甘ったるいのが苦手な人でも食べれるような工夫がどのクレープにも施されているんだろう。

「こっちのも美味しいです」

 小猫さんも小猫さんで俺の買ったクレープもお気に召してくれたらしい。最初の店は無事成功ってところだな。

 

 次に向かったのはたこ焼き屋。といってもこっちは屋台ではなく、たこ焼きだけを売っているところだ。ここは女将さんが店主でちょっと気前がいい。俺と小猫さんで6個セットを2つ買うと、それぞれ一個ずつおまけしてくれた。なんとも得した気分だが……ここのたこ焼きは一個一個が少し大きい。そしてタコはブリッブリとしていて要するに非常に食べ応えがある。たとえ6個でも腹4分目くらいは簡単に膨れるくらいだ。

 

「うーん、これは二人で6つの方が良かったかなぁ……」

 全部食べてそのあとで買い食いできるかと言うと、俺の胃袋と今までの経験から考えると……あと良くて2件いけるかいけないか、ということになる。途中休憩を入れるとして3件か。しかもあんまり重い食べ物は入れられないな……流石に小猫さんでもあんまり食べると体壊しそうだし。

 

 色々と思索しながらもたこ焼きを頬張る。ちゃんとした店で座りながら食べるたこ焼きというのも中々乙なものだ。ジャンクフードはジャンクフードとして食べる食べ方と一人前の料理として食べる二種類の食べ方があってこれがまた楽しい。

 しかし、しっかりしたたこ焼きあってこそ店の雰囲気は生まれるもの。肝心の味は―――美味い。生地もちゃんとダシが入ってて、表面のちょっと焦げた部分が香ばしくてそれがソースと鰹節、青海苔とマヨネーズの風味とマッチして食欲を更にそそる。まさしくこれぞBグルメといったところか。

 

「……ちょっと熱いですね」

 小猫さんは名前が小猫だけに猫舌なのか、熱々のたこ焼きに若干苦戦しつつも頬張っていく。ちょっと大きいたこ焼きを頑張って一口で食べようとする様はとても可愛らしい。うん、眼福眼福。

 

 

 

                      ※

 

 

 

 ゆっくり時間をかけてたこ焼きを完食した俺と小猫さんは少しそのまま店で休憩したあと、次の店目指して歩き始めた。なるべく胃袋に負担をかけない程度にゆっくりとだ。

「いやー、やっぱりたこ焼きちょっとボリュームあったね」

「はい。でもあそこはいい所ですね」

「気に入ってくれて何よりです」

 こんな風に他愛もない会話を交えて歩いていると、非常に平和で穏やかな気分になる。そういう穏やかな時というのは普段よりも心が落ち着いているため非常に勘が冴える。どれほどかというと、例えば―――

 

「―――誰かに尾けられてるよね?」

「はい」

 これは勘とか第六間と推測でなんとなく思っただけだけど、やっぱり小猫さんも薄々感づいてたようだ。間違いなく誰かに俺たちは尾行されてる。心当たりはさっぱり無い。

 

 まず最初に帽子を被った3人組に待ち合わせの時にすれ違い、クレープ店の時にまたすれ違った。そしてたこ焼きの店前でも外を通り過ぎるのを見て、店を出る際も離れたコンビニに居た。これだけならまだいいのだけれど、そのうちの1人と目が合った。遠くからでも目と目が会うと、人間嫌でも分かるもんだ。間違いない。

 

 数回もすれ違い、そして離れたところに居るのを見つけ、更に目が合うことなんて確立としてどれくらいだろうか? そうそう無いだろう。

 俺の考えすぎかもしれないが、あの3人組とすれ違うにつれて、こっちを監視するような視線を感じる。小猫さんもそれを感じ取ったのだし十中八九怪しい奴らなのは間違いないだろう。

 

 お互い尾行されてるのを確認した所で俺たちは徐々に人気の少ない道を選んで行く。しばらくすると、俺たち以外誰も居ないような、周りも殺風景なまっすぐの一本道にたどり着いた。

「まだ居るかどうか念のため確認するからゆっくり歩くよ」

「分かりました」

 俺は自然な動作でケータイを取り出す。そしてカメラモードを起動してなるべく不自然にならないようにレンズの部分だけを体から覗かせるようにして画像をとる。景色を撮るためのモードに設定したのでピンボケとかはしないだろう。

 

「どれどれ……」

 ケータイを見てみると、やっぱり写っていた。人相までは流石に分からないが、俺たちから20mくらい離れたところに同じ服装の奴らが3人。ここまで来ると、どう考えても尾行だこれ。

 

 確実に尾行だとすると、すれ違った時の記憶と画像を元に3人の特徴からどんな奴らかを推測する必要が出てくる。

 一人目、一番気にかかった奴で背が一番3人の中では小さい。黒いサングラスとニット帽を被っている女。ニット帽のせいで髪型なんかは把握できなかったものの、金髪だったような気がする。これが気にかかった理由だ。

 

 二人目、こっちは体格の悪くない男だ。俺と近い身長でこっちは野球帽を深めに被っているので人相は良く分からなかった。

 

 最後に三人目、なんというか一番目立った。最初にすれ違った時の印象が”胸デカイなオイ”だったからな。そんぐらいデカい。帽子は大きめで茶髪。こっちもこっちでサングラスである程度人相を把握されないようになっている。

 

 外見で分かることはこれだけ。あとは俺の予測だが―――この3人は尾行に慣れてないとみた。追跡対象に何回も自分たちの姿をさらけ出すどころか目を合わせるなんてトーシローにも程がある。ただのカカシのほうがまだいい仕事をするんじゃないか?

 それともよっぽど腕に自信があって、こっちに感づかせた方が捕まえる手間が省けるとかいう大胆な考えも否めない。

 

 しかしこちらには俺がいるし小猫さんもいる。そんじょそこらのはぐれ悪魔なら楽にあしらえる俺たちが人間相手にそうそう負けるわけも無い……が、油断は禁物。とりあえず一人でいちびってるよりは小猫さんと、どうするか相談するべきだろう。

「泳がせます? それとも捕まえますか?」

「次の曲がり角で待ち伏せしましょう」

 小猫さんがそう言った所は、コンクリートの塀で曲がった先が見えない死角のある所。なるほど、ぴったりだ。

 

「それじゃついでに小芝居を打とう。小猫さん、ちょっと後ろに回るよ。転ぶかもしれないから注意してね」

「分かりました」

 小猫さんの後ろにさりげなく回ると、こっそりと膝カックンをしてちょっと大げさに声を少し大きくして言う。

「おっとコリャ不味い。小猫さんが怒った!」

 そう言いながら曲がり角まで走る。

「……許しません」

 そう言いながら小猫さんも追いかけてきてくれた。芝居とはいえ、小猫さんが怒って俺を追いかけていると考えるとちょっと怖い。デコピンですらあんなに痛いのに怒ってぶん殴られたら多分骨折れるんじゃないか?

 

 そんなことを考えつつ曲がり角を曲がると回れ右をしてピタッと止まる。小猫さんも同じようにして俺の隣で止まると構えた。

 俺の予想が正しければ、多分あいつ等は焦って走りだすだろう。俺らを見失わないように必死になってな。そこを突いて奇襲をかければ―――!

 

 俺の予想通り走る足音が聞こえてきた。心臓の鼓動があがっていくのが感じる。だが、あくまでも冷静に待ち構えないといけない。それが待ち伏せってもんだ。

 もうすぐそこまで足音は迫ってきた。俺の握り拳にも余計力が篭っていく。

 

 そして例の3人組の、野球帽を被った男が目の前に出てきた――――!

「俺等に何か用かい大将?」

「……えい」

 その言葉といっしょに俺と小猫さんは男めがけてパンチを繰り出す。男はもろにそれを食らうと、あとに続いてきた二人を巻き込んで倒れた。

 

 決め台詞も言えてガッツポーズしてやりたいところだが、急いで目の前にいる奴らを尋問――――

 

「う、うぅ……」

「い、イッセーさん! 大丈夫ですかイッセーさん!」

「イッセー? 大丈夫?」

 尋問するまでもなかったわ。目の前にいるのはリアス先輩、アーシアさんにノックダウンしてるイッセー先輩だった。

 俺と小猫さんは三人の前に立ちはばかると、小猫さんの分も代弁して俺が一言。

「さて、どういう訳だか説明してもらいましょうかね御三方?」

 

 

 

                     ※

 

 

 

「―――なんだ、そういうことだったんですか? わざわざ尾行せんでもいいでしょうにそんなの」

 俺たちは今、ちょうど次に行く予定だった喫茶店で先輩たちから話を聞いたところだ。

 

 話は要約すると、”小猫さんがいつもより機嫌がよくて気になったので、あとを追ってみると俺が居た。プライベートで俺と小猫さんが出合うとは思わなかったのでちょっと気にかかって尾行してみたら美味い物めぐりしていたので自分達もそれに乗っかろうとした”ということらしい。

 

 そこで先ほどまでダウンしていたイッセー先輩が申し訳なさそうに言う。

「いやー、二人の邪魔しちゃ悪いかなと思って」

 その気持ちはありがたいんですけどちょっと怪しい3人組に尾行されるよりはマシですよ、マジで。

 

「私も二人には申し訳ないと思ったのだけれど、思ったよりもたこ焼きとクレープが美味しくて……」

 そうリアス先輩がイッセー先輩に続いて言った。案外庶民系フード好きなんですねリアス先輩。フレンチ料理とか食べてそうな印象が常に漂ってたのに意外だ。

 

「はい、とっても美味しかったので私もついつい食べすぎちゃいました……。主よ、私をお許しくださ―――あうっ!」

 アーシアさんはアーシアさんでいきなり神へのお祈りをしてダメージを受けている……。新手の自傷症なんだろうか?

 

 ともかく、これ以上この件については突っ込まないでおこう。リアス先輩の付けているウィッグとかそこらへんは多分突っ込んだらキリがない。

「まあ気に入ってくれたのなら結構ですよ。俺も頑張って選んだ甲斐がありますから。とりあえず食べましょうか」

 そう言って俺は注文しておいたアイスをスプーンで削り取るように食べる。バニラアイスはこうやって食うのが一番だ。これを口に入れたあとにちょっと温かい紅茶飲むと、アイスの冷たさの次に来る紅茶の暖かさが非常によく合う。アイスと紅茶って合うもんだね。

 

 ちなみにリアス先輩は紅茶とバウムクーヘン、アーシアさんと小猫さんも同じものを、イッセー先輩はコーラを注文していた。

 

 

 しばらく先輩たちと会話を交わした後、リアス先輩達と俺達は別れることに。別にこのままついてきても構わないと俺は言ったが、もうお腹一杯だし二人の邪魔をすると悪いとのことだった。別に邪魔でもなんでもないけどなぁ……?

 

 喫茶店を出た俺と小猫さんは近くの公園のベンチで佇むことにした。ちょっとしたイベントのせいで時間がもう夕方の一歩手前まできている。昼もそろそろ下がりきる頃の公園は珍しく人もいないので、ゆったりとした気分でいられる。

 こんな時が一番のチャンスだ。俺は小猫さんのほうに向き直る。

 

「小猫さん……話があるんだ」

 俺の真剣な表情を察したのか、小猫さんもこっちを向いた。少し不思議そうな表情だ。それもそうだ、俺がこんな話をしだすとは夢にも思わないだろうしな。

 

「俺がもし―――仮に、仮にだよ? 人を殺した殺人犯として疑われてて、それの証拠品が色々あって高確率で俺が犯人って言われてるのに俺が犯人じゃないって言ったとしたら、信じる?」

 

 こんなこと、自分で言っててもアホかと思うくらい遠回りな言い方だと思う。でも、俺はあの事はできれば思い出したくもないけど、ちゃんと確かめたいことなんだ。

 俺は小猫さんと友達でいられるのか? 小猫さんは俺のことをどう思っているのかが知りたい。今日小猫さんを誘った理由の半分以上がこれを確かめたかったからだ。

 

「はい」

 そんな事を思っていた俺に対して小猫さんは頷きながら即答だった。いや、マジで即答だ。2秒かかってなかったぞマジで。

 

「……マジ?」

 あんまりの即答具合に俺は質問内容を”小猫さん、甘いもの好き? もう一件行く?”とかそんな事を言ったのかと思うくらいだ。

 

 そのまま小猫さんは俺の目をまっすぐ見たまま、いつも通りのトーンでいつも通り、まるで当たり前のことを当たり前に言うかのように言った。

「ケースケさんは誰かを傷つけることは出来ても、命を奪ったりしません。嘘はつけても態度にすぐ出る正直な人です」

「……そっか」

 これがつまりは、小猫さんがあの時俺に対して思ったことなんだろう。これを聴いた瞬間、俺は小猫さんに対して申し訳なく思ってくる。俺はなんて馬鹿なんだろう。

 

「……ごめん、小猫さん。ありがとね」

 俺がそう言うと、小猫さんもちょっと罰の悪そうな顔で返す。

「私もケースケさんに謝らないといけません」

「いや、いいよ。小猫さんが謝らなくても」

 

 俺がそう言うと、小猫さんは懐から何かを取り出した。

「違います。これを渡せと先生から言われていました」

 ……何も聞かなかったことにしたい。先生―――つまり、最近出番もなくて陰の薄い小松原から何を渡されたのかも知りたくない。知ってたまるものか。マジで知りたくない。

 

 しかし知りたくない知りたくないと思いながらも知ってしまうのが人の悲しいサガ。俺は小猫さんから震える手でその折りたたまれた紙を開いた。

 そこには―――

 

 

”若葉 啓介 上記の者、数学、現代文、古典、科学、世界史各科目の小テスト及び課題を未提出、未出席。よって数日に渡る個別指導を行う。 追伸:いい度胸だな貴様。 by小松原”

 

「お、終わった……俺の人生、終わった……」

 そうか、何か忘れてると思ったらこれだ。何かモヤモヤがあると思ったらこれだよ! どうりて最近小松原からの留守電メッセージがないと思ったよ! そりゃそうだ、マジギレした声がヤバすぎて脅迫罪で訴えられないためだ! クソッ、なぜ俺は気づかなかったんだ!

 

 そしてよく見ると、紙の端っこに何か書いてある。

「ん? ―――なお、この手紙は読み終えると自動的に爆発四散するので5秒以内に始末――ふざけんなっ!?」

 全文を読み終える前に紙をクシャクシャに丸めて空高く放り投げると、見事空に打ち上げられた紙はパイプ爆弾のように爆ぜて木っ端微塵――――にはならなかった。

 

「……あれ?」

 天に唾を吐く行為とでも言わんばかりに拍子抜けした俺の頭に紙が当たると足元に落ちる。爆発するわけじゃないのか?

 もう一度クシャクシャになった紙を元に戻して詠んでみると、”――始末するかゴミ箱にでも捨てるように。全部読まずにお前が本当に爆発すると思って丸めて空に投げるような馬鹿ではないことを祈る。”と書いてあった。

 

「んだよもー……洒落にならない洒落は勘弁だ」

 あの小松原ならやりかねないから困る。奴ならクリーム状の揮発性の高い可燃物質とか平気でこれに塗り込みそうだしな……。

 

 しかし、改めてこの紙を見ていると自分の置かれている状況がヤバイかが感じてきた。あれ? もしかして俺このまま勉強しなかったら学校一のBAKAとして夏休み返上して勉強とかマジでありえるんじゃないか? しかも小松原がずっとそばに居るという地獄付きで。

 ……考えるだけで腕が震えてきた。足もそのあとから震えてきた。今は生まれたての小鹿も真っ青なくらい震えまくってきたぜ、へへっ。

 

「こ、小猫さん……頼みがあります」

「駄目です」

 即答!? 小猫さんは常に即答するっていうポリシーかなにかあるの!?

 

「小猫さん、頼みます。お願いします。数ピコグラムでも俺の事を哀れと思うなら少しでいいんです、俺に勉強を教えてください、一生のお願い3回目だけど使わせてくださいお願いします」

 俺は恥もプライドもかなぐり捨てて頭を砂利にゴシゴシ擦り付けて土下座する。元々プライドあってなんてないようなもんだ、捨てたところで何の後悔もないさ。

 

「……分かりました、そこまで言うなら……私が分かる範囲で教えます」

 俺の土下座でなんとか小猫さんは了承してくれたようだ。最近俺の土下座が安っぽく感じてきたが気にしない気にしない。

 あとの小猫さんも教えられないような所は先輩達にも色々と教えてもらうしかないな、物凄い勝手なお願いではあるがここは先輩達に頼るしかない。

 

「ありがとう! そしてごめん小猫さん俺勉強しなきゃいけなくなっちゃったからここで! それじゃまた明日学校でね!」

「はい」

 小猫さんには申し訳ないが、別れの挨拶を済ませると走って俺は家へと――――いやいや、こんなときのトラエストだ。

 

 走るのをやめて落ち着いて立ち止まり、小猫さんの方を振り向いて手を振る。小猫さんもちょっとだけ手を振ってくれた。よし、あの可愛さでやる気は十分だ。

 

 時間短縮でトラエストを使って家に戻った俺は真っ先に小汚い勉強机へと向かう。今の一秒でも惜しい。今日は一夜漬けで勉強だ!

 

 

 

 

 ――――まだ春は半ばだけれど、俺の中で何かが変わり始めていた。主に学生本業関連で。




 どうも、皆さんこんにちは。

前回は、”大分更新は先になります”と言ってましたが……少し前回についてお詫びを。

実はですね、今は違いますが前回のあとがきが完全に小説を完成させた人の発言のそれでした。これも私の睡眠欲に逆らったことが悪いのです。眠すぎて完全にいろいろと字が飛び飛びになりました。申し訳ありません。今もわりとおかしい感じになってると思います。

話は変わりますが、今回は番外編みたいな感じになっています。いわゆる一巻と二巻の間のおまけストーリーといった感じです。別名を”私がやりたかったことを実現させる回”でもあるわけですが……。今回のような話を今後も巻の合間合間にやって行きたいと思います。

では、恐らく次回から2巻目に入ると思われます。乞うご期待ください。
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