――――朝だ、夜明けだ。オカルト研究部メンバーである俺は山の息吹をうんと吸いながら登山をしていた。
俺は調理器具やらサバイバルキッドやら修行用の道具やらと、色々な物を詰め込んでパンパンに膨れ上がったリュックサックにそのほか色々と詰め込んだヒップバックなどを所持してフル装備だ。
「んー……久しぶりの山! 気分が高揚するっすわ」
俺が呑気にもそんな事を言っていると、後ろで苦しそうなうめき声が聞こえる。
「嘘だろ……木場や小猫ちゃんどころかお前まで余裕だなんて……」
そう言ったのはイッセー先輩だった。先輩は自分の身長よりも大きく、異様なまでに膨らんでいる荷物を背にヒィヒィと喘いでいる。見ていてこっちまで疲れそうなほど物凄く重そうだが、リアス先輩曰くこれも修行とのことなので仕方ない、せめてここは世間話にでも花を咲かせてイッセー先輩の励みに勤めることにしよう。
俺はイッセー先輩が追いつくようにわざわざ歩調を合わせながらイッセー先輩に話しかける。
「山とか森林地帯を見ると思い出すんですよー、俺の初めてのサバイバルをした南アメリカのジャングルを。その時の話でも聞きますか? 色々ありますよー。暗器とかの使い方を教わったり、ワニをハントして捌いて皆で食った話とか」
「聞きたくねぇよ……。ってか、お前だんだん小松原に似てきたんじゃないか……?」
イッセー先輩は俺の話を聞くと、かなりげんなりとした様子でそう答えた。失礼な、俺のどこがあの元グリーンベレーも真っ青な男に――――あれ?
ジャングルで野郎と一緒に軍事訓練しながらサバイバル? 思い返してみれば一般人がやることじゃなくて軍人さんがやるような事じゃないか。しかも今回も思いっきりサバイバルするつもりの準備をしていたぞ、俺?
「―――ひょっとして俺、小松原に似てきたのか……?」
今度は俺がげんなりする番だった。あんな筋肉もりもりマッチョメンの変態になると想像するだけで足取りが重くなってくる。最悪だぜ……。
そんな事を憂鬱に重いながら歩みをしばらく進めていくと、先頭に立っているリアス先輩が前方を指差す。
「着いたわ、あそこが私たちが泊まる場所ね」
前方をよく見てみると、確かに木造の大きな建物が見える。なるほど、ここに十日泊まるわけか……。 ゴキブリとかいないよな? 大体こういう所ってなぜか高確率でいたりする。南米のゴキブリはデカいけどゆっくりだし色が綺麗だったりダンゴムシみたいだからいいけど、日本のは触角が長くてすばやい上に触角の動きが―――ああ、これ以上は駄目だ。自分で自分をKOしてどうするんだ。
※
部屋に入るとまず荷物を下ろし、着替えやすい姿に着替える。着替える前に木場先輩がイッセー先輩に冗談で”覗かないでね”と言っていたけれど……。なぜだろう、木場先輩が言うと現実味を増していて怖い。
外に出ると、まずは全員で軽いストレッチや柔軟体操で体を整える。やっぱり準備運動はきっちりやらないと余計な怪我が多発するから、準備は万端にしないとな。
そして今、俺と小猫さんはペアを組んで、イッセー先輩はリアス先輩に手伝ってもらって、座って足を広げて手を地面につけてぐっと伸ばしたり、足と足同士をくっつけて前の方に体を倒したりとストレッチをしている。
「痛ででで……部長、痛いッス!」
俺がのんきにストレッチをしていると、イッセー先輩は悲鳴を上げている。先輩は平均的な体の柔らかさのようだけど、後ろでリアス先輩がグイグイと力を込めて押している……。ありゃ痛そうだ。
「ほらほら。イッセー、貴方にはこの十日でもっと体を柔軟にしてもらうのだから、このくらいで悲鳴を上げたら困るわ」
イッセー先輩の訴えもどこ吹く風と、リアス先輩は更に力を入れて押し始めている……。なるほど、前々からイッセー先輩が”部長のシゴキは鬼だぜ……”とか言ってたけれど、その通りだ。
「ケースケさん、もっと強くしますか」
俺がイッセー先輩とリアス先輩の様子を眺めていると、後ろで俺の背中を押している小猫さんがそう俺に聞いてきた。
ふふふ、体の柔らかさにはちょっとだけ自信がある。もう少し強くっても大丈夫だろう。
「ああ、大丈夫大丈夫。思いっきりやっていいよ」
俺はそうにこやかに小猫さんへ告げる。
「そうですか」
「こう見えても俺体は柔らかい方――――うわらばっ!」
突如、余裕ぶっている俺の関節やら筋肉が、稼動限界を迎えて悲鳴を上げ始めた。本当に体からミシミシとかギチギチとか、そんな感じの音がするなんてお兄さん知らなかったよ。また一つお利口さんになれたね、俺!
落ち着き払ってそんなことを思ってるが、そんな場合じゃない。これ以上は俺の体が持たない、小猫さんに止めてもらわないと!
「こ、小猫さん……体がもう限界だから、その、少し力を緩めてくれないかな……」
「だめです。ケースケさんにも体をもっと柔らかくしてもらいます」
なんということだろうか、リアス先輩以外にも鬼の様に厳しい人が俺のすぐ後ろにいたよ。姫島先輩と組んでドSな面を全開にされるより小猫さんと組んだ方がマシかと思ったのに、これじゃそんな変わらないじゃないか……。
「あと5秒でおしまいです」
「ウギギ……」
うめき声を上げながらも必死に5秒間耐えていると、小猫さんがやっと力を緩めてストレッチは終了した。小猫さんは俺よりもかなり体が柔らかかったのは言うまでもない。
体も温め、体も運動するのに万全な状態になった所で俺とイッセー先輩は木場先輩から剣術について軽い手ほどきを受けることになった。
俺はナイフ術くらいならアメリカで教わったのでいけなくもないが、剣道とか剣術なんかはやったこともないので多少不安だ。
俺とイッセー先輩は、正しい剣の握り方とか構え方とかを教えてもらったあとに、まずは実践ということで木場先輩とそれぞれ1対1の手合わせだ。まずはイッセー先輩から。
イッセー先輩は木刀で木場先輩に果敢に切りかかるものの、その全てを木場先輩は必要最低限の動きでいなし、避けている。前も一回見たことがあるけれど、やっぱり木場先輩の剣捌きは凄いなぁ。
ある程度イッセー先輩の攻撃をかわすと、今度は木場先輩の番だ。一瞬にして木場先輩はイッセー先輩の手から木刀を叩き落してしまった。
「ひぇー……刀剣で木場先輩とは闘りあいたくないっすわ……」
そう俺がつぶやくと、木場先輩はイッセー先輩と、勝負ともいえない勝負だったとはいえ汗一つ見られない涼しい顔をしてこちらの方を向く。
「さ、次は若葉君の番だよ」
今度は俺があの攻撃を受ける番か……。十日間、木場先輩に勝てないにしても、せめて動きを捉えられる程度にはなるのを目標にしてみよう。
俺は木場先輩と対峙すると、まずは強く木刀を握り締めて思い切り強く一撃切りかかる。しかし、やっぱり木場先輩に簡単に木刀で受け流されてしまった。
「ちょっと肩に力が入りすぎてるね、これだと単調な攻撃しか繰り出せないよ」
受け流しながら木場先輩がそう俺に教えてくれる。なるほど、銃を撃つときも力を入れすぎるとガク引きといって銃全体が大きく揺れて狙いから大きく外れることがある。それと同じようなことなんだろうな、きっと。
木場先輩のアドバイスを元に今度は少しだけリラックスというか、肩の力を抜いて横薙ぎに一太刀入れると……
「おっ……?」
さっきよりもスムーズに腕が動くし、木刀も心なしかさっきよりも速く振れた気がする。試しにもう二三回木場先輩に続けて攻撃してみると、すんなりと攻撃が次に繋げられる。
「うん、さっきよりもいい動きになったね」
木場先輩も褒めてくれたのでこれが一番いい振り方ということなんだろう。これなら、もしかしたら一太刀浴びせるまではいかなくても、一泡吹かせることくらいならできるかもしれない!
ちょっと調子付いてきた俺はまず、あえて木場先輩を狙わずに先輩の持つ木刀に狙いを定める。ポイントは木刀の下半分、手で持つところよりもちょっと高めの場所だ。
「そいやっ!」
掛け声と同じにまた横薙ぎに例のポイントめがけて木刀を振るうものの、木場先輩は木刀の切っ先の部分を下に向けてうまくいなしてしまう。あの場所なら少しは受けにくいかと思ったけれども、そう簡単にうまくはいかないようだ。
次は大胆に兜割りよろしく縦での脳天めがけて切りかかりだ。しかし、これもまた簡単に避けられてしまった。これも駄目か! 横から打てばいなされ、縦から打てばかわされる。ええい、それならこれはどうだ!
「とりゃーっ!」
俺は最終手段の渾身の突きを木場先輩に放つ。狙いは体のど真ん中、しかも重心であるヘソ! これはどうあがいても避けることもいなすこともできまい!
しかし、予測とは裏腹に木刀が木場先輩の体まで到達しないうちに俺の手は止まった。なぜかって? 俺の喉元にはすでに木刀が突きつけられていたからだ。もう少しでも前に動いていれば、真剣なら間違いなく俺の命は無かっただろう。木刀でよかった。なにより実戦でなくてよかった……。
「いきなり突いてきたのは驚いたけど、突きは隙が大きいからあまり多用しないようにね」
そう言うと木場先輩は俺の喉元から木刀の先を下ろす。木刀とはいえやはりこういうものを突きつけられると心臓に悪い。もっとも、俺も木刀で突こうとしたからどうこう言えないんだけどね。
「次はまたイッセー君の番だね」
にっこりと木場先輩はイッセー先輩にそう言う。つまりはイッセー先輩が終わったら次は俺の番か……これは以外にハードだぞ。
「どりゃぁっ!」
この掛け声からものの数秒でイッセー先輩は木刀を落とされ、休む暇も無く俺の番に移動するのであった……。
※
木場先輩との稽古を終えた俺たちはすかさず姫島先輩の魔力の発達させる練習へと移った。今度はアーシア先輩とも一緒のようだ。
部屋に入ると、ジャージ姿の姫島先輩が俺たちを待っていた。
「あらあら、全員揃いましたわね?」
姫島先輩は俺たちを見ると、とりあえず長机から椅子を引いて座るように指示すると、机をまたいで俺たちの前に立つ。
「では、始めましょうか。まず魔力というものは――――」
姫島先輩はゆっくりと分かりやすいように俺達に魔力とはどんなものか、どういう風に使いこなすのかということを説明してくれている。ついでに悪魔じゃない俺のために魔術云々についても解説してくれている。
なんでも魔術は人間が悪魔の業を真似ようと、古い魔術師が見出したものだとか。もしかしたら俺の魔法も魔術に近い何かなのかもしれない。俺も魔術を覚えたら更に役立てそうだし、この話は真剣に聞いておくことにしよう。
「では、早速実践してみましょうか。魔力を体から一点に集める練習です」
そういうと姫島先輩は手を前に出すと、手の上にキラキラとした綺麗な球体が生み出された。さっきまでの話を統合してみると、どうやらこれが魔力の塊らしい。
「お二人にはこれを作ってもらいますわ。若葉君は私と一緒に少し外へ出ましょうか」
「了解です」
姫島先輩に連れられて外に出ると、先輩は俺の方を向いて口を開く。
「ではまず、若葉君がどのくらいの力を持っているのか見せてもらいますわ」
なるほど、つまり俺の出来る限りの魔法を打ち出せってことか。しかし、ただ見せるというのもつまらないな……。
「ではまず簡単な発火から」
俺は手のひらをまっすぐ明後日の方向に突き出すと、そこから瞬間的に火が出てくる。火といっても、優に1リットルのペットボトルを包み込むくらいの大きさはある。近距離での威嚇、または相手との間合いをつめてからの猫だましには丁度いい一撃だ。
「そして次に大発火」
次も同じように手のひらから火を出すが、今度のは違う。荒々しく空気を裂くような音と同時に、先ほどの火とは一回り二回りは大きな炎と呼べるほどのものだ。
ちなみにこの二つは、種を明かすとアギとアギラオを手のひらで生み出しているだけだったりする。破壊魔法も上手くコントロールすれば手品とかをしているみたいで面白い。もっと上手くコントロールしたいけれど、それにはとてつもなく集中する必要があるので、今回の修行でやれるようにしたい。
「まだまだあります。次は氷のつぶてを作ってみましょう」
そう言うと今度は人差し指で天を指差す。すると指先から少し上に、みるみると30cmくらいの氷の塊が出来てきた。そして天を指した指を勢いよく地面に向けると、その氷の塊はいくつかの破片となって地面を抉っていく。
この芸当はさっきのようには上手くいかない。ブフで作り出した氷をザンの衝撃波で砕き、なおかつそれを衝撃波に乗せて飛ばす、といった具合に少しだけ複雑な小細工が必要だ。
「こんな所ですかね。あとはまあ、電気を少々扱えます」
姫島先輩はこう言った俺に対して少し驚いたように俺の方を見ている。ふふふ、どうですか。少しは俺だってやれるんですよ姫島先輩。
「思ったよりも魔法を使いこなせているようですね、若葉君。私も少し驚きですわ」
「いやー、そんなに褒められるとは。照れちゃいますよ」
少し恥ずかしながらも思わず俺は笑みを浮かべてしまう。照れ笑いというやつだ。
そんな俺を見ながら姫島先輩もニコニコと嬉しそうに言う。
「これで遠慮なく私も若葉君を鍛えてあげることができますわね」
「えっ」
姫島先輩、今遠慮なくって言いました? 姫島先輩の遠慮なくは恐ろしいんですが……。
「最初は不慣れのようでしたら優しめに手ほどきをして差し上げる予定だったのですけれども、この様子ではその必要もありませんもの」
「お、お手柔らかにお願いしますね……」
調子に乗ってポンポンとこんなことをしてしまった自分が少し恨めしいが、やってしまったことは仕方がない。どれだけ厳しいかは分からないが、やるしかない。
そう思いながら俺は姫島先輩と一緒に川へと着いた。川といっても山の中の上流の方なので、ちょっとした渓谷みたいに流れもまちまちで、ところどころが淵になっていて深かったり、水の流れがあるところでは緩やかだがある所は激流、といった感じだ。さらに2、3mくらいの高さの滝まである。
「あー、なんというか。もうお約束な感じの場所ですね……」
「もちろんこれからやることもお約束ですわ。うふふ」
姫島先輩は笑っているが、俺としてはこの先にやることについてかなり不安を感じている。
試しに川に近づいて水に手を触れると、やはり暖かい春とはいえ冷たい。あんまり長く浸かっていたくはない冷たさだ。だが何度も言うけれどやるしかない。修行ってそういうものだもの。
「では、若葉君。まずは服を脱ぎましょうか」
「わかりました」
覚悟を決めて俺はそう言い、上を脱いで上半身裸になり、靴も脱ぐと姫島先輩もジャージを脱ぎ―――ん? 姫島先輩がジャージを脱いでる? あれ、俺だけじゃなくて先輩もやるの?
「姫島先輩もやるんです?」
「いいえ、私は少し準備をするだけですわ」
そう言いながら姫島先輩は川に近づくと、しゃがみこんで水面に手をかざす。
するとみるみると俺と姫島先輩の居るところから滝へとひとつの氷の道が出来上がった! 魔力ってすげぇ!
「では私についてきてください」
言われたとおり俺は姫島先輩のあとをついていく。氷は素足には少し寒さが辛い。これを足場にしてやるとすれば、水の寒さに加えて氷の寒さも加えられるわけだ。随分と厳しい修行になりそうだ……。
俺はそんな事を思いながらも滝の下に立つ。すると姫島先輩は無理に立たなくていいと言ってくれたので座禅を組む事に。なんでもこうしないと今の俺ではこの修行は到底厳しいらしい。ちなみに、滝は今凍らされているのでこうやって姫島先輩の話を聞けるわけだ。
「では、はじめますわ。若葉君はこのまま目を閉じずに滝に打たれながら集中してくださいね。氷はしばらくすると溶けてしまいますので、凍らせて足場を保たせないといけませんわ」
ニコニコとそう姫島先輩は言うが、なんとも難しい修行だ。滝に打たれることに耐えて顔に水がかかっても目を閉じずに集中して足場を保て、か。精神をいじめるこの修行、果たしてやりきれるだろうか?
「ここの滝壺は少し深いので気をつけてくださいね、うふふ。では始めです」
「えっちょっと待ってくださ―――」
俺が言い始める前に滝を姫島先輩は元に戻したため、少し不意打ち気味に滝の水が俺の頭上に襲い掛かる。思わず一瞬目を閉じてしまいそうになるものの、なんとか目を閉じずに集中し始める。
こればかりはやれるやれないなんて話じゃない。やりきらないと命に関わる。何せ一度深い滝つぼに嵌ったら死んでも浮き上がって来れないからだ。なんてスパルタなんだ姫島先輩……。
「精神を統一して集中するのですよ」
「はいっ!」
ニコニコとそう言いながら微笑む姫島先輩に俺はなんとか返事をするが、返事をするだけで精一杯だ。頭から受けると、見た目は控えめな滝なのに勢いはぐいぐいと俺の頭を下げるような強さだ。そして頭を打つ水はある程度は跳ねてしまうが、それでも顔にかかる水の量はお世辞にもシャワーとは言いがたい量だ。
思わず顔を手で拭ってしまいたくなるものの、それでは精神統一の意味がない。ぐっとこらえ両手を硬く結んで足場を保つことに集中する。
しかし、しばらくすると、抗いがたい不快感が俺を襲う。目に水が入っても目を開けたままで水をぬぐうことも出来ないことや、水が常に顔にかけられる感触がとても苛々する。早く、早く終わってくれ……!
そう祈りながらも足場の氷が割れてしまわないように注意を払い、凍らせ続ける。氷はとてもつめたくて体の感覚が若干麻痺していくが、不快感ほど嫌になるものじゃない。体を痛めつけるよりも精神を痛めつける方が辛いというのも納得が出来るほど、この不快感は俺にとって耐え難い。
気づけば俺は、歯はギシギシと食いしばり、手は硬く結ばれ、目は水であまり見えず、体全体が水と氷の寒さで震えていた。もはや辛すぎて自分の体を客観的に観察できる領域まで達してきている。
そして次の瞬間、俺の頭に何かが訪れた。何かと何かが繋がったような、脳裏をほんのわずかに刺激する電撃が走るような、不思議な感触。
そして頭の中では、俺は山の上か崖のようなところに立っていた。そして暗雲が二つに綺麗に割れ、そこから差し込んだ日光が一筋の線が地上に差し込む。そんな風景が頭の中で見えたような気がした。
「お、お、おお?」
いつまでも見てみたいような風景だったものの、すぐにその光景は消えた。けれど、頭の中は妙にすっきりとしている。先ほどまでの苛々や不快感なんてものを本当に俺は感じていたのかと疑問に思うくらいだ。
今では、水が目に入ることさえも当たり前のようにすら感じる。むしろ、そんな状況で物がはっきりと見て取れることが不思議なくらいだ。
「なんだ、これ……?」
「ほほほ。よくやってるようぢゃのう?」
思わず出てしまった呟くと、誰かが俺に対して話しかけてくる。この声、そしてこの話し方―――間違いない。あの―――
「あの―――ええと、名前。あれ? 名前なんだっけな」
あまりにも久しぶりに会うせいか、名前が出てこない。誰だっけな、あの外で使った杖を部屋の中でも使うようなボケ老人は。
俺がそう思ってると、突如頭の中にやったら髭を伸ばしたじーさんがずっこけた。とうとう老いぼれて杖を持つ体力すらなくなったのか、じーさん……。
いや、そうだ思い出したぞ。こいつの名前はじーさんだ。またの名を神とも言う。20話以上も出番のないキャラクターの名前なんてほぼ忘れていたぜ。もちろん、ミーナさんのことだけはきっちりと覚えている。今どうしてるだろうね、あの人。
「まったく、ワシよりもおなごを覚えているとは……。お主らしいといえばそれまでだがのう」
「よく言うぜ、今まで雲隠れしやがって。なーにが”お主が強くなったらまた来るからのう”だ」
「まあそう言うでない、ワシとて暇ではないんぢゃ。それにワシが出て行ったら、明らかに台無しになるシリアスなシーンばっかりしとったではないか」
「いやまあ、それはそうなんだけれども……」
確かに一人で泣いてるときにじーさんがやってきたら、反射でじーさんの顎に回し蹴りを入れてしまうかもしれない。それを考えるとこう言われてはどうしようもない。
「で、なんで今更こんなときにやってきたんだ?」
「おう、そうぢゃ。お主、今レベル90近くあがったんぢゃ」
「はぁっ!?」
一瞬、このじーさんはとうとう本当にボケたんだと思ったものの、慌ててレベルを確認すると―――
「―――あれ、レベル確認できない? ていうか能力確認もできない?」
なんどやっても全く出来ない。そういえば、忙しくて忘れていたがアメリカに行ったときもそんなことがあったような……?
「うむ、面倒なので単刀直入に言うぞい。レベル処理と能力処理は大人の事情により廃止ぢゃ」
「そうか、大人の事情なら仕方ない―――ワケねぇだろオイ待てやジジイ」
首根っこを引っつかんでやりたいところだが、生憎じーさんは俺の頭の中だ。掴むとしたら自分の首根っこくらいしか今は掴めるものはない。
仕方なく俺はじーさんの話を聴くことにした。
「で? つまりは俺はこれ以上強くなれないと?」
「いや、なれることはなれるんぢゃ。ただ能力割り振り制とレベル確認はできないようにしたんぢゃ。自分より強いかどうかはある程度はお主も分かるぢゃろ? もうレベルに頼る必要もない、鍛え方は今までと同じで構わんのぢゃ」
「なるほど。まあそれはそれでいいけれどもさ……」
「言いたい事はそれだけぢゃ。では修行に励むんぢゃよ? ワシは草葉の陰から見守っておるでな」
それってじーさん、もうとっくのとうに死んでるってことになってるんじゃ、と言おうとしたがその前にじーさんは俺の頭の中から消えてしまった。まったく、せっかく不思議な気分だったのに興醒め―――
「醒めてる場合じゃねぇっ!?」
慌てて俺は今まで忘れていた足場を急いで凍らせることに専念する。危ない、もう少しで氷が割れて滝壺に落ちるところだった。
ひとたび安心してまた精神統一をする。先ほどの不思議なことが起きてから視界がクリアーになったので、集中するのも楽に―――
「若葉君、どうしました?」
ここで、座って俺のことを監督していた姫島先輩が立ち上がる。ところで、姫島先輩は胸が大きい。リアス先輩と姫島先輩、どちらが大きいかと聞かれたら悩むくらいには大きい。しかしやっぱりリアス先輩の方が若干大きい気がしなくもない。
そんなくらいに姫島先輩の胸は大きいので、立ち上がれば無論揺れる。胸が揺れるのは先輩たちと知り合った時から何回も見ている。このくらいの事を気にしていたら先輩たちとは付き合えないから、無論慣れている。
しかし、問題はそっちではない。胸が揺れることよりも胸に問題がある。話は若干遠回りをするが、俺はブラジャーというものがどういうものかは理解していない。胸の形を保つものだとかなんとか、その程度の認識だ。そんなものだから俺は運動するときもつけてるもんだと思っていた。しかしどうやら違うらしい。
なぜそうなのか分かるかって? 滝の水しぶきですっかりと姫島先輩の上半身は濡れてしまっていた。だから、水で透けて見えるのだ。つまりは、その……胸がだ。胸の先っぽから谷間まで、完全に。
「ちょっ、姫島せんぱっ、うぶっ!?」
慌てて叫んだために、口の中に水が大量に入り込み、むせてしまった。
「あらあら、大丈夫ですか?」
姫島先輩はそんな俺を心配してか、俺の傍へと歩み寄ってきた。まずい、姫島先輩は服で透けていることに全く気づいていない。今至近距離であれを拝んだら間違いなく吹っ飛んでしまう。主に俺の中のいろんなものが。若い青小年相手にそんな無防備な姿は刺激がいささか所か劇薬並みの強さだ。
「がふっ、せんっ! だっ! げふっげふっ!」
先輩にこっちに来ないように言おうとするものの、むせて上手く言うことができない。それを見た先輩が心配してさらに俺に歩み寄ってくる。これじゃ全くの逆効果だ。
「若葉君、これ以上はもう危険ですのでおしまいにしましょう。立てますか?」
そういいながら姫島先輩は俺に手を伸ばす。無論胸はさっきよりも俄然ズームアップされている。思わず手をとらずに別のところを掴みそうになるが、なんとかこらえて先輩の手を取る。先輩の手は、綺麗なだけれなくすべすべとしていて、白魚のような指とはこんな指を言うんだろうな。
「なんとか、立てますよ……っと」
姫島先輩の手を借りるて立ち上がると、嫌でも視界に胸が入ってくる。なるべく目をそらして起き上がると、姫島先輩が親切にもタオルで俺の顔の水を拭いてくれた。
「いや、なんともハードな修行でしたね……」
「これを何日か続けて行いますわ。時間も日につれて増えていきます。―――髪も拭いてあげますわ、頑張ったご褒美です。うふふ」
「あ、すいません」
そう言いながらうっかりと正面を向くと、若干上目遣いな感じの姫島先輩の顔がズームで映し出される。一応俺の方が姫島先輩よりも背が高く、髪に視界が行ってしまっているためとはいえ、とても綺麗な顔がとても近い。
「はい、これで終わりました―――きゃっ!」
「おっと、危ない―――うおっ!?」
先輩が転びそうになったので俺が支えようとすると、今度は俺がすっ転んでしまい二人とも倒れてしまう。なんとか頭を打たないように受身を取る。こんなところで頭を打ったら昏倒間違いなしだ、危なかった。
「先輩、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですわ」
「そう、それならよかっ―――」
そこまで言って、今の状況が理解できた。俺の体の上に姫島先輩がいるわけだ。そして支えようとした形になっているわけで、更に俺が先輩を支えようとした結果軽く抱きしめてるような形になっているわけで。
そこまで確認すると、俺の頭の中でぷっつんと何かが切れた。
「据え膳食わぬは男の恥ッ……!」
そういいながら俺は姫島先輩の肩を掴む。この場合据え膳でもなんでもないが、そんなことはどうだっていい。大したことじゃあない。
「若葉君……?」
不思議そうに姫島先輩が俺の顔を見る。畜生、辛抱たまらん!
俺はそのまま、本能がままに姫島先輩を突き飛ばす。
「あぁっ!」
驚いた先輩をよそ目にそのまま立ち上がると―――
ピシッ、という音が俺の足元で響く。そしてその瞬間、あっという間に俺の足場の氷が割れて俺は瞬く間に水の中へと吸い込まれていった。
水の中は冷たく、おかげさまと言おうかそのせいでと言おうか、すっかりと文字通り頭が冷やされた。畜生、転んだときに若干もろかったのか、だから俺が立ち上がったときに耐え切れなくなって割れたんだな……。
助かった、というべきなのだろうか。惜しいことをしたような気もしなくもない……。
お久しぶりです。私です。
相も変わらずサブタイトルが迷走していますね、どうしたもんでしょうか。
今回も今回でなかなかのボリュームになってしまいました。なんとか読みやすいくらいの文量を目指したいものです……。
さて、今回は修行ということで何をしようか非常に迷っています。あんなネタやこんなネタを詰め込みたいなぁと思っていますが、詰め込みすぎてえらいことにならないか心配だったりもします。
さて、次回は『~俺と姫島先輩の危ない夜~』です。無論嘘です。乞うご期待ください。