ただのゲーマー高校生のハイスクールD×D   作:unat

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第3話:取捨選択と四捨五入って何か似てる

 

 川から上がった俺は服と体を乾かすために丁度いい、日当たりのいい大きな岩の上で大の字に寝転がっていた。姫島先輩は食料の調達とイッセー先輩達の監督だそうだ。俺も食料調達を手伝おうとしたものの、今は修行で疲れた体を休めておくようにとの事。ありがたくお言葉に甘えておこう。なんだか物凄く気分的に疲れた……。

 

さっき、俺は思わず姫島先輩を襲いかけたんだけど、姫島先輩に襲いかけたことを除いて見えた光景のことについて聞くと、いわゆる俺の頭の中のロックが一段階解けたという事だそうだ。大抵そういったあとの場合、脳は一瞬不安定になるので動物としての行為を本能的に行ってしまうとか。

 

「若葉君はそんな状況でも冷静に私を助けてくれましたし、心が強いんですね。うふふ」とそのあと姫島先輩は付け足すように言っていたが―――ま、怪我の功名というやつだろう。

 

「それにしたっていくら修行でも一回一回先輩を襲ってたら身が保たねぇって……」

 

 ぽかぽかとした日光で暖められた岩はとても気持ちがいい。しばらくすると、冷えた体もすっかりあたたまって体も十分乾いてきた。

 そのまま、またしばらく休憩しているとだいぶ気力も回復してきたので起き上がって周囲を見渡す。姫島先輩の影はもちろん他には俺以外人っ子一人居やしない。だから音も川の流れる水の音とか滝の音、それくらいしかない。

 

「そろそろ戻るかー……」

 俺が岩から立ち上がると、その瞬間ポチャンと魚が跳ねた音がした。

 そうか、一応ここは渓流になってるからヤマメやイワナなんて魚もいるんだな。それなら、ちょっと食料確保に勤しんでも悪くはないか―――?

 

 そんな風に俺が思っていると、またしてもポチャッと跳ねる音が俺の耳に入る。まるで俺に”捕まえられるなら捕まえてみろ”とでもいわんばかりだ。

 ……いいだろう、その挑発に乗ってやる。俺は長ジャージの首と腕を結んでしっかりとチャックを閉める。これで簡易的な網ができた。

 次は川を石でどんどんと流れを狭めさせて八を横に倒したような形にする。そして狭めたところにジャージの穴を大き目の石を入れてピシっと張らせて口を広げ、かつジャージが流れないようにする。

 

 これで準備は整った。俺はまず川から上がると石を思い切り投げ込む。一回投げると間髪要れずにまたもう一回という風にどんどんジャージの方へと誘導していく。石を投げるたびに魚影がジャージの方へと逃げていくのが見えた。よしよし、今のところ順調だ。

 

 あとは思いっきり水にまた飛び込んで追い込みの仕上げにかかる。バシャバシャと対岸を行ったりきたりしながらジャージまで走っていく。そのままジャージにまでたどり着くと、モゴモゴとジャージが川の流れでゆれているのとは違う不自然な動きをしている。

 

 そのまま急いでジャージの口を閉めると、素早く岸まで運んでちょっとのぞいてみると……ひぃ、ふう、みぃ…………うん、人数分より少し多いけれど、小猫さんとかイッセー先輩とか俺がおそらくあのメンバーの中ではたくさん食べる方だと思うし、ちょっと多くてもおかわりしてくれるだろう。

 

 ジャージをサンタのおじさんよろしくハイホーハイホーと担ぎながら屋敷に戻っていると、美味しそうな匂いが漂ってきた。どうやらお昼の用意はもう出来ているようだ。

 俺の歩みも自然と速くなってくる。メニューは何が出てくるのか楽しみだ。

 

 

 

                      ※

 

 

 

 昼を済ませ小休憩すると、次は小猫さんとの格闘訓練だ。ふふふ、近接格闘なら小猫さん程ではないが多少の自信はある!

 俺は意気揚々と小猫さんと対峙する。なお、これはイッセー先輩と交代でやっている。イッセー先輩は飛び掛った瞬間に吹っ飛ばされていたが俺はそうはいかないぞ?

 

 まずは俺と小猫さんは一礼してから5mほど距離をとる。お互い無言で構えると戦闘開始だ。

 小猫さんはどうやら俺の出方を伺うようだ、積極的に動こうという意思は見られない。それとも間合いを計っているのか……?

 

 身長差からしてみれば、リーチとしてはこちらの方が圧倒的有利。打撃系に関しても体重等々を考えればこちらが”通常”は有利だが……相手は戦車だ。打撃に関しては侮れない。脅威と言っても良いが……一番恐ろしいのは、距離を詰められた上での関節技や裸締めといったサブミッション系か。小柄な人間ほどまとわり付かれて厄介なものはない。なるべく距離を詰められないようにするべきか。となると初撃は蹴り技……。

 

 初撃は決めた。俺は素早く下段蹴りでまず小猫さんの足を攻める。しかしこれを小猫さんは後ろへとダッジした。すかさず俺は追撃にかかる。

 次は単純にストレート。これは体の重心であるヘソを狙う。しかしこれもまた後ろへと回避される。下手に距離を詰めないほうがいいと意識しすぎたか、上手いこと小猫さんにかわされるな……。

 

 ならばこれでどうだ、まず俺は距離を詰めると左フックでわき腹を狙う。無論これはかわされる。しかし本命はレバー狙いの右中段後ろ回し蹴りッ!

 俺の放った蹴りは寸分たがわず小猫さんのレバーへと吸い込まれるように入っていき―――

 

「……遅いです」

「なん……だと?」

 ―――俺の足は小猫さんの手で受け止められていた。がっちりと掴んだその手は小さいながらも力強く、振り払おうとしても動かそうとすることができない。

 これは非常に不味い、なんとかしてこの体勢から抜け出さないと……!

 

「ま、まだまだッ!」

 空いている左足で蹴たぐりを放つ。しかしこれもただの悪あがきにしか過ぎなかった。

 小猫さんは簡単に俺の蹴りをよけると、それによって俺は転倒。俺がべシャッと地面に倒れこむとすかさず小猫さんは逆片エビ固めを極めた。

 

「――――ッ! ギ、ギブアップ! ギブアーップ!」

 たまらず俺はバンバンと強く地面を叩いてタップをすると、小猫さんはようやく俺の足首を放してくれた。格闘訓練で本気で足首を極めるのはやめていただきませんかね、小猫さん……?

 

「速さが足りません。攻めるときにはもう少し手数が多い方がいいです。その為には基礎体力がもっと必要です」

「ははーっ」

 小猫さんの助言を承った俺は深々と面を下げる。速さと体力か……なるほど、その為にはインナーマッスルをもっと鍛えるべきか。

 

「次はイッセー先輩の番です」

 そう言うと小猫さんはイッセー先輩の方を向く。

「うおおおおおぉぉぉ!」

 イッセー先輩は勇猛果敢に突っ走っていく! そして投げられた! 木に当たってダウン! 俺のターン!

 あっという間の出来事にあっけに取られていると、木で伸されたイッセー先輩からくるっとこちらを向いて小猫さんが無表情で俺を見つめている。

「マジですか……?」

「マジです」

 俺の体が持つのですか、本当に……?

 

 

 

                       ※

 

 

 

「あー、腰がまだ痛いぜ……」

 野菜の皮むきをしているイッセー先輩がそう呻く。

 結局、あのあと計3回イッセー先輩は投げ飛ばされていた。俺も2回投げ飛ばされて、2回右腕を極められた。腕がまだ痛むし小猫さん容赦ない……。

 

「小猫さん意外に力持ちですからねー、んでもってよく食うときました」

「ああいうのギャップ萌えっていうんだよな」

「そうそう、無口で小柄で大食いって典型的な奴で」

「あ、あのっ……」

 

「小猫ちゃんさ、この前部室でバケツプリン一人で食べてたんだぜ?」

「俺もちょっと前に三郎ってラーメン屋でトッピング全部載せを平らげてるの見ましたよ。いやー、小さい体に収まるんだなぁとしみじみ思いましたね」

「よく動くからよく食べる、じゃ説明つかないくらいだよなー……」

「あのっ!」

「「ん?」」

  声に気づいた俺とイッセー先輩がふと横を向くと、アーシア先輩が若干涙目になりながらこちらに訴えかけるような目で見ている。

 

「まだまだ一杯あるんです……」

 そう言いながらアーシア先輩は魔力で皮を剥いていた。俺らはというと、まだ一個剥き終わっただけで話に夢中になってしまっていて全然作業をこなしていない。

 ここにあるのは全部で7人分の野菜なので、量もそれなりになってくる。しかも小猫さんは言わずもがな、俺やイッセー先輩、木場先輩だって食べ盛りの男子高校生なので7人分+2~3人分は追加されて、じゃがいもやらニンジンやらといった野菜が山盛りだ。

 

 いくら三人でも料理人でもない素人がこれを全部綺麗に剥いて切って下ごしらえをすると、労力はもちろん時間もかかって仕方ないので、ここで登場するのが魔力の修行―――らしい。無論俺はそんなのできっこないので黙々と皮を剥くだけだ。

 イッセー先輩は先輩で魔力はてんで弱いらしく、うんうんと唸りながら格闘しているものの結局俺が一個皮を剥き終えるスピードの方が圧倒的に速い。

 

 キッチンには姫島先輩もいて、なんでも昼の猪を捌いてるとかなんとか。俺の捕ってきた川魚も調理してもらってるので、俺たちの監督兼和風料理担当といった感じだ。

「ほらほら、先輩。急がないと俺が全部剥きますよ?」

 ピューラーでニンジンの皮を剥きながら言うと、イッセー先輩はタマネギを見つめながら

「んー……これが着物を着た和風美人だったら”よいではないか、よいではないかーっ”なーんてことができちゃったりするんだよなぁ……」

と意味不明なことを呟いていた。

 

「先輩、とうとう欲求不満で野菜に手を……っ!?」

「このたまねぎの曲線ラインが―――って、出すわけねぇだろっ!」

 うん、やっぱり先輩の突っ込みはなかなかにキレがある―――じゃない、さっさと皮を剥かないと。野菜の山はまだまだ高く立っている。アーシア先輩も頑張ってるけどこりゃ時間かかりそうだなぁ……。

 

 そう思いながらイッセー先輩を見てみると、先輩は剥いたタマネギを手になにやら考え事をしているのか、視線を一点に固まっている。

「先輩、剥いたタマネギはこっちに置いてください」

「お、悪い悪い―――って、あれ? 俺タマネギ剥いたっけ……」

「白昼夢でも見たんじゃないんすか? 今夕方ですけど」

「ん、そうかもな」

 

 

 

                       ※

 

 

 

 なんだかんだあって姫島先輩のヘルプもありつつも料理は無事完成。ぼたん鍋に野菜炒めやじゃがバターなどなど、どれもご飯のお供にはうってつけそうなものが大量だ。

 白い米の飯も6合くらいある。これが一食分だと考えるとよく食べるなぁ……。

「じゃあ、いただきましょうか」

『いただきます』

 手を合わせてからそう言ってまずはじゃがバターに手をつける。バターの塩気とじゃがいもがとてもマッチしていて美味い。たまに食べたくなるんだよな、じゃがバター。

 

「「あー、うんめーっ!」」

 あまりの美味さに、イッセー先輩とほぼ同時に同じ言葉が口から出た。それを見てリアス先輩や姫島先輩はクスクスと笑う。なんだか少し恥ずかしい……。

「いやー、でも久しぶりにこんな賑やかな夕食を食べましたよ。一人暮らしだと、まあ当たり前なんですけど一人なんで、夜」

 照れ隠しにそう言うと、イッセー先輩がぼたん鍋をつつきながら返す。

「ふーん……それじゃ、お前いつも自分で作ってたのか?」

「まあ、めんどくさい時以外は。でもまぁ、一人暮らし始めてちょっとは夜の一人飯は割と寂しかったりはしましたね……」

 

 だけど夕飯はそのあとレイナーレさんたちと食うことになって割と寂しくなくなったんだよな……。初対面だったけどなんだかんだ言って、レイナーレさんから逃げて死線を一緒に乗り越えた仲になってから夕飯作りに行くのもそこまで抵抗もなかったし、向こうも割と歓迎してくれたし。

 そのおかげで今はもう全く寂しくない。ぼっち飯なんてもうお手の物だ。

 

「……ケースケさん」

 とんとん、と小猫さんが俺の肩を叩く。なんだろうか、もしかして俺の近くにあるコショウが欲しいのかな? それとも醤油か酢か。

「ん、はい。辛すぎたようで実は塩辛かったけど結局はやっぱ普通の辛さだったラー油。あ、それともこっちのラー油の方がいい?」

 とりあえずラー油を小猫さんに渡そうとすると、小猫さんが俺の目の前にぼたん肉を箸で寄せてきていた。えーと、つまりこれは……。

 

「あ、かけて欲しいのね」

「違います」

 即答された。小猫さんは突っ込みにキレというか独特の味があるよね、ドツキ漫才からトーク漫才でもぶれない感じの―――って思っている場合じゃない。

 つまりええと、これは……。

「えーっと、食べていいの?」

 俺が聞くと小猫さんは無言でコクリと頷いた。ここで断るのも失礼だろうし、食べるか……。

 

 ぼたんを口に入れると、獣臭くもなく脂ばっかりではなくしっかりとした弾力のある肉。これは旨いぞ。

「んー、うまい。ありがとね」

「ケースケさんは、独りじゃないですから」

 そう小猫さんは俺に呟いた。どうやら俺に気を遣ってくれたようだ、なんか小猫さんに申し訳ないな。

 

「ありがとね、小猫さん。なんか心配させちゃったかな」

 そう言うと小猫さんは黙って首を横に振ると、そのまま食べることに専念し始めた。

 そんな様子を見てリアス先輩や姫島先輩なんかは俺たちを見てまさしく、あらあらうふふと言ってるんじゃないかという顔だ。イッセー先輩? ああ、もちろん悔しそうな顔してた。

 

 

 

                        ※

 

 

 夕食後、食器を片付けたあとに食卓に集まって今日一日の反省会を行った。

 リアス先輩がまず俺とイッセー先輩に向かって話しかける。

「さて、二人とも。今日の修行でどう感じたかしら?」

「「俺が一番弱かったです」」

 またダブってしまった。しかも全く同じタイミングで。

 イッセー先輩がそれを聞いて俺のほうを向く。

「お前だって俺より強いだろ、小猫ちゃんとだって木場とだって練習についていけてたし!」

「先輩だってセイクリットギア使えばすぐに俺以上の力になるじゃないですか何言ってるんですか!」

 

 そう言い合いをしていると、リアス先輩は笑いながら続ける。

「二人とも仲が良いわね。二人の言っていることはどっちも正解よ。現状、イッセーよりも若葉君の方が全面的に上回っているけれど、セイクリットギアを使えば若葉君を凌駕できる」

 そこまで言うと、リアス先輩は「でも」と付け足した。

 

「セイクリットギアにも限界はあるの。未熟な体では強大な力に対して体が付いていけなくなってしまう。そうね、大きなエンジンを載せた小さな車を想像して。スピードは出るけれど、ある程度まで達してしまうと―――」

 リアス先輩は手をグッと握ってからパァッと開いた。

「車がバラバラになってしまうの。だから、イッセーにはこの修行で力に対して相応の体になってもらう為に全面的に鍛えてもらうわ」

 そう言うとイッセー先輩は、神妙に頷く。そして次に俺のほうをリアス先輩は向いた。

 

「朱野から聞いたわ。若葉君、貴方は全体的によく出来てる。技量面でも魔法面でも、格闘でも。だけど、全てを完璧にこなすのはとっても難しいことだわ。どれも使いこなそうすると、結果的に全体からしてみれば中途半端になってしまう、なんて事は多いの。器用な人にとってそれが一番怖いことなの」

「つまり、秀でた方向性を見極めろってことですか?」

 俺が質問すると、リアス先輩は頷いた。

 

「貴方には貴方にしか出来ないことがきっとあると思うの。それを探して頂戴」

 俺にしかできないこと―――か。

 俺が考えていると、リアス先輩はとりあえずこれで解散、といって全員休憩に。俺は先輩たちには申し訳ないが、一番風呂に入らせてもらった。なんでも先輩たちは夜にも練習があるんだとか。

 

 そういうことで俺は先に就寝することにした。体が気づけばくたびれていて、ベットはやっぱりフカフカでぐっすりと眠れそうだ。

「秀でた方向性を見極めろ―――ね」

 見極めるだけが選択肢じゃない気もするんだ。俺は、独りじゃない。仲間もいて、仲魔もいる。

 そう思いながら俺は、ある決心して早起きをしようと思いつつ眠りについた。

 




どうもどうも、少しばかり予告と遅れましたが無事に投稿です。生きてます。

今回は今までが長かったということもありますが、若干短めになっております。

さて、次回はなんとなんと、邂逅です。邂逅。どんな出会いがあるのか、乞うご期待ください。
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