ただのゲーマー高校生のハイスクールD×D   作:unat

37 / 39
第4話:マトリックスタイム

 目がぱっちりと覚めた。ベットから体を起こして背伸びをすると、カーテンを開けて窓の景色を見る。

 外はまだうっすらと暗いが、太陽が昇る方角の空はもう明るくなっているので明け方らしい。せっかくだからこのまま日の出まで待ってみようか、なんて思ったが朝食を作ってからでもまだ間に合うかという結論に至った。

 

 台所に行って冷蔵庫を見ると、野菜やら肉やら調味料やらと色んな物で溢れ返っていた。ここまで多いと壮観だね、ホント。そしてこれが10日で消費されると思うと何処となく凄みを感じる。

 とりあえず卵を人数分取ってベーコンと食パン、あとはコーヒーと牛乳を取り出してまずはコーヒー多めのコーヒー牛乳を作って飲む。

「あー、うまい」

 あんまり苦いと一気飲みできないけれど、牛乳で割ったので一気に飲めるし目がパッチリと覚めた。

 

 コーヒー牛乳でリフレッシュしたところでフライパンを取り出したところではた、と卵を割ろうとする手を止める。

「んー、先輩達って朝は和食派かな、洋食派かな……?」

 こういうのは結構こだわってる人も居ると聞くから、勝手にベーコンエッグとトースターなんて洋食は作っちゃいけないような気もするんだよな……。

 

 姫島先輩は和食派っぽいし―――いやまてまて、意外に朝はスクランブルエッグにソーセージとかジャーマンポテトとか、スイーツにヨーグルトとか食べてる可能性だってある。”若い頃は大和撫子でした”なんて言ってた俺の母さんも今では朝にヨーグルトとか平気で食べてるし、10代の頃から食べ続けてたらしいしな……。

 

 リアス先輩だってそうだ、朝は洋食派と見せかけてバリバリの和食派かもしれない。ツヤツヤの銀シャリに納豆かけたり、漬物と味噌汁とあじの干物とかをおかずにしていることだってありうる。日本大好きらしいし。

 

 となると困った。ここは和食と洋食の二つを作るべきなのか? いやでもだな、そうしたら人数分作った結果残ったベーコンエッグやあじの干物は昼飯に回すことになる。先輩達の特訓で疲れた体にはできたてを食べてもらいたいし、昼に電子レンジでチンしただけの朝の残り物というのはいかがなものか……。

 

 うんうんと頭を悩ませたが結局、作らなかったらどうしようもないということで和洋折衷にすることにした。

 ただ、それだと俺一人では手がかかって仕方ないので、ここは猫の手も借りたいとエンジェルやピクシーを召喚することにする。

 

「呼びましたか、ご主人様」

 呼び出して早速、エンジェルに卵を数個渡す。するとエンジェルは不思議そうに小首をかしげているがまあそれは置いておこう。

「うーんと、これは料理のお手伝いかな?」

「大正解。はいこれスプーン」

 ピクシーにスプーンを持たせると、若干ぐらついたもののすぐに両手でしっかりと持った。どれくらい持てるのか実験したいけれど今は止めておこう。

 

「まずエンジェルはゆで卵作ってくれ、鍋に水を張って卵を入れて火をかけて待つだけの簡単なお仕事です。ゆで卵が出来たら殻を綺麗にむいてピクシーと一緒にスプーンでそれを潰す、OK?」

 二人はそれにコクリと頷いたので、俺は干物を焼いて和食の準備をすることにした。

 

 

                       ※

 

 

 ―――朝食の準備ができた。洋食はサンドイッチにジャーマンポテトとソーセージ。野菜ジュースもお好みでつけておこう。和食はアジの干物に銀シャリと味噌汁に白菜、茄子、キュウリの三色漬物だ。これなら多分残り物も少ないだろうしいけるはず!

 

 一息ついてコーヒー牛乳を一杯作りぐびっと飲む。一仕事終えたあとの一杯はたまらんね。

 

「ふう、それじゃあこれを運んで終わりだ。エンジェル手伝ってくれー、ピクシーは俺たち両手が皿で一杯一杯だからドアとか開けてくれると嬉しい」

 そう言いながら料理を運び、食卓にあらかた並べた後に食器なんかも用意したら準備は万端だ。末端の席に深く腰掛けると達成感がわいてきた。

 

「いやー、終わった終わった。疲れたわ」

 俺がエンジェルとピクシーにそう話しかけると、エンジェルは何やらもじもじとした様子でこちらを見ている。ピクシーはどこからか持ってきた爪楊枝でジャーマンポテトを口いっぱいに頬張っていた。

「あー、うん。腹減ったのね。サンドイッチいくらか摘まんでいいから」

 それを聞いてエンジェルは嬉しそうに頭を下げ、サンドイッチに手を伸ばした瞬間―――

 

「あらあら、朝食の用意を―――」

 ―――姫島先輩が入ってきた。

 

 

 

                     ※

 

 

 

 世の中、何かしらの形で人の生活には魔というものが関わってくる。人によってはタイミングの悪い時を妖怪のせいにしたりして、”魔が悪い”なんていう人も居るし、それこそ”魔が差した”なんて言葉もある。

 魔というものは集まるところに集まるというので、魔という物が集結しているこの場所は魔の者が集まってくる上に、何があってもおかしくはない―――

 

「―――それが、貴方の言い分なのかしら? 若葉君」

 そうリアス先輩が若干冷えた目で俺を見つめている。具体的に言うと若干呆れたような、そんな感情も先輩の表情から見て取れた。

 俺はというと、正座をしてこの視線を受け止めていた。周りには姫島先輩や小猫さんやリアス先輩がいる。これは強制されたわけではなくあくまで自主的なものだ。だって先輩達の視線とか小猫さんの視線が痛いんだもの。

 一応エンジェル達は引っ込めておいたのでこの場にはいない。居たら居たで自体が余計にややこしくなりそうだからだ。

 

「いやその、えーとですね。なんて言うんでしょうね? 一般高校生であった俺はある時、魔法や格闘術を身に着けた陰陽師に~みたいな? ハハハ……」

苦し紛れの軽いジョークで乾いた笑い声を出してみるものの、案の定俺以外全員が笑っていない。さあて、これはどうやって弁明したらいいものか……。

 

 冷や汗と脂汗をだくだくと流しながら思考を巡らせていると、リアス先輩は深くため息をつきながら改めて質問を投げかけた。

「彼女達は、貴方とどういった関係なの?」

「あ、えーと。従者っていうか、契約者っていうかですかね……」

俺の答えに対して先輩は少し考えているのか顎に手を当てながら話を続ける。

「信用は?」

「できます」

 きっぱりと俺がそう言うと、先輩は頭に手を当てながらしばらく何かを思案していたがまたため息をつくと俺の肩に手を置いた。

 

「とりあえずは不問にしましょう。ただし、トレーニングが終わる日までに何かしらの説明をしてくれるわね?」

「あ、はい!」

 とりあえずはこの詰問が続かないことに俺は安堵の息をつく。あのままの状態だと、うまく答えられないかもしれなかった……。

 

「貴方を詰問したって意味がないんだもの、それよりも後々になってきちんとした回答と私や私の眷属に害がないと分かれば問題ないわ」

 ただ、と言うとリアス先輩は俺にこっそりと耳打ちをした。

「祐斗の前では彼女―――あの天使、でいいのかしらね? 彼女は近づけさせない方がいいわ」

「はあ……」

 それだけ言うとリアス先輩も食卓に座り、朝食を食べ始める。俺以外の他の全員も食卓についているので俺も席に着いて食べることにした。

 

 焼き魚を食べながら俺は木場先輩の様子をさり気なく伺うとリアス先輩からの忠告のせいなのか、心なしか難しい顔をして考え事をしているようにも見えた。

 このままだと木場先輩はずっと考え込むんじゃないかという様子なので、やっぱり早く話して悩みの種を無くした方がいいんだろうか……?

 どうしたものか、と考え込んでいると隣からイッセー先輩が味噌汁を飲みながら俺に話しかけてくる。

 

「そういやさ、ケースケ。さっきの二人はどこに行ったんだ?」

「あー、あの二人ですか」

 もちろんこれはピクシーとエンジェルのことだろう。どこかと言えばもちろんCOMPの中に格納してある―――が、それを言うべきか言わないべきか……。

 悩みつつ、なんの気もなしにふとリアス先輩に目をやると、リアス先輩はじっと俺を見つめていた。その目から察するに”言えるのなら早く言って欲しい”という感じだろうか。

 

 ここまで来たなら仕方ない、腹をくくって喋ることにしよう。朝飯をいくらか食べて頭も回り始めてきたところだしな……。

 覚悟を決めて俺は箸を置いて口を開く。

「話せば長くなりますけど、いいですか? まずどこから説明したものか……」

 決心はついたものの、どこから始めればいいんだろうな? 悪魔から? 悪魔召喚プログラムからか? COMPから? それとも世界観から?

 

 そうだ、そういえばリアス先輩に話したことがあるところから始めるのがピッタリじゃないか。

「リアス先輩、俺が以前話したゲームの話覚えてますか?」

 そう聞くと先輩はええ、と言いながら頷いた。

「あれと同じように、あいつらは”アクマ”と呼ばれています。リアス先輩達のような種族としての悪魔ではなく、ああいった存在自体を指して”アクマ”と言います―――」

 

 

                       ※

 

 

 あの語り始めから、説明するのはとても骨が折れたが話の要はこうだ。

 こことは違う世界に住んでいるアクマを俺が召喚しているが、それは分霊と呼ばれていて本物の数分の一の強さであるということと、俺はそれを使役しているということだ。

 

「なるほどね……一ついいかしら? 彼女達―――だけじゃないわね。彼らは何を目的として契約をするのかしら? 貴方の話を聞く限りでは、彼らに契約を結ぶメリットというものが見当たらないのだけれど」

 そう言って出してきたリアス先輩の質問は中々鋭い。確かに、俺の説明ではアクマがこき使われているだけでそこにメリットなんてものは一つもない。

 

「色々とあるみたいです。例えば、この世界での経験を糧に力を高めるだとか」

 俺がそう言うと、リアス先輩は多少は納得をしたようでそれ以上は何も質問はなかった。他の先輩達も特に何も質問はないようだ。

 

「そうだ、トレーニング相手にちょうどいい奴らが居るんでどうですか、この後一戦」

 俺の提案にリアス先輩はニッコリと笑っていいわよ、と許可してくれた。そうと決まれば話は早い、俺は飯をかき込んで先に外で待つことにした。

 

 オニとケットシーを召還すると、二人は久しぶりの召喚ということでだいぶ張り切ってるようだ。

「ンー、アニキ。久しぶりの出番で腕が鈍りそうッスわ……」

 オニが呑気にそう言うと、ケットシーもそれに同調する。

「そうだニャァ……最近割と出番がなくて空気だったニャ」 

「だろうと思ってな、今日は一日特訓に付き合ってもらうぜ―――先輩! こいつ等が今日の相手です」

 俺がそう言って二人を指すと、先輩達全員が目を丸くしていた。それもそうだな、オニ達もいわば異界の住人ってわけだし、多分そういった存在とは初めてなんだろう。

 

「わあ、毛並が揃ってて綺麗ですね」

「つやつやです」

 アーシア先輩と小猫さんがそう言いながらケットシーの頭を撫でて微笑む。ケットシーはそれに対してゴロゴロと喉を鳴らして喜んでいる。

「チッ、アイツ文字通り猫を被ってやがりますねアニキ」

 オニが小声で俺に耳打ちをする。どうやらケットシーがチヤホヤされているのが気に食わないらしい。まあ確かにその気持ちも分からなくはないが、それを女の前で見せるのは男としてどうかと思うぞ?

 

「あらあら、こちらの殿方はずいぶんとたくましいのですね。うふふ」

 姫島先輩がオニに近づいてくると、今度はオニがデレデレとし始めた。情けない野郎だぜ。

「イヤァ、アッシなんてまだまだッスよ。姐さんみてェな方に言われるたァ光栄でさァ」

 何故だか無性にイラついたので、モヒカンを掻きながらニヤけるオニの頭を叩いた。

 

「ッテェ……アニキィ、堪忍つかぁさい」

「いいからさっさと始めるぞ。オニは木場先輩と、ケットシーはイッセー先輩とだ。それと、木場先輩はお前より強いからな?」

 俺にそう言われた二人は残念そうにしていたが、すぐに元の調子に戻ると先輩たちを品定めするかのようにじっと見つめている。

 

 特にオニはニコニコとしている木場先輩に思い切りガンをくれていた。これじゃオニはそこらのコンビニで便所座りしているヤンキーそのものだ。

「気に食わねェ面ァしてんなァ……」

 オニはそう言っているが、つまりは俺みたいに鍛えているわけでもない一見、一枚目の優男みたいな木場先輩が俺より実力があるということが信じられないらしい。イケメンなのも気に入らない理由の一つではあるらしいが。

 

 一方のケットシーとイッセー先輩はお互いに相手をナメてかかっていた。いや確かにセイクリットギアを発動させてもいない先輩は物凄く弱っちいのだが……ケットシーを侮ると痛い目にあいますよ先輩。

「貧弱そうだニャァ……」

「へっ、言ってろ!」

 お互いに睨み合って両者とも爆発寸前の状態。いつ誰が動き出すのか分からない状況になってしまった。

 一応ケットシーやオニは訓練用の獲物を持っているので、うっかりで誰かが死ぬことはまずない。

 

「先手必勝!」

 ここでイッセー先輩が勢いよく駆け出した! ケットシーもそれに応じるかのように構えて迎撃の姿勢を見せる。そしてそれとほぼ同時に木場先輩とオニの方もやり合い始めたようだ。

 

 まずはイッセー先輩が勢いよくケットシーを蹴り上げる―――が。

「飛んだッッ!」

 ケットシーはなんと、その蹴りを利用して勢いよく飛び上がった。そしてそのまま落下スピードを利用して回転しながら先輩の顔面めがけて蹴りを放つ。

「がっ!?」

 イッセー先輩はこれをモロにくらってしまい、たまらず体がグラついた。その隙を逃さずケットシーは追撃を試みる。

 ケットシーのための小さな木刀が容赦なくボコスカとイッセー先輩の膝や肘など関節部分を打ちつける。ガードをしようと曲げていた腕はそのせいで否が応でもまっすぐに引き延ばされた。

 

「はい、そこまでな」

 そう俺がケットシーを摘み上げながら止めると、ケットシーは若干不服そうにしていたがどう考えてもイッセー先輩の場合あのまま畳みかけられて負けという未来が目に見えていたし、必要以上にボコボコにするのもどうかと思うしな。イッセー先輩だって自分が弱いってことを負い目に感じているわけだから傷を抉るようなことは避けないと。

 

「先輩大丈夫ですか?」

 イッセー先輩に手を貸して起こすと、先輩は特に目立った外傷というものも無いようだ。少しすればすぐ良くなるだろう。

「うぅ、頭が痛いぜ……」

「痛いと言えるなら大丈夫ですね、それじゃ木場先輩とオニの方でも見ますか」

 俺が頭をさすりながらそう言うイッセー先輩と二人の様子を見ていると、どうやらオニが劣勢のようだ。

 オニがどれだけ攻撃をしても木場先輩はそれを弾き、躱してしまうので若干オニには焦りの表情が見て取れる。

 それにしてもオニの動きが前よりは随分と機敏になってきたようだ。よく動いてるしベタ足にならずに獲物を振るう早さも随分と早くなった。それでもしかし、木場先輩相手では分が悪いようだ。

 

「グゥ……」

「うん、一撃がとても重い。僕が受けるには少し辛いかな」

 そう言いながら木場先輩が今度は攻めはじめた。素早い動きでオニをかく乱し、鋭い斬り込みでオニを追い込んでいく。

 流石は木場先輩だ、こういう時でも冷静に判断できるとは。

 オニはどうしようもなく、ただひたすらに防いでじりじりと後退していった。そしてそのままオニはとうとう防ぎきれずに武器を叩き落される。

 

「勝負あり、ですわね」

 姫島先輩がそう言うと、がっくりとオニがうな垂れた。姫島先輩の前で負けて男としてのメンツが立たず、随分と落ち込んでいる。

「まあオニ、その……相手が一枚上手なんだ。あの速さには太刀打ちできない以上、どうしようもないだろ?」

「アァ……そうッスネ……」

 駄目だ、この様子だとオニはだいぶやられてるな……。ここまでオニがへこんでいるのはそうそう拝めないからあとで写真でも撮っておこう。

 

「えーと、それじゃあ次は俺ですかね……木場先輩どうぞお手柔らかにお願いします」

 木場先輩が木刀を構える一方で俺は脇差に見立てた木刀をナイフのように握った。刃渡りにして40センチを優に越す刃物をナイフと呼べないんじゃないか、とも思うがナイフのように使えればナイフなのだ。多分。

 

 木場先輩と対峙すると、まずは木刀の届く範囲に入らない位置ギリギリを保つために―――といっても所詮は素人の大雑把な目視計量でだけれど―――慎重に歩みを後ろへと運ぶ。

 もちろん木場先輩も俺が後ろへと向かうたびに体が無駄に揺れることなく一歩ずつ前へと動き、俺を必中範囲内に留めようとしてきた。

 

 そこで俺は一瞬だけ前へと向かうようにフェイントをしながら素早く後ろへと下がる。木場先輩は一瞬食いついたように見えたものの、至って冷静だった。

 

 困ったな、動揺した瞬間に素早く木場先輩の懐に飛び込んでタックルをして地べたにもつれこませて組み伏せる、または木刀を喉元に突き付けるつもりだったが、これだと次にフェイントをかけようとした瞬間に逆に脳天に木刀が来そうだ。

 

「仕掛けてこないなら、僕から行かせてもらおうかな!」

 ここで木場先輩が動き始めた。

 まずい、早く受け身を取らないと―――!

 

 しかし、ここでおかしなことが起こる。突然、物事が徐々にゆっくりになっていっていった。木場先輩の僅かな指の動きやスローモーションで俺の元へと迫りくる木刀……そのすべてがはっきりと見て取れる。

 

 ―――なんだこれ、スローモーション?

 ―――あ、これあれだ。走馬灯とか、スポーツ系アニメで主人公の見えるものがスローになって思考だけ加速してるやつだ。

 ―――じゃ、俺死ぬのか? いや、流石にない。木刀で強く打ち付けられたら死ぬけど木場先輩は手加減してくれる。

 ―――そうだ、木刀。避けないと不味いじゃん!

 

 そんな考えが俺の頭の中で一瞬にして駆け抜けていく。とにもかくにも木刀を避けようと体を動かそうとするが、思考の速さに体がついていけない。まるで感度最低値に設定したコントローラーでの操作みたいだ。

 木刀を避けるために俺はなんとか必死で体を動かし、ギリギリ避けられるようなところまで体を動かすことができた。体が思うように動かないと、とてつもなく変な気分だ。

 

 そして次の瞬間、突如として俺の見ているものが元の速さに戻った。俺は無事木場先輩の木刀を避けていたし、周りの動きも木場先輩も、そして何より俺自身も普通の状態に戻っている。

「な、な、なっ……なんだコレッ!?」

 俺は思わず大声で叫んでしまったが、当たり前だ。こんな経験人生で滅多にあるもんじゃない。

 

 俺の声に様子がおかしいと思ったのか、木場先輩は攻撃を加える手を止めて俺の様子を伺っている。その顔はいきなり大きな声を出した俺を不思議に思っているようだった。

「どうしたんだい、急に」

 そう疑問を投げかけてきた木場先輩に、俺はさっき起きた出来事への興奮を見せないように努めて平静を装いながら質問する。

「あ、あの……俺どんな避け方しました?」

「どう―――いや、正直驚いたよ。綺麗に躱していた。君のことを完全に捉えていたし、反撃されていたら僕も危なかったね」

「そうですか……」

 やっぱり、というか当たり前だがあの出来事は俺一人だけが経験したらしい。これは果たして一体全体、何がどうしてこうなったんだ?

 

 ここで俺と木場先輩のやりとりを目にしていたリアス先輩が俺達の所へとやってきた。理由はやっぱり俺のさっき叫んだことについてだろう。

「若葉君、どうしたのかしら?」

 少し迷ったが、正直にさっき起こったことについて俺は話すことにした。もしかしたらリアス先輩なら何か知っているかもしれないしな。

「そのですね……」

 

 

                        ※

 

 

「―――なるほど。突然スローモーションがかかったように目の前の光景が変わった、ということね」

 俺からの話を聞き終えたリアス先輩はうんうんと頷きながら顎に手を当てて何か考えている。流石にこんなことはいくらリアス先輩でもそうそう見当がつくものではないのだろう。

 

「んんん……そうね。卓越した精神力を蓄えた結果、全神経を集中させると全てがゆっくりと動いているように見える―――なんていう話を聞いたことがあるわ。もちろん私は聞いただけだから、それが本当かどうかわからないのだけれど……」

 リアス先輩は難しい顔をしながらそう答えてくれた。

 

 なるほど、卓越した精神力を蓄えるとああなるのか。心当たり? もちろんある、滝当たりをしながらのあの修行だ。あの後姫島先輩から聞いた話だが、俺はあの滝に3時間は打たれていたというから信じられない。体感じゃ5分あったら良い方だ。3時間もあそこで座っていたと考えるだけで目がかゆくなる。

 

「ともかく……貴方の才能が一つ開花したこと、これは喜ばしいことだわ。今後はこの能力を最大限に生かせるように特訓をして頂戴」

「了解っす」

 そうは言われてみたものの……何をどうすれば俺のこの力を伸ばすことができるんだろうか? 滝に打たれるだけでいいならそれに越したことはないけれど……あれは体力を非常に消耗する上に時間も大きくかかる。これだけに特訓の時間を割いていたら他の事がまったくできなくなるぞ。

 

 うーん、と俺が唸っていると姫島先輩がにっこりと笑った。

「私にいい考えがありますわ」

 

 

 

 

                        ※

 

 

 

 パコーン! と軽快な音が鳴り響く。テニスの時に聞こえる小気味いい音だ。俺は走ることは得意だがテニスはあまり得意じゃない。だが、幸か不幸か……いや、この場合は絶対不幸だわ。俺はテニスをしていない。俺がしているのは……

 

「うふふ、若葉君。まだまだ球はありますよ」

 そう言いながら姫島先輩は一切の加減が見られない強さのサーブを丸腰の俺に向けて放つ。あり得ないスピードのテニスボールを俺は必死にかわしながらも姫島先輩は次々とサーブを打ってくる。

 何が凄いってこのテニスボール硬式なんだよ……当たり所悪かったら死ぬんじゃないか?

 

「せ、先輩もう少し手加減してくれませんかね……?」

 俺が必死に避けながら姫島先輩に懇願してもみるものの、姫島先輩はニコニコと笑いながら

「頑張ってくださいね、終わったらご褒美をあげますわ。うふふ」

 これしか言わないからどうしようもない。ご褒美以前に俺が死ぬかもしれんのですよ先輩……?

 

「う、うう……なんだってこんな……」

 俺がそうぼやいていると突如として目の前に二つのテニスボールが飛んできた。危ねえっ!?

 ギリギリのところでかわした所で前を見ると、なんと姫島先輩に次いでリアス先輩までノリノリでテニスラケットを持ってるよ! 俺を本気で殺す気なのか!?

 

 唖然とした表情で俺が見ていると、リアス先輩と目が合った。ニコッと笑っている。いやいや、違う。俺が求めてるのはそういうリアクションじゃなくてなんでリアス先輩も参加してるのかという理由が―――あぶねえっ!

 

 またしても姫島先輩とリアス先輩の球が飛んできた。しかも今度はバウンドしている球とノーバウンドで真っ直ぐこっちに向かってきているのの二つだ。

「若葉君、私最近運動不足気味なの。だから少し手伝ってもらえるかしら? そうすれば若葉君もおしゃべりできる余裕を特訓の方に回せるでしょう?」

 う、うう……なんてこった、イッセー先輩が言ってた通り鬼じゃないか……先輩達の鬼! 悪魔! 人でなし! ……いや実際そうなんだけどさ。

 

「ケースケさん、頑張ってください」

 イッセー先輩との訓練が済んだのか休憩中の小猫さんが木陰でアイスキャンデーを食べながらそう言ってくれた。いやあ、嬉しいなあ……小猫さんだけが今の俺の心の頼りだ。

 

「よそ見している暇はないわよ? さあ、私の球を受けてみなさい!」

「ウッス―――いや受けたら死にますから!」

 テニスボールがリアス先輩や姫島先輩のラケットから打ち出される音はほぼ日が暮れるまで続いた。

 




どうもお久しぶりです。
去年はどうも忙しかったので殆ど手を付けられず仕舞いでありましたが今年こそはと思っています。

さて、次回あたりから何とか頑張ってライザー達とぶつかり合う所まで持っていきたいと思っています。頑張れ私。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。