西暦2071年。
地球は、ありとあらゆるものを捕喰する細胞「オラクル細胞」から形成される怪物「アラガミ」によって荒廃し、人類は滅亡の危機に瀕していた。
残された人類の唯一の対抗手段は、生化学企業「フェンリル」によって開発された生体武器「神機」とそれを操る「ゴッドイーター」だけだった。
こんな感じで記憶にある世界観と今自分がいる環境は対して差がなかった。
あの博士と支部長との話の後はゆっくりと休ませてもらって、体調も幾ばくか回復した翌日からから訓練が始まった。
午前中は座学でこの世界の事やアラガミ、神機について話を聞いて、午後は体力づくりのトレーニングのノルマをこなす。
そんな日が一週間ほど続いて、いつの様に午前に座学を受けて、さて午後もトレーニングだと思ったら、雨宮教官に呼び出され、付いてくるとデカい部屋に着いた。
〈それではこれより戦闘訓練を開始する。小鳥遊構えろ〉
設置されているスピーカーから聞こえてくる教官・雨宮ツバキの声に頷いて、手に持っている練習様の神機を構える。
今俺がいるのは極東支部内にある訓練室だ。訓練室と言っても部屋の両隅に段差があるだけの無機質な金属丸出しの殺風景な巨大な部屋だ。
〈よし、それでは開始だ〉
雨宮教官の声と同時に部屋の反対側に何か銀色の物が現れた。それはまるで生きているようにキョロキョロと周りを見回している。
〈あれはフェンリルの技術で作られた訓練用のダミーアラガミだ。お前は持っている訓練用の神機で戦ってもらう。ダミーアラガミは実際にいるアラガミ・オウガテイルをもとにしているから、気を付けて戦うと同時に奴の攻撃方法も学んでおけ〉
教官の言葉が終わると同時にオウガテイルが此方に向かってくる。
「……っと」
突進してくるオウガテイルの横をすり抜けながら横っ腹に神器を叩きつける。鈍い音がしてオウガテイルが吹っ飛ぶと同時に自分の身体も衝撃で横によろめく。
〈言ってはいなかったが、その練習用の神機は刃を潰している。それで今の様な斬り抜けは出来ないから、注意しておけ〉
上から教官の声が飛んでくるが、なぜそんな事をしたのかと聞きたい。
実際に斬れるようにしておかなくては意味ないだろうが。と怒鳴りたいが、吹っ飛ばしたオウガテイルが起き上がって向かってきているので口を閉じる。
「……斬れないなら、ぶん殴ってやる」
向かってくるオウガテイルをギリギリまで引き付けて、その横っ面をバットを振うみたいに神器をフルスイングして殴る。
今度は横に吹っ飛んでいくオウガテイルを追って行って、奴が地面に落ちた瞬間に神器で何度も叩く。
途中でオウガテイルが起き上がろうとしてくるが、頭を殴ってもう一度寝かせて攻撃を続行する。
「オラァッ!」
声を出して思い切り神器を叩きつけるとオウガテイルが粒子となって消えた。これで倒したことになるのだろうか。
〈……以上で訓練を終了するが、小鳥遊戦い方が直線的すぎる。今は一体だけだからいいが、これが複数を相手にする状況では視野が狭すぎる。もっと考えて動くように〉
教官の言葉が終わると、背後にあった部屋の扉が開いた。どうやら今回の訓練はこれで終了みたいだ。
〈一度、医務室でバイタルのチェックを行った後にもう一度集合するように、以上〉
◇
「おーい、ヒダリ調子はどうだ?」
医務室でのメディカルチェックが特に問題なく終了して、もう一度訓練室に戻るためにエレベーターを待っていると後ろから声を掛けられた。
「…コウタか、調子って言われてもな。今日から神機の練習が始まったくらいだ。そっちはどうなんだ?」
「俺?昨日から神機使って訓練してる」
並んでエレベーターを待っていると、待っていたエレベーターが来たので二人で乗り込む。
「でも、俺の方が進んでいるなんて意外だったな」
コウタがそんな事を言ってきた。
「そんなに意外か?」
「ああ、だってヒダリは新型だろ。俺よりも早く進んでると思ってた」
「初日に休んでいるからな。半日分コウタの方が早いんさ」
「そうなのか」
「まあな、それに実地に出るのもコウタよりは遅いと思うぞ」
「え、なんで言い切れるんだ?」
不思議そうに見てくるコウタに種明かしをする。
「コウタは銃形態の訓練だけだろ。俺は両方やらないといけないからコウタの倍時間がかかるのさ」
「そっか、ヒダリは新型だしな」
チンと音がしてエレベーターが止まり、ドアが開く。
「じゃあ俺、こっちの部屋だから」
「おう、頑張れよヒダリ」
互いに挨拶をしてそれぞれの部屋に入る。
◇
今日コウタが初めての実戦らしい。朝訓練に向かう時に偶然ホールで会って話をしたところそんな事を言っていた。
嬉しそうに話していたが手が少し震えていたので「無理すんなよ」と言ったら、笑いながら「サンキュー」と言われた。
そんなコウタと別れておれは何時もの様に訓練室に入る。
三日前から銃形態の訓練に入ったので、今日も引き続き銃の訓練だ。昨日までで二体のオウガテイルとの戦闘なら難なくクリアできたので、今日あたり新しい段階に入るだろう。
〈準備はいいか小鳥遊〉
毎度の様に雨宮教官から声がかかる。それに頷き神機を構えるとコンゴウのダミーアラガミが出てきた。
オウガテイルは卒業で新しいアラガミに入った訳で予想が当たった。
〈昨日でオウガテイルは終了だ。一度剣形態で戦ったことはあるが、今回は剣と銃の違いを確認しながら戦え〉
コンゴウは一度剣で戦ったことがある。確か剣の時は切断に弱い尻尾から攻めていったが、今回はどうやって攻めていこう。
「……っと」
接近してきたコンゴウが空気砲みたいなのを撃ってきたので横にずれて回避。
確かコンゴウは雷に弱いはずだったから、それで取りあえず一発撃ってみよう。
コンゴウにロックされないように周りを走りながら雷のバレットを装填して、タイミングが決まった所で顔面に向かって撃つ。
「――――ッ!!」
何だか聞き取れないような声を上げて、コンゴウの顔が割れた。弱点属性でしかも破砕攻撃はやっぱりきく様だ。
しかし、面は割ったがコンゴウの戦闘意欲は対して削れなかったようで、すぐさまこっちに向かって突進を再開してきた。
何とか突進を止められないかと続けてブラストを撃つが止まる気配は無し。
「……あれ?」
何発か撃った所で引き金を引いても発射しなくなる。
もう弾切れかよと舌打ちをしながら突進を回避するべく横に転がる。
瞬間自分がいたところをコンゴウの突進を通り抜ける。ギリギリだった。たとえダミーのアラガミでも攻撃を食らえばそれなりに痛い。
〈何をやっている。ブラストのオラクル消費は激しいと座学でも言ったはずだ。そしてそれを意識して戦えとも言ったはずだぞ〉
上から教官のお叱りが飛んでくるが一々それに反応している余裕はない。
えぇっと、銃形態でのオラクルの回復は剣形態の様にアラガミ攻撃して回復するわけじゃないから、薬使った方が早いんだったな。
再度突進してきたコンゴウを躱して距離を取る。
ここでオラクル回復剤を飲めばいいのだろうけど、生憎訓練にそんなものは持ち込んでいない。それなら時間まで回避に専念するしかないか。
〈そこまでだ〉
覚悟を決めて行こうと思ったら、丁度のタイミングでコンゴウが消えて訓練室のドアが開く。
〈今日の訓練はこれで終了だ。銃形態の扱いの難点は理解できたか。お前は剣と銃の両方を使うことが出来るから、オラクルの回復も早いはずだ。その事を頭に入れておくように。次からは変形の速度を意識するために、自分の神機を使用しての訓練となる。実践に入る前に自分の神機を使っての戦闘の感覚を掴んでおけ〉
訓練が終了という事で教官の言葉に敬礼をして、部屋を出る。
腹も減ったし食堂に行こう。願わくば晩飯のメニューがあの巨大なトウモロコシでないことを祈ろう。