「おう、お前さんが小鳥遊左だな?」
一通りの訓過程を先日終了したので、ついに今日から実践という事になり、エントランスでこれから自分と一緒に出撃する先輩を待っていると横から声を掛けられた。
声の方を見れば二十代半ばくらいの男性が此方を見ていた。
「そうですけど……えぇっと」
「あぁ、俺の名前は雨宮リンドウ。形式上お前の上官だ」
「雨宮って」
「察しの通りお前の訓練をした雨宮教官は俺の姉上だ。そんで、今日は俺がお前に同行する」
目の前の人が自分の上官だと分かり、慌てて椅子から立って敬礼しようとするが、目の前の人は面倒臭そうに手を振った。
「あーそう畏まらなくてもいい。規則やら色々と面倒臭い事があるんだが、そこら辺は省略する」
「……いいんですか」
リンドウの言葉に思わず口が開いてしまうが、リンドウは肩を竦めただけだった。そんな中リンドウの背後の階段から一人女性が下りてきた。
「あ、もしかして新しい子?」
「あー今厳しい規律を教え込んでいる最中だから、あっち行ってなさいサクヤ君」
「(厳しい規律?)」
手を払うリンドウとそれを可笑しそうに笑うサクヤと呼ばれた女性。女性を見れば短い黒髪に整ったスタイルと早い話が美人だった。
「了解しました。上官殿。それじゃあまたね、新人君」
そう言っておどけた様に敬礼をしてサクヤは去って行った。
「さて俺らも行くぞ。新入り」
リンドウに声を掛けられ慌てて席を立つ。忘れかけていたが、これから実践なのだ。気を引き締めていかなくてはいけない。
ボリボリと頭を掻きながらゲートに向かうリンドウの後に続いて初めての任務の場所『贖罪の街』に向かう。
◇
贖罪の街に着いた俺達は街が良く見える高台で準備をしていた。
「おースマン。待たせたな」
街についてすぐに極東支部と連絡を取っていたリンドウがやってくる。肩に担いだ神機は血に染まったみたいに真っ赤で思わず見とれてしまった。
「ん、俺の神機がどうかしたか?」
「いや、なんだかカッコいいなって……」
「ハハ、そうか。神機を褒められて悪い気はしないな。そういうお前さんのは確か試作機だったか?」
「そうです」
「なら、これからデータがどうとか大変そうだ」
「データ?」
「そりゃそうさ。試作機なんだから色々とデータが必要なんだろうよ。悪けりゃ任務で制限つけて戦わないといけなくなるかもな」
「……笑えない事言わないで下さいよ」
「スマンな。もしもの場合って奴さ」
リンドウは肩を竦めながら笑う。この人を見ていると実戦前だとは思えない。
「さて、それじゃあ始るとするか」
そう言って今まで吸っていたタバコを足で揉み消して此方を向く。その表情と声は先ほどまでとは打って変わって真剣なものになっていた。
「命令は三つだ」
思わず緊張で固まっていると指で数を作りながらリンドウは続ける。
「死ぬな。死にそうになったら逃げろ。そんで隠れろ」
リンドウの言う事を頭に叩き込む。
「運が良ければ不意を衝いてぶっ殺せ」
「…………四つじゃないですか」
思わずそう言ってしまうと、リンドウは「まあ、細かいことは気にすんな」と言って笑う。
「ま、生きてりゃ万事。どうにかなるもんだ」
そう言ってリンドウは下ろしていた神機を担ぎ直して歩き始める。
「新入り、今回討伐するアラガミ分かってるか?」
「オウガテイルですよね」
「そうだ。まぁ詳しい形とかは訓練の時に知ってるだろうから、俺から言う事は特にないな。とにかくさっき言った事を守ってくれりゃそれでいい」
「了解です」
「取りあえず最初はお前さん一人でやってみろ。何かあったら俺がフォローする」
◇
「……見えるか新入り、アレが今日お前が討伐する相手だ」
しばらく辺りを警戒しつつ進んでいると、不意に前を歩いていたリンドウが止まって物陰に隠れながら指をさした。
指さす方には建物の隅で何かをかじっているオウガテイルの姿があった。
「さっきも言ったが、俺は基本手を出さない。お前一人でやってみろ」
そう言ってリンドウはタバコをふかしながら一歩下がった。神機の構えも解いて完全に参かしない姿だ。
「それじゃあ、やってきます」
「おう、気ぃつけてな」
リンドウにそう言ってオウガテイルに向かって走り出す。
向こうはまだ距離があるから此方に気付いていない。
走りながら神機を銃形態に変形させてオラクルが切れるまで撃つ。全弾撃ったが仕留めきれなかった様で、オウガテイルは攻撃をした此方に向かって吠えながら突進してくる。
さすがにあの突進をモロに食らうわけにはいかないので、ギリギリで避けながら神機を剣形態にして後ろから斬り付ける。
断末魔の声を上げながらオウガテイルが地面に倒れる。念の為にしばらく警戒を解かなかったが、完全に息絶えたのを確認して構えを解く。
「おー新入り、何と言うかワイルドと言うか、危なっかしい戦い方だな」
振り返ると、タバコを吸いながら歩いてくるリンドウが見えた。
「ビビッて尻込みしちまうよりはいいが、突っ込みすぎて周りが見えなくならないように気をつけろよ」
肩を叩かれながら言われるが、それほどまでに自分の戦いは危なっかしいものだったのだろうか。
「普通新人はあんな風にいきなり突っ込みながら撃ったりはしないもんさ」
「……でもそれは新型じゃないからなんじゃ」
「うーん、そう言われればそういう風な気もしないではないが、あんなに突っ込まれたら俺たちのフォローが遅れる可能性があるからな。そういう点でももっと周りを見ろって事さ」
次気を付けてくれりゃいいさと笑いながらリンドウは言うが、恐らく内心は危なっかしい奴が来たもんだとか思っているのだろう。
次からはそういう風に思われないようにしなくては。そういう風に思われたまま一緒に行動するのは面倒だし、こっちも疲れる。
「……おっとスマンな、通信だ」
突然の電子音で思考が遮られる。出所はリンドウの胸ポケットの携帯端末からだ。それを取って通話しているリンドウを横目に、自分の神機を見る。
自分の神機は先日開発部の人間に聞いたが、やはり名前はクロガネだった。一応試作段階である為に名前の前に試作という呼称が付くらしいが、実際に自分が使う時や技術畑の人と会話する際は面倒臭いので施策はつけないで呼んでいる。
「……さて、今日の訓練はこれで仕舞いだ。俺はこの後用があるからお前は先に帰れ。何、心配するな。最初に着いた場所までは一緒に行ってやる。俺がいない帰り道で死なれたら困るからな」
笑いながら冗談みたいに言っているが、おそらくリンドウの本心なのだろう。それに頷いて歩みを進める。
「そう言えば、この後の用事って何なんですか?」
「あーっとな……まぁ、デートって奴さ。お前を連れて行っちゃ向こうに失礼だろうよ」
リンドウの言う「デート」は原作の通りであれば支部長からの任務だろう。この時にもあったかはもう覚えていないが、「デート」自体不規則なものだし、あっても可笑しくはないだろう。
確かに俺が行っても行けるものではないが、ちょっと皮肉ってやることにする。
「こんな所でデートのお誘いなんて、相手は随分とワイルドな方なんですね」
「…………まぁな、確かにとんだワイルドな相手さ」
何とも言えないような表情で答えるリンドウはちょっと面白い。
話していたら丁度最初の地点に到着した。見上げれば帰還の為のヘリも来ていた。
「じゃあ、帰ったら姉上殿に報告しろよ」
「姉上?」
「おいおい、来る前に話しただろうが」
「あぁ、そっか」
「そっかって、お前……」
呆れた様に頭を掻くリンドウをおいてヘリが離陸する。ヘリが機首の向きを変えて移動するまで、リンドウはこっちを見ていた。
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