キキョウの写輪眼を見た白夜叉は、強力な幻術にかかってしまったが、ギフトゲームが終わってすぐキキョウ本人が幻術を解いた。
「どれどれ.....ふむふむ...,うむ、四人ともに素養が高いのは分かる。しかしこれではなんとも言えんな。おんしらは自分のギフトをどの程度に把握している?」
「企業秘密」
「右に同じ」
「以下同文」
「……」
「うおおおおい?いやまあ、仮にも対戦相手だったものにギフトを教えるのが怖いのは分かるが、それじゃ話が進まんだろうに。」
「別に鑑定なんていらねえよ。人に値札張られるのは趣味じゃない」
ハッキリと拒絶するような声音の十六夜と同意するように頷く飛鳥と耀。
「ふむ、何にせよ“主催者”として、星霊の端くれとして、試練をクリアしたおんしらには“恩恵”を与えねばならん。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前祝いとしては丁度良かろう」
そう言い、パンパンと柏手を打つ。その音と共に四人の目前に光輝くカードが現れた。
そこに記述されていたのは、己のギフトを表すネームであった。
コバルトブルーのカードに、
逆廻十六夜
ギフトネーム“
ワインレッドのカードに、
久遠飛鳥
ギフトネーム“
パールエメラルドのカードに、
春日部耀
ギフトネーム“
ダークイエローのカードに、
うちはキキョウ
ギフトネーム“写輪眼”“万華鏡写輪眼”“輪廻眼”“***”
突如として出現したカードに黒ウサギは興奮したような顔でそのカードを注視した。
「ギフトカード!」
「お中元?」
「お歳暮?」
「お年玉?」
「ち、違います! というか何で皆さんそんなに息が合っているのですか!? 」
そのギフトカードという単語に身も蓋もない返事をする問題児達。息も合っている彼等には問題児として何かしら通じるものがあるのだろう。
そんな中、キキョウはカードを見ずに懐にしまった。
ギフトカードを見つめている四人。そこで十六夜がニヤリと不敵な笑みを零しながら呟いた。
「成る程な。じゃあ俺のはレアケースなわけだ?」
「何?」
その言葉に白夜叉が十六夜のギフトカードを覗き込み、驚愕する。そこにあったのは十六夜のギフトネーム“正体不明”。白夜叉は十六夜のギフトネームを見つめ呟く。
「……いや、そんな馬鹿な。“正体不明”だと……? いいやありえん、全知である“ラプラスの紙片”がエラーを起こすなど」
「ま、何にせよ鑑定は出来なかったって事だ。俺的にはこの方がありがたいさ」
ヤハハ、と笑う十六夜。その様子を怪訝な瞳で白夜叉が睨む。全知ほどの存在がエラーを起こす事は想定外だったのだ。
「なあ、キキョウ。お前のギフトカード見してくれねえか?」
先ほどの戦いを見て気になったのか、頼む十六夜。
「……ほらよ」
キキョウのギフトカードは十六夜だけではなく、全員が覗き込む。
「…やはりおんしの眼、ギフトだったのか。それよりなぜ三つも眼のギフトが?」
「……仕方ない。少しだけ教えてやろう、この眼の事を」
あまり瞳力が戻ってなく、キキョウの右目は数秒の間しか変化しなかった。
「今のが写輪眼だ。この眼を見ることは一瞬でもお勧めしないぞ」
紅い眼から元の黒い眼に戻る。
「それが……じゃあ万華鏡写輪眼ってのは?」
キキョウの眼に興味を持ったのか、誰よりも積極的に聞いてくる十六夜。
「ふぅ…此処に来る以前にとある奴と戦ってな、俺の眼は殆ど見えてないんだ。だから万華鏡写輪眼は見せられん。お楽しみにとっておけ」
(…殆ど見えておらん状態であそこまでの動きとは……何という男じゃ)
「へぇ…じゃあ最後だ。輪廻眼ってぇのは?」
「それは実際に見せた方が早いだろう」
キキョウはゆっくりと前髪を持ち上げる。
「これは俺の居た世界で三大瞳術と呼ばれた、特殊な眼球の1つだ。他には写輪眼、白眼と確認されている。その中でも輪廻眼は、最も崇高にして最強の瞳術とされ写輪眼が最終的に辿り着く究極系と言われている」
それは薄い紫色の波紋が眼に浮かび上がっていた。
「此れの本来の開眼方法を俺は満たしていたが、それを知ったのはこの眼を地獄で六道に貰ってからだった」
前髪を下ろし、ギフトカードを取り返してまた仕舞う。
「もうそろそろいいだろう。これ以上は教えられんぞ」
「まあ、魔王がどういうものかはコミュニティに帰れば分かるだろ。それでも魔王と戦う事を望むというなら止めんが……そこの小娘二人。おんしらは確実に死ぬぞ」
東区画の階層支配者にして最強格の魔王であった白夜叉の忠告。二人は一瞬言い返そうとしたが、彼女の忠告は物を言わさぬ威圧感が込められていた。故に言い返す事など出来なかった。
「魔王の前に様々なギフトゲームに挑んで力を付けろ。十六夜の小僧は不安要素があるが及第点は超えている。キキョウも現時点で十分の力はある。しかし、小娘二人の力は魔王のゲームを生き残れん。嵐に巻き込まれた虫が無様に弄ばれて死ぬ様は、いつ見ても悲しいものだからの」
「……そう、ご忠告ありがと。肝に銘じておくわ。でも次は貴女の本気のゲームに挑みに行くから、覚悟しておきなさい」
「ふふ、望むところだの」
ノーネーム一行は本拠へと戻って行った。それを白夜叉は後ろから眺めていた。
「はてさて…今のノーネームの本拠を見て、あやつらはどう思うかの?」
********
白夜叉の店を後にして本拠地に向かうノーネーム一行。
「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館は入口からさらに歩かねばならないのでご容赦ください。この近辺はまだ戦いの名残がありますので·····」
「戦いの名残?噂の魔王様との戦いか?」
「は、はい」
「ちょうどいいわ。箱庭最悪の天災が残した傷痕、見せてもらおうかしら」
黒ウサギは躊躇いつつ門を開けた。
彼等を待ち受けていた光景は、想像を遥かに絶するものだった。
「っ、これは……!?」
「……おい、黒ウサギ。魔王とのギフトゲームがあったのはーーー今から何百年前の話だ?」
「……僅か三年前でございます」
「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。この風化しきった街並みが三年前だと?」
――そこは人が住んでいたとは思えないほどの、廃墟だった。
十六夜の言う通り"ノーネーム"の街並みは何百年の時間が経過して風化し滅んだように崩れ去っている。
三年前まで人が住んでいたと言われても、とても信じられない。
「………断言するぜ。どんな力がぶつかってもこんな壊れ方はあり得ない。この木造の崩れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えない」
十六夜はあり得ないと言いながらも目の前の廃墟に心地よい冷や汗を流している。
飛鳥と耀も廃屋を見て複雑そうに感想を述べる。
「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」
「………生き物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」
二人の感想は十六夜の言葉よりもはるかに重みを感じる。黒ウサギは廃屋から目を逸らしながら朽ちた街路を進みだす。
「………魔王とのゲームはそれほどの未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊ぶ心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間達もみんな心を折られ………コミュニティから、箱庭から去って行きました」
黒ウサギは感情を押し殺した瞳で風化した街を進んでいく。
飛鳥や耀も複雑な表情でその後に続いていき、その中で十六夜だけは瞳を輝かせ不敵に笑っていた。
「魔王……か。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねえか………!」
そんな中、キキョウは残念に思っていた。
(この程度か…つまらん)
彼らが歩いていると、直に廃墟を抜け徐々に外観が整った空き家が立ち並ぶ場所に出た。
6人は水樹を設置するため貯水池を目指しているとすでに先客が集まっていた。
「あ、みなさん!水路と貯水池の準備は整ってます!」
「ご苦労さまですジン坊っちゃん♪皆も掃除を手伝っていましたか?」
黒ウサギが子供達に近寄っていくとワイワイと騒ぎ出して黒ウサギの元に群がっていった。
「黒ウサのねーちゃんお帰り!」
「眠たいけどお掃除手伝ったよー」
「ねえねえ、新しい人達って誰!?」
「強いの!?カッコいい!?」
「YES!とても強くて可愛い人達ですよ!皆に紹介するから一列に並んでくださいね」
パチン、と黒ウサギが指を鳴らすと、さっきまで黒ウサギに群がっていた子供達は綺麗に一列で並びだした。
人数は20人程で、中には猫耳や狐耳の少年少女もいた。
(マジでガキばっかだな。半分は人間以外のガキか?)
(じ、実際目の当たりにすると想像以上に多いわ。これで六分の一ですって?)
(……私、子供嫌いなのに大丈夫かなぁ)
(………)
「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、うちはキキョウさんです。皆も知っている通り、コミュニティを支えるのは力のあるギフトプレイヤー達です。ギフトゲームに参加できない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼らの為に身を粉にして尽くさねばなりません」
「あら、別にそんなの必要ないわよ?もっとフランクにしてくれても」
「駄目です。それでは組織は成り立ちません」
飛鳥の申し出を、黒ウサギが今までで一番厳しい声音でピシャリと切り捨てる。
「コミュニティはプレイヤー達がギフトゲームに参加し、彼らのもたらす恩恵で初めて生活が成り立つのでございます。これは箱庭の世界で生きていく以上、避ける事が出来ない掟。子供のうちから甘やかせばこの子供達の将来の為になりません」
「………そう」
黒ウサギが子供を甘やかす父親を叱る母親のような気迫で、飛鳥を納得させる。
三年間、実質コミュニティを支えてきたのは黒ウサギだ。だから彼女はコミュニティを存続させていく上で大切なことをきちんと知ってるのだろう。
流石は黒ウサギと言ったところだろう。伊達に"箱庭の貴族"を名乗ってはいない。
「此処にいるのは子供達の年長組です。ゲームには出られないものの、見ての通り獣のギフトを持っている子もおりますから何か用事を言いつける時はこの子達を使ってくださいな。みんなも、それでいいですね?」
『よろしくお願いします!』
20人程の子供達が一斉に大声で叫ぶ。
「ハハ、元気がいいじゃねえか」
「………」
「そ、そうね」
(……本当にやってけるかな、私)
その大声に十六夜は笑顔で応え、飛鳥と耀は複雑そうな表情を浮かべていた。そして相変わらずキキョウは無口だった。
「さて!自己紹介も終わりましたし、それでは水樹を植えましょう!黒ウサギが台座に根を張らせるので、十六夜さんのギフトカードから出してくれますか?」
「あいよ」
十六夜がポケットからギフトカードを取り出し水樹の苗を発現させ、黒ウサギがその水樹の苗を受け取ると大事に抱えた。
それにしても水路はこんな状況でも所々ひび割れが目立っているものの、キチンと形を保っていた。
「大きい貯水池だね。ちょっとした湖ぐらいあるよ」
『そやな。門を通ってからあっちこっち水路があったけど、もしあれに全部水が通ったら壮観やろうなあ。けど使ってたのは随分前になるんちゃうか?ウサ耳の姉ちゃん』
「はいな、最後に使ったのは三年前ですよ三毛猫さん。元々は龍の瞳を水珠に加工したギフトが貯水池の台座に設置してあったのですが、それも魔王に取り上げられてしまいました」
「龍の瞳?何それカッコいい超欲しい。何処に行けば手に入る?」
「さて、何処でしょう。知っていても十六夜さんには教えません」
十六夜が瞳を輝かせ黒ウサギに問いかけるが、彼女は適当にはぐらかす。
十六夜にそんな面白いことを教えた瞬間、彼は絶対に龍がいる場所に向かうからだ。さすがの十六夜も龍を相手に無事で帰ってこれる筈がない。
そしてこれ以上、この話題を続けさせるのは不味いとわかったのだろう。
話を戻すためにジンが貯水池の詳細を説明する。
「水路も時々は整備していたのですけど、あくまで最低限です。それにこの水樹じゃまだこの貯水池と水路を全て埋めるのは不可能でしょう。ですから居住区の水路は遮断して本拠の屋敷と別館に直通している水路だけを開けます。此方は皆で川の水を汲んできたきたときに時々使っていたので問題ありません」
「あら、数kmも向こうの川から水を運ぶ方法があるの?」
飛鳥がふと訊ねた疑問を、忙しい黒ウサギに代わってジンと子供達が答えていく。
「はい。みんなと一緒にバケツを両手に持って運びました」
「半分くらいはコケて無くなっちゃうんだけどねー」
「黒ウサのねーちゃんが箱庭の外で水を汲んでいいなら、貯水池をいっぱいにしてくれるのになあ」
「………そう。大変なのね」
飛鳥はちょっとガッカリした顔をする。
もっと画期的で幻想的なものを期待していたんだろう。
しかしそんなものがあれば、水樹であんなにコミュニティの子供たちも黒ウサギも喜ぶはずなどないのだ。
それと同時に彼らの生活がどれほど厳しいものなのかを知った。
「それでは苗のひもを解きますので十六夜さんは屋敷への水門を開けてください。」
「あいよ」
十六夜が貯水池に下り、水門を開ける。
黒ウサギが苗のひもを解くと大波のような水が溢れかえり、激流になり貯水池を埋め尽くす。
水門の鍵を開けていた十六夜は驚いて叫ぶ。
「ちょ、オイ! 少しはマテやゴラァ!! 流石に今日はこれ以上濡れたくねぇぞ!」
「うわお! この子は想像以上に元気ですね♪」
「あははは! 十六夜のにーちゃんびしょ濡れだー!」
「びっしょびしょだー!」
「あははは!」
夜、女性陣は風呂に入りに行き、十六夜は侵入者を片付けに行った。
キキョウはというと――
――森で一人の少年と出会った。
さて、最後の少年とは?