それではどうぞ!!
真夜中の森は薄暗く、足元が見えずらいためか、ぬかるんでいても分かりずらい。
何故キキョウがそんな道を歩いているかというと――
(チャクラの反応がしたのはこの辺か……ん?)
偶然感知した、チャクラ反応の正体を探るためにだった。
「はあぁぁぁぁっ!」
キキョウが見たのは、紅い髪の少年が木登りをしている光景だった。
――――手を使わずに。
(あれは…チャクラコントロールの修行か。見たところまだ10くらいのガキだな)
足に一定のチャクラを纏い、手を使わずに木を上るこの修業は、無駄をなくすための修行だが正直なってない。キキョウは写輪眼を使わずとも一目見て理解した。
「くっそー!……はあぁぁぁぁっ!」
何分位経っただろうか。実際は数十分経っているかもしれないが、少年はいまだに上達しない。
「――もっとチャクラを込めろ。それじゃあ何時までたっても上達しない」
「うわっ!?あ、あんた誰だ!っていつからそこに!?」
「俺が何者かなんて、今気にすることではないだろう?さあ……もう一回やってみろ」
「は、はいっ!!」
少年は言われた通りにチャクラを込める。だが……
「まだまだチャクラを練れるだろう?」
「は、はいっ! …うおぉぉぉぉぉ!」
「込めすぎだ。それじゃあ木にはじかれる」
そうしてキキョウが教えることにより格段に効率が上がった修行は、30分ほど続いた。
「――そろそろ休憩だ。一旦休め」
「はいっ! ……そういえば、おじさんって忍者なんですか?」
「…ああ、そうだ。だがそういう小僧も忍者じゃないのか?」
隠すようなことでもないので肯定したキキョウだが、少年に問い返す。
「俺は小僧じゃないです!ちゃんと父からもらったユイって名前があります!……俺の父が忍者でした」
「そうか、俺の名はうちはキキョウだ」
「あの……おじさん! 俺の師匠になってくれませんか!」
ユイは額を地面に擦り付けるほどの土下座をした。
「……なぜだ? お前は馬鹿だが才能は十分にある。チャクラの量だってその年の頃でそれだけあれば将来的に見て何の問題もないだろう。……お前は何を焦っている?」
「――俺の妹が攫われたんだ。父ちゃんはそれを助けに行って死んだ」
「攫われただと……何故だ?」
「俺の妹、ヒナは不思議な眼を使う家系だったらしいんだ。それでヒナの眼を奪うつもりだろうって父ちゃんは言ってた」
「不思議な眼だと? まさか写輪眼か?」
「いや……確か白眼って言ってたよ」
白眼。それは写輪眼や輪廻眼と同じ三大瞳術の一つにして、写輪眼でも見切ることのできない点穴視認し、視界はほぼ全方位の透視眼。
(ということは、コイツも日向の関係者? ……いや、それは無いな。コイツには日向特有の目の薄さが無い)
「お願いします! 俺に力を!」
「良いだろう、だが……それじゃあ間に合わん」
「え?」
「そいつらの目的が白眼ならすぐに眼を抜き取り、お前の妹は殺されてしまう」
「そ、そんな……!」
頭を抱え、非嘆にくれるユイ。キキョウはそれを見下ろして言う。
「―――だが、一つだけ助かる方法がある」
「…へ?」
ユイにとってキキョウのその言葉は、暗闇の中での一筋の光のように感じ、這いずりながらもキキョウの足に縋り付く。
「その方法を! …俺に教えてください。何でもします、だから…」
「…いいだろう。では行くぞ」
キキョウはユイを横抱きにして木に飛び乗る。
「え? ええっ!?」
「道案内をしろ。さっき何でもするって言ったよな?」
********
「――此処あたりか?」
木から木へと飛び移り、ものの数分でユイの妹を攫ったであろう奴等の本拠に辿り着いたキキョウたち。
「は、はい。奴等は忍術を使うって父ちゃんが言ってました。……それで、方法ってなんなんですか?」
「決まっているだろう……乗り込むのさ」
「え……ええっ!?」
「言っておくが俺はお前の妹を知らん。お前にもついてきてもらうぞ」
(まあ日向の関係者なら一発で分かるんだが…)
「えええっ!?」
「よし、行くぞ。忍法・迷彩隠れの術」
キキョウとユイの身体が徐々に透けていき、最終的に見えなくなる。
「あまり大きな声を出すなよ?今俺たちの姿は誰にも見えていない」
忍法・迷彩隠れの術とは、チャクラの働きにより体周辺の光の反射をコントロールし、あたかもそこに存在しないかのように装う遁甲の術の一つ。
つまり特殊な眼を持たない限りは視認することすら不可能である。
奴等の拠点は大きな屋敷で、ノーネームの拠点と変わらない程大きかった。
だが生前、最強の忍と謳われたキキョウにとって、潜入など片手間にやれるようなことだった。
「見つけた。ユイ、あれじゃないか?」
屋敷の地下に一つの実験室を見つけ、台に寝かせられていた少女は眼の色は薄く、日向の関係者であることが窺えた。
「ヒナ!」
「……! 馬鹿野郎」
ユイが大きな声を出したことにより、研究者が警備兵を呼ぼうとする。しかし……
「させるか」
キキョウは瞬身の術で近づき、絞め落とす。
「気絶してるのか、ちょうどいい……さっさと引き返すぞ」
もう片方の手でヒナを横抱きにして、再度迷彩隠れの術を発動するキキョウ。
********
無事に屋敷から二人の住んでいる家まで戻ってきたキキョウたち。
「……ん、目覚めたか」
ヒナが目覚めたのは、それから半刻ほど経ってからだった。
「ヒッ……あなたは?」
先ほどまで攫われてしかも眼を取られかけていたのだから無理もないが、キキョウに対して一瞬怯えたが冷静を保ったようだ。
(あの馬鹿な兄にしてこの冷めかけた妹か…)
「もう大丈夫だ。安心しろ」
泣きそうな子供の対応に困ったキキョウは、取り敢えず優しく頭を撫で囁くように言った。
「ううっ…うえぇぇぇぇぇぇん!」
まだ幼い身で誘拐されてしまったのだ。しかも泣くことを許されない環境でだ。
随分と溜めていたらしい。涙を流し、泣きじゃくる姿はとても愛おしく、それは生前結婚をしなかったキキョウにとって、持ち合わせていなかった感情だった。
泣き疲れたのか、キキョウの膝の上で赤ん坊のように抱き継いだ状態で寝付いてしまったヒナ。その光景は父親に甘えている娘だった。
「…ヒナ?」
深夜の時間帯になってユイが目覚める。
「起きたか……お前に話がある」
「は、はい」
緊張した顔もちで正座をするユイ。
「あまり緊張するな……話っていうのはまだ確定ではないが、お前等二人についてだ。お前等、これから何かアテはあるのか?」
父親が死に、おそらくこれからも白眼という瞳術は狙われ続けるだろう。
「俺はノーネーム所属だが、俺と一緒にいれば守ってやれる。どうだ? まあ俺がリーダーと言う訳ではないからな。リーダーに聞かなくては分からん」
「お、俺は……」
「それに…お前には俺の弟子になってもらわなければならないからな」
それは、少し前に話していたことで今はもうその目的は達成されたため、必要のないことだった。
「言っただろう?俺はお前を弟子にするって」
「……なれますか?」
「………」
ずっと俯いてたユイは、急に顔をガバッと上げて言う
「俺もあなたみたいになれますか!?」
「……それは分からん。努力してもなれないものはなれないからな。しかし」
キキョウはユイの真剣な眼差しを見て告げる。
「努力しなければその可能性すら無くなると言う事だ。別に俺になろうとしなくたっていい。お前はお前だ」
――夢を現実にするか、一生夢のままで終わるのか、それは本人次第だ。
昔、キキョウ本人が師に言われたことを思い出し、そのままユイに伝える。
「…これは俺の師の言葉だ。此れを言われた時、俺には時間があった。今夜一晩やるからいろいろ考えておけ」