深淵歩きとなりて   作:深淵騎士

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第九話

 

 

夕焼けで大地を染める茜色。馬に誇り、ガゼフとその部下達は野を駆ける。相手は魔法詠唱者、遠距離戦をするのは愚の骨頂、故に懐に潜り込み食らいつく。そして敵の包囲網を此方に引き付け、村から遠ざけるのが目的だ。

 

 

「……」

 

 

ガゼフは背に携えた黒い剣を見る。アルトリウスから送られた品、特殊な力を持つ剣だというが、一体どんな能力を秘めているかは皆目見当はつかない。だが、この剣から間違いなく異質な何かを感じ取ることが出来る。

 

 

「存分に使わせてもらう……行くぞぉぉ!!奴等の腸を食い散らかしてやれぇぇ!!」

 

「「「おおおおおお!!!!」」」

 

 

咆哮に続く大気を揺るがす大声、標的はスレイン王国の特殊工作兵。開幕にガゼフは弓を手に取り、矢を番え力の限り弦を引く。ヒュンと風を切る音と共に矢は魔法詠唱者の頭部へ。だが矢は岩に当たったかのように弾かれた。強固なヘルムには見えない、恐らく魔法による防御が働いているのだろう。思わずガゼフは舌を打つ。

 

 

「!!」

 

 

魔法詠唱者がガゼフ目掛け魔法を放った。その時、馬が常体を起こし動きを止めガゼフはすぐさま馬から飛び降りる。一人の騎士がガゼフの事を呼び、手を差し伸べるが阻むように天使が迫ってくる。

 

 

「うぉおおおお!!!!」

 

 

黒の剣を抜刀し天使に切り掛かった。刀身は天使の胴に食込むと、そのまま軽く寸断した。四散した天使はキラキラと粒子となり消え、その中でガゼフは一瞬呆気に取られる、想像以上に天使は脆かった事に。いや、若しくはこの剣の切れ味なのか。柄を握った時からガゼフは気づく、この剣の能力そして自分の手の一部になったかのように馴染む事に。

 

 

「馴染む、恐ろしい程に……いける!!」

 

 

確信は強さへと変わる。そして魔法詠唱者は更に天使を召喚した。

 

 

「一体一体は大したことが無いが……数が多いな」

 

 

数の暴力、これほど脅威なものはない。部下達は包囲が縮まり次第撤退と命令しており今此処には彼一人、圧倒的に不利。だが彼の作戦は一つ成功している、この場に居る魔法詠唱者の数は五人、村を囲んでいたものの全てだ。敵の目は此方に向いており村から引き離している。

 

目的の一つは果たした。するとガゼフの耳に何かが聞こえてくる。馬が駆けてくる音、男達の咆哮とも聞き取れる声。

 

 

「あ、あいつら……」

 

 

視線の先には撤退したはずの部下達。

 

 

「包囲が縮まったら撤退……と言ったはずなのだがな、全く……」

 

 

苦笑するガゼフは

 

 

「自慢の奴らだよ、本当に!!」

 

 

ガゼフも後れを取らぬよう駆ける。思わぬ状況とはいえ天使と騎士の強さは明白、不利な事には変わりない。ならばこの戦況を変えるにはどうするか。指揮官を狙うしか方法は無い。ガゼフは獣が獲物を見つけたかのように、一番後方で一回り大きな天使を傍らに置いている男を見る。

 

 

「奴が指揮官、ならば!!」

 

 

複数の天使がガゼフの前に立ち塞がる。

 

 

「邪魔だ!!」

 

 

剣を頭上まで振り上げると刀身に風が渦巻く。

 

 

「解る、この剣の力が!!」

 

 

そして振り下ろす。その時、地面と接した剣が轟音を上げ凄まじい衝撃波を生む。大地を這い一直線に居た天使、そして魔法詠唱者が巻き込まれずたずたに引き裂かれた。

 

 

「おお……」

 

 

感嘆する、想像以上だと。想定外の出来事に魔法詠唱者と六色聖典の隊長、ニグンはたじろぐ。

 

 

「何だ……あの剣は……ちっ!総員、次の天使を召喚せよ!ストロノーフに──」

 

 

指示を出そうとしたがそれよりも早く、ガゼフはもう一波を放つ所であった。ニグンとガゼフの視線は交差する、此方に向かって先程の衝撃波を放つ心算だ。そして再び振り下ろされた剣、大地を削る衝撃の波はニグンへと。

 

 

「くそっ!!」

 

 

悪態を突きながら横っ飛びするニグン。衝撃波は少しずれ、彼の傍らに居た天使に直撃し光の粒となりて消えうせた。ニグンは目の前で起こったことに身体を震わせ

 

 

「な、なんだとぉおおおおお!!!!」

 

 

戦場に響く怒号。先程消え失せた天使は監視の権天使《プリンシパリティ・オブザベイション》。天使の中でも上位に位置する、普通の人間が相手をしてまず勝てるはずが無い。それにニグンには生まれながらの異能《タレント》というものを持っており、召喚したモンスターを強力にするといった能力を兼ね備えている。しかし、そのタレントによって召喚した上位天使がたった一撃の衝撃波で無に帰ったことに、ニグンは憤慨する。

 

 

「天使を容易く切り裂くその刀身、驚異的な威力の衝撃波!?何だその剣は!!」

 

「とある御仁より預かった剣だ、それ以上は知らん」

 

 

恐らく上位の魔法武器と推測するニグンは表情を歪めたまま

 

 

「ストロノーフを殺せ、そしてあの剣を回収しろ!」

 

 

命令により天使達はガゼフへ向かう。

 

 

「お前ら!俺の背後に回れ!!」

 

「「「了解!!」」」

 

 

殆どの天使がガゼフに来た事により、部下達は容易く後退することが出来た。眼前に天使だけが居ることを確認すると

 

 

「ふぅぅ……《六光連斬》!!」」

 

 

一振りにて六つの斬撃を打つ武技とこの剣が合わさるとどうなるか。刀身が地へと叩き下ろされると耳を覆いたくなるほど音と同時にガゼフから六方向へ広がる衝撃波が出来上がる。衝撃波に触れた天使は全て消滅し、逃げ切れなかった魔法詠唱者も蹂躙される。大地にはまるで獣の爪痕のように抉れていた。

 

 

「凄い……」

 

「圧倒的だ……」

 

「勝てる、勝てるぞ!我等が戦士長と共なら!!」

 

 

次々に希望を見出していく部下達。彼等の下には王国最強、異界の武器を手にしまさに鬼に金棒とも言える存在が居るのだから。

 

 

「ば、か、な……」

 

「ニグン隊長!我々はどうすれば!!」

 

「ご指示を!!」

 

 

残されたのは二人の魔法詠唱者だけ、形成は此方が不利になりだした。たった一つの武器で追い詰められた事に歯を食いしばりニグンは決断する。

 

 

「うろたえるな!……奴は正しく竜の如き強さだ……ならば!!」

 

 

懐より取り出したのはクリスタル。

 

 

「認めよう、ガゼフ・ストロノーフ。貴様は確かに強い!そしてその武器によって更に力が向上している!だが、此方にも切り札はある……」

 

 

クリスタルは徐々に輝きを増していく。

 

 

「また天使を召喚するわけではないだろうな!」

 

 

ガゼフの言葉がさも可笑しいような、ニグンはせせら笑う。

 

 

「違う……見せてやろう、遥か昔法国の人間より恐れられていた凶悪なドラゴンを滅す事が出来た、最強の騎士の姿を!!」

 

 

天へと掲げ、光り輝くクリスタル。クリスタルが割れると一箇所に黒い光が集まる。それは形を作っていくと2メートルは軽く越す人型へと変貌すると光は晴れ、姿が露になっていく。

 

元々は違う色であっただろう黒く錆びた様な色の鎧、手に持つは十字槍。獅子を模した兜は荒々しくも美しさをも感じる。ニグンは手を広げ

 

 

「見よ!これが最強の槍騎士……古《いにしえ》の竜狩りだ!!」

 

 

古の竜狩りと呼ばれた騎士はゆっくりと腰を落とすと……

 

 

「え?」

 

 

ガゼフの部下達の前に来ていた。

 

 

「思い知れ、竜を屠る者の力を」

 

 





この世界に来たことによって飛竜の剣さんがアップを始めました。

私執筆中は基本的にBGMを聞いてるのですが、何時もアルトリウス戦とダクソ2の虚ろの巨兵戦とブラボのガスコイン戦のBGMを何回も聞いております。あの曲達は素晴らしい…


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