深淵歩きとなりて   作:深淵騎士

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第十話

「手始めだ、ゴミを掃除しろ」

 

 

ニグンの言葉に竜狩りは動き出す。複数人いる真ん中で長大な槍を薙ぎ払うと範囲に居た部下達は全て

 

 

「なっ」

 

「ぎゃっ」

 

 

短い悲鳴と共にある者は胴が、ある者は首が寸断される。一人の部下が竜狩りに切り掛かろうとするが

 

 

「っ!?消え──」

 

 

既にそこには居ない竜狩り、部下の死角へと移動し胴を貫く。葬った相手から穂先を引き抜き次なる標的を決める。

 

 

「やめろぉおお!!」

 

 

飛び掛るようにガゼフは肉薄し、竜狩りは振られた剣を銅金で受け止める。押し切ろうと力を込めるがビクともしない。槍を押し上げ、ガゼフは仰け反ると竜狩りの蹴りが腹へと当たり吹き飛ぶ。

 

 

「戦士長!ぐっ」

 

 

彼を呼ぶ部下は穂先で頭部を切り払らわれ、血と脳髄を撒き散らかす。すると体勢を低くし左手を地面に添えた。まるで跳ねたバネのように前に跳躍、凄まじい速さで部下との間を通り抜けた。

 

何が起こったか解らない、ただあの騎士が凄い勢いで移動して気づけば後ろに居た。部下達は竜狩りの姿を捉えようと振り向くが視界が急に傾く。何故自分の腰が目の前にあるのだろう、疑問に思ったときには全てが真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

「あの騎士は……」

 

 

村の小さな小屋の中。アインズは遠隔視の鏡を取り出し、ガゼフ達の状況を見ていた。部隊の指揮官であろう男が召喚した謎の槍騎士、アインズはその騎士に見覚えがある。ふとアルトリウスを見ると腕を組み鏡から一切視線をそらさない。そもそも遠隔視の鏡でガゼフの動向を見たいと言い出したのはアルトリウスである。

 

 

「アルさん、あの騎士ってまさか……」

 

 

彼はアルトリウスの創り出したNPCを知っている。ナザリック第六階層のアルトリウスが住居としている『最初の火の神殿』。そこは三体と一匹のNPCが主に守護をしている。そのNPCの中であの古の竜狩りと酷似した騎士が居た。揺るぐ事の無い忠義を持つ、あの金獅子の騎士。

 

 

「……」

 

「アルさん?」

 

 

ふらりとアルトリウスは動き、背に携えた深淵の大剣を左手に持った。アインズはすかさず伝言を繋げる。

 

 

『アルさん、もしかして行くんですか?』

 

『すいません……行きます』

 

 

ゆらぁっと首だけをアインズに向ける。顔に当たる部分の空洞の奥に、血の様な赤い光が一瞬だけ煌いたように見えた。

 

 

『あれは元々王に仕えていた存在のはずです。あんな外道に使われていい存在じゃない。それに、ガゼフ殿を殺させるわけにはいかない』

 

『……そうですね、あの人は俺も嫌いじゃない。寧ろ生きていて欲しいと思っているほどです。アルさん俺も行きます、バックアップはお任せを』

 

『決まりですね』

 

 

二人の会話が終えるとアルトリウスは右手に鈍い灰銀の盾を装備するとアルベドの方を向き

 

 

「そうだ、アルベド1つ頼まれてくれないか?」

 

「頼みと言わずとも命令をして頂ければ如何様にでも」

 

「ふっ……ありがとう、それでは……」

 

 

 

 

 

 

「まさかここまでとは……」

 

 

ほぼ全滅に近い、ガゼフの部下の殆どがやられ地に伏してる者ばかりだ。未だ立つのはガゼフのみ、そして敵は絶対なる強者だ。

 

 

「あらかた片付いたな」

 

 

ニグンには見える。最強と謳われた王国戦士長ガゼフの死が、我が手中にある最強の騎士の手によって迎えることになる未来が。

 

 

「さてストロノーフ、最後に言い残しておきたいことはあるか?」

 

「……何?」

 

「私に竜狩りまで出させたのだ、敬意を評して死に行く貴様に最後に遺言くらいはこの世に残させてやろうと思ってな」

 

 

ゲスの考える言葉だ、吐き気を催す。だがガゼフは薄々気づいていた、あの竜狩りに自分は勝てないのではないかと。彼の身体は、竜の尾より生まれし武器、ドラゴンウェポンの1つ『飛竜の剣』の特殊攻撃の反動を受けていた。一発衝撃波を放つ度に筋肉と骨が悲鳴を上げ、更には武技によって負担は増加している。

 

だがガゼフは不適に笑む、ここで戦うことを止めたらガゼフ・ストロノーフの名が廃る。飛竜の剣を構え

 

 

「私はガゼフ・ストロノーフ!貴様のような国を、民を脅かす者に負けるわけにはいかない!!例えこの身が朽ちようとも!!」

 

 

ガゼフは走る、竜狩りを見すらえひたすらに。間合いに入った、後は剣を振るだけ。縦に、横に、袈裟に、逆袈裟に何度も斬撃を与えようとするが単調な軌道、全てを槍に遮られ竜狩りの身体に届くことはない。体力的に武技も使えないがそれでも諦めない、ガゼフの何が此処まで突き動かすのか。

 

攻撃の手が緩んでいくと、竜狩りは合間に槍を突き出す。先端はガゼフの身体へ沈み、そこから赤い液体が伝う。

 

 

「ぐふぅっ……!まだだぁぁああ!!」

 

 

逃がさんと槍を掴み、刀身を地面に走らせる。衝撃波は明らかに威力が下がり、先程の規模はない。だがそれでも直撃し竜狩りの鎧に傷を付けた。

 

 

「があぁぁ!!」

 

 

竜狩りはガゼフの身体を槍ごと持ち上げる。重力と体重がもろにかかり、穂先は深く肉を裂き入ってくる。そのまま勢い良くガゼフの身体は放り投げられ地面に叩きつけられる。

 

 

「まだ、だぁ……」

 

 

満身創痍だろう、口から血を吹き出し息も絶えてしまいそうだがガゼフは身体に鞭をうち立ち上がる。

 

 

「人間が竜狩りに勝てるはずがない。それに貴様の努力は無駄な物だ、あんな辺境の村さえ守ろうと思わなければ少しは生き長らえたものを……貴様を殺した後にあの村の人間を全て殺してやろう、貴様が命を掛けてまで守ろうとしたあの村をな!これ以上の屈辱はあるまい!」

 

「……残念だがあの村には私よりも強い者達がいる」

 

「貴様より強い?ふん、下らんハッタリか」

 

「事実だ」

 

「……戯れ言を。竜狩りよ、その十字の槍を持って奴を仕留めろ。いいな、確実にだ」

 

 

竜狩りはニグンの命令を聞き入れる。槍を数回回し、身を屈める。先程とは違う速度での突進。ガゼフには見えなかった、その速さが。穂先が自分の胴を貫こうと直ぐそこまで来ている。不思議とその間はゆっくりに見えていた、だが身体は動かない、自分が死ぬと解っているから。

 

 

「ゴウン殿、アルトリウス殿……あとはお任せしますぞ」

 

 

 

それが最後の言葉となることだろう……

 

 

 

しかし彼はまだ意識があった。私はあの槍を受けた、なら自分は何故未だに健在している。何故か?答えは自ずと出た。

 

 

「良く奮闘なされた、ガゼフ殿」

 

 

視界に映るは灰色の鎧、群青のマント、左手には剣を右手には盾を。見る者全てを惹き付けるであろう騎士がそこにはいた。

 

 

「あ、アルトリウス殿……」

 

「やはりその剣を預けて正解であった。だがあれは人間には手が余る、私達に任せてもらおう」

 

 

ガゼフはアルトリウスの言葉を受けた後に、アインズより手渡されたマジックアイテムが発動、彼と倒れていた部下達は姿を消し、代わりに現れたのはアインズだ。盾に受けていた槍を払うと、竜狩りはアルトリウスよりも遠くに距離を置く。

 

 

「何者だ」

 

「初めまして、スレイン法国の方々。私の名はアインズウールゴウン。そして彼は私の騎士、アルトリウス」

 

 

突然現れた、異様な姿の魔法詠唱者と剣と盾を携えた騎士にニグンは舌を打ち。

 

 

「ストロノーフは何処に行った」

 

「彼は村へと転移させました」

 

 

眉間に皺を寄せアインズを鋭く睨むが、アインズは全く動じず言葉を続ける

 

 

「一つ言っておきましょう、貴方方は彼と会うことはもうない」

 

「何だと?」

 

「先程の貴様の言葉を聞いていた……貴様は私とアルトリウスが救ったあの村の人間を殺すと言った。不愉快だ、貴様にはそれ相応の苦しみを味わってもらおう」

 

 

ニグンの表情は強張る。あの魔法詠唱者は何を言っているのだろうか、不愉快なのは此方だ。ようやく追い詰めた獣を逃がされあまつさえ自分に苦しみを与えると。口角がつりあがり竜狩りへと指示を出す。

 

 

「あの不愉快な魔法詠唱者を殺れ」

 

 

竜狩りはアインズに視線を合わせ前方へ飛ぶ。彼の前に立つアルトリウスの横を通りすぎようとしたが

 

 

「誰が通っていいと言った」

 

 

右脚で竜狩りの顔を蹴り、元いた位置へと飛ばす。深淵の大剣の切っ先をニグン向け

 

 

「貴様はそこで唯命令をするだけか」

 

「ほざけ、竜狩りに一蹴り浴びせただけでもう勝ち誇った気分か?標的を変えろ、あの騎士を殺せ」

 

 

やれやれとアルトリウスは頭を振り

 

 

『あいつが来るまでの間、あれの相手、してもいいですよね』

 

『元からその心算です、任せました!』

 

『了解』

 

 

伝言が終えると既に竜狩りは彼の目前へと来ており、三連突きを繰り出してくる。アルトリウスは身体を横に向けかわす。穂先が横向きになるとそのまま振るわれ、それを屈む事で回避、足元を剣で獲ろうとするが上へと飛び失敗に。上空に居る竜狩りは槍を回すと黒いオーラを纏い出した。

 

 

「……闇か」

 

 

落下する勢いで大地に降りると着地地点から黒い波動が放たれる。右手の盾で受けやり過ごすが、波動が消えると竜狩りの姿は無い。

 

 

「甘い」

 

 

アルトリウスの背後から金属同士のぶつかる音が響いた。深淵の大剣を背中へと当て、背後からの十字槍の奇襲を防いだのだ。アルトリウスは後ろへと下がりつつ振り向くと力強く竜狩りにシールドバッシュをする。盾による打撃を受けた竜狩りは側方へとローリングし距離をとる。

 

 

「ふむ……馴染んできたな」

 

 

左手首を回し肩へと置く。ちらりとニグンを見るとさもありえないような表情をしていた。

 

 

「何なんだ貴様は、何故竜狩りと互角に戦える!」

 

「うん、そうだな……」

 

 

剣を地面へと突き刺し立てて置く。アルトリウスは自身の左手を見つめ

 

 

「私は暫くの間〝運動〟というものをしていなかった。そのせいかこの肉体なら兎も角、頭の中のほうが相当鈍ってたらしい。肉体では追いついても頭の中では追いついていないからな、逆もまた然り、それでは話にならない。だがガゼフ殿と戦い、少しづつ馴染んできた。そしてそいつと何度か打ち合って更に馴染んだ。それに……」

 

 

竜狩りを指差し

 

 

「そいつの動きは〝慣れた〟攻撃はもう届かないよ」

 

「慣れ?そんなものでこの最強の騎士、竜狩りに敵うはずが無い!!ハッタリ、そうハッタリだ!」

 

「試してみるか?なあ、竜狩り」

 

 

その言葉に反応するかのように竜狩りの鎧はガチガチと鳴り始めた。それは怒りだろうか、天を仰ぎ

 

 

「□□□□□ッッッーーー!!!!」

 

 

声にもならない声を上げ両手で槍を持ち突進する。まさに神速、常人では捉える事すら出来ない境地。土煙を巻き上げ、風を切り眼前の障害を突き殺そうとする。槍の届く範囲に来た。恐ろしいほどの力任せの突き、穂先は彼の胴に……

 

 

「遅い」

 

 

届くことは無かった。空いていた左手に見事掴まれると彼等を中心に風圧が起こる。必死に竜狩りはその手から槍を引き抜こうとするが一切動きはしない。

 

 

「言っただろう、慣れたと。お前の攻撃は私には届きはしない……さて、そろそろ来たか」

 

 

アルトリウスの後方の時空が歪み渦が出来上がる。それは転移魔法、転移門《ゲート》。そこから出てきたのはアルベドであった。掴んでいた穂先を離すと竜狩りは勢い良く後ろへと飛ぶ。

 

 

「お待たせしましたアルトリウス様、彼をお呼びしました」

 

「ありがとう、アルベド」

 

「勿体無きお言葉!では……」

 

 

一礼し転移門の前から退く。アルトリウスが転移門へと向くと彼と同等の大きさの人影がゆっくりと出てくる。頭部は獅子を、身体は太陽の如く煌きを、手には象徴である十字槍を。

 

 

「……久しぶりだな」

 

 

四騎士が一人『竜狩り』の二つ名を持つ金の騎士───

 

 

「オーンスタイン」

 

 

 




Ω<オーンスタインが召喚されました


次回で恐らく一巻までの物語が終了いたします。それまでお付き合いしていただくと幸いで御座います。

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