深淵歩きとなりて   作:深淵騎士

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第十一話

 

「このオーンスタインってどんなキャラなんですか?」

 

 

純白の鎧に身を包んだ騎士、ワールド・チャンピオンたっち・みーはアルトリウスにそう尋ねる。視線の先にあるのはアルトリウスが創造したNPCだ。

 

 

「んーそうですねぇ……仲間思いの騎士……ですかね」

 

「仲間思い?」

 

「はい、知っての通りダークソウルのキャラなのですが、スモウっていうボスと共にプレイヤーの前に立ち塞がります。その時にどちらか片方先に倒すと状況が変わるんですけど、オーンスタインを先に倒すとスモウが彼の亡骸を叩き潰して力を奪います」

 

「……結構酷い事するんですね」

 

「まあスモウは処刑に喜びを見いだす残虐な性格してるんで……それでスモウから倒すと、オーンスタインも亡骸から力を取るんですが、彼は手を優しく添えるんです。まるでスモウを大切な仲間として意識しているみたいに」

 

 

ほうとたっちは感心する声を上げる。

 

 

「私的にも好印象なキャラですね。なんというかその口振りですと、アルトリウスさんはオーンスタインの事相当気に入ってるように見えます」

 

「ええ、アルトリウスってキャラが居なかったら、オーンスタインの装備でアバター作ろうとした程ですから。だからこそ俺は──」

 

 

 

 

 

 

現れた黄金の騎士『オーンスタイン』はアルトリウスの横に並び立つ。

 

 

「お前が呼んでいるとアルベドから聞いて耳を疑った。戻って来たならばナザリックに顔ぐらいは出せ」

 

「すまない、事情があって行けなかった」

 

「……まあいい、お前が戻ってきた、その事実で十分だ。それで……私を呼んだ理由はあれか?」

 

 

オーンスタインは十字槍をぐるんと回し、黙して此方を見る竜狩りへと向けた。

 

 

「ああ、奴は……竜狩りだ」

 

「ならば私が相手をするのが道理か……いいだろう」

 

 

兜の奥から低く声が発せられる。一方のニグンはオーンスタインの姿を見て口を開けたまま呆然としていた。すると表情を一気に変え

 

 

「金色の竜狩り……まさか……ありえない!!ありえるはずが無い!!」

 

 

握った拳を震わせて叫ぶ。

 

 

「その眩い鎧の色は古の竜狩りと呼ばれる前の物……この時代に存在するはずが無い!何者だ貴様!」

 

「……我が名はオーンスタイン、竜狩りオーンスタインだ。貴様が否定しようとも私が竜狩りであることは揺るぐ事の無い事実、そしてそこに居る竜狩りは私の末の姿なのか、それとも竜狩りの名を語る模倣者か……」

 

 

十字槍を両手で握り構えを取る。視線を向けるは古の竜狩り、自身と同じ二つ名を持つ騎士。

 

 

「どちらにせよ、名を語るのならばその槍を構えろ、その槍で私を貫いてみせろ……来い、名も知らぬ竜狩りよ!!」

 

 

オーンスタインの言葉を皮切りに竜狩りは低く唸り声を上げながら、身体に黒い闇を纏い突進する。対するオーンスタインは十字槍に雷が纏わせる。金と黒の衝突が始まった。

 

目掛け突き出された穂先は、同じく突き出された穂先とぶつかり合う。鬩ぎ合う槍から大地を焦がす雷が、大気を汚す闇が溢れ出す。穂先が弾かれると黄金の竜狩りは槍を片手に持ち直し、上段より振り下ろす。黒の竜狩りは両手で槍を持ったまま、下段から切り上げる。火花を散らす二つの十字槍。黒の竜狩りは圧され体勢を少し崩す。その隙を逃さんと黄金の竜狩りの繰り出した刺突は黒の竜狩りの兜に一閃の傷を与えた。

 

だが仕留めた訳ではない、黒の竜狩りは何事も無かったかのように槍を逆手に持ち替えて後方へ飛び、槍が闇に覆われた。槍投げるように振るうと闇が切り離され、鋭利な形状となって黄金の竜狩りを襲うが彼もまた闇ではなく、雷を穂先へと集め薙ぎ払う。闇は雷に打ち消され消え去った。

 

 

 

 

「互角……ですかね」

 

 

アインズはボソッと呟く。

 

 

「いえ……オーンスタインが押してます」

 

 

何故そう思うのかアインズは不思議に思うが、アルトリウスより直ぐ言葉が来る。

 

 

「オーンスタインはあの竜狩りの動きを完全に把握し、奴より一歩先に行った捌き方をしています」

 

「なら……オーンスタインは勝つんですね」

 

「恐らく……負けるはずがない、オーンスタインが……」

 

 

 

二人は距離を離すとオーンスタインは

 

 

「……獣だな、ただ本能的に槍を振るうているだけ……哀れ」

 

 

ピクリと竜狩りは反応する。

 

 

「オォォォォォ……」

 

 

まさに獣のような声を出す竜狩り。もはや彼の者に正気というものは無いのであろう、オーンスタインは哀れみの籠めながら言葉を放つ。

 

 

「自我は無くなり、攻撃に意思も籠っていない、闇へと染まり鎧は朽ちている……掛ける言葉が見つからないな」

 

 

槍を回転させた後右手に持ち、体勢は低くなり左手は地面へと添えられる。

 

 

「次だ……次の一撃で雌雄を決するとしよう……」

 

「ッ!?□□□□□ッッ!!!!」

 

 

竜狩りもオーンスタインと似た体勢を取る。二人の間を風が吹き抜け、一枚の葉がゆっくりと落ちてきた。

 

それが落ちた刹那―――

 

アルトリウスに迫った時よりも更に速く竜狩りは駆ける。しかも闇ではなく、彼の古の記憶がオーンスタインと戦うことで目覚めたのか、黒い雷を放なっている。黒雷と共にオーンスタイン目掛け突いた―――

 

 

はずだった。消えた、オーンスタインの姿は最初から其処に居なかったかのように音もなく消え去った。攻撃が失敗した竜狩りは辺りを見渡す。前方後方、左方右方、空さえにオーンスタインは居ない。

 

すると背後からバチィッと雷の走る音が聞こえた。竜狩りは直ぐ様振り替えるが何も居ない。次に前から聞こえそちらを向く、またしても居ない。そして徐々に雷の音が激しくなってきているのに気づく。目の前に一筋の電光が通りすぎた。それと同時に彼の周囲には何回も電光が走り始める。

 

電光の主は当然オーンスタイン。そう、彼は竜狩りですら一切捕捉することができない速度で縦横無尽に移動しているのだ、まさに雷の如く。何時此方に来る、何時攻撃を仕掛けてくる。そう考えているのだろうか、竜狩りの動きは止まる。

 

ふと音が止んだ、竜狩りの身体が少し揺らいだ。彼は自分の胴体を見る。金色の装飾が施されている槍が鎧を貫いていた。槍を持ちし騎士、オーンスタインも目の前に。そして槍からは凄まじい威力の雷が流れだし、竜狩りの身体全身に走った。

 

槍を引き抜き、くるりと回し竜狩りに背を向ける。竜狩りは力無くその場に仰向けに身体を倒した。

 

 

「ば、バカなあぁぁぁ!!!!」

 

 

ニグンから悲痛な叫びが聞こえた。

 

 

「負けたと言うのか!?古の竜狩りが!?こんなふざけた事が……!!」

 

 

途中で言葉が途絶えた。オーンスタインは不審に思い振り向くと、竜狩りが槍を杖に立ち上がっていた。身構えたオーンスタイン。

 

 

「そうだ!立ち上がれ!立ち上がっていた奴等を殺せ!法国の誇る最強の騎士の力をー……」

 

 

竜狩りはニグンの方を向いた。そして彼の方へと歩いていく。

 

 

「な、何だ……」

 

 

二人の魔法詠唱者の側まで来ると、彼等の首を槍で切り飛ばした。ニグンは焦りの色を見せ

 

 

「何をしている!敵は彼方だ!……来るな!来るなぁ!!」

 

 

かの槍騎士はニグンを殺そうとしているのだろう。他にも眼もくれず、一直線にニグンの方へと歩いていく。身を凍えさせるような程の殺気が竜狩りから滲み出ている。もう目と鼻の先だ、ニグンは恐怖からかその場にへたり込む。竜狩りはニグンの側へ来ると槍を逆手に持ち変える。

 

 

「ひぃぃ!!た、助けてくれ!いやください!!助けて頂ければ望む額を用意―――」

 

 

槍が落ちたときにはニグンの声は聴こえなくなった。残るのは静寂のみ。

 

 

「……」

 

 

竜狩りはよろけながら槍をニグンの死体から抜き振り返る。槍は手から落ち、そのまま膝を地へと着ける。彼はオーンスタインを見た、そしてこう言い残す。

 

 

 

―――ありがとう

 

 

 

彼の身体は静かに光りへとなる。まるで蛍のような光りは空へと上り消えていき、もう暗くなった空に舞い幻想的な風景を作り上げた。やがて完全に消え、槍だけがその場に残った。

 

オーンスタインはその槍へと行き、槍を手にする。

 

 

「……礼か。何に対する礼かは知らない……だが私は誤解していた、貴公は立派な騎士だ。私との戦いで雷の力を呼びさまし、自らの意思を取り戻した。貴公は私の末の姿でもない、模倣者でもない……一人の‘竜狩り’だ。安らかに逝け、名も知らぬ……いや」

 

 

一つの光の粒をオーンスタインは眺めそれに彼の槍を向ける。

 

 

「『古い竜狩り』よ」

 

 

 

 

 

 

戦いは終わった、宝石を散りばめたような夜空がアルトリウスの灰銀の鎧を照らしている。彼の目的地はある民家だ。

 

 

「ガゼフ殿」

 

 

扉を潜ると、ベッドの上で横になっているガゼフがいた。側には彼の部下が。

 

 

「アルトリウス殿!すまない、席を外してくれ」

 

「わかりました、それでは」

 

 

ガゼフに一礼し、アルトリウスの横を通り抜けていく。アルトリウスはベッドの傍らまで行くと、ガゼフは上体を起こす。

 

 

「傷の方は大丈夫なのか?」

 

「このような傷大したことはない、これくらいで根を上げては騎士長の名が廃る」

 

「勇ましいな」

 

「それはそうと、ゴウン殿は?」

 

「今外で待たしている」

 

「そうか……アルトリウス殿、この度は本当に感謝の言葉もない……ゴウン殿とアルトリウス殿が居なければ今頃……おっと」

 

 

ベッドの直ぐ横に立て掛けてあった飛竜の剣をガゼフはアルトリウスへと差し出す。

 

 

「お返ししよう、この剣のお陰で私は戦えた」

 

「……」

 

 

するとアルトリウスは剣を僅かにガゼフの方に押す。

 

 

「これはガゼフ殿に託そう、私よりも上手く使ってくれそうだ」

 

「しかし……」

 

「私が良いと言っている、その代わりに頼みたい事が」

 

「?」

 

「手入れはしっかりしてくれ、その剣は以外と繊細だ」

 

 

アルトリウスの言葉にガゼフは笑む。

 

 

 

「……わかった、この剣、受け取ろう。大切に……大切に使わせてもらう」

 

「ああ。それでは私は行く、あまりアインズ様達を待たせるわけにはいかないからな。お元気で」

 

 

軽く頭を下げ、アルトリウスはその場を立ち去ろうとしたが

 

 

「アルトリウス殿」

 

 

制止の言葉に立ち止まる。

 

 

「また会えるだろうか」

 

 

暫しの間アルトリウスは考え、顔を少しだけガゼフに向ける。

 

 

「この空は一つに繋がっている。この空の下にいる限り、いつか必ず相見える」

 

「その時は今回のように味方であってほしいものだな」

 

「ふっ……そうだな。ではまた会おう、ガゼフ殿」

 

「ああ、ゴウン殿にも宜しく伝えておいてほしい。ではまた会おう、アルトリウス殿」

 

 

別れの言葉を交わしアルトリウスはガゼフの下を後にする。外へとでるとアインズ、アルベド、オーンスタインが待っていた。

 

 

「お待たせしました、我が儘に付き合ってくれてありがとうございます」

 

「はは、気にしないでください。それじゃ行きますか」

 

「はい……私達のナザリックへ」

 




次回で本当に一巻が終わります。二巻目に入る前に番外話を入れていきたいのでお付き合い頂ければと思います。

話はかわって、アニメのミニコーナー的な『ぷれぷれぷれあです』があるのですが、この名前で『ぷりぷりぷりしらちゃん』とか変な名前を考えてた私が居ます。自重致します……

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