深淵歩きとなりて   作:深淵騎士

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第十八話

 

依頼を受けたメタスとユーリは組合から現地へと向かった。受付嬢はその姿を見届け一時間が経ち、組合員の一人が彼女の下に。

 

 

「すまない、東方に離れたあの森林、あそこで受けられる依頼の内容を変えたいのだが」

 

「何かあったんですか?」

 

「……実はあの森で何人か冒険者がモンスター討伐に行ったんだが、謎のモンスターと遭遇し……殆どが殺されたと」

 

「!?」

 

 

受付嬢は青ざめる。そして入り口を見るが、その森へと向かう冒険者達の姿はとっくに居ない。

 

 

「皆シルバーのプレートだったのだがな……調査をしたい、ゴールド以上のプレートに募集を」

 

「そ、それが……」

 

「?まさか……!!」

 

「はい……カッパーの冒険者二人がその森へ……」

 

「何と言うことだ!連れ戻せ!」

 

「もう此処をたって時間が……」

 

 

組合員は絶句する。カッパーの冒険者の実力はたかが知れている。前回森へ行った冒険者は皆シルバー、それが太刀打ち出来ないと言うことはカッパーではまるで話にはならないだろう。すると

 

 

「何かあったのか?」

 

 

一人の男が二人に声を掛ける。その風貌は奇妙、バケツのようなヘルムに鎧の正面には自分で描いたのだろう、顔のついた太陽が。左手に装備した盾にも同じく太陽が描かれており、腰にはごく普通なブロードソードを一本。しかし、首にぶら下げられているのは紛れもなく、冒険者最高ランク『アダマンタイト』のプレートだ。その事から、この男は相当な実力者なのだろう。

 

 

「おお、貴方は『太陽』の!」

 

 

 

 

 

 

依頼を受けたメタスとユーリ、彼等は目的地である森に迫っていた。メタスは先頭に立ち意気揚々と歩く。

 

 

「……此処だな」

 

 

此処が依頼にあった森と判断し、メタスは躊躇いもなしにその森へと進入する。ユーリも彼の後を追い森の中へ。

 

 

「何があるかわかりません、お気をつけくださいメタスさん」

 

「ああ、気を抜いて殺られるなんて無様な真似はしたくないな」

 

 

此処は自分の知らない土地、いくら下級と言えどもこの世界の基準は不確かだ。だからこそメタスは細心の注意を払い行動しようと考えた。

 

 

「……何だろう、妙な気配がするな、ユーリ……ユーリ?」

 

「……!は、はい!何でしょう!」

 

「気を付けろと言ったのはお前の方だろう、お前がぼーとしてどうする」

 

「申し訳ありません……」

 

「……まあ危うくなったら私が守る、心配するな」

 

「はい……」

 

 

ユーリは俯き答える。そして先程の事を思い出していた。

 

 

「(アルトリウスさ―――じゃない、メタスさんに肩を抱かれたとき何故かこう、心が跳ね上がるようだった……何なんだったのかしら……あの感覚は)」

 

 

言い様のない感情がユーリの頭を一杯にしていた。するとメタスは突然立ち止まる。

 

 

「……血の匂い?」

 

「?」

 

 

ユーリも微かに感じた動物の血の匂い。此処からそんな遠くない場所であろう、そこから異質な気配も感じる。

 

 

「ユーリ、構えておけ」

 

「はっ」

 

 

両手に厚手の革に鉄の鋲を埋め込んだ武器、セスタスを装備しその場所へとメタスと共に走る。流れていく景色の中、血の匂いはいっそう濃くなる。

 

 

「これは……」

 

 

足元には何体ものゴブリンの死骸、全て体をズタズタに引き裂かれ四肢は寸断され、臓物をはみ出させていた。メタスは一体の亡骸に近づき

 

 

「大きな刃物で切り裂かれたような痕だな……同業者か?いや、これは……!?」

 

 

ゆっくりと大きな何かが此方へと近づいてくる。恐らくこの惨状を引き起こした張本人だろう。二人は身構え、その姿が明らかになるとメタスは目を疑った。

 

 

「何故こいつが此処に……」

 

 

眼前に居るのは彼の知るモンスターその物であった。『山羊頭のデーモン』、大きな体躯から繰り出される二振りの鉈は、並みの人間では到底受け止めるものではないだろう。メタスは左手に持った得物に右手を掛けようとしたが、ユーリが彼の前に立つ。

 

 

「メタスさん、貴方の手を煩わせる訳にはいきません、ここは私にお任せを」

 

「いけるか?」

 

「お忘れですか?ボクはプレアデスの副リーダーですよ、戦闘には自身があります」

 

「……ふっ、わかった」

 

 

獲物を下げ、後ろへと後退する。

 

 

「危なくなったら加勢する」

 

「はっ」

 

 

マフラーをたなびかせながら、ユーリは疾走する。山洋頭のデーモンは此方へ来るユーリに鉈を振り下ろす。身を横へ傾けさせ鉈による一撃を回避、鉈を足場にし飛ぶ。

 

 

「はぁああ!!」

 

 

空中からの殴りかかるが山洋頭はバックステップでかわし

 

 

「ヴォォオオオオオ!!!!」

 

 

地面へついた彼女を切り裂こうとジャンプして両手の鉈を振るうが、ユーリは山羊頭のデーモンの懐に潜り込む。そのまま掬い上げるようにボディーブローが決まり、ユーリの拳は山羊頭の腹にめり込む。怯む山羊頭のデーモンであるが、体制を立て直しうなり声を上げ袈裟に斬りかかろうとしたが、その前に彼女は少し跳び

 

 

「せいっ!」

 

「グモォォッ!?!?」

 

 

見事な蹴りが顔面に直撃し、その巨体を地面に倒す。まだと言わんばかりにユーリは再び跳び、右の拳で

 

 

「終わりよ」

 

 

山羊頭のデーモンの胴体に勢いよく殴打、口から血飛沫を吐きぐったりと力尽きた。ユーリはふうと一息つく。

 

 

「流石は戦闘系、こうも早く奴を倒すとは。やはりお前を連れてきて正解だった」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

 

メタスは死体となった山羊頭のデーモンの側による。

 

 

「しかしこいつも此方にか……む?」

 

 

ここから少し離れた場所から咆哮が聞こえた。間違いなく山羊頭のデーモンのものだった。

 

 

「もう一体いたか!ユーリ、行くぞ!」

 

「はっ!」

 

 

二人は森の中を駆け抜ける。気配は強くなり、奴だけではない、他に人間の気配も感じる。

 

 

「……居たか!」

 

 

そこには山羊頭のデーモンと四人の首に銀のプレートをぶら下げた者達が。今まさに山羊頭のデーモンは杖を持つ少年に飛び上がかろうとしていた。メタスは得物に巻かれた布を取り払うと、木漏れ日がその銀色の剣を照らし出す。異様な長さをした刀身が特徴の『つらぬきの剣』を構え、山羊頭のデーモンの背後へと瞬時に迫る。

 

 

「逝け」

 

 

声すら上げさせず、剣は山羊頭のデーモンの心臓を確実に貫き絶命させた。力無くぶら下がる山羊頭のデーモンを何もいない方向へと剣を振るい投げ捨て、その場にへたりこんでいる少年に声を掛ける。

 

 

「……無事か」

 

「え?は、はい……ありがとうございます」

 

 

彼の仲間であろう男達が駆け寄る。

 

 

「ニニャ大丈夫であるか!?」

 

「はい……」

 

「仲間が助かりました!えっと、あなたは?」

 

 

血が付着した刀身を振るい

 

 

「……私はこの周辺のモンスター狩りに来た者だ……名はメタスという。そして彼女は私の仲間の」

 

「ユーリと申します」

 

 

軽く頭を下げ挨拶をするユーリ。メタスは剣を持った男の方を向き

 

 

「この森ではこいつが低級モンスター扱いなのか?」

 

「そんな筈はありません。こんなモンスター初めて見ますし、しかも相当の強さを……あ、申し送れました、私は『漆黒の剣』のリーダー『ペテル・モーク』といいます」

 

「漆黒の剣?チームのようなものか」

 

「そんな所です。他のメンバーを紹介したいところなのですが、此処は危険です。森の外へ行きましょう」

 

「……そうだな、危険な場所で暢気に話すのもあれだ」

 

「決まりですね、行きましょう」

 

 

 

 

 

 

「この森か」

 

 

馬に乗った奇妙な騎士がメタス達が入り込んだ森の前に来ていた。いざ入ろうとしたが、六人の人影が此方に向かってくる。

 

 

「彼らは……」

 

 

騎士は馬から降り、その者達の下へと行く。

 

 

「すまない」

 

「?ぬぉおおおっ!!」

 

 

メタスは声を掛けてきた騎士を見てすっ頓狂な声を上げる。

 

 

「どうした?」

 

「い、いや、すまない変な声を上げてしまって……」

 

 

するとペテルは興奮気味に

 

 

「貴方はまさかアダマンタイト級冒険者『ソラール』さんではありませんか!?」

 

「いかにも、俺はソラール、この森に謎のモンスターが現れたと聞いて来たのだが……」

 

「それなら彼が倒しましたよ」

 

「?」

 

 

メタスは手に持っていた布に包まれていた何かを地面に下ろし広げると、山羊頭のデーモンの頭部が晒される。

 

 

「こいつは……何の因果か……これを貴公が?」

 

「私と彼女が倒した」

 

「ほう……」

 

 

ソラールはメタスをじっと見つめる。

 

 

「失礼を承知で聞くが……貴公と俺、何処かで会ったことがないか?」

 

「!?……さあな、私は知らない」

 

「むぅ、そうだよな、こんな格好をしていれば普通覚えているはずだからな。変な事を聞いてすまない、ウワッハッハッハ!」

 

 

豪快に笑うソラール。

 

 

「俺はこの森を少し調査するが貴公等はどうする?」

 

「私達は街に戻ろうと思います」

 

「そうか、気をつけてな。貴公等に太陽の加護があらんことを」

 

 

ソラールは彼等の横を通りすぎ、メタスはその背中をずっと見ていた。

 

 

「メタスさん、彼と何か?」

 

「……いや、何もない。戻ろうか」

 

 

首を横に振り、彼は街を目的地に足を動かし始めた。後を追うように、ユーリと漆黒の剣のメンバーも歩き始めた。

 

 

 




Y<太陽万歳!!


出してしまいました、ソラールさん。果たして彼は同じソラールの名を持つ別人なのか、それとも…

次回もお楽しみに!

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