「では、改めて自己紹介を」
街へと戻り、組合の会議室のような場所に現在彼等は居た。机を挟み、ペテルは立ち上がり。
「私が漆黒の剣のリーダのペテル、それで彼がチームの目と耳であるレンジャーの『ルクルット・ボルブ』」
「よろしくな、旦那、ユーリちゃん」
「……旦那?」
「……ちゃん?」
妙な呼ばれ方に首を傾げるが、気にせずペテルの方を向く。
「そして治癒魔法や自然を操る魔法を得意とする、森祭司《ドルイド》の『ダイン・ウッドワンダー』」
ダインは優しく微笑み
「よろしくお願いする」
「最後に漆黒の剣の頭脳『ニニャ』、スペルキャスターという二つ名を持っています」
「よろしく、メタスさん、重ね重ねではありますが助けてもらい本当にありがとう御座います。それとペテル、その恥ずかしい二つ名止めません……」
「いいじゃないですか、カッコよくて!」
「そうは言っても……」
不服そうな表情をとるニニャ。するとルクルットがメタスに
「因みになこいつ、タレントもちなんだよ」
「タレント……生まれながらの異能の力か」
「はい、彼のは魔法適正というもので、習熟に八年掛かる魔法が四年ですむとのことで」
「素晴らしい能力だな、私にはそういった物がない。羨ましい限りだ」
「いえ、僕よりももっと凄い能力を持った人は居ますよ……」
少し場が暗くなったせいか、ルクルットが話を変える。
「そういえば貴方達はつい最近冒険者になったばかりなんですよね」
「ああ、そうだ」
「今回の一件でカッパーから上がるということで!」
そう、山羊頭のデーモンを討伐したことによって、メタス達のランクが見直しされカッパーから上のプレートへと昇格するとの事だ。彼等にとっても想定外であり、重畳な事であろう。
「運がよかっただけ、奴を倒せたのは私に注意が向いてなかったからだ」
「そんなことはありませんよ、私達では傷一つ付けれなかったモンスターです。それを一撃で仕留めるなんてメタスさんは凄い冒険者ですよ!」
「……」
褒められ思わず黙り込む。そしてメタスは立ち上がり右手を差し出す。
「これも何かの縁。貴公等とは友好的な関係を築いていきたいのだが、どうだろう」
「勿論ですよ!此方こそお願いします!」
笑顔で応え彼の手を握り握手を交わす。メタスは内心上手くいったと感じていた。何処かの冒険者と交流を築く事がこの街での目的の一つであり、そこから更に輪を広げていく。この漆黒の剣の皆は彼を好印象に思っており、彼としてもファーストコンタクトは完璧なものであろう。ただ彼が一番気になるものは別にある。二人は手を離し椅子へと座る。
「そういえばあのソラールという男は一体……」
「ソラールさんですか?彼はたった一人で行動していて、聞いたこともない土地からやって来たらしく誰も見たことのない光の槍の魔法を放ち、凶悪なドラゴンですら倒すとか」
「まさに現代に生きる英雄、アダマンタイトの中でも指折りに入る実力の持ち主なんだぜ」
「ほう……」
果たして彼は自分の知るアストラのソラールなのか、それとも同じ名で同じ容姿をしている別人なのか。メタスはわからない、だが何時か確かめる時が来るであろう。
※
「……」
バケツヘルムの騎士ソラールは森の深部で対峙していた。牛のような角を持ち、山羊頭のデーモンよりも大きな身体にそれに見合った大斧を持つ。
ゆっくりと距離を詰め、ソラールが動き出す同時に『牛頭のデーモン』も走る。彼はスライディングで牛頭のデーモンの股下を潜り抜け、背後まで行くと瞬時に立ち上がり切り掛かる。
「ふんっ!」
牛頭のデーモンは振り向き斧を振り回すが、ソラールは木に向かい飛び更に蹴り上げ空へ。
「ぬぉおおお!!!!」
剣を牛頭のデーモンの頭に突きたて、脳天を串刺しにする。痛みから牛頭のデーモンは荒ぶり身体を激しく揺らし、ソラールを振り落とそうとする。だが微動だにせず、彼は更に剣を突き入れる。
「グォオオオオオオォォォォ……」
そのまま背中から身体を倒し、彼はその前に飛び地面へ着地。すると剣を直ぐにしまい、右手に雷が宿り始めた。それが徐々に形を作っていきやがて槍のような形状へと変わる。
「むぅうんっ!!」
少し離れた場所へと雷の槍を投げるとそこに山羊頭のデーモンが居り、胴を容易く貫き殺した。
「むぅ……やはりこの世界は混じっているのだな」
自分が葬ったデーモン達を見てため息混じりに言う。
「しかし……あの騎士……」
彼はメタスの事を思い出す。自分の記憶の中にあの鎧を纏った者は居ない、のだが。
「何故だろうな、彼からは何処か懐かしいような……共に剣を合わせて戦ったような感じがする……」
何時、何処で?彼には解らない、一体あの騎士は何者なのか。幾ら記憶の海を探っても見つけ出すことは出来なかった。
「まあいい、また会った時にでもゆっくり話せばいいか……ん?」
ふと空を見る。木々の間から差す木漏れ日、それはソラールを照らしていたのだ。
「良い太陽だ……諦めないぞ、あの不死人に笑われぬように俺は絶対に自分の太陽を見つけ出してみせる」
両手を斜めにゆっくりと広げ『太陽賛美』のポーズを取るソラールだった。
※
ナザリックに一時帰還したアルトリウスは執務室へと向かっていた。道中、一人のメイドと出くわす。彼女は立ったまま頭を軽く下げ
「お帰りなさいませ、アルトリウス様」
「ああ、ただいまナーベラル」
プレアデスが一人『ナーベラル・ガンマ』にアルトリウスは問う。
「アインズさんは執務室にいるか?」
「はい、アルトリウス様の報告をお待ちしております」
「解った、ありがとう、下がっても構わない」
「はっ」
再び執務室へと進路を戻す。そして執務室の扉までたどり着くと
「アルトリウス、ただいま戻りました」
「お帰りなさい、アルさん!」
扉を開け出迎えてくれたのはアインズ、彼の下へと歩く。
「冒険者として一日動いてみてどうでした?」
「漆黒の剣というチームとの交流関係を築くことに成功しました、あとは彼らと一定の行動を共にして情報を集めて見ます。それと少しお話したいことが……」
アルトリウスは此処までの経緯を話した、山羊頭のデーモンの事等様々だ。
「やはりアルさんの言うとおり、この世界はユグドラシルの要素だけが混じっている訳ではないようですね……アルさんが冒険者になって正解だったのかも。ユリ・アルファもアルさんの期待通りに動いてくれてるみたいだし」
「変な奴らも来てなければいいんですよね……公王とかイザリスとか……下手をすれば私も太刀打ちすることが難しい奴も居ますから」
「う~ん……」
アインズは唸る。アルトリウスが苦戦するとなれば、彼も苦戦をすることは確実。そういう存在が現れた時の事も考えねばならないと思うと頭痛がしそうになる。アンデッドとなった彼がなることはないが。
「引き続き冒険者として行動はします、何かあれば直ぐに報告しますから」
「そうですね、何かあったら俺が手を貸しますので!」
「ははっ、その時は是非」
そうしてアルトリウスによる報告が終わり会話も終了する。執務室を後にしたアルトリウスがこの後思いっきりシフをモフモフしている所を、アウラに見られたとか見られなかったとか、アウラがそれに混じりシフをモフっていたとかはまた別の話である。
見事漆黒の剣と交流関係が出来たメタス、そしてソラールさんの戦闘。
次回は物語が動き出します、お楽しみに!