深淵歩きとなりて   作:深淵騎士

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第二十二話

 

「では一度ナザリックに戻るとしようか」

 

「わかりました」

 

 

漆黒の剣との対談が終えたメタスは一度、組合を後にしようとする。待合室を出ると広間のほうで何やら騒ぎが。

 

 

「……ニニャ?」

 

 

騒ぎの中心にいるのは漆黒の剣のメンバーの一人、ニニャだ。対するのは赤い髪の女性である。よく見るとニニャの近くにはペテル達は居ない。

 

 

「何かあったのでしょうか?」

 

「そうだな……」

 

「メタスさん?}

 

 

メタスは人の波をかき分け、ニニャの元へと行こうとする。

 

 

「ニニャ」

 

「あ、メタスさん……」

 

 

彼がメタスの存在に気付くと暗かった表情が更に暗く、女性は激しい剣幕で此方を睨む。

 

 

「誰?こいつの知り合い?」

 

「……そうだが。ニニャ、何かあったのか?」

 

「えっと実は……」

 

「そいつがぶつかって、私のポーションが割れちゃったのよ!」

 

 

右手に持っているのは割れたビン、女性は体をワナワナと振るわせて

 

 

「せっかく生活ギリギリでようやく買えたっていうのに!そいつは弁償できないって言うし!」

 

「そんなに大切なものなら管理を徹底すればよいだろう」

 

 

指摘されうっと声を漏らす。しかし尚も引きそうにない女性にメタスはため息を漏らす。すると女性はメタスのプレートに気づき

 

 

「……あんたゴールドなんだ。ゴールドならポーションの1つや2つ持ってるんでしょ?そいつの知り合いなら代わりに弁償してよ」

 

「は?……それは……お」

 

 

後から追い付いたユーリがやって来て彼の横に立つ。

 

 

「ちょうど良い所に。ユーリ、お前はポーションを持っているか?」

 

「え?はい、持ってはいますが……」

 

 

アイテムボックスより出した赤い液体が入ったビン、それをユーリから手渡される。そのまま女性にビンを放り投げると慌ててキャッチする。

 

 

「赤い……ポーション?」

 

「私も代わりはそれしかない、今はそれで気をおさめろ」

 

「……いいわ、ほら退いて!」

 

 

明らか不機嫌そうな女性はそのまま外へと出て行った。ニニャがメタスの元へと来ると申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 

「ごめんなさい、メタスさん……僕のせいでトラブルに」

 

「気にするな、ところでペテル達はどうした?」

 

「みんなは街へ向かいました。僕はちょっと組合に用があったので此処に……そしたらあの人にぶつかっちゃって」

 

「なるほど、運がなかったようだな……これを期に気を付ければいい」

 

「そうします……えっと、何かお礼をしたいのですが……」

 

「別にいい私が勝手にしたことだ、礼など不要」

 

「……解りました、本当にありがとうございます。僕はこれで」

 

 

ぺこりと頭を下げて受付の方へと向かっていった。ユーリは微笑みながらメタスの顔を見る。

 

 

「お優しいのですね、メタスさんは」

 

「彼はもう我等の友だ、困っていれば手助けする。それとすまないな、勝手にポーションを渡してしまって」

 

「いえ、ナザリックへ戻れば補充できますのでお気になさらず……?」

 

 

何処か思う所があったのだろうか、メタスは黙りこんでいた。

 

 

「どうかなさいましたか?」

 

「……いや、何でもない」

 

 

体の向きを出口へと変え

 

 

「さて、今度こそナザリックへと向かうぞ」

 

「はっ」

 

 

 

 

 

 

ナザリックへ帰還した二人。アルトリウスはユリの方を向き

 

 

「私はアインズさんの所へと行く。ユリは明日の準備をしておいてくれ」

 

「かしこまりました、では……」

 

 

ユリを見届けるとアルトリウスはナザリックの主、アインズの元へと。彼は脚を動かしていると突然立ち止まる。

 

 

「……デミウルゴスに頼んでおいた八肢刀の暗殺蟲か」

 

 

彼の背後、何も居なかった筈のそこには虫型の異形が居た。八肢刀の暗殺蟲、ナザリックに15体しかいないモンスターでありこの個体はアルトリウスの言う通り、デミウルゴスの指示により彼の元に馳せ参じたのだろう。

 

 

「これよりあなた様を影から補佐させていただくことになりました」

 

「デミウルゴスは本当に仕事が早い、助かるな。これからよろしくたのむぞ……えっと何と呼べばいい?」

 

「アルトリウス様の望むようにお呼びください、特には名前がございませんので」

 

「不便だな……」

 

 

どう呼べばいいか悩んだが、アルトリウスはふととある名前が思い付く。

 

 

「お前に名前とか付けてもいいか?」

 

「アルトリウス様から名を頂けるのであれば身に余る光栄でございます」

 

「なら……『シバ』と名付けよう」

 

「シバ……畏まりました、これより私はシバと名乗らせて頂きます。アルトリウス様、感謝致します、我が全身全霊を掛けてあなた様の為に力を振るいましょう……それと一つお耳に入れたいことが」

 

「?」

 

「どうやらエ・ランテルにてアルトリウス様の事を嗅ぎ回っている不届き者がいるようです」

 

「ほう?」

 

 

腕を組みシバに向き直る。冒険者となったばかりでゴールドへと即昇格、ましてやあのような目立つ甲冑にユリのような美女も連れ歩いている。そんな者の動向を探ろうと誰かが動いているとのことだ。

 

 

「どういたしましょう、この私が始末致しますか?」

 

「……確かに、余り嗅ぎ回られてこちらの事がバレるのは厄介だな」

 

「では……」

 

「だが殺すな、生け捕りにして私の前に出せ。そして慎重に行動しろ、もしお前に何かがあったら心配だ」

 

「勿体なき御言葉……」

 

「それとこれを持っておけ」

 

 

アルトリウスの手のひらには鈍い灰色の指輪がある。シバはそれを受けとると不思議そうに眺めた。

 

 

「これは……?」

 

「その指輪を身に付けていれば一回は死を逃れることができる。いいか、一回だけだ」

 

「おお……名前だけではなくそのような貴重なものを預けて下さるとは……」

 

 

シバは半歩下がると

 

 

「それでは御命令通りに行動を移そうかと……御期待に添えれるように尽力してきます」

 

 

姿が消えるとアルトリウスは腕を組み直す。

 

 

「……『犠牲の指輪』一応異形種でも効果があるのはオーガとかで実験済み、これであいつはある程度の状況でも対応できるな。しかし嗅ぎ回っている奴……ね。プレイヤーなら厄介かもしれないなーしかしどうしてこうも道中で脚を止めさせられるのか……まあいいか」

 

 

細かいことは気にしない、そう考えその廊下を歩いていく事にした。

 

 

 

 

 

 

「~♪」

 

 

陽気な鼻唄と共に森を歩いていくアウラ。

 

 

「シ~フはどっこかな~」

 

 

どうやらシフを探して居るようだ。何時も昼寝をしている神殿入り口付近には居なかった、だとすれば考えられる所は一つ。アウラはその場所へと向かっている。

 

 

「あれ?」

 

「ム?」

 

 

道中ばったり出くわしたのは水色の甲殻の虫戦士、コキュートスだ。

 

 

「コキュートス、どうしたの?」

 

「実ハオースタインヲ探シテイテナ、何処ニ居ルカ解ルカ?」

 

「ん~……」

 

 

 

腕を組んで悩む仕草をとる。

 

 

「そういえば闘技場に向かっていったの見た気が……」

 

「フム、闘技場カ……恩ニ着ル」

 

 

コキュートスはアウラに会釈をし、闘技場があるであろう方向へ歩いていった。

 

 

「また鍛練するつもりなのかな?好きだなーコキュートスも……おっといけないいけない」

 

 

気を取り直して、目指すべき場所へと脚を動かし始める。

 

そしてついたのは神殿の裏に位置する木々が少し空けた場所だ。中心にそびえ立つ大きな建造物、まるで墓のようにもみえ周囲には何本もの剣が突き刺さっている。

 

 

「あ!居た!」

 

 

建造物の裏に見える灰色の毛、紛れもなくシフである。アウラはゆっくりと歩み寄っていくと

 

 

「……」

 

 

シフは瞼を閉じ何時ものように寝ていた。が、何時もと違うのが一点。シフの柔らかい毛に埋まるように誰かがすやすやと寝息を立てて眠っているのだ。

 

 

「何であんたが寝てんのよ……」

 

 

ジトっと睨む先にはアウラの弟、マーレが居たのだ。

 

 

「あれ……」

 

 

アウラに気づいたのか、マーレは重い瞼を上げて起きる。

 

 

「あ、お姉ちゃん」

 

「あ、お姉ちゃん。じゃないでしょ!何で此処で寝てるの!」

 

 

シフを起こさないように極力小声でマーレに言うアウラ。マーレは慌てて起き上がる。

 

 

「えっと、シフに連れて来られて……気づいたら一緒に寝てた……」

 

「……何時からあんたシフと仲良くなったの」

 

「少し前から……かな?」

 

 

アウラは盛大にため息をつく。彼女はシフが好きでもっと仲良くなりたいと思っている、だが何故か避けられているようで中々絡む事が少ない。一方でマーレは自分の知らぬ所でシフと良好な関係を築いていた、少し複雑な心境のようだ。

 

 

「……」

 

 

シフが突然顔を上げて何処か一点を見ていた。

 

 

「シフどうしたの?……え?アルトリウス様が帰ってきた?」

 

 

 

 

 

 

「なるほど、例の冒険者チームと一緒に、ですか」

 

 

アインズの部屋にて、アインズはふむと一息置くと

 

 

「アルさん的にはその漆黒の剣をどう思ってます?」

 

「そうですね……見ていて昔の自分を思い出す人達……と言ったところです」

 

「昔?」

 

 

思わず首をかしげるアインズ。

 

 

「なんと言いますか、皆で一緒に戦って、皆で一緒に苦しみを分かち合う……彼等を見て羨ましいって感じましたし、仲間ってやっぱりいいなって再認識しましたよ」

 

「アルさん……」

 

「そうだ、色々落ち着いてきたら何とか暇を見つけてこの世界を冒険してみませんか?きっと楽しいですよ」

 

 

その言葉にアインズは両手を握り振る。

 

 

「いいですね!守護者達にどう説明して外に出るか悩みますが……まあ、それは後々決めるとして。冒険ですか……その日が来るのが楽しみです」

 

「ええ、その為に頑張りましょう!」

 

 

アルトリウスはアインズに拳を突きだすと、彼は頷き

 

 

「はい!」

 

 

彼もまた拳を突きだす。骨だけの手と手甲に包まれた手がコツンと合わさる。

 

 

「そう言えばアルさん」

 

「?」

 

 

拳が離れるとアインズは思い出したように

 

 

「気になったんですけどアルさんの『あれ』今は使えるんですか?」

 

「……まだ試してないですね。あれはユグドラシルなら別に問題がないんですが、現状は……アインズさん、もしなんですけど……私がアインズさん達に剣を向けるようなら躊躇いなく殺してください」

 

「え?ア、アルさん何を言って……」

 

 

冗談で言っている様子ではない、だからこそアインズはアルトリウスの思いがけない言葉に焦りを見せている。

 

 

「私はアインズさんに、このナザリックの皆を傷つけたくない。だからもし敵に回ったら躊躇いなく殺してください……」

 

「……解りました、けどそんな事にならないように願っていますよ、俺は」

 

「……私もですよ、絶対にそんな事には……なりたくないですから」

 

 




犠牲の指輪に一体何回助けられたことか。2になったら修理できる指輪が出来てちょい楽にはなりましたが。

それと今まで少し多忙で感想返しが出来なかったので、今回からしっかりと感想返しをしようと思います。

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