深淵歩きとなりて   作:深淵騎士

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今回後半はオリジナル展開が入ってきますのでご了承ください。


第二話

アルトリウスが異変に巻きこまれた同時刻、玉座に居たモモンガも同様の事態が起こっていた。彼は何処かへ飛ばされた訳でなく、モモンガそのものの姿で玉座に座ったままであるが。傍らにはアルトリウスは居らず、自分だけがここに存在してしまっている。そして何よりも、彼を混乱させる事が起こった。

 

NPCであるはずのアルベドが話しかけてきたのだ。

 

命令することでしか動くはずのないNPCが、確かに己の意思を持って声を出し、自分と会話をしている。AIにそういうプログラムが組まれていれば別だが、ここまで流れるように進むのは可笑しい話だ。

 

 

「モモンガ様?」

 

「いえ、じゃない、いや……何でもない。セバス」

 

 

物は試しと目の前に膝まづく執事、セバスに声をかけてみる。

 

 

「はっ」

 

 

口が開き返事をする。まずそれ事態がユグドラシルではあり得ないことであった。怒濤の勢いで混乱の渦が出来上がるモモンガである。

 

それにGMコールも効かず、伝言も上手くいかないのかノイズのような音が走るばかり。この混乱を何とか抑え今何が必要かを考える。情報だ、それを集めないことにはどうしようもない

 

「今すぐ大墳墓の周辺地理を確かめろ。仮に知的生物がいた場合は交渉して友好的にここまで連れてこい。交渉の際は相手の言い分を殆ど聞いても構わない。行動範囲は周辺1キロだ。極力戦闘行動は控えろ、現状何が起こるか解らんからな。あとメイドを一人連れていけ、最悪な場合そいつだけを帰還させ1つでも多くの情報を確保するのだ」

 

「了解致しました」

 

「それと……」

 

「はい?」

 

「何でもない」

 

 

アルトリウスが居なかったか?と聞こうとしたが、もし居ないと答えられたときの事を想像し言葉を喉の手前で止める。

 

セバスの様子を見る限り、彼は自分に忠誠心を持っている様子だ。恐らくアルベドもそこにいるメイド達もだろう。だが他のNPC達は?もし持っていなければ襲われる可能性だってある。自らの権力は一体何処までも通用するのかを確認する必要がある。彼に匹敵するNPCは5体に……

 

 

「では、セバスについていく1人を除き、他のメイドたちは各階層の守護者に連絡を取れ。そして第6階層、アンフィテアトルムまで来るように伝言を伝えよ、時間は今から1時間だ。それが終わり次第、お前達は9階層の警戒態勢に移れ。アウラに関しては私から伝えるので必要は無い……行け!」

 

「「「はっ!!」」」

 

 

玉座の間からぞろぞろとメイド達が出ていく。モモンガは右手薬指にはめられた指輪『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を見る。

 

 

(果たしてこの指輪の効果は生きているのだろうか)

 

 

この指輪の能力はナザリック大地下墳墓内の各部屋を無制限に自在に転移することが出来る指輪だ。ナザリックは特定区間に転移阻害を施しているため、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは中々便利なアイテムとなっている。

 

 

(やることは沢山だ……そうだ)

 

 

まずはと、モモンガは行動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

ナザリック大地下墳墓、第六階層。そこはナザリックでも最大の広さを誇りほぼ全域が森林地帯となっている。現在、モモンガはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンにより転移が成功し、この広大なエリアのとある場所へと向かっている。

 

 

「確か……この辺りの筈……ん?」

 

 

森を駆け抜けてくる一つの影、それは音から察するに此方へと向かってきている。この階層を守護して居るのはぶくぶく茶釜のNPC──

 

 

「フェンリル、ストーップ!!」

 

 

森より現れた黒いオオカミのような生き物は、モモンガの数mで止まるとそのまま姿勢を低くする。その大きな体の背中には小さな子供を乗せており、子供はピョンと飛び降りると恐るべきスピードでモモンガの元へとくる。その子供の肌は薄黒く、特徴的な長くとがった耳。

 

 

「いらっしゃいませ、モモンガ様!あたしの守護階層までようこそ!」

 

 

右手を胸に当て、その肩まで揃えられた美しい金の髪を揺らしながら、軽く腰を折るダークエルフの少女。この第六階層を守護する、ぶくぶく茶釜が創造したNPCの双子の一人『アウラ・ベラ・フィオーラ』は人懐っこい笑みを浮かべている。

 

 

「あ、ああ、元気そうだな、アウラ」

 

「はい!あたしはとっても元気です!ところで、モモンガ様は何故この場所へ?」

 

「確認したい事があってな。アウラ、この先にアルさ……アルトリウスの住居があるだろう?そこへ行きたい」

 

 

その言葉に対する返答をアウラは濁す。

 

 

「えっと……わかりました、ご案内します。フェンリル、待っててね」

 

「頼んだぞ、アウラ」

 

 

 

 

 

 

 

「此方になります」

 

 

アウラへと連れて来られたのは、木々が少し空けた広い場所だ。そこには古びて朽ちた遺跡のようなものが存在していた。朽ちているとは言ったものの、造形物としてはかなり立派なもので過去には大きな繁栄をしていたのではないかと思わせる。

 

モモンガはアウラの横を通り過ぎ、その遺跡に近づこうとすると影から静かに誰かが現れる。紺色の衣服が全身を包み胴には黒い鎧を身に着けており、顔を白磁の仮面を付け素顔を窺い知ることはできないが線の細さから女性ではないかと思われる。その者はモモンガの眼前まで行き、頭を垂れ膝を地に着ける。

 

 

「これは我等が絶対なる王、モモンガ様、そしてアウラ様……ようこそ御出で下さいました」

 

 

鈴のように美しい声が響く。彼女は『キアラン』この遺跡、アルトリウスの住居を守るNPCだ。

 

 

「キアラン、アルトリウスは居るか?」

 

「……居りません」

 

 

単刀直入に言われモモンガは言葉を失う。正直解りきっていた、だがもしかしたらという希望に掛けてみたかったのだがそれも打ち砕かれた。アウラはバツの悪そうな表情でキアランから視線をずらす。そうかとモモンガは言うと、彼女が現れた瓦礫の上に巨大なオオカミが座していることに気づく。

 

 

「あれは……」

 

「シフ!」

 

 

アウラはぱあっと表情を明るくしそのオオカミの名を呼んだ。『シフ』はアウラを一瞥すると瓦礫から飛び降りゆっくりとモモンガの元へ。先程のフェンリルとは違い、揺れる灰色の立派な毛並みはハイイロオオカミを沸騰させる。

 

 

「シフ、そこに留まれ」

 

 

静止の言葉を投げかけるキアランであるが、シフは留まることなく歩みを進める。キアランは仮面の奥で焦りに駆られ、一方のアウラは腰に束ねた鞭に手を掛ける。

 

 

「シフ!何故止まらない!!」

 

 

シフはモモンガの目と鼻の先までくるとすんすんと鼻を鳴らし、モモンガの匂いをかぎ始めた。次第にその次にくぅんと悲しげな鳴き声へと変わり瞳がモモンガと重なる。シフはオオカミ、人の言葉など発しない。だがその瞳から訴えようとしているのは何か、モモンガは気づく。

 

 

『私の友人はどこに居る?何故此処に来ない?』と

 

 

「すまない……シフ」

 

 

その言葉により耳と尻尾を下げ、振り向きそのまま何処かへと歩いていった。残されたモモンガ達には何処となく良くはない空気が流れる。するとキアランは

 

 

「もしかしたら……シフはモモンガ様から、アルトリウスの匂いを感じたのかもしれません。我々は彼に作られし存在、そしてシフは何よりも彼を信頼しておりますゆえ……彼の匂いがしたため帰還したのではないかと考えたのでしょう」

 

「そうか……」

 

 

どうしようもできない、自分には彼女達に何を、どんな言葉を投げかければ良いのか解らないのだ。

 

 

「……邪魔をしたな、キアラン」

 

「いえ、何か御座いましたら私共をお使い下さい。貴方様の盾となり、刃となりましょう……」

 

「ああ」

 

 

アウラに行くぞと声をかけ、再び森へと戻っていたモモンガ達。キアランはそれを見届けると彼女もまた遺跡の影へと消えていったのだった。

 

 

 

 

 

 




生で受ければ瞬時にHPは奪われ、盾で受ければスタミナは一気に削れ、しかも大抵複数体いる。奴等は本当に許しがたいですね。

車輪スケルトン、お前のことだよ。


この作品における、アルトリウスの種族データを簡単ではありますが記載いたします。

アルトリウス 異形種

通称 深淵歩き
    忠義の灰騎士

役職 至高の41人 切り込み隊長

住居 ナザリック地下大墳墓 第六階層森林エリアの古びた小さな遺跡

属性 ??? カルマ値:0~???

種族レベル デスナイト:15レベル
      アンデッド:15レベル
      ゴーストナイト:10レベル
       ほか

職業レベル ソードマスター:10レベル
      ベルセルク:10レベル
        ほか


このようになっとります。ちなみに、今回登場したアルトリウスのNPCキアランとシフは他のNPCとは違い、アルトリウスを『友』と認識させております。

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