深淵歩きとなりて   作:深淵騎士

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第六話

因果応報、したことは必ずや自分に帰ってくる、良いことも悪いことも。殺しているのだ殺されるのは当たり前だろう。アルトリウスは口には出さず、左右分割された騎士の死体を見てそう思う。

 

デス・ナイトと共に村へとやって来た時に最初に見た光景が、この騎士が老婆を嬲り殺しにしている所だ。必死に助けを求める罪無き者を、まるで虫の足を一本一本むしるように。アルトリウスは真っ先にこの騎士を深淵の大剣で縦に一閃した、不愉快だったからだ。ふとデス・ナイトを見ると次々に騎士を殺していく。

 

今手に掛けているのは金、金と叫んでいる男だ。哀れにもデス・ナイトの凄まじい力で踏まれ死が刻一刻と近づいている。他の騎士は誰も助けにいかない、目の前で仲間が殺されそうになっているのに。

 

 

「お、おだじゅけて――」

 

 

その言葉を最後に何かがへし折れる音と共に騎士は事切れた。推参な光景を目にした騎士達は錯乱したかのような悲鳴上げていく。

 

 

「落ち着け!!」

 

 

一人の騎士の怒号により辺りは静まりかえる。

 

 

「撤退だ!合図を出して馬と弓騎兵を呼べ!残りの人間は笛を吹くまでの時間を稼ぐ!あんな死に方はごめんだ!行動開始!」

 

 

その命令により騎士達は我に返り行動を開始した。この状況での的確な指揮、一糸乱れぬ見事な動き。アルトリウスはほうと声をあげ、指揮をした騎士に向かって歩く。騎士はアルトリウスを眼前に捉え迎え撃とうと試みる。

 

 

「名を知らぬ騎士よ、称賛に値する……人間は良い」

 

 

まるで喜んでいるような何処と無く優しげな声を騎士、ロンデスへと投げ掛ける。

 

 

「おおおお!!!!」

 

 

しかと柄を握りしめ、アルトリウスへと駆ける。正々堂々真正面から斬りかかる、良い男だ。こんな虐殺の指揮等しなければもっと優秀な指揮官になっただろうに、アルトリウスは残念がる。

 

 

「殺すには惜しいな……」

 

 

ロンデスの耳に聞こえたのはそれが最後の言葉になる。気づけば視界に首のない自分の身体が入り込んでいた……。アルトリウスは剣に付着した血を払う。

 

 

「……ん?」

 

 

デス・ナイトの動きが突然止まる。まだ四人ほど騎士は生き残っているのだが、上空から

 

 

「デス・ナイト。そこまでだ」

 

 

見上げるとアルトリウスは呆気に取られる。声の主は想像通りモモンガだ。しかし腕には籠手、胴には鎧、顔にはかなり奇妙な仮面を着けている。アルトリウスはその仮面が何なのかを熟知している。

 

『嫉妬の仮面』

 

クリスマスの夜に一定時間ログインしていれば、自動的にアイテムボックスに入るという謎のアイテムだ。つまりクリスマスなのに悲しくユグドラシルへログインしたプレイヤーへの哀れみ……なのだろうか。アルトリウスもこれを持っているが一度たりとも装備したことない。

 

 

(モモンガさん……他にいいのあったでしょうに……)

 

 

 

 

 

 

事態は収まった。モモンガさんは騎士達に脅しを掛け自分の飼い主の下へと逃がした。村は実質助かった事になる、尊い犠牲は出たが。村を救った対価としてモモンガさんは情報を求めた。当初の目的として私は情報を欲してこの村にも訪れようとし、この事態に関与したのだが……まさか彼とこんな場所で再会するとは思わなかった。

 

モモンガさんは情報を得たら俺にも提供してくれるらしい。こちらとしてはありがたい、それに北東に2キロ行った所にナザリックがあるらしい。私だけではなく、彼とナザリックもこの妙なファンタジー世界に飛ばされたとの事。どうやら私は然程遠くは無い場所へと飛ばされたみたいだ。もっと遠く離れていたらと思うとぞっとする。

 

そして現在、村長の家の前で私はモモンガさんが出てくるのを待っている。少し前に彼から非常に興味深いことを聞いた。それは……

 

 

「……」

 

 

無言で腕を組み、壁に背を預けて私の側で跪く女性を見る。黒い中々格好いい全身甲冑を身に纏い、こめかみからは山羊のような角だけが露出している。間違いなく、この女性は……

 

 

「アルベド」

 

「はい、どうなさいましたか、アルトリウス様」

 

 

綺麗な声で反応をしてくれる女性……アルベド。彼女はナザリックのNPC、感情を持たず只命令を待つだけの存在、の筈なのだがこの異世界へ転移した事により、他のNPCも同様に明確な意思を持ち行動しているとの事だ。

 

 

「何故私に対して跪いている?」

 

「貴方様は至高の御身の一人、忠義を尽くすのは当然です。アルトリウス様、一つお聞きしたい事があるのですが」

 

「……何だ」

 

 

アルベドは顔を上げその兜のスリットから、黄色の光が一瞬見えたような気がした。

 

 

「何故ナザリックから御姿を御消しになったのでしょうか?」

 

 

さて困ったものだ。病気になってて入院した、等と言っても信用は無いかもしれん。現実世界なら通るが、この世界では通らんだろう。

 

 

「……ナザリックよりも遠い地へと行っていた、様々な経験を得るために。私は学んだ、私自身の視野の狭さに……」

 

 

嘘は言っていない、入院中は本当に様々な経験をしたのは事実。現に私は己の視野の狭さの、器量の小ささのせいで何度も失敗をした。チラリとアルベドを見る。

 

 

「……つまり、己の力を高めるために旅に出たということですね!」

 

「……へ?」

 

 

今少し違う事をいった気がするが……何故そんなにスリットの奥がキラキラしている!!

 

 

「何て素晴らしいお考えなのでしょう!我等守護者よりも強く、気高い存在であるアルトリウス様が、更に高みを求める為に……現状で満足している私達とは雲泥の差、貴方様を見習い、私も向上心を持たねばなりません!」

 

「ああ……うん、これからも励め?」

 

 

はいとアルベドは良い返事で返してくれた。

 

 

「てっきりアルトリウス様は私達とナザリック、そしてモモンガ様を見捨てたとばかり思っていました……ああ、何て私は愚かなのでしょう」

 

 

その言葉に胸が少しだけ痛む。私に残った人の心が軋んでいるのだろうか?アルベドは更に深々と頭を垂れる。

 

 

「御許しください、アルトリウス様」

 

「いい、誰にも告げずに姿を消したのは私だ、非は私にある……そうだな、この案件が終わったら私はナザリックへ帰還しよう」

 

「それは大変喜ばしいことです。皆も同様、喜ぶことでしょう」

 

 

ふと思い出した、私のNPC達を。あいつらもアルベドと同じように意思を持っているのだろう、会うのが楽しみだ。そうこう話していると、モモンガさんが村長の家から出てきた。

 

 

「お待たせしました」

 

「いえいえ、それで情報は得られましたか?」

 

「はい、十分とは言い難いですが現状で満足するしか」

 

「そうですか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

村では葬儀が行われ、死んでいった者達を弔っている。先程モモンガが助けた少女達も両親の墓の前で泣き崩れていた。モモンガ……いや、『アインズ・ウール・ゴウン』とアルトリウスはその様子を遠くから見ていた。

 

モモンガは自分とアルトリウス以外のギルドメンバーが現れるまでその名を語るつもりとのこと。それと同時に皆の意思を継ぐと言う意味でもあるらしい。アルトリウスはそれを快く承諾した。アインズ・ウール・ゴウンは長い間彼一人の手で継続できたに等しい、ならばその名はモモンガの為にあると。そして皆が戻ってきたら、モモンガに戻れば良いと。

 

 

「それで死んだ村人を蘇えらせようとしてるんですか?」

 

 

アルトリウスはアインズが、ロープの下で撫で回しているワンドを見て投げかける。

 

 

「蘇生の短杖《ワンド・オブ・リザレクション》で果たしてこの世界の人間が蘇るかどうか解りません。もし効果が無くこれが消失したとしてもまだストックはかなりあります」

 

「それは止めておいた方がいいでしょう、人間は死にます、遅かれ早かれ。そしてどんな存在にも生まれた時から死というのものが付き纏います、その道理は私達が幾ら人間から懸け離れた存在になったとしても覆してはいけない気がします」

 

 

軽く首を横に振りアルトリウスはアインズに向き直る。

 

 

「すいません、変なことを言いました。異形になった私が何を言っているのでしょう」

 

「いえ、今の状況を考えて何もかも不足している事態ですし、下手に蘇生させて妙な状況になっては目も当てられませんから。それに蘇生させるメリットがありませんからね……」

 

「……難儀なものですね」

 

 

すると葬儀が終わり、一人の青年がアルトリウスの元へと走ってきた。

 

 

「えっと、アルトリウス様でよろしいのですよね?」

 

「ああ」

 

 

腰を勢いよく曲げ、頭は腰よりも低い位置に下げる。

 

 

「祖母の敵を取ってくれてありがとうございます!」

 

 

ふとアルトリウスは思い出す、騎士に嬲り殺しにされた老婆を。彼はその老婆の孫か何かだろう。

 

 

「……君はそれで良いのか、私を恨んでないのか?私が間に合っていれば君の祖母が助かったのだぞ?」

 

 

青年は口ごもるが

 

 

「確かに……そうですけど、あそこで死ぬのが祖母の運命だったのかもしれません。ですが、祖母の命を奪ったあの騎士が平然と生きている方が僕にとって何よりもも許せない……あの時、騎士が貴方の手で殺されたとき、僕は貴方を恨むよりも感謝の気持ちで溢れかえりました。だから、お礼を言わせてください。ありがとうございました!」

 

 

もう一度頭を下げると村へと駆けて行った。アルトリウスはアルベドからピリピリとした気配を感じ、アインズもそれに気づき

 

 

「アルベド、お前は人間は嫌いか?」

 

「はい」

 

 

即答かとアルトリウスとアインズは内心突っ込む。アルベドは更に言葉を続けた。

 

 

「脆弱な生き物、下等生物。虫のように踏み潰したらどれほど綺麗になることでしょうか」

 

 

アルベドの過激な言葉にアインズは頭を抑える。アルトリウスが一歩前に出ると

 

 

「確かに私達異形なる者にとって人間は弱い、指で突けば弾け飛ぶだろう、撫でれば潰れよう。だがな、人間には私達に無い強さがある」

 

「私達に無い強さ?……それは一体……」

 

「それは自分で気づけねば意味が無い……精進せよ」

 

 

付け加えるように

 

 

「アルベドの気持ちは十分にわかる、その考えを捨てろとは言わん。だがこの村では冷静に、優しく振る舞え。演技というのも重要だぞ」

 

「はっ、畏まりました」

 

「よし、ではアルベド、アルさん。ナザリックへと帰るとしましょう……と言いたいが」

 

 

モモンガの視線の先には、緊迫感のある表情をしたカルネ村の村長。彼が此方に向かって駆け寄ってきたのであった。アインズは小さな声で

 

 

「また厄介事か……」

 

 

 




この世界で月光剣とか出たらどんな位置づけになるんですか気になります。月光剣だけではなくて他の特殊な武器も上位に組み込みそうです。

※内容を少し修正しました。

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