「こちらは土岐和哉さん。ココアさんがここに来る少し前までうちで働いていた方です」
「土岐和哉です。これからしばらくここで生活させて頂きます。よろしくお願いします心愛さん」
昨日お店に来た男の人だ。見た感じ年は私より二つ三つくらい上だろう。この人はチノちゃんにとってどんな人なのだろう。
そんなふうに考えていると今度は私がチノちゃんから紹介された。
「ココアですっ。えっと、去年の春からここで住み込みバイトをしています。よっ、よろしくお願いします」
なんだか変に緊張する。理由はわからないけどこの男性との距離感が測れない。
自分が今まで家族以外の男性に取ってきた距離は何故だかこの人には違う気がしてしまう。
もっと近いところにいたような・・・・例えば・・・・身体を重ねるような・・・・。
そこまで考えたところで明らかにおかしいことに気付く。
この人とは確かに初対面のはずだ。過去に会ったことなどは絶対にないと断言できる。
なのにどうしてそんな風に思えてしまうのか。
理解できない自らの気持ちに恐怖すら感じる。普段このようなことはあまり気にせず勢いだけで距離を測れてしまう自分にとってあまりに異常な事実が心拍を加速させ体が硬直する。
そんな状況で差し出された彼の手。
握手を求めているのは明らかだ。しかし何故だかその手を握り返すことが出来ない。
「えっ、あっ。えっと……」
体から伸びかけた腕は虚空をさまよいするりと糸が切れたように落ちた。
「あの……わたし……先に学校行ってくるよーーーーっ!!」
とうとう堪え切れなくなった私は突然立ちあがりそのまま家から逃げ出してしまった。
◇◇◇
「そんなことがあったのね……」
「そうなんだよ~」
千夜ちゃんは顎に手を当て思案してくれている様だ。いつもはどこか抜けている千夜ちゃんだが、こういうときにはちゃんと相談に乗ってくれる頼りがいのある友達だ。
「そうねぇ……これはもう正面からぶつかり合うしかないわっ!」
「ぶつかり合うって……?」
こうして役に立つアドバイスを……
「合戦よっ!!狼煙をあげいっ」
……よくわからない。
「冗談よ。まぁ仲直りって言うのもおかしな話だけど、ココアちゃんはその人と仲良くなりたいのでしょ?」
「……うん」
「ふふっ。それなら簡単じゃない。ココアちゃんはいつも通りにしてればいいのよ」
「いつも通り?でもそれじゃあ……」
「大丈夫よ。ココアちゃんなら出来るわ」
何故だか自信満々にそう言う千夜ちゃん。
「……わかった。頑張ってみる」
「ふふっ。それがいいわ」
柔らかい微笑みを浮かべこちらに手を振る千夜ちゃんに背を向け、ラビットハウスに足を踏み入れる。
「た、ただいまっ!」
緊張はする。それでもちゃんと向き合わないと。これから一緒に暮らす男の子と仲良くなりたい。
ただそれだけの純粋な思いをぶつけよう。
「あっ、あのっ!私と―――――――」
変な切り方になってしまったような気も・・・・