First Voice / L@st Song   作:梶原聡里

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1話 人見知り、集う

「最上さん、貴女・・・まさか一人じゃ気が重いからって私を呼び出すとは思わなかったわ」

 翌日、二期目のリーダ会議ということで私と千早さんの打ち合わせが事務所の会議室で設定されていた。

 ・・・が、今は約束の時間三十分前。

 折角の休日に呼びつけたことが原因で最高に機嫌が悪い志保と、

「静香ちゃんと千早さんじゃ間が持たないからってまさか私が呼ばれるとは思わなかったよ、志保ちゃん」

 突然の呼び出しにも関わらず、何故か機嫌のいい可奈の姿がそこにあった。

「・・・・・・なに、文句あるの?」

 私のなんだかんだ言って可奈とべったりなのね、という視線に気がついたのか不機嫌そうにその視線を携帯から上げた。

「それより、静香ちゃんが終わったらアイス奢ってくれるってホント?」

 ・・・なるほど、それで可奈はつられたわけか。志保を睨むと露骨に視線を逸らされた。払う気はないようだ。

「背に腹はかえられないわ・・・行くわよ」

「静香ちゃん? どうしてそんなに気合はいってるの?」

「だって、千早さんよ? むしろ可奈は何とも思わないの? 心の歌姫でしょう?」

「流石にもうなれるよ・・・だって一年くらい一緒にいるんだよ?」

 そうなのだ。可奈はもうすっかり歌が上手くなっていた。鼻歌の殺傷力は発声が上手くなった分通るようになり三倍マシに跳ね上がったというのがみんなのおおよその見解だけれど、

「最上さん」

 昨日は呼びつけにされたが今日は比較的冷静なのかいつもの呼び方私を呼ぶ志保。

「可奈は私たちと違うもの」

「違うってどういう意味よ」

 真顔で言った。

 

「コミュ症じゃないわ」

 

「・・・志保、貴女が私をどういう風に見てるのかよくわかった気がするし、私友達いっぱいいるわ!」

「・・・・・・そう、いえ。そうね・・・最上さんは、友達が、たくさん、いる」

「何よその憐れみの視線は」

「いや、そう思ってるならそのままにしておいてあげようっていう同僚の気使いよ・・・ふぅ、私少しは大人らしい対応できたかしら、可奈?」

「煽ってるっ、普段みんなの会話ペースについていけなくて『あ・・・』とか『・・・』から会話を始める志保ちゃんがすごく器用な煽り方してる・・・!!」

「あ?」

「なんでもないです・・・」

「大切にしなさいよ、数少ない友達でしょう?」

「そんなこと・・・」

「!?」

「・・・・・・チッ面倒だわ。あなたはいつもいつも、厄介事に巻き込んで・・・それに、毎日三食うどん食べて、小麦粉中毒なの? 飽きないのかしら?」

「飽きないし、私が何食べようと勝手でしょう!?」

 キレた。私の事は何を言われてもいい。ただ・・・饂飩を愚弄する奴は許さない。

「何を食べても、勝手?」

 携帯からゆっくり視線を挙げた志保はその不機嫌そうな三白眼でギロリトこちらを睨んだ。

「貴女、次倒れたら貴女の実家に貴女の食生活暴露してやるわ」

「そんな残虐非道な真似、許されると思ってるの!?」

「ああもう二人とも落ち着いてええええええええええええええええええええええ!!」

 瞬間、足元にあった植木鉢が音を立てて割れた。

「うるさい!」

 反射的にド突く志保。

「ぐえ・・・」

 その鋭いボディブローが可奈の溝に突き刺さると、アイドルがしてはいけない悲鳴を上げて崩れ落ちた。

「・・・大丈夫なの、これ?」

「頑丈だから」

 即答する志保。

「いや、貴女が答える所じゃないでしょうこれ・・・可奈、大丈夫?」

「・・・・・・うん、一瞬胃がひっくり返りそうになったけど、うん・・・よし、飲み込んだ」

 大丈夫じゃない。同時に、こんな危険な奴をサブリーダーに付けたプロデューサーが憎い。

「安心しなさい、痣は残らないから」

 違う、そうじゃない。あと私の腹を見ながらボディブローの素ぶりをするのをやめろ。

 すると復帰した可奈が事務所の窓を指さす。

「どうしたの、可奈?」

「二人とも、喧嘩するならせめて中に入ろうよ・・・・・・ほら、千早さんがびっくりして窓からこっち見て・・・春香ちゃん!?」

 見ると、二階から若干引き気味の千早さんとお煎餅片手にニコニコ手を振る春香さんの姿があった。

「これ、可奈に頼るのは無理そうね」

 志保が苦々しげにそう呟いた。。

「・・・なんでよ?」

「ほら」

 そういうと志保は顎で可奈を指した。

「ああ、もう中入るよ? ・・・春香さんがいるなんて聞いてないよぅ・・・えへへ」

「どうすんのよこれ、コミュ症が一人増えて制御不能までおまけで付いてきただけじゃないの」

 どうやら望みの可奈もちゃんと機能しそうになかった。っていうか、その気持ち悪い笑い方は亜利沙以外のアイドルがしてはいけない奴だ。

「これ、私自分から不幸に飛び込んだかしら」

 表情が引きつるのがわかった。

「はいはい不憫不憫」

 そんな私の様子をうかがうこともなく、携帯から一切視線を上げずに適当な返事を返した志保を一瞥し、ため息。

「・・・・・・報われたいわ、今回こそ」

「だめよ、それじゃあオチないじゃない」

 ああ、報われない。

 

 

 

「おはよう・・・最上さん、随分と大勢で来たのね」

 事務所の冷房が珍しく効いていた。765の事務所といえばいつもクーラーに故障中と大きな張り紙がされ、夏場になれば事務方のスタッフたちは盥に氷を浮かべて素足を突っ込みながら仕事をするという昭和情調あふれる事務所だったのに・・・

「おはようございます。・・・ついにクーラーが治ったんですね」

「持ってきたのよ、プロデューサーがどこかから」

「・・・はぁ、事務所のプロデューサーさんがうらやましいです」

「え? 違う違う、劇場の方のプロデューサーだよ」

 レッスン上がりなのか、単に事務所だからなのかシャツ一枚でくつろぐ春香さんがそんな訂正をした。

「春香さん、おはようござ・・・」

「は、春香さんっ! おはようございます!!」

「可奈、うるさい。みんな驚いてるわ・・・いつまでファンやってるのよ」

「うぅ・・・だって、久しぶりだったから」

「おはよ、可奈ちゃん、静香ちゃん、志保ちゃん」

「はいっ!」

「またそうやって甘やかして・・・」

「あはは、志保ちゃんはすっかり可奈ちゃんの保護者だね」

「北沢さん、もっと言ってあげて。・・・この子、本当に身内に甘いんだから」

「すみません、そんなつもりじゃ」

「今日だって静香ちゃんと千早さんの二人に挟まれたら間が持たないから私に来てくれって」

「余計なこと言わないっ!」

「なるほど、普段はそういう感じなのね貴女たち」

「千早ちゃんも二人だけだと心細いからって、私の事呼んだもんね?」

「くっ・・・春香、貴女それは言わない約束って!」

「まあ、千早ちゃんもこんな感じだから静香ちゃんも志保ちゃんもあんまり怖がらなくても大丈夫だよ」

「か、勝手に納得しないでください! ・・・最上さん、笑ってないで貴女も!」

「しょうがないわね、志保が助けてっていうから・・・・・・本題に入りましょうか、千早さん」

「そうね。まずスケジュール。PSL本番が九月の最終週になってるつまり今が六月末だから大体三カ月程度時間があるのだけれど、問題一つ目、今回のユニットはリーダーからの指名制になっているわ・・・最上さんは誰かに声をかけていたりするのかしら?」

「はい。・・・といっても、未来と翼がすでに乙女ストームとして活動していたので、事前に話を通していたのは星梨花だけになってしまいましたけど」

「交友関係の限界」

 となりのしましまシャツがぼそっと何かを口走った。

「うるさい」

「志保ちゃん、そっとしておいてあげるのが大人だよ」

 そんな志保に耳打ちをする可奈。そのアドバイス、正しいのかしら聞こえてるわよ?

「可奈ちゃん、言わないで上げるのが大人だよ」

 春香さんが可奈を嗜める、が・・・

「はい、次から気をつけます!」

「よろしい、で・・・何の話だっけ?」

 結局誰もフォローしてくれなかった。

「最上さん、いい胃薬あるわよ? 水瀬さんから貰ったものだけど」

「どうにもならなくなったら戴きます・・・あと、現状で集まっているメンバーの話です」

「そうね。私は・・・さっきジュリアと話したらオッケー貰えたし、これから残りの三人・・・いえ、二人集めるわけだけど」

「もう一人はだれなんですか? ・・・まさか!」

 視線が可奈に集まる。

「今回は駄目だって不採用通知貰った後なのでした・・・」

「千早ちゃん、慕ってくれる後輩は大事にしなきゃ」

「可奈にはもっとたくさん学んでほしいのよ。私みたいに歌だけじゃ勿体ないわ。もちろん、最上さんも北沢さんも」

 そういうと、千早さんは窓の外に視線を向けた。

「・・・じゃあ、可奈ちゃんは志保ちゃんのところに入ったらどうかな?」

「それは・・」

「お断りします」

「・・・ちょっと、なに勝手に断ってんのよ」

 強めな拒絶をした志保は、そのあとに可奈が続けた。

「お仕事の指示で組むのならもちろん全力で頑張りますけど・・・今回みたいな時は出来るだけ一緒にならない方がいいかな、と思って」

「!!」

「どうしたんですか春香さん? 凄くうれしそうな顔をしてましたけど」

「え!? そう?」

「春香は顔にでるのものね・・・・・・でも、そうなると大変ね。二人とも当てはあるの?」

「「・・・・・・」」

 そろって首を振る私たち。

「うーん、レッスン好きなのもいいし頑張るのも応援するけど、一応同じ事務所なんだからもうちょっと二人とも輪の中に入ろうよ・・・」

「私は、ほら・・・未来達がいるし」

「現実を直視するべきね。貴女と、私は、ぼっち・・・と」

「やめろ!」

「静香ちゃん」

 可奈が気付いて欲しそうに袖を引っ張る。

「なによ、可奈」

「・・・さみしかったら、私もいるから、ね?」

 崩れ落ちる私。

「うわートドメ入れたね、今。ぼっちに詳しい解説の如月さん。今のえげつない切りこみ、どうでしょう?」

「私だったら部屋に籠るわね」

「ちょっと、可奈! どういうつもり!?」

「え、なんで志保ちゃんが怒るの!?」

 私が崩れ落ちている脇で志保が何故か可奈に掴みかかった。

「うんうん。志保ちゃんもああいう馬鹿な真似が出来るようになって私少し安心だよ」

「私は心配ね、風紀が乱れそうで」

 あの、先輩方・・・お願いですから他人事で静観するのやめていただけませんか?

 

 

 

「そういえば、千早さんのユニットで決まってるもう一人って誰なんですか?」

 話が進まないからという理由で春香さんに連れられて志保と可奈はどこかに連れて行かれてしまった。結局、こうなるんだったら最初から一人で来るんだったと心から反省。

「もう一人は風花さんよ」

「・・・意外でした」

 豊川風花さんは、千早さんとは少しタイプの違ったアイドルで、その恵まれたビジュアルを物理的に前面に押し出して活動しているセクシーアイドルだ。

 

そう、セクシーアイドルだ。

 

「くっ・・・いいじゃない。近くにいれば乳分はぎとれるかもしれないでしょう?」

「千早さんって時々わけわかんないこと口走りますよね」

「最上さんには言われたくないわ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 鋭い眼光が交差して、落ちる沈黙。

「やめにしましょう、建設的でないわ」

「そうですね・・・でも、どうして」

「風花さんから直接お願いが来たのよ。『千早ちゃんとなら、セクシー路線じゃなくてすむから』って・・・どういう意味かしらね、これ」

「・・・歌を頑張りたいってことなんじゃないですか」

 千早さんの体からにじみ出た殺気に気が付き適当にあしらう。ここで心にもないことを言うと一気に機嫌が悪くなるので気をつけなければならない。

「最上さんは本能的に長生きのようね」

 いや、そこでいい笑顔されても怖いだけなんですけど。

「でも、珍しいですね。風花さんはてっきりいつも通りあずささんやこのみさん辺りと組むつもりでいるのかと思っていました」

「・・・・・・そうね、その辺だと・・・ほら、セクシー路線に・・・くっ」

「ご自愛ください」

「気を遣わせて悪いわね」

 本当に。

「ジュリアも、風花さんと組むのは初めてだからって喜んでいたわ」

「・・・・・・」

 早い。もう既にユニット内のコミュニケーションを取り始めている。

「連絡とかってどうやってとってるんですか?」

「LINEね」

「え、千早さん携帯使えるんですか?」

「春香ーっ!?貴女劇場の子達に余計なこと吹きこんだでしょう!!」

 ・・・返事が無い。逃げたのか、それとも外まで出掛けてしまったのか。

「そうですよね、流石にそのくらいは使えて当然ですよね」

「・・・実は、昨日ジュリアに教わったばかりなのよ。ほら、見なさい? アドレス帳も事務所組と劇場組くらいしか・・・入ってないし」

「あ、じゃあLINE繋げましょう! 私もあんまり繋げてないんですけどね」

「本当?」

「え、ええ」

 思いのほか食い付きが良かったので若干引く。

「いい、最上さん。なにか困ったことがあったらどんどん頼りなさい」

「あ・・・はい。よろしくお願いします」

 こんな感じではじめてのリーダー会議の時間は過ぎていったのだけれど、今日の教訓としては千早さんって案外可愛い人なのかもしれないってことと

「最上さん、アイス食べに行くわよ」

「アイス三つ乗っけていい?」

「アンタ達何もやってないじゃないの・・・」

 安易に人手を増やすと人件費がかさむと言うことだろうか。

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