First Voice / L@st Song   作:梶原聡里

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2話 不意打ちオファー

「話はきかせていただきました!」

 学校帰り、劇場のロッカールームでトレーニングウェアに着替えていると、突然ロッカーから松田亜利沙が現れた。

「・・・警察呼びますよ?」

「おっと、志保ちゃん流石の塩対応・・・はい、ちーず!」

「話を聞いてください・・・お願いですから」

「アイドルちゃんのお願いとあっては聞かなきゃいけませんねぇ。この写真は依頼料として貰っておきます」

渡す気なんてないくせに。

「それで?」

「メンバーを探しているそうですね!」

「間に合ってます」

 丁寧にお断りする。ただでさえよく吠え、よく噛みつく狂犬をリーダーに据えているチームなのだ。これ以上、騒がしくなるのは何としても阻止しないと。

「え、もう決まっちゃったんですか!?」

「そんなことはないです」

「・・・志保ちゃん、ひょっとして私のこと嫌いですか?」

「・・・・・・別に?」

「なんですかその意味ありげな無言の間は!?」

 嫌いではない。ただ、私の中で人間は二つのカテゴリーにしか分類されない。

めんどくさい人間と、

どうでもいい人間、それだけ。

亜利沙さんはめんどくさい人間側。流石に、どうでもいいなんて思えるほど私はストーカーまがいに対して優しくはなれないし、なんだかんだいってこの人は・・・、そうか。

「亜利沙さんは・・・」

「なんですか? もしかしてついに志保ちゃんのデレ期が私にも」

「来ません、一生」

「諦めませんよ」

 迷惑なレベルでタフな人だ。

「それで、なんですか?」

「亜利沙さんは早くユニットに入りたいんですね」

「そりゃあ、もう」

 即答。

「なんたって、アイドルちゃん達と密接に・・・ムフフ」

「・・・もしもし、ええ。ちょっと陰湿なストーカーが」

「どこに電話掛けてんですか・・・って本当に繋がってる!?」

 ためらいなく掛けた110番に気が付き、携帯を取り上げられてしまった。

「ちょっとぉ、冗談でもそういうことすると警察の人に迷惑でしょー? あ、マジすんませんでしたー、っとこれでよし。・・・何やらすんですか!?」

「今のギャル対応、なんなんですか?」

「知り合いに通報された時の為の緊急手段、『頭の軽いギャルのじゃれあい作戦』です!」

 緊急手段にしては手慣れ過ぎていた気がするが。

「・・・ツッコまないことにします」

「ベネ。世の中には知らない方が安全に過ごせることが結構あるんですよ?」

 それは女子高生が持つべき秘密ではないのだろうか?

「というか私でもこのくらいは出来ますけど、可憐さんや志保さんにはかないませんよー」

「可憐さんの演技はもはや生き様ですから。私は・・・まだまだです」

「でもでも、この間の小学生メイド、なかなか様になってましたよ?」

「だから!」

「顔真っ赤にする志保ちゃんも可愛いですねぇ、そらさん!」

「良い表情ですね! パシャリ、と。失礼しましたー」

「・・・ちょっと、どこから現れたのよそらさんは」

 どこからか現れた劇場専属カメラマンが風のように現れ、写真を撮り、スライドするような謎の機動で去って行った。

「ありさたちはどんなところにでもいます。・・・ロッカールームの棚の上でさえ」

「もう妖怪に転職してください・・・」

「百目鬼とかになって千里眼を手に入れたいですねー・・・好きなアイドルちゃん達を動かずその場でリサーチ・・・たまりません。そしたらそしたら、妖○メダル志保さんにはアイデア料としてプレゼントしちゃいますね!」

「いやです、そんな呪いのアイテム」

「呼ばれなくても現れちゃいます」

 朋花さんに払ってもらわないと・・・というか最近、劇場の人たちからの弄りがラフい。かなり踏み込んだ攻め方をしてくるものだから面倒で仕方ない。

「それで、何の話でしたっけ?」

「どうしてありさは駄目なんですか!?」

「日頃の行いじゃないですか?」

「身も蓋もない・・・・・・がっくし」

 本当は、昨日事務所で春香さんに拉致された際に春香さんが亜利沙さんが欲しいと先に言われてしまっていたのでこちらとしてはその発言を聞かなかったことにしてとることも出来なかったのだ。

「・・・そのうち、良いことありますから」

「慰めてくれるんですか!?」

 詰め寄ってくる亜利沙さん。

「いえ、あの・・・近いです」

「これは失敬・・・じゅるり」

 涎を拭くのは本当に引いた。

「でも・・・」

「でも、なんですか?」 

「・・・・・・・・・ちょっとした予言です。きっと、近いうちに良いことありますから」

 我ながら自分の言葉を口にしようとするとどうしてこんなに不器用なんだろうかと嫌になってくる。でも・・・、

「・・・プッ」

 何故か亜利沙さんが吹き出した。

「なんで笑うんですか」

「志保ちゃんが冗談言うのは少し意外だったので。これはデータベースを更新しなくてはいけませんね」

 一度、亜利沙さんがデータベースで私の事をどうリサーチしてるのか調べようと、心に誓った瞬間だった。

 

 

 

 

 

「静香ちゃん静香ちゃん静香ちゃん!」

 夕飯の饂飩を劇場のフードコートで啜っていると、思わず身構えてしまうほどハイテンションな北上麗花さんがこちらに向かって走ってた。

「な、何事ですか?」

「モガミン、流石にテンションだけで身構えるのは茜ちゃんもどうかと思うぜぃ?」

 レッスンで遅くなってしまった私は偶然劇場の売店の一つ、『茜ちゃんショップ』からクローズ処理を終わらせて出てきた野々原茜さんと一緒に晩御飯を食べていたのだけれど、今月の売り上げは少し厳しいらしく茜さんのテンションは割とロー。普段滅茶苦茶やる人だが、ふざけてもしょうがないところでは大人しいのが彼女だ。

「どうしたんですか、麗花さん」

「私、静香ちゃんのユニットに入るね!」

 瞬間、眩暈で視界が歪んだ。

「モガミン、まだだ。まだいける!まだやれる!モガミン出来る子!モガミンは出来る子だよ!!」

 茜さんは早速他人事として無責任に煽る方針に切り替えたようだ。

「えっと・・・麗花さん、順序立てて説明してほしいんですが」

「ジュリアちゃんが千早ちゃんのユニットに入っちゃったの! だから私も入れてって言ったらもう定員オーバーだからって言われて、静香ちゃんのユニットなら入れるかもってプロデューサーさんに言ったらオッケーもらえたから、よろしくね?」

「ごふっ・・・」

 説明が説明になっていなかったことと、既にプロデューサーに話が通っているという事実に崩れ落ちる私。

「モガ・・・ミン、死ぬな・・・死ぬな最上ぃいいいいいいいいいいい!!」

 机に突っ伏した私を大げさに茜さんが大げさに弔う。

「急病ですか!?」

 驚いた風花さんがどこからともなく飛び出してきた。半裸で。

「大丈夫です」

 ケロリと起き上がって見せると、

「静香ちゃん、茜ちゃん、冗談でもそういうことはしちゃいけません!」

「「はい、ごめんなさい」」

 なんか怒られた。半裸に。

「風花さん、半裸で説教なんてそういう企画ですか?」

「え? ・・・きゃぁああああああああああああああああ!!!???」

 来た時と同じようにあわただしくどこかに消えていく。

「ええもん見させて貰いましたわ」

「オッサンですか」

 風花さんが去った方に柏手を打つ茜さんを半目で睨む。

「キレのいいツッコミ、69点♪」

「謎の採点を始めないでください麗花さん、それよりもプロデュ・・・」

「採点基準はメリハリと勢い、あと魂。静香ちゃんはレスポンスの速さで点数稼げてるけど魂がのってないから減点対象でーす」

「野々原さん・・・」

「そんな目で見られても茜ちゃんにも出来ることと出来ないことがある。ちなみに出来ないこととは主に体を使わない一発芸のことなのだ! そして、モガミンを麗花ちゃんから救うこともミッションインポッシブル」

 虚空にズビシッと人差し指と目線を向ける茜さん。この人もなかなかおかしい。そしていざという時に頼りにならない。

「だれに解説してるんですか・・・」

「え、これからお世話になるモガミン?」

 は?なに言ってるんだこの人は。

「茜ちゃんさー、今最高に困っててさー」

「劇場の売店で売り始めた茜ちゃん人形が売れないんですよね?」

「おいおいそんなにはっきり言われると茜ちゃん傷ついちゃうかも・・・とかいう配慮は」

「ないです」

「だよね! 知ってたよ畜生! でも強引に推し進めるけど、ここらで一発茜ちゃん人気者になっちゃえば」

「キャラグッズも売れて・・・大儲け?」

 とてつもなく、安易な発想をみた。

「・・・札束風呂?」

 それに中々懐かしい汚さで続ける麗花さん。

「ドンぺリタワー・・・!」

「ディスコでフィーバー!」

「「イェイ、目指せドバイ!!」」

「なんで野望が昭和なんですか。それに最終目的地が露骨に成金!?」

 人生楽しそうだなアンタら。

「麗花ちゃん・・・」

「茜ちゃん・・・」

 堅い握手。

「新ユニット、『ぷっぷかプリン』結成! ・・・で、どうだい?モガミンも入って『ぷっぷかプリン青』になる?」

「完全に私、取ってつけた位置じゃないですか」

「じゃあ『ぷっぷかプリン饂飩』」

「やぶさかでもない」

 ただ、末尾がうどんというのが強いて言えば気になる点か。

 

「問題大アリでしょう?」

 

「やっぱりそうよね、志保。饂飩は文頭の方が生えるはずよ!」

 たまにはしましまシャツも良いこと言う。・・・って

「あら、志保。今上がり?」

「良かったわ、亜利沙さんとそらさんに絡まれてレッスンが遅くまでずれ込んだのは最高に憂鬱だったけれど・・・結果的オーライとしましょう。で、どういう量見よ。リーダー?」

 志保は珍しく、わかりやすく怒っていた。それこそ腰に手を当てて仁王立ちである。

「わかるわ、饂飩の位置が気に食わなかったんでしょう? ・・・なんなら『しましま』ってつけるしましま?」

「結構よ! というか貴女、今私の事『しましま』って呼んだでしょう」

「気のせいよ、しほしほ」

「ええい馴れ馴れしい! っていうか誤魔化しついでにへんな仇名をつけようとするのはよしなさい静香! そうよ、貴女の事なんて呼びつけで充分よ」

 ついに呼びつけになってしまった。私も名前で呼んでるし、今さら気にしないけど。

「別にそれは構わないけど、じゃあ何が不満なのよ」

「メンバー、少し尖り過ぎていないかしら?」

 肩にガッと掴むと真剣に私の目を見てもう一度わかりやすいように言った。

「私たちの、手に、余るっつってんの!」

「志保ちゃん志保ちゃん、一応茜ちゃん達は年上、アーユーオーケー?」

 聞いていた茜さんが抗議の声を上げる。

「・・・・・・すでに私は亜利沙さんの参加を切り捨ててる女ですよ」

 真顔でそんなふうに切り返した志保に茜さんは若干引きながらも

「うわぁ、マジだ。麗花ちゃんどうするどうする?」

 麗花さんに助けを求めた。

 

「・・・志保ちゃんってバラエティアニマル衣装作ってもらったら絶対シマウマだと思うんだけどどう思うかな?」

 

 無論、聞いていない。

「はは、聞いちゃいねえぜ麗花ちゃん」

「しましま引き摺らないっ!!」

「でも、麗花ちゃんと茜ちゃんをパーティに引き入れると」

「ユニットです」

「志保ちゃんって空気読めないって言われな・・・ごめんね。辛いこと言ったね」

「交渉する気が無いならそこの饂飩人間引き取って帰りますけど」

「待って、私が饂飩と同等なんて饂飩に対して不敬だから訂正しなさい」

「静香、前から言おうと思っていたけれど。貴女も相当大概よ?」

 なにいってるんだこのしましまシャツは。人間が饂飩様と同等だと? 饂飩裁判にかけられてしまえ。

「た、たしかにそうなるとボケばっかりでバランスが悪いかも・・・茜ちゃんツッコミにまわろうか!?」

「え、なんですか今のボケ?」

「・・・わかりづらいわね、麗花さん今の何点ですか?」

「んー・・・六点かな!」

「鬼厳しくないかいその採点? 内訳は?」

「憐れみ六点!」

「もう放っておいてよっ! いいよ、じゃあもうプロちゃんに静香ちゃんのユニットに入ったってメールしちゃうから」

「その自棄のなりかたは違うでしょう・・・!」

「はい、送信。へっへっへ、茜ちゃんから逃げられると思ったらそうはいかないぜ! だって ちきゅう は まあるいんだもん!!」

 桃鉄なんて今の子は知らない。

「茜ちゃん志保ちゃん静香ちゃん、これから頑張って良いユニットにしていこうね? えいえいおー」

「おー!」

 勝手に盛り上がる二人を余所に、志保にだけ聞こえる声で呟く。

「・・・あれ、結局私麗花さんの思惑に乗せられただけなんじゃ」

「そもそも貴女、どういう経緯で麗花さんはこのユニットに入ったのよ」

 どうやら、志保はその辺りを聞き逃していたようだった。どうせだから丁寧説明してやることにする。

「ジュリアさんが千早さんのユニットに入っちゃったからって言ってたけど?」

「なにそれ」

「さあ?」

 以上、説明終了。

「じゃあ、茜さんは?」

 ついでだからおしえてやることにする。

「店に並べたグッズ分のマイナスを帳消しにするためって言ってたわね」

「・・・そう」

「何も言わないのね」

 てっきり何か噛みついてくるものだと思っていた。

「静香」

 真剣な表情で真っすぐこちらを見つめる志保。

「なによ」

 次に彼女が口にした言葉は予想外の言葉だった。

 

「お金を稼ぐチャンスがあるなら邪魔するより便乗するべきよ」

 

「・・・なるほど、あなたも苦労してるのね」

「母子家庭よ、やよいさんと一緒にセールに行く仲よ? なめないで」

 頷く。わかった、貴女の主張は痛いほどわかった。

 ならば、リーダーとしての決断はこうだ。

「「ユニットグッズで儲けましょう」」

 

 その後、二人の参加についての交渉のついでにプロデューサーにこの話を持って言った。

 その場で大爆笑と共に先にやることがあるだろうと、却下されたわけだが。

 

 もちろん、茜さんと麗花さんの参入もいまさら取り下げることなどできず、このメンバーに星梨花をいれた五人で活動することになった。

 ユニット名は・・・いまだ、決まっていない。

 

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