First Voice / L@st Song 作:梶原聡里
「はーい、OKでーす」
「「「「「ありがとうございました」」」」」
各々が楽屋に戻る足取りは重い。
ただひとり麗花さんはスキップしてご機嫌だけれど、その辺は流石にベテランだ。疲れた顔一つ見せない。
「麗花ちゃんのヤバさを思い知った茜ちゃん(17)」
「なんだかんだ言って、麗花さんが入ってくれなかったら相当苦しかったわよ、聞いてるの静香」
「聞いてる・・・」
「静香さん、ここ一週間くらい千早さんとのリーダー対談だったり未来さんたちの舞台の練習に付き合ったりででずっぱりで」
「情けないわね・・・そんなことじゃいつまでたってもソロデビュー出来ないわ」
返す言葉も無い。同じスケジュールで回している千早さんは今日も教育テレビの歌収録に出掛けているはずだ。
「んー、千早ちゃんは業界の中でも抜群に稼働率が高いから比べちゃだめだよ」
珍しくアドバイスを寄越す麗花さんに驚く一同。
「そうなんですか?」
「そうなんです。事務所のみんなは学生なのに凄い密度で入れてるから劇場のみんなも勘違いしてると思うけどね。静香ちゃんは他人に影響されていつも頑張りすぎちゃうから心配だなー」
「う・・・」
「そうね。大事なライブ直前に倒れたり」
「バラエティ番組でマジになったり」
「心配だなー」
旗色が悪い。が、そもそも自業自得なので文句も言えない。
「みなさん、もうやめてくださいっ」
「星梨花は私の味方をして・・・」
「いくら静香さんでも必死に生きてるんですよ!」
「あ、崩れ落ちた」
「背後から撃たれた分傷が深そうね」
「楽屋の入り口で倒れたら邪魔よ」
「麗花ちゃん、なにしてるの?」
「静香ちゃんの見せパンチェック」
「え、これみんな違うの?」
「あ、茜ちゃん志保ちゃんのパンツ当てられそう」
「景品は静香ちゃんのパンツの柄」
「よっしゃあ気合い入ったよ!今、茜ちゃんライブの時並みに気合い入った!」
「なんでパンツの柄くらいでそこまで盛り上がれるんですか?」
心底不思議そうな顔をする星梨花。
「星梨花、この人たちは頭がおかしいから真面目に会話をしては駄目よ」
「あなたも大概でしょう」
「では、茜ちゃん答えをどうぞ」
「水色ボーダー!」
「ちょっと! 別に私はボーダーシャツが好きな訳じゃなくて安いから・・・」
「水色ボーダー、最終解答?」
「最終解答」
「誰に気遣ってるのよ、それ。分かりづらいですから」
「最終、解答?」
「昔そんな感じのクイズ番組があったの」
「そうなんですか、めもめも」
星梨花がどこからともなくメモ帳を取り出してメモし始める。
「drrrrrr・・・」
麗花さんの美声によるやたら品のいい口ドラムロールが楽屋に響く。
「・・・・・・ゴクリ」
対する茜さんも緊張した面持ちで判定を待つ。
「drrrrrr・・・」
「ゴクリ」
「drrrrrr・・・」
「ゴク(ry」
「志保さん志保さん、どう思います?」
「引きが長い」
「あぅ・・・静香さん静香さん」
「私は黒猫さんパンツだと思うわ」
「静香ちゃん、正解!」
目の端で志保がさりげなく尻をガードした。
「あちゃー茜ちゃん外しちゃったぜ」
「なんで知ってるのよ」
「ライアーの時のフォーメーションだと私と麗花さんから丸見えなのよ、ですよね」
「見てるね、静香ちゃん」
「あの黒猫パンツ、舞台が暗いと目のところが怪しく光って怖いのよ」
「え、なによそれ」
「実はロコちゃんが『こっちの方がキューティーです!』ってあらかじめロコナイズしていたのだ!」
「せめて、仄めかすくらいはしなさいよ!こんなの最早テロよ!」
「志保さんのパンツは暗いと光る・・・めもめも」
「それ、弱味メモじゃないでしょうね!?」
「そんなことないです!『せりメモ』は765プロのみなさんから聞いた噂をメモしてるだけですっ!」
「部外者の手に渡ったらスキャンダルの元になりそうだから絶対に落とさないでね」
「勿論です! プンプン!」
(可愛い)
(ちっ、これ以上追求すると私が悪者にされる。被害者なのに)
(ずるいなぁ、今度真似してみよ)
「さて、上のコメントはそれぞれ誰のものでしょう?」
「麗花ちゃんは虚空に向かって何いってんのさ?」
「視聴者参加型クイズバラエティの司会ごっこ?」
「・・・麗花ちゃん、茜ちゃんのツッコミの三ターン位先で回り込もうとするのやめない?」
「あれは過剰すぎるボケでツッコミを潰す技!」
「知ってるんですか静香さん!」
「未来と話してるとよく起こる現象よ」
「望月さん曰く『未来飛行』だったかしら?」
「杏奈ちゃんって結構キツいこと言いますよね。ところで静香さんのパンツの柄はどうなったんですか?」
折角誤魔化せていたのに、またしても星梨花に背後から撃たれた。
「これはビューティフォーと言わざるおえない・・・ってか、どうせうどん柄じゃね?」
「待ってください。静香は自分のヒエラルギーをうどんの下に置いています。従って、うどん柄のパンツなんて絶対に穿きません」
「え、何? ちょっと茜ちゃん今の日本語がアクロバティックすぎて理解できなかった」
「どういう意味ですか? というよりも、うどん柄ってどんなのですか?」
「さぁ?」
「出たァァァッ志保ちゃんの雑なコミュニケーション!」
「ピー」
「おっとここで処理オチ、星梨花ちゃんもついにフリーズしたァッ!」
「それを踏まえて正解をどうぞ!」
「なると模様」
解答を聞くなり茜さんがバサァっとダイナミックに私のスカートを捲った。
どうせ女子しかいないし、もうどうにでもなれ。
「正解! っていうかどうしてわかったの?」
「着替えるところ見てたから」
瞬間、空気が死んだ。
あんなに暖まっていた場が、志保の一言で凍りついた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
白けたようで、そそくさと帰り支度を始めるぷっぷかプリン。
「二人とも、なんで黙るんですか!?」
「いやー、思った以上につまんない答えが返ってきたから静香ちゃん、捲られ損だなぁって」
そもそもお客さんもいないわけだから得する人間もいない。別に見せたいわけじゃないけど。
「志保ちゃん」
心底気の毒そうに麗花さんが名前を呼んだ。
「・・・なんですか」
「もうちょっと空気読もう?」
「・・・・・・(絶句)」
その後、劇場に帰った志保の期限が最悪だったのは言うまでもない。