結局のところ、勇斗は事件に巻き込まれたわけでもなく、事故と呼ぶのも適切ではないだろう。
最後の正念場ということで、『俺』の生い立ちや勇斗の死因を教えてくれた。なんでも、あまり未来を教えてしまうと予想外の展開が起こってしまうためにしゃべるのを控えていたらしい。
『俺』が何度も巻き戻してやり直していた、ということも詳しく聞き出したいが、目下の問題は勇斗の死亡回避なのだ。
まさか自殺だなんて。
俺も話しを聞いた時は信じられなかった。
彼は周りと少し違うところもあったが、それが彼の良いところであり、気にしているそぶりもなかった。なにより、動機がないのだ。
『俺』が、その存在しないはずの自殺動機に気付いたのは前回のループだったらしい。
彼の動機は白石明里の死亡だ。
しかし、この世界では明里は死んでいない。故に俺の知っている今の勇斗には自殺動機は無い。が、『及川勇斗』には存在していたのだ。
最初、ループが始まる前の世界。全てが始まった分岐点。そこであかりが死に、『俺』が引きこもり、勇斗は自殺したらしい。後に聞いたことだが、彼はあかりの死を自分のせいだと塞ぎこみ、ひどく精神が憔悴しきっていたようだ。
そんな状態で死んだ彼が『俺』と同じく、時を遡って勇斗の精神に住み着いてしまったとしたら。
時間を巻き戻してやり直すなどと言う、こんな非科学的で馬鹿げた奇跡が存在し得るのに、それが自分一人のものであるという御都合主義的な確証があるだろうか。
きっと彼もそうなのだろう。そして、死んで楽になることしか考えられない自殺者人格ができてしまった勇斗は、はたして耐え続けることができるだろうか。
否、長年に渡ってかけられた暗示は基本人格を蝕み、やがて心の底から死を望むようになるだろう。
一般的な多重人格の症状ならば、交代人格は基本人格にほとんど干渉しないのでこのようなことは無い。が、俺の例を見てもわかるとおり、強制的なアプローチが可能なのだ。
さらにそれは時がたつにつれて強くなる。ループ人格と年齢が近くなるからだろうか、俺も時々肉体を乗っ取られるような感覚を味わうことがあった。勇斗はもうすぐ限界に達する。
俺が止めるべきは、勇斗ではなく、『及川勇斗』。自己卑下に苛まれ狂人と化してしまった彼に、もし罪悪感があり贖罪の意識が残っているのなら。彼の行動原理が人間的な感情に基づいているのなら。一番彼のことを知っている『俺』しかいないだろう、救うことができる人物は。
本当は今後の会話中にこの説明を入れたかったのですが、そこまでの力量が足りませんでした。緊迫感が大きく欠けますが、すいませんでした。