「勝手に見ないでくれる。」
矢澤先輩は鼻に絆創膏を貼った顔でしかめながら文句をいう。先輩を保護した後、俺たちは部室に侵入することに成功した。周りにはたくさんのアイドルグッズの数々。棚にCDもDVDがぎっしりと敷き詰められ、壁にはARISEを含むアイドルのポスターなど、アイドルを知らない俺でさえ目を見張るようなものだった。
「こっ、こここれは…⁉︎」
突如、花陽が驚いた様子で声を上げる。
「伝説のアイドル伝説DVD全巻BOX‼︎持ってる人に初めて会いました‼︎」
「そ、そう?」
「すごいですっ‼︎」
「まっ、まぁね。」
あまりの品なのか、花陽のキャラクターが変わり、先輩に迫る。その様子に先輩は軽くヒいてしまっていた。だが、どこか誇らしそうにも見えた。
「ふ〜ん。そんなにすごいんだ。」
そこまでアイドルに詳しくない穂乃果がポツリと呟く。その言葉を聞いた花陽にいよいよスイッチがはいる。
「知らないんですか⁉︎」
花陽は目の色を変え、そばにあったパソコンをいじり説明しようとする。…あの、勝手にパソコン使っていいの?そんな疑問が頭に浮かぶ。
「伝説のアイドル伝説とは各プロダクション、事務所や学校が限定生産を条件に歩み寄り古今東西の素晴らしいと思われるアイドルを集めたDVDーBOXで、その希少性から伝説の伝説の伝説…略してデンデンデンと呼ばれるアイドル好きなら誰もが知っているDVD-BOXです‼」
穂乃果と真姫と凛は花陽が操作するパソコンをのぞきこんでいる。
「花陽ちゃん…キャラ、変わってるよ…」
こうなれば誰も花陽を止めることできない。初日のことを思い出し、少し距離を置く。
「通販、ネット共に瞬殺だったもの2セットも持ってるなんて…」
「家にもう1セットもあるわよ。」
この人も対外だな。相当なアイドル好きだ。
「ほ、本当ですか!?」
「じゃあ、皆で見ようよ。」
「ダメよ。それは保存用。」
「くぅぅぅぅ。デンデンデン…」
「かよちんがいつになく落ち込ん出るにゃー。」
いや、初対面?の人だよ。むしろずうずうしいくらいだよ。まして、俺たちを目の敵にしている相手だよ。見せてくれるはずないよ。ほんの少しあきれていると、ことりが何かを見ていた。
「ことり?どうした?」
「う、ううん。ちょっと気になって…」
ことりの目線の先に目を向ける。そこにはかわいらしいハートが描かれたサイン色紙が置かれていた。
「気が付いた?」
先輩に急に話しかけられたせいか、ことりが一瞬だけびっくりした。
「誰のサインですか?」
「秋葉原の伝説のカリスマメイド、ミナリンスキーさんのよ。」
「ミナリンスキーさん?どういう人何ですか?」
「にこも実際には会ってないわ。そのサインもネットで買ったものだし。」
「そうですか。」
ことりを一瞥する。なんだか安心したかのように胸をなでおろしていた。なんでことりは安心しているのかな?…もしかして…そんなわけないか。
ーーーーーーーー
「で、話って何?」
「あの、アイドル研究部部長さん。」
「にこでいいわよ。」
穂乃果が本題を切り出す。
「にこ先輩。私たちスクールアイドルをやっていまして。」
「知ってる。どうせ部にしたいんなら話つけてこいって希に言われたんでしょ。」
そりゃぁ、わざわざ朝早くに解散しろって言っているんだから知っているよな。
「おー、なら話が早い!」
「まぁ、いずれそんなるんじゃないかと思っていたわ。」
「なら「お断りよ。」
ただ、一言。お断り。
「えっ⁉︎」
「お断りって言ってるの。」
2つ目のお断り。矢澤先輩も少し苛立っているように見えた。
「私たちはμ’sとして活動できる場所が必要なだけです。なので直ぐに廃部に直ぐに廃部しろとかそうのは…」
「だから、お断りって言ってるのよ‼︎言ったでしょ?あんた達はアイドルを汚してるって!」
3度目のお断り。矢澤先輩の、苛立ちが大きくなる。ここで俺は反論する。
「確かにみんなは素人でまだ足らないところもあるかもしれない。でも歌もダンスも必死に練習している。だから…」
簡単に言えば遊びでやっているわけじゃない。ちゃんと人様に見せられるように歌もダンスも毎日練習している。だからアイドルを汚してるつもりはないという旨を伝えた。
「そういうことじゃない。」
「「「?」」」
「なら何がいけないんだ?」
俺にはさっぱりわからなかった。歌とかダンスとかそういうことではないなんて…。なら表現力とか?必死に考えるが思い浮かばない。
「あんた達、キャラ作りしてるの?」
「キャラ?」
キャラ作りって…ダンスだけの世界にいる俺には思い浮かばないわけだ。何だか悔しい。
「そう!お客さんがアイドルに求めるのは楽しい夢の時間でしょ。だったらそれにふさわしいキャラってものがあるの!」
なるほど、キャラ作りもパフォーマンスの一環ということなのか。それならわかるような気がする。
「まったく何もわかっていないんだから…いいわよ、特別に見せてあげる。」
すると、矢澤先輩は後ろを向き、何かをしようとする。
「にっこにっこにー♡あなたのハートににこにー♡笑顔届ける矢澤にこにこ♡にこにーって覚えてラブにこっ♪」
「…………………」
何とも言えない、凍りついた空気が部室に広がる。
「どう?」
どうって言われても…ねぇ?
「え…」
穂乃果は戸惑い。
「これは…」
海未も戸惑い。
「キャラというか…」
ことりも戸惑い。
「私、こういうの無理。」
真姫は呆れ。
「なんか寒くないかにゃー。」
凛は毒舌。
「ふむふむ…」
花陽はメモを取る。
「きょ、強烈だな…」
何と言えばいいかわからないし、どういう反応をすればいいがもわからない。ただ、笑っちゃいけないのはわかる。
「そこのあんた、今寒いって…」
「い、いえ、すっごい可愛いくって最高です!」
不穏な表情を浮かべた矢澤先輩を見た凛は必死に自分を擁護する。流石に寒いはダメでしょ。
「でも、これはこれでいいかも‼︎」
「そうです!お客様を楽しませる努力は大切です‼︎」
「素晴らしい、さすがにこ先輩です‼︎」
ことり、海未、花陽で順番で矢澤先輩を褒め称える。といってもことりと海未はご機嫌とりのようだが。だんだんと矢澤先輩の表情の雲行きが怪しくなっていく。
「よーし、そのくらい私だって、」
「出てって。」
「えっ⁉︎」
「もう話は終わり!とっとと出てって‼︎」
矢澤先輩がこちらに迫りながら不機嫌な表情で俺たちを突き放す。そのまま俺たちは部室を追い出された。
「開けてください!にこ先輩!」
穂乃果がドアを叩くもやはり返事は返ってこない。よほど気に障ったらしい。
「このままじゃやばいな。」
不安と焦燥にかられる。折角、練習してきたのに活動できなきゃ全て水の泡だ。
「やっぱり追い出されたんやな。」
「副会長?」
俺たちの行動を全てのお見通しのなのか、タイミングよく副会長の東條先輩が現れた。
ーーーーーーーー
「矢澤先輩にそんなことが…」
私とたくにぃと2年生の先輩方は副会長の話を聞き、私たちは何とも言えない気持ちになる。
矢澤先輩も1年生の頃にその時まだいた仲間と一緒にスクールアイドルとして活動していた。最初のほうは上手くいっていたが、徐々に当時の仲間が矢澤先輩の理想についていけず、1人辞め2人辞め、最後には矢澤先輩ただ1人残ってしまった。
「それでもにこっちは辞めなかった。と言っても、アイドルを止めるなんて考えはなかったはずやけどね。」
副会長は時からの空を見つめながら淡々と話す。
「それににこっちのことを応援しているファンもいる。そんなファンの思いも無駄にはしたくないと思ったはずやからね。」
「ファン?」
副会長は目線を変えないまま話し続ける。でも、表情は変わっていた。まるで、流れ星が流れるのを待っているかのような期待と願いを抱いた優しい表情だった。
「たった1人。にこっちがアイドルを始めた時からずっと応援している人がいてね。今も待ってるんよ。にこっちがステージに立つことを。」
ようするににこ先輩をμ’sに入れて欲しいと言っているのだと感じた。だから、生徒会室の時にアイドル研究部と話をつければ可能性があるなんて言ったのね。それにしても遠回しに言い過ぎなんじゃない?
「ファンね…」
「それならにこ先輩をμ’sに入ってもらおうよ。そうすればファンの人も喜んでイッセキニチョウだよ‼︎」
穂乃果先輩は副会長の言いたいことには気づいてなかった。けど、的は得ていた。
「確かにそれには賛成ですが…」
海未先輩は言葉を詰まらせる。ならどうやってにこ先輩をμ’sに入ってもらうか。あのように拒絶されれば簡単にはいかないと思う。
「にこ先輩は私たちのことを嫌ってそうだし。」
「かもしれない。でもにこっちはあなたたちのことを羨ましいとも思ってるんじゃないかな?」
ことり先輩は不安そうに言う。それを東條先輩は否定も肯定もせず、さらにわかるかぎりのにこ先輩の気持ちを伝えた。
「そうか‼︎」
「えっ⁉︎」
たくにぃは何か閃き、カッと目を開く。
「さっき矢澤先輩が言ってただろ?ダンスもダメ。アイドルとして自覚が足りないと色々ダメ出し喰らったよね。ようするにダメ出し出来るくらいはμ’sのこと知ってる、そして、興味があるってことにならない?」
「そうともとれますが、ただ私たちを解散させるために言っただけかもしれません。」
「そうかな?それなら俺たちの前で持ちネタなんてやる必要がある?」
持ちネタって。でも、本気で嫌な相手にあんな恥ずかしいことはしないはず。
「ですが…」
「μ’sが本気でアイドル活動している。それをわかっていたから、アイドルとしての『矢澤にこ』を俺たちに見せたんじゃないかな?おそらく、あれは遠回しにμ’sに入りたいっていう意思表示だと思う。」
そんなことはたくにぃの勝手な考え。確証なんてない。しかし、本当にそうかもしれないと希望が生まれた。
「だとしても、素直にμ’sに入りたいなんて言うとは思わないんだけど…」
でも、そんなに上手くいくものなのかという意味合いの言葉をたくにぃに伝えた。すると、たくにぃはそうだなと言い、難しそうな表情に変わった。たくにぃが黙り込むと変わって穂乃果先輩が話し始めた。
「ねぇ、これって海未ちゃんと初めて会った時となんか似てない?」
「どういうこと?」
「小さい時、穂乃果とことりちゃんたちとね公園でかくれんぼしてたんだ。その時、海未ちゃんが木の隠れて、一緒に遊びたそうにこっちを見てたんだ。」
この海未先輩でも小さいころにそういう人だったんだ。人間、見た目では判断できないものだと痛感した。
「そんなことありましたっけ?」
なお、海未先輩は覚えていないらしい。
「そうそう、それで穂乃果ちゃんが海未ちゃんをかくれんぼの鬼にしたんだよね。」
「いきなり?」
「うん。」
「初対面の人にですか?」
「そうだよ。」
「行動力あるな…穂乃果は…まぁ、らしいけどね。」
ことり先輩の話に私は唖然とする。それにたくにぃも踊ろきながらも、らしいと笑みを浮かべていた。昔のたくにぃも似たような感じだったけど。
昔を思い返した直後、ふと可能性が思い浮かんだ。単純な先輩なら…ありえる。
「穂乃果先輩、まさか…同じようににこ先輩を?」
「うん、そうだけど。」
「あなたはいつもそんな無謀なことを‼︎そんなの上手くいくとは思いません‼︎」
予想どおりの答え。さすがの海未先輩もこれには猛反対。
「そうかな?海未相手に成功したんだから大丈夫だよ。」
「本間さんが言うなら…というのも、あまり嬉しくないのですが…」
たくにぃが穂乃果先輩の作戦にお墨付きをつけ、海未先輩は渋々了承。
「よ〜し、海未ちゃんみたいににこ先輩もμ’sに入れよう作戦、開始だ‼︎」
「おー⁉︎」
名前の単純さと海未先輩の苦労を肌に感じながら、私もみんなに交じって小さく掛け声を上げる。
「ふふ、それじゃ、がんばってな。」
「副会長さん、ありがとうございました‼」
副会長はただ一言残して、この場から去った。まったく、あの人も大概ね。
「それじゃあ、今日はここでお別れだね。」
「そうだな、みんな気をつけてな。」
ことり先輩が言葉をきっかけ、全員が帰宅の準備する。この時を待っていた。
「あの、たくにぃ?」
「どうした、真姫。」
「話したいことがあるから一緒に帰らない?」
勇気を振り絞り、たくにぃに話しかける。あの事故以来、面と向かって話していなかったため、何とも言えない空気が私との間に流れる。
「……いいよ。なら急ごうか。」
少し間を置きながらも、普段と同じように返事をしてくれた。後押ししてくれた先輩達を一瞥する。言葉には出していないが、応援していると目で訴えている気がした。
「よし、真姫行くか。じゃあ、また明日。」
「じゃあね、たっくん。後で作戦についてLINEするから。」
別れの挨拶と業務連絡を終え、並んで歩き始める。
「……………」
パラパラと傘が雨を弾く。ただ、無言の時間が過ぎ去っていく。いざ面と話そうとすると、頭の中がごちゃごちゃしてうまく言葉がまとまらない。昨日あれほど考えていたのに。
「なぁ、真姫。」
静寂を破ったのはたくにぃ。私が誘ったのになんてざまだ。自分に嫌気がさす。
「ごめんな。」
「えっ!?」
「真姫は怖いんだよね、俺のことが。」
「ち、違…」
言葉が続かない。無意識のうちに確証がもてない
「いいんだ、別に。だって変身しているけど、あんな怪物と戦っているんだから…俺もそういう面ではあいつらと…同類だし…」
歯を食いしばり、拳を固く握りしめながら悔しそうに言う。
「たくにぃ‼」
違う!あなたの口からそんなことがききたいんじゃない!
「確かに…たくにぃが怖かったかもしれない。でも、それは力を持っているからじゃない‼たくにぃがわからなくて…たくにぃが何か危険なことをしでかすんじゃないかって…。」
私はたくにぃへの今の思いを吐き出す。
「また、たくにぃが遠くに行っちゃいそうで…それも怖くて…それに納得いかないの‼たくにぃが戦う理由に、命かけてる理由がわからない!だから、教えて!今のあなたのことを!何があったのかを!」
最後のほうはもう叫びに近かった。そのくらい感情が高ぶっており、いつの間にかに涙も流れていた。そんな私とは対照的にたくにぃはひどく冷静だった。
「そうだな。俺のことについてはあまり話してないもんな。」
「!?なら!」
「悪いけど言えない。」
私の思いは届かなかったのか。激しい怒り、そして失望が心の奥底から込みあがる。
「でも、これだけは言える。オーガを殺すためだけに戦っているんじゃない。この国ではあいつらの勝手で悲しい思いしている人たちがたくさんいる。俺はそんなことをするあいつらを許せない!だから戦う!もう誰も悲しませないように‼例え、化け物に、悪魔になろうと!人を、真姫を守るためならかまわない‼だから!」
たくにぃの決意に満ちた表情。その表情は昔と変わらず、まっすぐと見据えていた。そしては私の傍に寄り、ギュッと抱きよせる。
「信じてくれ。俺のことを!時が来たら絶対に俺のことを話す。約束する。」
たくにぃの熱と鼓動が直接、体全体に伝わってくる。そして耳元でささやかれ、熱くなった思考が冷めていく。やっぱり、たくにぃはたくにぃだと確信する。優しくて、前向きで、一度決めたら終わるまで止めない。昔に比べ秘密を抱えるようにはなったけど、それもあの頃より成長したってことなのかもしれない。
「…私からも約束していい?」
「何?」
大きく深呼吸。
「死なないで。」
「…当たり前だ!」
私の真剣な表情を見たたくにぃは、ほんの少し笑みをこぼし、私の頭をくしゃくしゃと弄る。
あぁ、こうやって普通にじゃれあっているのがものすごく心地がいい。やっと近づけた、あの頃と同じように…いやもう昔と比べることはもうやめにしよう。今は昔じゃない。今は今だ。
〜君が心の全てを受け入れたら もう怖いものはないさ Nobody perfect〜♪
突如、たくにぃのケータイがけたたましく鳴り響く。たくにぃの緊張した面持ちで電話に出る。
「もしもし……っ⁉︎本当ですか⁉︎…わかりました。直ぐに向かいます。」
一瞬で張り詰めたような表情に変わる。まさか!
「たくにぃ…もしかして⁉︎」
「オーガだ。今から向かいに行く。真姫は早く帰るんだ。」
「いや!私もついて行く!」
「何言ってるだ!遊びじゃないんだよ!」
鬼の形相で私を叱り付ける。こんなたくにぃを見たことがなかった。それほど連れて行きたくないのだろう。でも…
「わかってるわよ!危険なのはわかってる。でも、たくにぃが命懸けで戦っているのに、待っているだけなんて嫌!そんな時こそ、あなたの傍にいて支えたいの!」
「…死ぬかもしれないだぞ。」
「たくにぃは守ってくれるんでしょ。大丈夫。」
我が儘なのはわかっている。だけど、たくにぃの幼馴染として、正体を知る人として、私はたくにぃの戦いを見たい。いや、見なければいけないと思った。
「…そうだな。急ぐぞ。」
たくにぃは鼻で笑って、オーガの居場所に向かって雨の中走った。それを私は必死についていった。
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数十分後、オーガの目撃地周辺に到着した。辺りを見渡す。不審なものおろか、人の気配すらなかった。
「いた?オーガ?」
「いや、まだだ。真姫は何か見たか?」
「いいえ、私も見てないわ。」
そうかと軽く返事をする。大変なことになった。先ほど電話に伝えられたことをまとめる。昨日、アントの巣を破壊し、アントも全滅したと思っていた。しかし、肝心なものを見落していた。それは巣食う、女王アントの存在だった。基本的に女王アントは巣に篭っており、滅多に巣から出ない。だから、巣を破壊しようとすると女王アントが現れることがある。だが、現れない時もあるので、てっきりそのパターンだと思っていた。
(まだまだ、未熟ってことだな。)
マニュアル通りの行動しか出来ず、臨機応変に対応出来ない自分の不甲斐なさに嫌気がさす。もし、女王がこの間にも人を襲っていたらそんな時は…いや、落ち着け。まだ、そうと決まったわけじゃない。1度、深呼吸をして落ち着かせる。
「たくにぃ!」
真姫が俺を呼ぶ。どうやら何かを見つけたようだ。
「どうした?」
「この野菜…」
道端に折れた大根が転がっていた。そして、大根が転がっている方向を見ると不規則な間隔で多数の食品が転がっていた。
「くっ⁉︎遅かったか⁉︎いや、急ごう!これを辿れば出会うかもしれない。」
そう言って、食品を辿っていく。その最中、真姫を一瞥する。恐怖と不安が顔に滲み出ていた。
(…懐かしいな。)
そういえば、引っ越す前はこんな感じで真姫を振り回していたっけ。あの時は無理矢理連れていってたな。でも、今は真姫の意思でついてきている。
(成長したな、真姫。)
思いを巡らせながら、落ちている食材を辿り、角を曲がった。
「いた‼︎」
行き止まりの道、そこには普通のアントより一回り大きい黒い異形、女王アントがいた。そして、女王アントの体に隠れてよく見えないが誰がいた。
「なっ⁉︎矢澤先輩⁉︎」
ピンク色のカーディガンに2つに結んだお下げ。何より子供かと見間違えるかのような姿。数時間前に見た矢澤先輩の特徴そのものだった。
「矢澤先輩‼︎」
真姫が声をかけるもこちらには気づいてはいない。
《Disc on》
ポケットからドライバー取り出し装着。そして、フォースディスクを入れ
る。
《Install》
「変身!」
《Lord Rider Force》
白銀の鎧をまとい仮面ライダーフォースに変身する。
「真姫、電柱にでも隠れていて。」
コクリと頷き、真姫は電柱に隠れる。俺は女王アントのもとに走り、後ろから羽交い締めにする。
「キシャア⁉︎」
「えっ⁉︎」
女王アントが拘束から脱出しようと、もがき暴れる。
(やっぱ、力が強い。)
「早く逃げて‼︎」
普通のアントとは比べものにならない、力、硬さ、大きさ。拘束しても長くは持たないのは明白だった。
「は、はい!」
矢澤先輩は何が起ったのかわからないようで動揺していたが、俺の言葉はしっかりと伝わったようで、直様この場から逃げようとしたが、
「痛っ⁉︎」
矢澤先輩が立ち止まる。確認してすると足からは少量だか血が出ていた。
(けがをしていたのか‼︎)
どうする。今、女王アントから目を離すことはできない。矢澤先輩はその傷ついた足を引きずりながら、必死に逃げようとしていた。
(そのまま逃げてくれ。)
しかし、遂に女王アントを解放を許してしまった。女王アントは一目散に矢澤先輩を狙った。
「させるかぁ‼︎」
すかさず、女王アントに抱きつき行動を制限する。しかし、直ぐに振りほどかれ、首を掴まれ、壁に投げ飛ばされる。
「ぐはっ‼︎」
壁には亀裂が入る。衝撃が強く、血を吐きそうになる。意識が朦朧として上手く立てない。そんな俺を無視し、またも矢澤先輩に狙いをさだめ、後を追う。
(やばい。このままじゃ…)
ボロボロの体を振るい立たせるが、体が上手く動かず、女王アントに追いつけない。
(スピードディスクを使えば…)
しかし、今の自分の状態は良いとは言えない。スピードディスクは文字通り、目にも留まらぬ速さで行動できるようになるがその分、体にも負担がかかる。ボロボロ状態で使えば、無事の保証はできない。だが、矢澤先輩を助けるためなら一か八か…。
「なっ!真姫⁉︎」
モタモタとしていると真姫が矢澤先輩のもとに走っているのに気づいた。そして真姫は肩を貸し、上手く歩けない矢澤先輩の補助をし始めた。
(隠れてろって…)
ベルトのサイドにあるホルダーからスピードディスクを取り出す。先ほどよりは早く逃げられているが女王アントに追いつかれるのは時間の問題だった。
《Lord Speed》
スピードディスクを使い、女王アントの背後に一気に詰め寄る。
「やらせるかぁっ‼︎」
背後から女王アントの首を掴み、真姫と矢澤先輩から遠ざけるように後ろに投げとばす。
「たっ、たk、…。」
真姫はさりげなく俺の名前を呼ぼうとしていたが、それを気にする余裕も指摘する余裕もなかった。
「ジャギュウワ‼︎」
女王アントは怒りを露わにし、矢澤先輩から俺に目標を変えたようだ。吐きそうだ。おそらく内臓がぐちゃぐちゃになってるじゃないかとか思うくらい体が変に感じる。また、確実にわかっているのはあばらが2、3本折れているということ。呼吸するたびにピキッと痛みが響く。
だからと言って、ここで責任を放棄するわけにはいかない。ここで逃げれば死ぬよりも苦しいものが待っている。覚悟を決めろ、本間拓人。
ホルダーから赤いディスクを取り出す。このディスクを使う時。それは相手には目立った特徴がなく、純粋に力が圧倒されている時に使用するのが最善のディスク。
《Lord Form Fire》
フォースの鎧が熱を帯び、白から赤に変化。赤くなった鎧に雨があたると蒸気になり消え去る。
仮面ライダーフォース ファイアーフォームにフォームチェンジした。
「シャグユ」
女王アントは臆することなくこちらに襲いかかってくる。それを手に握られた、赤い日本刀のような剣、ファイアーセイバーですれ違いざまに斬りつける。
「ビャギャワン!」
痛みに女王アントは呻き声をあげる。だが、直ぐに態勢を立て直し、こちらの攻撃に備えていた。
今度は俺から攻撃仕掛ける。女王アントに斬撃を喰らわせる。そして二撃目。三撃目は避けられ、腹にパンチを喰らわせられる。俺は一旦後ろに下がる。女王アントとのにらみ合いが始まる。十数秒後、お互いが同時に相手に突っ込むため走り出す。
俺は走りながら。次のための一手のためにディスクを予めセットしておく。
《Lord…》
この音声が鳴ると同時にジャンプ。女王アントの頭上で一回転しながら頭を斬りつける。
《Jump》
着地の2秒前にディスクのロードが完了。着地と同時にディスクによって強化、さらにファイアーディスクの能力によって強化されたジャンプで女王アントの前に着地する。
「ギャシュザ!」
女王アントは俺の予測不能の行動に動揺し、反射的にパンチを放つが、俺は避け、女王アントの腹に剣を突き刺す。
「ブジャシャガァ!」
汚い呻き声をあげ、刺さった剣を抜こうと刀身を握る。
《Lord Power》
「そんな、抜いて欲しかったら手伝ってやる。」
さらに強化されたパンチを女王アントの顔面に喰らわせる。顔がグシャリと潰れ、吹っ飛び、同時に刺さっていた刀身か抜ける。そして、グシャッとグロテスクな音ともに女王アントは地面に叩きつけられた。
女王アントは動かない。ただ、爆発していない以上、死んではいない。俺は止めの準備をする。刀身の根元のカバーを開け、ファイアーディスクをセットする。
《Relird Fire FFForce》
刀身に炎が渦巻く。すると、女王アントがフラフラと立ち上がり、こちらを向いた。
「ファイアー…スラッシュ‼︎」
それと同時に炎の斬撃を飛ばし、女王アントを両断。
「バ、バギュジャア‼︎」
断末魔とともに大きな爆発。その爆発を俺はじっと見つめた。雨の中、赤く眩しい炎と黒い煙が立ち込めていた。
皆様のおかげで、なんとUA5000突破しました。ありがとうございます。
とういうわけで、近日、UA5000記念回を投稿する予定です。お楽しみに‼︎