爽馬達が蛇目の男と対峙している一方、拓人はバイクを押しながら真姫と二年生のグループは薄暗い帰り道を歩いていた。
「どうしました、穂乃果?」
先ほどからやけに静かだと思っていたのは、元気の取り柄の穂乃果がずっと喋っていなかったからだと拓人は今更気づいた。
「ねぇ、行方不明になった人達って……どうなったんだろう。」
薄暗い中でも穂乃果の怯えた表情ははっきりとわかった。自分の住んでいる町で失踪事件が起きている。もしかすれば自分もその事件に巻き込まれる可能性もあるのだ。怖いに決まっている。さらにオーガという存在が失踪事件をより最悪の方向へと向きを変え、さらに恐怖を掻き立てる。
「だいじょうさ。きっと生きてる。」
そんな穂乃果を安心させようと拓人は声をかける。しかし、そんなものがただの気休めにしかならないことを一番拓人がよく知っていた。
今回のようにオーガが絡んでいると予想される事件には必ずUTXが独自で捜査をする。拓人も数日前にその捜査に加わったのだがその最中に失踪した男性の遺体を発見してしまったのだ。
こうなると、他の失踪者も既にと悪い方向に考えざるえない。穂乃果を安心させるための言葉だったが、その裏では拓人自身も安心させるための言葉であった。
「そうだよ!きっと仮面ライダーが助けてくれてるはずだよ!」
ことりの言葉が拓人の心に突き刺さる。その仮面ライダーが何も出来ていないのだからふがいなさで、落ち込みそうになる。
そんな風にナイーブになっていると、ふと拓人は異様な気配を感じ、足を止める。四人はどうしたのだろう不思議がっていると、獣の唸り声が聞こえてきた。
「ブルル!!」
その声の方向に視線を向けると、様々な戦いを潜り抜けてきたのだろう傷だらけの屈強な肉体に大きな角、白目を剥いたブルオーガが拓人達の方を向いていた。
「た、たっくん!」
「こんな時に!」
そして、ブルは何かをチラリと見ると突然、咆哮をあげる。そして、4人に向かって突撃してきた。咄嗟に反応出来た海未と真姫は自力で、穂乃果とことりは拓人の引っ張られ、何とかその突撃を回避することが出来た。
「この!」
三人には近づけさせまいと常人の貧弱な体でブルの屈強な体を後ろから羽交い締めにする。だが、ブルは腕に止まった蚊を振り払うように、拓人を振り払う。そして、標的を拓人に変え、剛腕で拓人に殴りかかる。
「くっ!」
まともにくらえないその攻撃に拓人は紙一重で避ける。そして、バク転で後ろに下がり、ブルとの距離を取る。
すると、ブルが地面を鳴らし始め、そして、拓人に向け、タックルをくらわせようとした。
「速い!」
あまりの速さに驚き、反応が少し鈍るも紙一重で避ける。ブルはそのまま電柱へと激突し、木の枝を折るように簡単に電柱をへし折った。
「まじ……か……。」
大きな音を立てて倒れていった電柱を見て、ただ唖然とする。速さだけではない。重さもある。まともにくらってしまえば、ミンチになるの明らか。
「このままじゃどうしようもない!」
やはり対抗するには仮面ライダーにならなくてはと、ポケットからドライバーを取り出そうとする。しかし、周りがやけに騒がしくなってきたことに気づき、辺りを見回す。
「おい、怪物だ!」
「やばいよ、やばいよ!」
周りには建物からひょっこりと顔を出す住人や野次馬が何があったのかとゾロゾロと集まってきたのだ。電柱が倒れたのだ。誰だって何が起きたか興味を持つに決まっている。
(本格的に不味いな。)
絶望的な状況に拓人はただ顔を引きつらせて笑うだけ。人前のため変身できない以上、拓人は生身の体のまま、ブルをどうにかしなければならない。さらに、ブルが野次馬達に襲いかからないようにもしなくてはいけない。
「ブゥルルルラ!」
すると、たくさんの野次馬に囲まれて癇に障ったのか、突然、ブルが鼓膜が破れるかと思うほどの雄叫びあげる。そして、地面にめり込むほど力強く足を踏み込み、集団へと突っ込んでいった。
「きゃぁぁ!逃げろ!」
文字通り、迫り来る恐怖から逃れようと野次馬達は悲鳴を上げ、逃げ惑う。しかし、密集かつ、混乱した状況で大人数が一斉に動けば、何かしらの問題が出てくる。案の定、一人の赤い服を着た女性がヒールを折って、バランスを崩して転んでしまう。さらに後ろから来た人たちも、その女性に引っかかり、転んでしまう。
「い……いやぁぁぁぁぁぁぁ!」
そして、ブルは動きの止まった集団に突っ込もうと、体勢を低くし、その時、ブルの背後からエンジンの唸り声が響く。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
拓人はフォースランナーの前輪を持ち上げ、ブルに襲いかかる。すると、ブルはピタリと足を止め、慣性を無理矢理殺しながら振り返り、片手でバイクの前輪を掴む。目の前の人間を襲うことよりも、自らを狩ろうとする拓人を止めることを優先したのだ。
「ブルルル!」
「ぐっ!」
そのままバイクごと、拓人を壁へと投げ飛ばす。その衝撃は凄まじく、壁には大きな亀裂が入り、拓人も吐血してしまう。
「まぁ……結果オーライかな……。」
しかし、とりあえず、襲われかけた人達がブルの前からいなくなり、してやったとニヤリと笑みを浮かべながらヨロヨロと立ち上がる。しかし、この時ブルが落ちていた何かを息を荒げながら見つめていた。
「そういうことか!」
ブルの目線の先は赤い財布。そして、先ほど襲われかけていた集団の中に赤いバッグを持った男性がいた。全てが繋がり、
しかし、元の動物のこと考えてみれば当然なこと。今まで気づかなかったほうがおかしい。爽快感と同時に自らの知識の浅さに気づかされ、プラスとマイナスが合わさり、喜ぶことも嘆くことも出来なかった。
「たくにぃ!」
「本間さん!」
すると、今まで電柱の陰に隠れていた真姫達が拓人の元に駆け寄る。だが、ブルの行動パターンがわかっていた、拓人は三人、特に真姫をブルに発見されないように近づくことを拒否した。
「来るな!特に真姫!」
「えっ?」
「そいつは真姫を狙ってる!いや、正確には赤い物に突っ込む習性がある!」
しかし、ブルに発見されてしまい、案の定、真姫の赤い髪の毛に興奮し、鼻息を荒くする。そして、体勢を低くし、再び突撃の構えを取る。
「……私を狙ってるなら!」
「真姫ちゃん!?」
声を震わせながらも、その表情は決意に満ちていた。すると、突然、一人で走り始め、穂乃果達は驚いてしまう。
「まさか!」
だが、三人とは違い拓人は真姫の行動の意図を理解する。すると、拓人の予想通り、ブルは真姫を追って行っていく。
真姫は逃げながら拓人をじっと見ていた。恐怖で今にも涙が溢れそうな瞳で、「必ず助けに来て」と目で訴えていた。
「真姫……わかった!今のうちに三人は逃げて!」
「でも真姫ちゃんが!」
だが、穂乃果は真姫を見捨てることなど出来ず、すぐに逃げようとはしない。ことりも海未も同様だ。仲間思いの三人がそう簡単に見捨てられるわけないのはわかっていた。
「じゃあ、何のために真姫が囮になったんだよ!あいつは命がけで
拓人は人が変わったようにしかし、拓人にとってそれはただの馴れ合いにしか見えない。彼にとっての仲間とは互いに信じ合い、ピンチの時にこそ背中を預けられる存在。三人の言ってることはわからなくもないが、拓人の価値観にとってそれは裏切り行為でしかない。
「俺は真姫を追う。三人は早く逃げるんだ!」
「拓人さん!」
そして、拓人は三人を置いて、真姫の後を追って行った。
♢♢♢
「ハァハァ……。」
拓人達から別れてから3分ほど経っていた。その間、真姫は1秒も休むことも許されず、全速力で走ってブルから逃げていた。今ではスクールアイドルとしてダンスをしているが、かと言って運動は得意な方ではない。
「もう……ダメ……。」
壁に寄りかかり、始めての休憩を取る。体は酸素欲し、肩が上下するほど大きく呼吸し、心臓は破裂するのではないかと思うほど鼓動を打ち、足は痙攣しかけてるのか小刻みに震えている。
真姫の体力おろか、身体も限界を迎えていたのは目に見えてわかる。かと言って、ここで逃げることは辞めてしまうことは生きることを辞めることになるだろう。
「とりあえず……今のうちに……。」
「ブラララァッ!」
しかし、真姫の状態などお構い無しにブルは現れる。ブルは周りの建物や電柱などをを積み木のように簡単に壊しながら追ってきていたため、背後にある道は酷い有様であった。
「ブルルル!」
そして、疲れた様子を微塵も見せず、ブルは体勢を低くして、真姫に狙いを定める。
真姫にとっては絶望的な状況。それでも真姫は諦めることはしない。なぜなら、必ず助かるとわかっていたからだ。必ず、仮面ライダーが助けに来て、ブルを倒してくれる。根拠はないが確信はしている。
そして、何よりヒーローというのはいつもピンチの時に現れるもの。こんなおいしい状況に来ないはずがない。
「ハァァァァァァ!」
ブルが突撃しようとしたその時、ブルの背後から高く跳んだフォースがフレイムセイバーを大きく振りかぶり、ブルの背中を斬りつける。
「ブァルゥワ!」
ブルの背中から噴水のように血が吹き出し、痛みでブル悶える。その隙にフォースは真姫の元に行き、抱きかかえて、近くの家の屋根の上に移動する。
「真姫!ごめん、遅くなった。」
仮面で表情は読めないが、その声と若干の挙動で、相当不安だったのはわかった。
「確かに遅かったわ。……でも、信じてたから。」
真姫は真っ直ぐな目でフォースを見つめる。すると、フォースは真姫の頭をポンと触り、屋根から飛び降りる。
「ブルルルワァッ!」
赤いフォースと、斬りつけられたことにより、ブルは激しい怒りを露わにする。しかし、フォースにとっても同様のこと。否、それ以上の怒りを抱いていた。自分の命よりも大切な存在を危険な目に合わせたのだ。拓人にとって万死に値することだ。
「よくも、真姫を危険な目に合わせたな。」
炎のように燃え上がる怒りを面に出さず、静かに剣にのせる。そして、剣先をブルに向け、仮面の奥の瞳で睨み殺すかのように見る。
フォースとブルの間に、他者を寄せ付けることを許さない張り詰めた空気が漂う。
「ブァルルルルルン!」
ブルは雄叫びとともに全速力でフォースに突撃する。体が弾んでしまうほどの地鳴りと肌を震わせるほどの殺気を出しながら。
だが、フォースは微塵も怯むことなく、闘牛士のように華麗にブルをいなし、すれ違いざまに脇腹を斬る。
「ブオウッ!」
痛みで声を漏らすブル。しかし、一回斬られただけで止まる相手ではなく、再びフォースに突撃する。だが、同じように斬られ、その同じことが何度も何度も繰り返される。
「学習しない馬鹿だな。」
考えなしに突っ込むブルを愚かと見下し嘲笑する。
《Relord 》
フレイムセイバーを中心に炎が渦を巻く。そして、フォースはその炎を纏った剣戟、『ライダースラッシュ』を決めようとする。
「待ちなさい!白のライダー!」
しかし、それはある男の甲高い声によって阻止される。一体なんだとと、声のした方に目線を移すとそこには蛇目の男が真姫の首元にナイフを突き立てていた。
「真姫!?おい!真姫を離せ!」
「それはあなたの態度次第ですが……。」
冷静な様子とは打って変わって、感情を激しく表に出すフォース。しかし、そんなフォースを嘲笑うかのように、蛇目の男は軽い調子で返す。
「卑怯者が!」
「お褒めいただきありがとうございます。卑怯もらっきょうも大好物なんでね。」
「くっ!私のことは気にしないでこんな奴、倒して!仮面ライダー!」
「おおっと、こんな奴とは酷いですねぇ。」
真姫の発言が蛇目の男にとって侮辱に聞こえ、少し怒りが湧き、真姫の首元にナイフを軽く当てて脅す。
それを見て、フォースが黙っているわけはない。再び、体の奥底から湧き出る怒りを抑えながら、蛇目の男に離せと言う。
「早く……離せよ……!」
「あなた、人の話を聞いてないのですか?態度に気をつけてくださいってね。」
人質を取っている蛇目の男はあえて、煽るように言う。だが、これがフォースの怒りの引き金になることを知る由もなかった。
フォースの鼓動がドクンとなり、全身に血が巡る。そして、細胞一つ一つを覚醒する。
「これで最後だ。」
「たくにぃ?」
調子に乗っていた蛇目の男は気づいていなかった。フォースが抑えきれないほどの怒りを溜め込んでいたことを。
「離せ」
怒りを頂点に達し、噴火のように爆発する。そして、フォースからは異常なほどの殺気が発せられ、蛇目の男おろか真姫もブルも何一つ何も出来ない。動くことも、呼吸することも許されない。
まるで大魔王の目の前に立っているかのよう。圧倒的な力、恐怖に襲われ、そこにいる誰もが思ったこと。それはただ一つ。
殺される
「ブ、ブラァァァ!」
本能がそうさせたのかブルが恐怖を振り払うかのように、突然、フォースに闇雲に殴りかかってきた。
「フガッ!」
だが、覚醒したフォースの前にそんな単調な攻撃は通用しない。ブルの拳を悠々と避け、かわりに腹にフォースの拳をめり込ませる。
ゆっくりと拳がブルの体の中にめり込み、ブルは苦しそうに声を漏らす。しかし、フォースは戸惑うことなく、無慈悲の一撃を決めようとする。
「死ね。」
《Over Lord Rider FFForce》
必殺の「ライダーパンチ」がブルの体を貫通し、ブルは呻き声を上げながはその場で跡形もなく爆発する。
「白のライダー……何という奴だ。」
先ほどまで、余裕をこいていた蛇目の男も、鬼神のようなフォースにただ、うさぎのように震えて恐れをなすだけ。
「くっ!ここは引きたいところですね。」
部の悪い状況になり、眉間にシワを寄せ、如何にも苦しそうな表情をする蛇目の男。そして、人質であった真姫を、フォースに向けて突き飛ばし、逃走を図る。
「きゃっ!」
「真姫!」
突き飛ばされた真姫をフォースは怪我をさせないように優しく受け止める。
「待て!逃すか!」
だが、真姫に手を出した蛇目の男をフォースが簡単に逃そうとするわけがない。だが、それよりも今は真姫の方が心配だったため、結局は追うことはせず、ただ強くに歯を食いしばって、蛇目の男のが逃げた方向を見ているだけだった。
「たくにぃ……だいじょうぶ?」
真姫がいつもとは明らかに違う様子の拓人に不安を抱く。すると、フォースは変身を解除し、拓人へと戻る。そして、戻るやいな、力強く真姫を抱き寄せた。あまりにも突発なことに、恥ずかしくなり真姫は顔を赤める。
「ごめんな……真姫。怖い思いさせちゃって。」
拓人はかすれた声で真姫の耳元でそう言い、さらに強く抱きしめる。今の拓人の心には大切なものを失う怖さと守れきれなかった悔しさが支配していた。
「ううん。……別に平気よ。だって、絶対に助けてくれるって信じてたから。」
真姫が拓人の耳元で優しく励ます。確かに蛇目の男に捕らえられた時は確かに怖かった。しかし、本当のことを言うなら蛇目の男よりも拓人の方が恐ろしいように思えた
あの拓人はまるで世界を支配する魔王か暴君のよう。逆らうことも楯突くことも許されないあの威圧は真姫でも怖気づいた。
(たくにぃがあんな姿なんて初めて見た。)
本音を言ってしまうと、自分のためにあそこまで怒ってくれたのは嬉しかった。自分は彼にとって大切な存在なのだと確認出来たからだ。だが、逆に自分のせいであそこまでになってしまうと思うと申し訳ないとも思ってしまう。
「たくにぃ……。」
だが、あの暴君のような覇気とは打って変わって、現在は拓人は弱々しい。こんな拓人も真姫は見たことがない。
(ねぇ、一体何があったの。)
まるで多重人格のような二面性を持つ拓人。真姫と別れた後の10年間に拓人には一体何があったのか。それを聞きたくても、いざとなると怖くなってしまい、きけ
最後の方に適当になるこのモチベーションをどうにかしたい