おそらく2、3話またぐと思います。
そして、過去編は拓人の独白ということで頑張って苦手な一人称の文にしてみました。
この小説も最初は各キャラ一人称でやってたんですけど……あまりにも性に合わなくて辞めたんですが、過去編限定の復活です!(誰も喜ばない)
俺はあの日のことを忘れることはない。否、忘れたくても忘れられない。
あの日は今だに、鮮明に色褪せることなく、時々フラッシュバックする。人々のおぞましいと思うほどの悲鳴。たった一体の異形によって人々は無残に殺され、青々しい草木が鮮やかな赤に染まる。
そして、大切なものは俺の目の前で壊された。
♦︎♦︎♦︎
「お兄ちゃん、こっちこっち!」
K県のとある大きな公園。夏の突き刺さるような日差しの下、白いワンピースが同化しているように見える程の白い肌の少女、本間彩香がはしゃいぎながら走っていた。
「彩香、待ってよ!」
俺はその小さな背中を汗が流しながら、追っていた。久しぶりに家族総出で出かけるということで、まだ子供な彩香は1人で勝手にはしゃいで走り出してしまったところを俺が追っている状況だった。
「うわっ!」
「彩香!」
後ろを振り向きながら走っていたおかげで、小さな石に気づかず、彩香はつまずいてしまう。
彩香は弱いからちょっとでも痛い思いすればすぐ泣いてしまう。そうとなると、すこし面倒なのと、兄として助けなければいけないと責任感から全速力で彩香の元へ急ぐ。
「うぉりゃ!」
そして、彩香が倒れる寸前にヘッドスライディングで何とか彩香をキャッチし、とりあえず怪我をさせずに済んだ。
「お、お兄ちゃん!?大丈夫!?」
「いってぇ〜。たく、心配するくらいなら気をつけろって。」
「ごめんなさい……。」
受け止めた際に膝を擦り剥いてしまい、軽く出る血が流れる。その傷を見て、彩香は心配するがここで俺は誤って強い口調で咎めてしまった。すると俺が怒っていると見たか、彩香は目を潤ませる。
彩香は泣かせると面倒なのと、誤解が解きたくて俺は頭をくしゃくしゃと撫でる。
「いいんだよ。俺は彩香に怪我してほしくないと思っているだけだよ。」
そう優しく言い聞かせると、彩香はすんなりと理解し、いつもの可愛らしい笑顔を見せる。
「拓人、彩香。あんまり早く行っちゃう、私たち追いつけないわ。」
「あっ!ママ!」
後ろから、聖母のように柔らかな表情で、俺たちのお母さん、本間奏がゆっくりと歩いてきた。綺麗な黒髪に、彩香と同じ白いワンピースに麦わら帽子をかぶっている。そして、彩香は駆け足でお母さんの元に行き、抱き着く。
「拓人。よく面倒くれたな。」
そして、さらに後ろからボサボサの髪の男が現れ、俺に声をかける。
「当たり前だよ。だって、俺は彩香の兄なんだからさ。」
俺は得意げに答える。彼は本間猛。俺の父親で世界で一番尊敬してる人だ。
♢♢♢
昼食を食べ終え、彩香とお母さんが仲良く花を摘んでいるのを俺と父さんはレジャーシートに座って眺めていた。
「ごめんな。最近、なかなか一緒に居れなくて。」
「いいよ。父さんが忙しいのはわかってるし。」
最近、父さんは仕事で忙しく、一緒に居る時間は少なかった。何の仕事をしているか知らなかったが、
「……父さんがいない時は母さんと彩香を頼んだぞ。」
「わかってるさ。」
俺は親指を立て、得意げに答えると父さんは安心しきったような笑みを浮かべた。
「はい!お兄ちゃん!」
すると、花を摘み終わった彩香と母さんが現れ、そして彩香は俺に花の冠を渡した。
「お!ありがとうな。」
俺は満面の笑みを浮かべ、彩香の頭を撫でると彩香はとても嬉しそうに笑った。
「それじゃあ、帰りましょうか。」
母さんがそう言い、俺たち帰る準備をした。このまま、帰りの車で楽しい会話をして、暖かい母さんの手料理を食べ、楽しい一日を終えるはずだった。
「ぐっ!」
突然、父さんの腹から鋭い爪が生えたように見えた。だが、違うに決まってる。
「あ……あっ!」
父さんの背後に黒い悪魔のような異形が鋭い爪で父さんを刺していた。
「あ……あなた!」
「父さん!」
母さんと彩香はその衝撃の出来事に発狂する。一方で俺はひどく冷静でいた。目の前のことを事実として実感出来ていなかった。
すると、異形は父さんをゴミのように雑に脇に捨てると、人一倍うるさい、彩香に爪を振り上げる。
「彩香!」
異形の行動を予測した母さんは彩香を庇うように咄嗟に前に出る。そして、振り上げられた爪は母さんの頭の上から振り下ろされる。
「お、お母さん!」
刀のように鋭い爪は母さんは面白いほど綺麗に真っ二つにした。
「お母さん!目を覚ましてよ!お母さん!」
真っ二つの人間など誰がどう見ても生きているはずのない状態。しかし、彩香はそんな死体にただ泣き縋り、俺は涙を流さず、ただ見つめることしかできない。
その間にも異形は再び、彩香に爪を向ける。
「待……て!」
しかし、娘をやらせまいと父さんは瀕死の状態でもありながら、異形の足を掴む。
「父さん……。」
「拓人!……さっきの約束……忘れたのか!」
父さんの覚悟を決めた表情に決死の言葉。この時、俺は心はやっと平常になった。
「……父さん……。彩香!逃げるぞ!」
父さんの覚悟を胸に、俺は彩香の手を引っ張って逃げた。
「強く……なれ!」
後ろの方で父さんがいつも以上に力の篭った声が聞こえた。
しかし、その直後、何かが潰れたような音がした。
「父さん……母さん!」
両親の死を目の当たりにし、彩香は今にも壊れそうであった。無理もない。人のことは言えないが子供にはとてもきつい状況だ。
だからこそ、兄である俺が守らないとと思っていた。
だが、人間の力、特に子供など非力でしかない。
異形は超スピードで既に俺たちの背後におり、爪を振り上げていた。
「ぐはっ!」
異形の攻撃から彩香を庇うように怪物に背を向ける。そして、異形の攻撃が俺の背中にあたり、皮膚と肉を抉り取る。
「お……おにぃ……ちゃ……。」
ゆっくりと前に倒れる俺を見て、彩香は口を押さえて、激しく動揺する。そして、倒れた俺を彩香は声をかけたり、体を揺さぶるが、気を失う程の痛みに耐えるのが精一杯で、反応することは出来なかった。
この時、俺は痛みに耐えて、少しでも彩香に声をかければと後に後悔することなる。
異形はゆっくりと俺に近づき、俺に引っ付く彩香を無理矢理引き剥がし、再び爪を向ける。
「やめて!」
だが、俺をやらせまいと彩香は異形の左足に纏わり付いて、行かせまいとする。
「や……め……。」
だが、まだ小学校に入り立ての少女が人間の肉体をいとも容易く引き千切る異形を止めることなど到底不可能。それは蚊が人間の血を全て吸い尽くすことと同じくらいだ。
そして、異形は足元にまとわりつく彩香の首を掴み、持ち上げる。
「くう……。」
彩香は足をバタつかせ、拘束を解こうともがくが、逃げられるはすがなく、まるで捕まえられた昆虫のよう。
「……。」
そして、異形は首を絞める手を一層強める。
「は……は!」
俺は彩香を助けようと地面を這い蹲る。しかし、全く間に合わず、異形は彩香の左腕を切り落とす。
「!?」
言葉にならない絶叫がその場に響き渡る。彩香は涙と涎をだらしなく垂れ流し、喚く。俺はただそれを眺めることしか出来ず、拳を血が滲む程、握りしめる
異形は彩香の悲鳴が癇に障ったのか、爪で彩香の喉元を掻っ切る。すると、彩香から空気が漏れるような音が出てくる。
「あ……あ!」
喉を潰され、声が出せなくなった彩香は救いを求めるようなその目で口をパクパクと動かし、俺に何かを伝えた。
その時、俺は彩香が何と言ったのかわかった。
助けてと
ゴリッ
理解したその瞬間、骨と骨がずれる音が拓人の耳の中に木霊する。
「あ……。」
俺は彩香が死んだにもかかわらず、反応は薄かった。別に感情が無かったわけではない。ただ現実と捉えられなかったのだ。
最初は悪夢だと思った。お父さんや母さん、彩香が死ぬなんてありえない。それに怪物という非現実存在がいるわけがない。
しかし、残念なことにこれは現実だ。どんなに逃避しようとも、目の前に広がる光景は全て現実のものだ。
赤く染まった草木。生臭い匂い。細切れになった死体。苦しそうに横たわる死体。お父さんだったもの。お母さんだったもの。
そして、異形の手には彩香だったものが手足をだらしくなく下げ、口からは血や内臓、汚物が糸を引いて垂れていた。
紛れもなく現実だ。
「は……は!?うわぁぁぁぁ!?」
現実を受け入れてしまった俺はその時、壊れた。涙と涎を垂れこぼし、絶叫し、気を狂わした。
「……。」
まるで食べ終わった焼き鳥の串を投げ捨てるように彩香だったものを投げ捨て、異形はゆっくりと俺へと迫る。
しかし、俺は逃げる余裕などなかった。否、逃げる気などなかった。いっそのこと、ここで死んでしまいたかった。もう、俺には何も残されていない。帰る場所も家族も心も、全てを異形に壊された。
なら、ここで死んで楽になりたいと。そう、諦めたのだ。
「……。」
そして、目の前に迫った怪物は俺に首を掴み、俺の心臓に狙いを定める。
これで、何もかも終わる。死ぬ直前であるのに、恐怖など微塵も感じず、寧ろ安心さえ、感じていた。
「じゃ……さ……なら。」
思わず漏れた言葉はさよなら。誰に言ったつもりなのかわからないが、この際、どうでもよかった。
そして、怪物は振り上げ、爪が胸に当たるその瞬間、俺の意識は途切れた。
♦︎♦︎♦︎
黒い空間を裂くように目を開けると白い天井が目に入った。
「ここは?」
意識が朦朧とする中、俺は薄眼のまま、周りを見回す。白いカーテンに壁、ベッドに棚。独特の薬品臭さと腕につけられたチューブと呼吸器。
そこでやっと、俺は病院にいることに気づいた。
「あっ!い、院長!患者さんが!患者さんが!」
すると、たまたま巡回に来ていた看護婦が俺を見るやいな、無線で院長を呼びつける。
その1分後には院長らしき白い髭の老人とその他の十数名の看護婦や医師が俺を取り囲み、ある者は病院だというのに大きな声で、ある者は涙を流して、喜んでいる。
「良かった!……本当に良かった!」
正にお祭り騒ぎ。まるで、俺が起きたことそのものが奇跡と言わんばかり。
……こっちにとっては奇跡でもなんでもない。寧ろあのまま……死なせてくれれば良かったものの。
鮮明に覚えているさ。あの惨劇を。あれは夢なんかじゃない。
そして、周りの反応を見る限り、あの惨劇で生存した人間は俺だけだって。
医師達に家族ことについて聞くと、案の定、バツの悪そうな表情を浮かべる。寧ろこっちが申し訳なくなった。
♦︎♦︎♦︎
その後、無事に退院は出来たが家族を失くした俺に帰る場所などあるはずもなく、取り敢えず、とある養護施設に行くことになった。
惨劇の前の俺なら、きっと施設の人達の仲良くでき、まだ幸せな生活を送れただろう。
しかし、この時は俺は荒れていた。施設の人達に歓迎されても露骨に無視し、自暴自棄になって必要以上に人にあたっていた。
そういう枠から外れた俺を当然、面白いと思わない奴もいて、何回か嫌がらせを受けた。
しかし、その度に俺は徹底的にやり返した。殴る蹴るなどに収まらず、鉛筆の先を相手の腕に突き刺したり、鉄パイプで殴り、頭蓋骨を割り、病院送りにしたこともあった。
やり過ぎだとは思ってはいない。そうでなければ何も守れない。もう……奪われるだけは嫌だったから。
そして、案の定、俺は危険人物と見なされ、他の人間とは隔離された部屋、独房に入れられた。
その部屋の住人になってからというもの、俺は人間として扱われなくなった。
部屋は全面コンクリートで硬く、ベッドが無いので地面でそのまま寝る羽目になり、起きる時は全身が痛く、最悪の目覚め。トイレはあったが風呂は週に一度しか入れず、夏場は異臭が充満していた。さらにご飯も残飯なのか、酷く粗末な物で異臭がしていた。
最初は食べる気などなかった。
このまま餓死すればいいと思っていた。しかし、本能は死を拒絶し、自然と手は残飯に口へと運びこまれる。
だが、死ぬことだけが嫌だった訳ではない。死ぬこと、本当に2度と家族のことを思い出させなくなるのが死ぬよりも怖く、嫌だった。
俺には何も残されていない。家族も何も。ただ、思い出だけを頼りにあの苦しく、惨めな生活を2年も耐え抜いたのだ。
次回の仮面ライバー
拓人が何故仮面ライダーになったのか?何故、ダンスに夢中になったのか。その秘密が明らかに!
全てはある一人の女性がきっかけであった!
次回「運命の出会い」
「あなたに出会て良かった……それじゃあ……さよなら……。」