まぁ、前座は置いといて。
今回はかなり過激な展開になっています。
しかし、拓人の憎しみを表すにはこうするしかなかった。
俺は息を切らしながら、現場へと駆け付ける。
何もない、いつもの変わらない道は現場に近づくごとに瓦礫が多くなり、煙が流れていき、次第に雲行きが怪しくなっていく。
「これは……」
フラフラになりながらも現場に到着すると、そのあまりの惨劇に言葉が出ない。
周りのビルや建物は全て崩れ、瓦礫の山とかしていた。
瓦礫の隙間や、車からは火の手が上がり、現場は煙臭く、口に何も当てず、そのまま呼吸するのは少し辛い。
そして、瓦礫の下には……車の中には…そこら中の至る所に人の死体が石ころのように倒れていた。
「……何だよ……こんな死に方……」
死体の状態はあまりにも悲惨だった。
傷だらけで見るも絶えないもの。
四肢のいずれかが欠損したもの。
頭部が潰されたもの。
恐怖のあまりに白目を剥き、引きつった顔のまま死んだもの。
人が死ぬにはあまりのも残酷過ぎる。ここまで痛みを感じて、苦しんで死ぬ必要があったのか。
「あ……あ!」
そして、もう一つの死体を見つけると俺は、ショックのあまり、跪く。
俺の目の前には若い母親が幼い子供を庇ったまま息絶えたものがいた。
子供の表情は例に漏れず、非常に怯えた様子で泣いていた。しかし、母親は怯える子供を最後の時まで安心させようとしていたのか、引きつった笑顔であった。
「な……だよこれは!なんで……!なんで!」
この親子に何の罪があったのだろうか?いや、罪なんてない。
しかし、オーガのせいで、理不尽な悪意のせいで、親子は……人々は輝かしい未来を奪われた。
「許せない!絶対に!オーガは殺す!絶対に!殺す!」
唇を血が滲むほど強く噛み締め、拳を強く握り締める。
オーガへの憎しみがより一層強まった。いや、もう憎しみなんかでは表せない。
呪いだ。オーガに復讐しなければならないという目的が、憎しみと合わさり、一種の呪いに生まれ変わった。
呪いに囚われていると、スマートフォンから着信が入り、焦りと苛立ちを募らせながら耳に当てる。
『おい!拓人!聞こえるか!』
「博士……何ですか……」
『オーガが現れた!』
「知っていますよ!俺は今、その現場にいるんですからね!」
俺が既に現場に居ること。そして、いつもとは違う、化け物ような声音で俺の感情を察した博士は慌てて、俺が行うであろう狂行を止めようとする。
『まさか、拓人!落ち着け!生身のお前じゃ無理だ!せめて、私が来るまで待つんだ!』
「待てるわけがねぇだろ!あんたが速く来ればいい!とにかく、何であろうと俺はオーガを殺す!」
しかし、俺は博士の制止を無視し、さっさと電話を切った。
一分一秒が惜しかった。この間にもオーガによって無関係な人が殺されていると思うと、怒りが増すばかりであった。
「殺す……殺す!」
不穏な言葉を吐きながら、俺はオーガの元へと駆け出す。
この時は俺は明らかに冷静ではなかった。怒りに囚われ、呪いに縛られ、ただオーガを殺すことだけに執着した殺戮マシーンへと成り代わっていた。
「……いた……」
そして、俺はいよいよ元凶を発見した。
鋭い口に釣り上がった赤い複眼。薄い羽に黄色と茶色のストライプの模様。
最大の特徴である尻に大きな針を持ったビーオーガがのそのそと次の獲物を探すように周りを見回していた。
「……さぁ、殺してやる!」
俺は運良く足元に落ちていた鉄パイプを拾い、すぐさまビーに殴りかかる。
「ギャビュッ!」
ビーの頭部に渾身の一振りが浴びせられ、あまりの衝撃にビーは思わず、地面に倒れる。
「ハァハァ……その程度で終わると思うな!」
一撃浴びせただけで、凹んだ鉄パイプを再び握り締め、俺は倒れているビーを何度も殴り続ける。
「お前の!せいで!一体!どれほどの人が!」
我武者羅に鉄パイプでビーを殴る。
怒りを込め。憎しみを込め。呪いを込め。
自分の全てを解放して、殴り続ける。
今思えば、その姿はまるで悪魔。オーガと大して変わらない、血も涙もない化け物に成り下がっていた。
「グバァババ!」
ひたすら殴られ続けたビーもいよいよ堪忍袋の尾が切れ、反撃に出る。
鉄パイプを掴み、グニャリと曲げる。
そして、俺の顔面に重いパンチを浴びせる。
「グッ!」
必死に歯を食いしばってパンチを倒れるが、オーガの馬鹿力には流石に耐えきれず、吹っ飛ばされる。
「クソ……野郎!」
口から流れる血を拭い、ビーを睨みつける。
一方のビーは敵と認識した俺に襲いかかる。
そして、手の甲についた毒針を俺に突き刺さそうとしたその時、俺の背後から一発の銃弾が放たれ、ビーの顔面に直撃する。
「何やってる!」
背後から白いバイク、プロトフォースランナーに跨り、両手で拳銃を構えたフラン博士が目を限界まで開き、今にも血管が切れるのではと思うほど、顔を真っ赤にして、俺に怒号を浴びせる。
「私が助けに入らなかったら、お前は死んでいたぞ!」
「だから、何だ!俺はオーガと戦う為に生きているんだ!あんただって、俺をその為に改造手術しただろう!今更、保護者面してんじゃねぇ!」
「拓人……」
復讐の対象であるオーガと対峙し、俺は冷静さを失っていたどころか、熱く燃え上がっていた。
オーガへの怒り。オーガによって受けざる得なかった理不尽への怒り。
一度着いた怒りの炎は誰にも消せなかった。
「博士!武器を寄越せ!オーガを殺せる武器を!」
まるで獣のような形相で俺は博士に武器をねだる。いや、脅迫か。
あの時の俺を見ている博士は酷く怯えていた。それこそ、ライオンなどの猛獣に追い詰められている。そんな感じだった。
「……わかった。なら、これを使え」
俺の怒りを止められないと判断した博士は納得していない様子だったが、バイクのトランクから両刃剣、プロトフォースセイバーを渡す。
「これはあくまで仮面ライダー用の武器だ。生身の体じゃ、上手くは使えんだろうが無いよりマシだろう」
「いや、十分だ」
もぎ取るようにプロトフォースセイバーを乱暴に手に取る。
確かに重量はかなりあり、何かしらの補助がなくては上手くは使えないはずだか、それでもオーガに対して十分な戦力になるのなら、多少の無茶は承知。
「さぁ、斬り刻んでやる!」
片手でプロトフォースセイバーを引きずりながら、ビーに詰め寄る。
そして、大きくセイバーを振り上げ、力一杯振り下ろす。
「ガガ!」
「チッ!俺の攻撃が遅い!」
しかし、あまりの重さに素早く振れず、悠々と避けられてしまう。
「せめて一撃だけでも!」
俺は焦ってがむしゃらに剣を振るう。しかし、単純で遅い攻撃をビーにとって対処するのは容易であり、また追撃するチャンスであった。
「ガグッ!」
「グォッ!」
剣を振るい終わった直後にビーの拳が俺の腹にめり込む。
その威力は俺の内臓を容易く潰すほど。
視界が暗転してしまうほどの痛みに、俺は口から血を吐き、ゆっくりと膝から崩れ落ちる。
「やらせるか!」
俺のピンチを見兼ねた博士は必死に射撃で気を引こうと引き金を引き続ける。
「グワゥ!」
しかし、ビーにとって弾丸など、石ころを当てられているようなもの。
だが、何度も当てられると鬱陶しいようで、ビーは右腕から神経系の毒針を博士に向かって放つ。
「ぐっ!」
毒針は博士の右脚を貫き、博士は痛みにのたうちまわる。
そして、邪魔者は居なくなったと言わんばかりに俺を見て、不敵に笑う。
「畜生……」
死を目の前に突きつけられ、唇を強く噛みしめる。
別に死ぬのが怖くて怯えていた訳じゃない。ただ、悔しかった。人の幸せを奪うオーガに--復讐の対象であるオーガに何も出来ず、ただ殺されるのが悔しかった。
弱肉強食なのがこの世界の道理なのか。弱者である人間は強者というオーガにただ殺戮されるだけなのか。
そんな筈はない。弱者にだって生きる権利はある。その生きる権利を強者だろうと一方的に奪うのは許されないことだ。
それを平気でやるオーガは悪だ。人間だけでなく、その他の生命を奪うオーガは悪だ。
だから、殺さなくてはいけない。駆除しなくてはいけない。
今、ここで。
「負けて……たまるか!」
復讐の炎が再び燃え上がる。絶対に殺すという化け物じみた殺意を燃料に。
俺は手元に落ちていた剣を握り、ビーに襲いかかろうとした。
「ググ!」
だが、残念なことにビーの反応は素早く俺が剣を振るう前に右腕を出し、毒針を俺の心臓に放とうとする。
俺はここで死を覚悟した。やはり恐怖はなかった。むしろ、ここまで近づけば少しでも剣を振るえば、ビーに浴びせられると思っていた。
例え、自分が死んでもオーガと相打ちならそれでもよかった。
少なくとも何も出来ずに死ぬよりかは遥かにマシだった。
このままオーガを殺せるという高揚という狂気に溺れていたその時、目の間に見覚えのある人影がまるで俺の盾になるように現れた。
「え?」
あまりの予想外の出来事で俺は目を丸くし、あんぐりと口を開け、呆然としていた。
このまま行けばオーガを殺せたかもしれないというチャンスを潰され、放心していた。
しかし、それよりも何にも価値のない俺の命を庇うなどというのが一番訳がわからなかった。
だが、あの人ならやりかねない。価値が無くとも俺ならばやりかねない。あの人なら。
「せ、先生ぇぇぇぇぇぇ!」
目の前でビーに腹を貫かれる先生を見て、俺は気が狂ったように叫ぶ。
当たり前だ。あの日以来、やっと出会えた大切な人がオーガに襲われたのだ。気が気ではない。
ゆっくりと後ろに倒れる先生を後ろから支えるように抱き抱える。顔を覗き込むと先生の腹部から大量の血を流し、ビーの即効性の毒のせいか顔も青白く、危険な状態なのは明白だった。
「先生!しっかりしてよ!先生!」
危険な状態の人間に対して、一番やってはいけないとわかっているにもかかわらず、俺は先生の体を激しく揺さぶって、無理矢理、意識を戻そうとする。
しかし、ビーの神経毒のせいか口すらも動かすことが出来ず、次第に息も薄くなっていっていた。
「クソ……オォォォォォガァァァァァ!」
先生を抱き抱えながら、俺は絶叫する。これは俺のミスだ。俺がもっと強く先生を突き放さなかったばかりに。関わりを持ったばかりに先生を傷付けさせてしまった。
だが、それも全部オーガが居なければ何も起こらなかったことだ。
自分の罪をすり替えるように俺はオーガに激しい怒りをぶつける。
「うおぉぉぉぉぉ!」
先生をゆっくりと硬いアスファルトに寝かせ、俺は剣を振るう。
アドレナリンが限界まで放出し、そして改造手術の際に埋め込まれたオーガ細胞が活性化し、筋力を強化する。
今まで、ゆっくり振ることしか出来なかった、剣もこの状態ではまるで手足のように簡単に振るえ、ビーに一太刀浴びせることが出来た。
「ガギュワァ!」
斬撃はビーの胴体を右斜めに通り、ビーは痛みに悶える。
しかし、致命傷にならず、すぐに立ち直ってしまう。
このままではジリ貧だと、俺は打開策を見つける為、博士の元もとい、バイクに駆け寄り、後ろのトランクを漁る。
すると、そこで俺は切り札を見つけた。
「拓人!それはまだ使うな!」
毒でまともに口すら聞けない状態でありながらも博士は俺が手に取った物を見るや、必死に使わせまいと説得する。
博士が使わせたくない理由はわかっている。
俺が手に持っている物はまだ試作品であり、さらにまだ実用化にすらいたっていない。
下手をすれば、死んでしまうような代物。
「これで……戦える」
それでも俺はこれを使おうと決心する。
このライダーシステムを。
どうせ、ライダーシステムを使わなければ、ジリ貧で死ぬ。
なら、まだオーガ倒して死ぬ方がマシで、運が良ければ自分も助かりながら、オーガを倒
すことが出来るこの力に頼る他なかった。
「一か……八かだ!」
悪魔のような笑みを浮かべ、俺は遂に新たな領域へと踏み込む。
ドライバーを腰に巻き、カバーを開け、白いディスクをセットする。
「うおぉぉぉぉぉ!」
ディスクをセットした途端、体に電撃が走る。
試作品故の欠陥。このまま、受け続ければ死ぬ可能性があった。
しかし、それをわかっていながらも俺は耐えるしかなかった。
やがて、周りから装甲が現れ、俺の体に装着されていく。
鋼鉄の装甲が装着されていく度に殴られるような痛みが襲いかかる。
「ハァ……ハァ……」
その痛みに耐え、最後に仮面を装着され、俺は新たな姿へと変身する。
仮面ライダープロトフォースへと。
今の仮面ライダーフォースとは違い、色は燻んだ白。全身が鎧の包まれたフォースだが、プロトフォースは肩と胸と膝にだけ鎧が付けられ、後は薄い黒い強化スーツに覆われていた。
「ガガ!」
「……い……くぞ!」
装着した時の衝撃だけで、かなりのダメージを受けていた。
だが、いつもとは違う感覚ーー体の中から力が湧き出るような感覚に俺は心が踊った。
今なら最大限の力が出せる。本当の自分が出せる。
傷だらけの体を蔑ろにしてまで、そのくだらない自己満族、そして復讐という欲求に従い、俺はビーに殴りかかる。
「ハァァァァァァ!」
鋼鉄の拳を何度もビーの顔面に浴びせ続ける。
ビーを殴る度に拳に硬い肉を潰す感触伝わってくる。
それがとても心地よかった。
オーガをこの手で痛み付けている。この手で復讐をしている。
そう思うと積年の恨みが徐々に晴らされていき、清々しくなっていくり
「ガギャワ!ガギュワァ!」
「あははははははは!」
ビーの悲鳴を掻き消すような俺の狂った笑い声が町中に広がる。
そして、俺は最後にビーの頭と首を掴んで、違う方向の引っ張っていく。
「ガバシャ!」
ビーの胴体から首を離れていき、脊髄が見えていく。
俺はそれを仮面の奥で恍惚と眺めながら、苦しむようにゆっくりと続ける。
「哀れに……散れ!」
やがて、ビーの胴体を頭を完全に分離させ、残った頭地面に叩きつける。
そして、脊髄のついた頭を力強く踏みつける。高い所からスイカを落としたように脳や血が飛び散る。
俺はそんなグロテスクなことに何も反応せず踏みつける。何度も。何度も。
「あははははは!やった!俺はオーガに復讐出来た!オーガに!復讐出来た!」
俺はまるで子供のように無邪気に喜んだ。それはそうだ。長年の悲願が達成されたのだ。
喜ばずにはいられない。
しかし、そんな喜びも束の間。ライダーシステムの限界時間に達し、激しい電撃と共に強制的に変身が解除される。
そのあまりの痛さに俺はそのまま気を失ってしまった。
如何でしたか?
初期の拓人からは想像出来ない、狂人さ。
次の回を経て、本編のまだ優しい拓人になるので安心してください。