やっとこさ、過去編が終わります!
この景色を見たことがあった。
白い天井に白い壁。鼻にくる消毒液の匂い。ベッドと小さなタンスしかない簡素な部屋。
「病院か……」
かつてのトラウマがフラッシュバックする。
目覚めた直後に告げられた家族の死。全てを失い、孤独となったあの瞬間は忘れることはない。
「博士……」
もうあんな思いはしたくないと周りを見回す。
横のベッドには深く眠る博士がいた。
「生きてるのか……良かった」
俺は大きく安堵の息を吐く。全身から力が抜けベッドに倒れこむ。
顔に白い布が被せられていたらどうしたものか。
本当に良かった。
俺にとって、博士は大切な存在だ。
確かに酷いことも厳しくされたこともあるが、それは俺のためであって、言うなら愛するが故の結果だった。
「君!目を覚ましていたのか!」
回診に来ていた医師が目覚めている俺を見るやいな、慌てて駆け寄ってくる。
「はい」
「そうか。……あ、大丈夫だ。隣のおじいさんも生きてる。ただ、二日も目を覚ましてないけど……」
先生の言葉により、博士の生存が確信に変わる。
しかし、二日も目を覚ましていないとなると、やはり油断を許さない状況と受け取るべきか。
「そうだ!先せ……他に運ばれてきた人とかいませんでしたか!女性の方とか!」
「あぁ。彼女か。……彼女も無事だ」
「たくちゃん!目を覚ましたんだね!」
先生はベットで気楽に本を読んでいた。
その姿は、検査入院しているただの患者にしか見えない。
「先生……」
上半身だけを見ればの話だが。
「その脚は……」
「……あはは」
先生は笑らって、そのことの重大さを誤魔化そうとする。
しかし、笑いといっても乾いた笑い。
先生の右脚は膝から下がなかった。
「なんか、毒が回り過ぎて……右脚の神経が死んじゃってね。私もドジだよね」
「俺のせいだ!俺が先生と……一緒にいたばかりに!」
俺はその場で跪いて、後悔した。
先生の脚はビーの毒にやられたのだろう。
そして、その毒のせいで足がなくなっま。
足がなければ今まで通りに踊ることはできない。
それは先生の唯一の生き甲斐を夢が奪われたのと同じだった。
「違うよ!」
ゆっくりと本を置き、先生は俺に優しい笑みを浮かべ、励まそうとする。
「私はたくちゃんと出会えて良かった!たくちゃんを守れて何も後悔してない!」
「でも!俺は先生の人生を奪って!」
「奪ってないよ!その証拠に私はここにいるでしょ」
「違う!そういう意味じゃ!」
確かに先生は生きているから一般的な意味の人生を奪ったというのは語弊があるだろう。
しかし、俺の浅はかな行動のおかけで先生の生き甲斐、そして夢を奪った。
それは俺にとって先生の人生、未来を奪ったのとのと大して変わらなかった。
「確かにあの時助けなかったら私は今でも何事もなく踊り続けられていたよ。でもね、それが君の犠牲の上と知っていたなら……私は結局、踊れないと思う」
先生は優しすぎる。俺の我儘のせいで夢を奪われたのに、なんでこんなに俺を励ますのか。
俺なら、すぐにでも殺してやりたいと思うのに。
「私のダンスは君くらいにしか、届かなかった。でも、君は!君の存在はたくさんの人を救える!価値は全然違うよ」
「価値なんてそんな簡単な言葉で片付く話じゃ!」
「それは……そうだね。なら、私にとってダンスを続けることよりも君が生きていることの方がよっぽど大事なことだと思うの」
すると、先生は俺に手招きをする。
「たくちゃん、顔を上げて。こっちに来て」
先生に招かれるまま、俺は先生のそばに寄って、その綺麗で整った顔を見つめる。
「やっぱり、イケメンだよね。アイドルみたいだよ」
にこやかに笑いながら、先生は俺の頬を撫でる。
まるで我が子を愛おしく撫でるように。
今の先生は普通の女性とは違い、有り余るほどの大きな母性が感じられた。
それが俺にとって、亡き母親と重なって見えた。
「ねぇ、これから戦い続けるとしても、ダンスも一緒に続けて欲しいな。それが……君の……私への償いなのかな?」
「それが……償い……」
「うん!君が楽しそうにダンスしている姿が見れれば私は十分かな」
「先生……」
今度は曇りのない明るい笑顔を振りまく。
やっぱり先生には敵わないと思った。
「わかった。俺はダンスを続ける。先生の分まで」
「私の分はいいの。たくちゃんはたくちゃんはのダンスをすればいいの」
先生は笑顔で俺の頭を撫でる。
そして、先生は数日後、リハビリと義肢の作成のため、他の病院に移ることになった。
それ以来。俺は先生と一度も会っていない。
でも、必ずいつかは会えると信じている。
♢♢♢
それから数年。俺は高校生に上がり肉体も出来上がった頃、博士からあることを告げられた。
「東京でオーガが本格的に行動を開始したようだ」
「いよいよか……」
今までオーガは度々出現していたが、頻度は半年の一体程度。
しかし、今年に入ってオーガの出現頻度が爆発的に増えた。
特に東京を中心に。
このまま野放しにしておけば、犠牲になる人達が後を絶たないだろう。
それを阻止する為にいよいよ、俺の出番が回ってきたのだ。
「お前も十分、修行を積んだ。オーガととも渡り合えるだろう。さぁ、これを持っていけ」
「これは……フォースドライバー」
そして、博士はアタッシュケースを俺に渡す。
そのケースの中には複数のディスクと白のドライバー、フォースドライバーがあった。
数年前のプロトフォースドライバーとは若干だが形状が違っていた。
これで、俺は本格的にオーガと戦える。
心の奥底で眠る闘争心が湧き上がり、思わず、口角が上がってしまう。
「そして、お前が立派な戦士の旅立ちを祝して、私からの餞別の品だ」
「これは?」
「解体最中のお前の家で発見されたMDプレーヤーだ」
今度は博士は机の上に置いてあった箱から古びたMDプレーヤーを渡す。
俺の家にあったようだが、一度も見たことがなく、なんでこんな時代遅れの物があるのだろうと首をかしげる。
「おそらく、父親の私物だろう」
「この歌声……」
MDプレーヤーから流れたのは歌声。今は亡き、母さんと彩香の歌声。
そして、真姫の歌声。
「真姫……。しまった……すっかり忘れてた……」
目先の不幸に囚われていたため、すっかり記憶が抜け落ちていた。
彩香と同じように大切な存在であったにもかかわらず。
俺は酷く後悔した。
何故、真姫を忘れてしまっていたのだろう。
あれほど、一緒に過ごしていたのに。
毎日のように遊び、話したのに。時々ご飯を食べ、風呂にも入り、寝たこともあったのに。
しかし、後悔している反面、嬉しくもあった。俺は全てを失った訳ではない。
まだ、俺を知ってくれている人がいた。
それだけで俺は救われたのだ。
「ありがとう、博士。おかげで希望が見えた」
「そうか」
俺の曇りのない澄み渡った表情を見て、博士は安心したような笑みを浮かべる。
「荷物も既に拠点に送っている。東京に行くための切符も用意している。すぐに行くのだ」
「流石に早すぎるけど……そうだな。行ってくるよ」
まさか、今から行けと言われたのは想定外だったが、もたもたしている内に犠牲者が出るかもしれない。
その可能性があるなら仕方がないかと、理解し俺はアタッシュケースを持って、研究所を後にしようとする。
「拓人!絶対に死ぬな!」
研究所の玄関から出ると後ろから博士が、らしからぬ感情的に俺に向かって叫んだ。
今まで鬼のように冷たかった博士が今になって暖かくなって……俺はこの人に拾われて良かったと思った。
「あぁ!フラン博士も、元気でな!」
俺は振り返らずに博士に別れの挨拶を交わす。
そして、俺は新たな新天地に向け、歩み始めるのであった。
♢♢♢
「そして、俺はこの街に来たんだ」
どんよりと重い、黒く濁った空気が真姫の部屋を包み込む。
オープンキャンパスのライブが奇跡の成功という形で幕が降りた後、拓人は真姫に自宅に招き入れられた。
なぜ、仮面ライダーとなり戦うのか。どうしてオーガを激しく憎むのか。
その全てを謎を問いただすために。
そして、語られた話はあまりに悲惨で残酷であった。
「そんな……おじさんも……おばさんも……彩香ちゃんも……」
拓人の両親はよく真姫を可愛がってくれていた。
医者として勤しむ真姫の父とその手伝いをする母はよく家を空けていた。
すると、一人っ子の真姫は家で寂しく待つことになる。
そんな真姫をかわいそうと同情し、手を差し伸べてくれたのが、隣に住む本間家であった。
拓人の両親はあらかじめ、真姫の両親に許可を貰い、両親がいない間は真姫を自宅に預かっていた。
初めは人見知りもある真姫は距離を置いていたが、他人の子でありながら我が子供のように接してくれる拓人の両親に感謝していた。
彩香も真姫にとって妹のような存在で、よく可愛がっていた。
今、真姫がしっかりしているのも彩香の存在があったからだろう。
「……ごめんな。悲しい話を聞かせて……」
真姫にとって大切な人の死を伝えるのは拓人にとって心苦しかった。
悲しい知らせなど知らなくてもいい。知らないほうが幸せなことだってある。
「ううん……。いずれは知るべきことだったわ……」
でも、真姫は強かった。
その悲しい事実を受け入れ、死の現実と向き合った。
「それに私のことよりもたくにぃのほうが心配で……」
「俺は大丈夫。もう……全て割り切ったから」
「割り切ったって!そんな簡単に!」
「そうでもしないと前に進めなかったんだ」
拓人は吐き捨てるように語る。
「どんなことをしても死者は帰ってこない。罪を償うには前に進むしかなかった。愚かで青い俺にはこうするしか道がなかった」
拓人がまともに生きていくために歩む道は一つしかなかった。
仮面ライダーとしてオーガと戦う。
例え、自分の人生を犠牲になるとしても。
「俺が戦わないと、オーガは人を襲う。そうすればまた俺と同じように悲しみ人が現れる。そんなのは嫌なんだ……」
「わからない」
「真姫?」
「ねぇ、それじゃあ。たくにいを誰が救うの?」
確かに拓人の志しや覚悟は大層立派なもので、賞賛されるに値することだ。
そして。賞賛されるのは喜ばしいことだろう。
しかし、これでは誰が拓人を救うのか。
誰よりも傷ついているはずの拓人こそ救われるべきなのては真姫は思っていた。
「……俺は救われるべき人間じゃない」
真姫の思いとは裏腹に自分のことに関しては拓人は異様なほど冷めていた。
「俺は救う人間だ。その為にこの体を犠牲にしたし、力も手に入れた。はっきり言って今の俺は人間とは言い難い」
拓人の体は作りは普通の人間とは言い難い。
ライダーシステムに適合するために忌々しいオーガの細胞を埋め込み、過剰な負荷に耐え、並の人間以上の身体能力を持った体はまさに異形の力そのもの。
「悪魔を……怪物を救う変人なんてこの世にいない」
悪魔に魂を売った人間は愚かな罪人。
救いようのない愚かな人間。
だから、自分は救われなくてもいい。否、救われてはいけないと拓人は考えていた。
「たくにぃは人間だよ。救われていいはずなのに……」
「でも、俺が救われたら、俺の後を追おうとする馬鹿が現れるかもしれない。それを阻止する為に俺は救われてはいけない」
人は心の奥底で力を渇望している。
他人を潰せる暴力。蹴落とす権力。他人を射止める魅力。
もし、拓人が何かしらの拍子で異形の力を持つことが世間にバレたら。そして、その拓人が救われ、挙句に幸福であったら。
必ず、異形の力を求める輩が現れるに違いない。それを食い止めるにはこの身を犠牲にしならければならない。
忌々しい過ちを繰り返させないためにも。
「でも……たった一つ言うなら、真姫にそう言ってもらえただけで、俺は救われた。それで十分さ」
ゆっくりと真姫を抱き寄せる。
救われてはいけないとわかっていながら、真姫の優しい言葉が、無垢な言葉は拓人を救っていた。
「なら、たくにぃが少しでも救われるよう、私はたくにぃを支えるわ」
「ありがとう。真姫」
拓人の優しい笑みを見て、真姫もつられて笑う。
今まで暗い表情だった拓人が一転して、笑顔が浮かべ、真姫はホッとした。
やはり、拓人は笑顔が似合うの真姫は思った。
「もう、遅い時間だ。そろそろ寝よう」
ふと、デジタル時計を見ると、既に0時と映し出されていた。
あまり夜ふかしは体に良くない。
真姫に就寝すると促し、拓人自身は床に寝ようと、部屋の隅に置いてある布団を敷こうとすると、真姫が拓人の袖を掴んで、止める。
「昔のように一緒に寝ない?」
「全く。真姫は甘えたがりだな」
もう互いに高校生なのだ。
いくら幼馴染とはいえ、自分は男なのだから少しくらい関係を気にするべきだと拓人は思う。
だが、心の片隅では、甘えられて喜んでいる自分がいた。
結局、拓人は素直に真姫のワガママを聞き入れ、電気を消して、真姫の布団に入り、隣に寝転ぶ。
「たくにぃとまたこうしていられるなんて……夢みたい……」
「俺も……そう思う」
真姫の言う通りで拓人にとってこの状況もμ’sに出会えたこともまさに夢のような奇跡だった。
あの、地獄のような日々からは想像できなかった日々。
このような日々が一生続けばいいと拓人は心の片隅で願っていた。
しかし、拓人が願う立場ではない。その願いを守るために身を削って戦う立場だ。
誰かの幸せの為に、拓人が戦う。
それが拓人の使命だ。
「真姫……俺はお前を、みんなを絶対に守る」
「無茶は……しないでね」
「あぁ」
改めて拓人は守りし者、仮面ライダーの使命を再確認する。
そして、二人は強く手を握りしめ、互いを感じあいながら深い眠りにつくのであった。
いかがでしたか?
拓人の壮絶な過去。オーガを激しく憎む理由も自分ならよくわかります
家族を殺され、孤児になり、仮面ライダーに変身する為に改造人間になる。仮面ライダーの悲しみを全てを抱えた悲劇の主人公。
でも、その悲劇を味わったからこそ、今の拓人がいると思います。
まぁ、何はともあれ、次回からやっとアニメ本編に沿って話が進んでいきます。
一体、拓人とμ’s、そして爽馬達はどんな困難に立ち向かうのか?
そして、這い寄る進化オーガ、蛇目の男の存在
これからとμ’sと拓人と爽馬の行く末を見守って頂けたら、幸いです