就活が忙しくてあまり手が付けられませんでした
そんなことより、μ`s復活ですね!
また花陽ちゃんが応援できる喜び! ありがとう!
ライブが始まる頃には夕日は傾き、秋葉原は茜色に染まる。
ステージの前には既にたくさんの観客が集まっており、μ`sのライブを今かと待ちわびている。
思いの他、人が集まったことにステージ前で警備している爽馬は驚いている。予め、SNSやチラシでライブを行うという情報は発信していた。しかし、まだ駆け出したばかりのスクールアイドルだ。正直に白状すると出だしはクラスメートやその周辺、ファンが数十人程度しかこないと爽馬は高を括っていた。そこからライブを行うことで、通行人や周辺のカフェで時間を潰している人達に注目してもらい、音乃木坂のこと、μ`sのことを知ってもらうのがこのライブの意味だ。
だが、開演前にも既に観覧エリアから溢れてしまうほどの観客が集まっている。
「すげぇな……集まっている」
μ`sの想像以上の人気ぶりに脱帽するしかなかった。
いや、当然の結果なのかもしれない。ファーストライブやオープンキャンパスで行った素晴らしいパフォーマンスを見れば誰でも心を掴まれる。
爽馬もその一人だった。
だからこそ、これだけの人数が集まるのは必然だったのかもしれない。
「……読みを間違えたな」
俯き、薄ら笑みを浮かべる。
こんなことならもう少し広い場所で確保するべきだったと反省する。
同時に読みを間違えて良かったと思った。
まるで超新星爆発のような勢いで進化していくμ'sの活躍を目の当たりにできたのだ。
「お待たせしました! 只今より、μ'sのライブが行います! 皆さん、盛大な拍手でお出迎えください!」
後ろのステージからヒフミトリオが開始をアナウンスすると、ステージ脇からモノクロの可愛らしいメイド衣装に身を包んだメンバーが現れる。
ミューズの登場を今かと待ち望んでいたファン達から盛大な拍手が起こる。
「くっそ可愛いなぁ。これが見れないとか、あいつはツイてないな」
先程から衣装姿のメンバーとは話をしていた時から可愛いと思っていたがやはりステージ上にそれ以外ではやはり見栄えは全く違う。
ステージに立つことで彼女達の可憐さに非日常の憧れと刹那的な儚さが上乗せされることで不思議で奇跡的な美しさが生まれれるのだろうか。
「皆さん、本日は私たちのライブにお越しいただきありがとうございます」
オープニングMCは穂乃果が務める。普段はリーダーとはほど遠い頼りなさが目立つ穂乃果だが、いざステージに上がるとまるで別人のように真面目に振る舞っている姿には毎度驚かされる。
ましてやにこのように演技っぽさは全く見えない。きっと自然にそうなっているのだろう。
やる時はしっかりと最後までやる。それが高坂穂乃果と言う人物なのだろう。普段の姿と偶像の姿の両方を知っている爽馬ならではの発見の仕方。
「今回、披露する曲は私達の大切なメンバーのことりちゃんが作詞しました」
穂乃果はことりに視線を送る。ことりはステージ上の為、笑顔を取り繕っていたが、よく見ると不安の色が垣間見える。
爽馬はただ信じ、応援することしかできなかった。一緒に歌うことも踊ることも許されない。マネージャーというのは肝心な時は無力だと痛感した。
その間にマイクはことりに渡り、他のメンバーはことりをセンターとしたフォーメーションに配置する。
いつもは穂乃果と海未の後ろにいたことりが今二人の前、それだけではなく八人の前に立っている。
「み、皆さんこんにちは! 南ことりです!」
震える声で挨拶をすることり。不安と緊張で押し潰されそうになり、細い脚が小刻みに震えている。きっと心の中では本当に自分がセンターなんて務まるのだろうかと不安になっているに違いない。他のメンバーの方が歌もダンスも上手ければ、自分よりも可愛いとも思っているだろう。
「この曲は……」
言葉を上手く続けられず、ことりは助けを求めるかのように後ろのメンバーを見る。
ことりとは打って変わって他のメンバーは堂々としていた。勿論、同様に不安も抱いていたし緊張もしている。しかし、それ以上にことりを信じているのだ。ことりの作った曲、ことりがセンターなら成功すると期待している。
「みんな……」
その思いはしっかりとことりに伝わっている。ただ最悪の場合、重圧となってことりをさらに蝕むことになる。だが、ことりは糧とした。
このライブも新曲も自分一人で作ったものではないからだ。穂乃果と海未が慣れない作詞を共に手伝ってくれた。絵里はことりの可能性を信じてセンターという大役を与えてくれて、真姫はみんなで作った歌詞に合う曲を作ってくれた。花陽と凛、にこも希も色々と手を貸して貰った。拓人も真剣にダンスを見てくれた。
そして、爽馬は誰よりも先に自分が変わろうとする努力を肯定してくれた。
もう、立ち止まらない。後はその羽を広げるだけだ。
「みんなと一緒に作った大切な曲です! ぜひ聞いてください!」
みんなの思いとファンの応援を胸にことりは堂々と歌い出す。
そして、小鳥が大きな翼を広げ、空へと旅立つ。
◇◇◇
「今回のライブ、最高だったね」
日が地平線に顔を隠す頃。穂乃果と海未、爽馬、そしてことりは神田明神にて先程まで行われていたライブについて思い返していた。
ことりが歌い出すと同時にファン達はその可愛いらしい歌声に心奪われていた。彼女の懸命に歌い、健気に
「ワンダーゾーンだっけ? 本当にいい曲で、心がポワーーンとしたよ」
「あの……よくわからないのですが」
「わかるよ! 心がズバーーンってなるんだよ」
「本当にわかっているのですか……」
穂乃果と爽馬の擬音ばかりのわかりづらい感想に海未の顔を引きつらせる。
だが言葉にならない感動というのはある。あまりにも美しかったり、素晴らしいものを目の当たりにすれば言葉に表すことが無礼に感じることが少なくとも一回はある。五感で感じた者だけ許される感動というべきか。穂乃果と爽馬にとってことりのパフォーマンスは正にそれだった。
「ありがとう、みんな」
ことりは無垢な笑みを浮かべる。
「みんなが手伝ってくれたから、自信が持てたの!」
「ことりちゃん!」
穂乃果は海未を細い引っ張っては一緒にことりに抱きついて喜びを分かち合う。
三人の固い友情を爽馬は羨ましそうに眺める。
爽馬には絵里達がいるが学校に行ってないこともあって同性の友達が非常に少なかった。最近は拓人があるものの、あのメイド喫茶の出来事以来、深い溝ができてしまったのだ。
だから羨ましいのだ。
「後は拓人君にもお礼が言いたいけど……」
「そういえば結局戻ってこなかったね」
「……あいつにはあいつなりにやることがあるんだよ」
ことりと穂乃果は拓人が戻ってこなかったことを残念に思っていた。
爽馬にはずっと気がかりなことがあった。拓人が出ていったタイミング、爽馬のスマートフォンにはオーガが出現したこと知らせる通知がきた。
はたして偶然なのか。しかし、拓人の悩みを聞いてからというものどうしても偶然ではなく必然に思えてしまう。
万人を救いたい。その願いの為ならば自分を投げ出そうとする覚悟。爽馬が仮面ライダーになりたての頃に抱いた覚悟と全く同じだった。
◇◇◇
日は完全に落ち、空は黒色に染まっていた
住宅街の間に結ばれた道に脇に等間隔に立つ街灯が灯りる。
拓人はバイクを脇に停め、街灯の下でスマホを耳にあて通話をしていた。
「今日はすいませんでした。……結局ライブ見れなくて」
『謝ることないわ。あなたにだって都合があるわけだし』
電波の先で絵里が優しくフォローしてくれる。
「いえ、今回は俺が未熟だったのが悪いんです。やり残した俺が……」
『意外やなぁ。本間君ってすごい真面目だから何事もそつなくこなすと思ってた』
遠くから「こら、希」と絵里の注意する声が聞こえる。
「いえ、俺だってただの……高校生ですから」
拓人は伸びる自分の影を眺めながら答える。
その影は拓人よりも長かった。
『気にしないでいいわ。次からは余裕を持ってね』
「はい、ありがとうございます」
そして通話が終わる。
スマホをポケットに仕舞い、いざ帰ろうとバイクに跨ろうとする。すると前に見覚えのある人影か目に映る。
「何の用だ」
「こんばんは。少しばかりお話を伺いに来まのですが」
夜の影から現れたのは人間態のコブラであった。
暗がりに浮かぶその蛇の瞳はさらに不気味な印象を与えている。
「オーガと話す舌なんてないが」
敵対し、殺し合う関係であるオーガなどと関わったところで意味はない。ましてや、狡猾なコブラがわざわざ接触してくるなど、何かしらの意図があっての行動なのは明白だ。
拓人はすかさずバックからベルトとディスクを手に取り、いつでも変身できるように臨戦態勢に入る。
あまりの警戒する姿を見て、コブラは口角を上げて、口を開く。
「貴方に変わってライブを拝見させて頂きました。いやぁ、素晴らしいライブでしたね」
「こいつ!」
拓人は反射的にベルトを巻き、ディスクをセットしようとする。
「止してください。私は殺り合うつもりで来たわけではありませんから」
確かに始めから拓人を倒そうとするなら、ライブ中のμ'sを襲撃すれば、精神的に大きなダメージを与えられたはず。そのことを考えれば今、決着を着ける気はないということは本当かもしれない。
実際のことを言えばファントムこと爽馬がいる時点で襲撃はかなり困難なことであったのが理由だがそのことを知らない拓人が勘違いしても無理はない。
しかし、気が向けばいつでもμ'sの誰かを襲うことはできるという可能性を見せただけでも十分な脅しであることに変わりはない。
止むなく、拓人はディスクを仕舞い、代わりにコブラを睨む。
すると、コブラはお利口だと下品な笑みを浮かべながら呟くと本題を切り出す。
「さて、どうでしたか、火を吐くオーガの手応えは」
「あぁ、最悪だったよ。あれは一体どういう原理だ?」
「それはあなた様が一番良く知っているのでは?」
「何?」
「良く言うでしょう? 毒を持って毒を制すと」
「どういうことだ!?」
「では、私はこれにて」
「待ちやがれ!」
コブラの言っている意味を拓人は全く理解できなかった。無理矢理にでも聞き出そうとディスクをセットして変身しようとする。
しかし、それは無駄だと嘲笑うかのようにコブラは右手から煙幕を出す。煙が晴れるころには既にコブラはいなくなっていた。拓人は悔しさのあまり、思わず壁を殴る。
「良く知っている力……だと」
拓人は不意に握ったままのディスクに目をやる。
拓人にとっての力はこのライダーシステムだ。
その力に対抗するために同じ力を利用する。
「まさか……」
拓人の脳裏に最悪の考えが過る。
確かにトカゲオーガもフォースと力の一つである火を扱っていた。
「オーガは……ライダーシステムを利用しているというのか!?」