オルライブ!に触発されて、徐々に筆を進めてきたシママシタです
真夏の太陽がコンクリートジャングルの秋葉原を照らす。
コンクリートからは太陽の熱が跳ね返る。
逃げ場のない暑さに秋葉原の街を行き交う人々はハンカチで汗を拭ったり、シャツをパタパタと仰ぎ、暑さに対し必死に抵抗していた。
そんな人達余所目に拓人は冷房が効いたUTXの理事長室の来客用の豪勢なソファーに腰掛け、快適に過ごしていた。
「どうかな? 水出しコーヒーのお味は?」
「美味しいです」
「そうか。高い費用を出した甲斐があった」
目の前に置かれたコップの半分にまで減ったコーヒーを見つめる。
理事長室の隅には水出しコーヒーを淹れる為のコーヒーメーカーが置かれていた。
拓人の身長を優に超える大きさのコーヒーメーカーはいい感じの古さという味があり、アンティークとしても十分見栄えが良かった。
「さて。トカゲオーガの件だけど」
「あれは……何なんですか?」
「私にもわからない。ただ、オーガは進化するスピードが速いことが最大の特徴だからな」
トカゲオーガが突然火を吐いたことに関して立木はお手上げと言った様子だ。
「そういえば、夏休みの予定はあるかい?」
「あ……その」
あの真面目な立木がまるで親戚の叔父さんのような話を振ってきたのだ。困惑するに決まっている。
「俺は仮面ライダーですし……この街を安易に離れるのは」
「君は仮面ライダーである以前に学生だろう? 勉強や運動だけでなく、遊びにも全力で取り組むべきだ」
「でも……」
拓人には仮面ライダーとして人々を守る使命がある。
いくら学生とは言え、その使命を全うせず羽目を外すことに抵抗があった。
その間にもオーガが現れて、数多の人間達が犠牲になれば取り返しのつかないことになる。
「大丈夫だ。UTXには仮面ライダー以外にもオーガに対抗できる戦力がある」
フォースが来る以前にオーガと戦ってきた私立武装組織。
流石に仮面ライダー程の戦力ではないがそれでも警察、自衛隊に任せるよりかは余程戦果が期待できる。
「納得いかないみたいだね」
「当たり前ですよ」
立木は頭を抱える。
命を守る立場にいることを考慮しても拓人という男は真面目すぎて扱いが面倒くさい。
「なら命令だ。明日から三日間、休暇を与える。そして、この街から出ること」
「そんな、無茶苦茶な」
「いいかい。君はまだ子供だ。ずっと戦っていては体も……心もいつか砕けてしまう」
戦いというのは想像以上に心身共に深刻なダメージを与える。
戦争に参加した軍人が帰国後にPTSDになり、間もなく自殺という悲惨な結末を迎える者もいる。
相手が人でないにしろ、人類を脅かす害敵だとしても生き物を殺すということはかなり苦しいことだ。
ましてや、拳や脚で直に殴り殺すとなると剣や銃よりも命を奪う感覚を味わうことになる。
少なくとも爽馬はいくらオーガとは言え、殺すということに過度なストレスを感じている。
だから、拓人も少なからずストレスを感じているのかと立木は思い込んでいた。
「……確かに俺が壊れたらダメですね。誰もオーガに立ち向かえなくなる」
結局は拓人は折れて、休暇を取ることに渋々了解する。
「君は……オーガを殺すことに躊躇い……いや苦しくはないのか?」
「アイツらは滅ぶべき種族です」
拓人は迷う素振りも見せず、立木の質問に戸惑うことなく即答する。
「寧ろ、俺は殺したい。この手で……あいつらを……全て。そうじゃないと俺の人生は始まらないから……」
拳を固く握り締め、瞳に怒りの炎を滾らす。
オーガに家族も人生も何もかも奪われた拓人に当然、慈悲などなかった。
オーガは殺す。ただそれだけ。例え、この身を滅ぶことになろうと確実に。
「そうか……」
立木は肯定するしかなかった。
拓人の受けた傷というのは想像以上に深く、そして埋めることのできない大きな傷だった。
◇◇◇
「休暇か……遊び行くにしてもなぁ……」
UDXから音乃木坂学院に向かう車道をバイクで走りながら拓人は悩んでいた。
学生らしく遊びに行けと立木に言われたものの、残念なことに拓人には遊びに誘い、誘われるほど親しい友人は多くない。
唯一の友人と言える三原と和泉の二人は残念なことに夏休みは田舎の実家に帰省するということでそもそも東京にいない。
他にいるとしたらツバサであるがトップスクールアイドルということで多忙を極めているようで遊ぶ暇などないなだろう。
「μ'sのみんな……か」
そうなると残る知り合いμ'sメンバー九人と爽馬しかいない。
だが、女性経験の少ない拓人にとっていくら切磋琢磨し合う仲間とは言え、女性を遊びに誘うとなると恥ずかしくなる。
そもそも何をして遊ぶのか? 何処に遊びに行くのかというビジョンが拓人には皆無だ。
拓人は今まで特定の人以外となるだけ関わらないようにしてきた。そのおかげで同世代の流行というものにかなり疎い。女性の好む事や物なんて全くわからない。
「爽馬……うるさそうだからな」
消去法で爽馬が残った。
別に悪い人ではないがかと言って遊びに出かけようものなら主導権を握られて振り回されそうで少なくとも心は休まらなだろう。
「こう考えると俺ってダンスと仮面ライダーしかないんだな」
仮面ライダーとしての役割とダンスを抜いたら自分には何も残っていない。前からわかっていたことだが、改めて実感すると酷い虚無感に襲われる。
全てをオーガに奪われ、心を閉ざした拓人は友達と未来を語り合ったり、遊びに出かけたりと学生らしい青春も謳歌したこともなく、家族以外の人も愛したことはない。
ただ、仮面ライダーとしてオーガ倒す為に己の体を改造し、鍛え上げた。時より趣味としてダンスを教わったくらいでそもそも人間らしい人生を送っていなかった。
別に普通の人生に憧れているわけでもない。
ただ、あの時、オーガが現れなければ今頃自分はどんな人生を歩んでいるのだろうかと気になったことはたくさんある。
特にμ'sと出会ってからはよく考えた。
彼女達の眩しい日々を見ていると自分もこんな日々を送っていたのかもしれない。
無駄な考えなのかもしれないがどうしても考えてしまう。
「……仕方ない。一人旅でもするか」
結局、拓人は寂しいと思いつつ一人旅に行くことにした。金沢でゆっくりと過ごすか、沼津で美味しい海鮮や海を堪能しようかと考え始めた頃には音乃木坂学院の正門に到着した。
バイクから降り、慣れた動作で警備員に入校許可証を見せる。
入る許可を得ると、重いバイクを手で押しながら敷地内に入る。
駐輪場にバイクを置き、ヘルメットを椅子の上に置き、校内に入る。そして、屋上で練習に打ち込んでいるであろう、μ'sメンバーの元に向かう。
「何してるんだ?」
屋上に続く階段を上がると絵里と希を除くμ'sメンバーが屋上の入口の踊り場でぐったりと腰掛けていた。
額から多量の汗が流れ、シャツが汗で体に張り付き、彼女達のスタイルを強調させている。
そして、隅では顔を赤らめ、額に冷えピタを貼った花陽を膝枕をする真姫がいた。
「聞いてよ! たっくん!」
「熱くて練習にならないにゃ〜」
「流石にこの炎天下の中で練習したらぶっ倒れるわ」
穂乃果と凛とにこは暑すぎて練習にならないと文句を垂れる。
「そうか。室内とか空いてなかったのか?」
「それは考えたんだけど……」
「残念ながら他の部が既に使用していて……」
それならば室内で練習すれば良かったと効いたがことりと海未は他の部が使用していると使えないと答える。
「そっか。他に涼しいところがあればなぁ……」
「みんな、どうしたん?」
このままでは練習どころじゃないと拓人が頭を抱えた時、まっさらな練習着姿の絵里と希。そして、白いポロシャツに黒い長ズボンのラフな格好の爽馬が階段を上ってくる。
「今日は暑すぎて練習に身が入らないのよ」
真姫は毛先をクルクルと弄りながら話す。
「そうね。この気温じゃ、練習は難しいわね」
絵里は隅でぐったりとしている花陽を見る。
この暑さの中で練習しても花陽のように熱中症や脱水症状になって、ただの自殺行為にしかならない。
「確かに今日は熱いよな。だが、どうするよ? 練習しないわけにもいかないだろ?」
爽馬が痛いところを突く。
この気温で無理に練習するのは得策ではない。だからと言って何もしないという選択肢を取ることも得策ではない。
何かしらの練習をしなければ間もなく迫る学園祭のステージに間に合わない可能性が生まれる。
どうすればいいか、知恵を絞る。
「そうだ! 合宿に行こうよ! 涼しい場所に行けばそれ練習できるよ!」
すると、穂乃果はポンと手を叩いて名案を出す。
海未以外はなるほどと珍しく穂乃果の案に納得を示す。
「合宿免許……」
「絵里ち。それ以上はダメ」
「ですが費用はどうするのですか? 宿を借りるのはそう安くはないですよ」
海未の言う通り、合宿にはそれなりの費用がかかる。
宿泊費や交通費がかかり、ことり以外バイトをしていないメンバーには決して軽くない出費だ。
「それは……ことりちゃん。バイト代、いつ入る?」
「ちょっと厳しいかなぁ……」
「爽馬君は?」
「すまねぇ。今月は定価十万円の超合金12/1νガソダム買うから……」
「全く……あなたは」
案の定、費用のことなど全く考えていない穂乃果は唯一バイトをしていることりと爽馬にすがるが、案の定反応が悪い。
宛がなくどうしようと頭を抱えたその時だ。隅で髪の毛をクルクルと弄ぶ真姫を凝視する。
「ねえ、真姫ちゃん! 別荘とかないの?」
「そうにゃ! お金持ちだから別荘持ってそう!」
「それは……」
穂乃果、そして凛に迫られ、真姫は相変わらず髪の毛を弄び、気怠そうな表情を浮かべる。
「確か……あった。昔、何回か遊びに行ったことがある。この時期なら、海のあるあそこがいいんじゃないか?」
真姫の代わりに拓人が別荘の有無を肯定する。
すると、穂乃果の表情がパァッとする。
別荘があるのなら出てくる答えは一つだ。
「それじゃあ、真姫ちゃんの別荘で合宿だ!」
「勝手に決めないで!」
真姫の意向など耳も傾けず、穂乃果は合宿の開催を声高々と宣言する。
誰も穂乃果を止める者はいなかった。というより、止めらることなどできない。一度決めたらどんなことがあっても最後までやり通す。
それが高坂穂乃果という人間だと全員が周知していたからだ。
そして、この夏合宿が後に拓人の心に大きな影響を及ぼすことを拓人自身はまだ知る由もない。
余談だが、練習後。真姫が両親に別荘を使いたいと言ったところ、二つ返事で了承されたという。